装飾山イバラ道[145]「子供っぽい大人」問題
── 武田瑛夢 ──

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錦織圭選手のおかげでWOWOWの契約数が増えたらしいけれど、うちもあのタイミングで契約してしまった。WOWOW契約のJ:COMへの電話は錦織圭選手の全米決勝の試合前日で、通常は試合開始時間に設定が間に合わないはずだったけれど、今回は大丈夫とのこと。

電話の向こう側からは、時間ギリギリまで契約作業に全勢力を注いでいる気合いが伝わってくる感じ。

すでにJ:COMは見ていたので、契約すると向こう側の設定だけで見られるようになると言う。「チャンネルを合わせて、時間が来ると、画面にパ〜っと映るようになっております」というオペレーターのお姉さんの表現が面白かった。

11月号のジェイコムマガジンと、WOWOWの雑誌の両方の表紙が錦織圭選手なのも納得。今後も契約を続行するかはわからないけれど、映画を見るにはWOWOWがいいと確かに思う。

劇場公開やDVD発売が本当に最近に感じられる映画を、既にやっていて驚いてしまう。CMもなくてエンドロールもしっかり入っているので、映画の内容を考えることもできる。

私はテレビではエンドロールは見ないだろうと思っていたけれど、良い映画を見たあとだとエンドロールの時間は自宅でも良いものだと気がついた。


●「フライト」を見た

最近WOWOWでデンゼル・ワシントンの「フライト」という映画を見た(ネタバレがあります)。昨年の今頃に柴田さんも後記で書いていたけれど、やっぱり何か言いたくなる映画だったのでネタにすることにする。

主人公のパイロット役のデンゼル・ワシントンは映画中ずっとろくでなしのセレブ生活をしている。飲んだくれて何も仕事をしないのではなく、飲んだくれてもそれなりの仕事をするから、さらにその生活がエスカレートする。

酒を飲んでいても仕事をしていれば乗り切れてきた自分への過信が、とうとうあらゆる問題へとつながってしまう。

見せ場といえるシーンはここだ。ジェット機が飛行時にトラブルが起こる。ハンドル制御が上手く行かない状況を好転させるために、主人公が背面飛行させて住宅街を越えてから不時着する。

はじめはジェット機の事故としては被害が少なく抑えられたように見えた。その後は機器の故障と自分の飲酒のどこに原因があったのか、主人公の断酒への道のりと共に映画は進んで行く。

「ろくでなしのセレブ」と言ってしまったけれど、ある意味普通のおじさんの欲やプライドや愛情をそのまま持ち合わせている人なので、私には同情できるところも多い。日常の狂いが重なって綱渡りの生活が続く。

アメリカではこんな子供のような人もジェット機を操縦しています、という怖い映画でもある。どんなに社会的地位があっても行動の選択のすべてが子供っぽいし、すぐ嘘をつくのもまるで子供だ。

裁判でのお膳立ては普通の人間には有り得ない優遇が随所に見られ、その特権のおかげで人間としての苦渋の選択を迫られるラストシーンにつながる。選択のコインの表と裏がくるくると回るように、見ている人の予想も回転するような迷いのシーンで非常に緊迫感がある。ずーっとダメ人間だった人が、この場においてどんな選択ができるのか。

それまでの主人公は、人生の背面飛行をしてきたんだというイメージの重なりがある。能力があって今までたまたま乗り切れてきたけれども、これからも不自然を続けていくのは無理だしその必要はないのだ。

私はどんなことであれ、できない人ができるようになることには価値があると思った。皆それぞれの苦手を抱えている子供なのかもしれない。

●嘘をついてきた人が嘘をつかなくなる難しさ

ありがとうやごめんなさいを言えない大人や、お願いしますを言えない大人。それだけのことのように見えて、本当に大変なんだろうなと思う。できる人には当たり前でも、本人にとって大変なこと。そこの克服ができる人とできない人には何の違いがあるのだろう。

今年は日本でもエラい人やエラそうに見える人に、「子供っぽい大人」が多く浮上した年ではなかっただろうか。あの人たちは目立ってしまっただけで、掘ったらまだまだたくさんいそうなところが怖い。

嘘をつかない人には、嘘をついてきた人が嘘をつかなくなる難しさはなかなか想像できない。「嘘つかなきゃいいだけじゃん」だからだ。逆に嘘つきには嘘で逃げないで済む方法も見えない。本当のことだけ言って生きてこられた経験がないのかもしれない。これは可哀想なことだ。

小さい頃から自己の防衛に嘘をつくことを使ってしまうと、なかなか変えるのは難しい。人間関係的には付き合わなければ済むけれど、社会全体としては嘘がどれだけ人を傷つけて損なことかを、早期にしっかり教えなければいけない気がする。家庭と学校と周囲が、そんな当たり前のことを真剣にやらないければいけないのだ。これ以上大人の世界が子供で溢れないために。

●嘘と「チョコレート」

大人の決断の仕方を見たなと思った映画に、ハル・ベリーの「チョコレート」がある。セクシャルなシーンばかりが話題になった映画だけれど、ラストシーンにぎゅっと大切なテーマが込められている。

本当に大変な問題ばかりが起こる二人の人生をずーっと見せられて、ラストシーンで彼が買いに行ったアイスクリームを彼と一緒に食べる映画。ずーっと何かあって、最後に決断する映画という意味では「フライト」と似ているとも言える。

「チョコレート」のハル・ベリーが、ごく短い時間の中で彼の真実を受け止めて昇華するのが良い。誰のための、何のための嘘なのか、判断力がなければ間違うような難しい問題を、スルリと解くようなかっこ良さがあった。スルリと解けるようになるには、多くの真剣な経験が必要なのだと思う。

今年は年末に選ぶ漢字が「嘘」になりそうなほどいろいろあったけれど、まだまだ残りの数か月でもいろいろ起こりそう。私は自分も子供っぽいと思うし、子供じみた大人が嫌いなわけでもない。

他人との関わりの部分では、迷惑をかけないように大人にスイッチする努力はしているけれど。深刻な子供っぽさを抱えた社会では、大人同士が互いに教え合う必要があるのかもしれない。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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私はお酒はさほど飲まないので禁酒は辛くないけれど、禁甘いものは辛い。日頃は軽い糖質制限をしていて、あれだけ食べていた甘いものや主食をなるべく遠ざけているのだ。

制限をしていると糖質が体に与える影響もけっこうわかってきて、私の場合は咳やのどの不調がほぼなくなった。咳ぜんそくだと思っていたほどだったのに、甘いものをやめているだけで今のところ咳が出ていない。たまに糖質を食べてもよい日を作っているので、その時にはのどがおかしくなる。これを発見しただけでも良かったかも。