[3836] 防災グッズを見直そう

投稿:  著者:


《肝心の名前を思い出せない》

■私症説[65]
 自分が忘れたものくらい自分で思い出せよ、まったく
 永吉克之

■晴耕雨読[08]
 防災グッズを見直そう
 福間晴耕




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■私症説[65]
自分が忘れたものくらい自分で思い出せよ、まったく

永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20150123140200.html
>
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眼に見えて物忘れがひどくなった。脳細胞がプチプチという音を立てて弾けているのが聞こえる。特に酒を飲んでいる最中はプチプチのテンポが早くなる。

自宅の電話番号がしばらくのあいだ思い出せなくなったことがあった。その場にへたりこんでしまいそうになるほどの衝撃だったが、まあ、独り者だから自宅に電話をすることもないし、連絡先を聞かれたら携帯電話の番号を伝えることにしているので、そりゃ誰だって忘れるさ、と力づくで自分を納得させた。

                 *

自然の摂理だからどうしようもないが、記憶力の衰えを緩やかにすることはできるらしい。私は、思い出せない人名地名や作品のタイトル(おもに「名前」が思い出せなくなる)などは、ググったりせずに、何日かかってもいいから自力で思い出すことにしている。これは「自助想起」(いま思いついた造語)と神経科学の専門家の間では呼ばれている。

以下は、一日以上かけて思い出した名前である。正解は伏せておく。記憶力に自信を喪失している御同輩に私と同じ絶望を味わって、暗澹たる思いに浸っていただきたいからだ。

1. 原発で働く父親とその家族を描いたアメコミのタイトル。
2. フランスの元大統領で、大相撲ファンの親日家。
3. パキスタン初の女性首相。自爆テロで暗殺された。
4. 日本の作曲家。安部公房原作『砂の女』などの映画音楽を担当。
5. 「ペギースー」のヒットで有名なアメリカのロッカー。

ちなみに、いまチャレンジしているのは、私の母の長兄の三人姉妹の末っ子、つまり従姉妹(いとこ)の名前。かれこれ半年以上頑張っているのに頭文字も思い出せない。だから多分、そんな従姉妹はいないのだろう。

そこで私は、《従姉妹んにゃく》というダジャレを思いついたのだが、それがどんなコンニャクなのかまでは、さしもの私の想像力も及ばなかった。

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アメリカの映画監督の名前を思い出すのにも手を焼いた、というか頭を焼いた。彼の監督した『シザーハンズ』も『エド・ウッド』も『チャーリーとチョコレート工場』も観たし、それらに主演したジョニー・デップの名前も瞬時に思い出したのに。

おかしなもので、当人の顔形や関係者など周辺的なものはアレコレ思い出せるのに、それらが、肝心の名前を思い出すきっかけになってくれないのである。

「何だったっけなあ。ファーストネームが、ジャックだったような......いやデイヴィッドだっけな? ああもう、喉まで出かかってるんだけどなあ」

煩悶しながら4〜5日経ったころ、仕事帰りのバスのなかで、ぼんやりと、夜の大阪港を照らす無数のライトの星団が窓外を走り去るのを眺めていたら、いきなり薬玉でも割れたように、ポンと、その映画監督の名前が飛び出てきた。ジャックでもデイヴィッドでもなかった。

これは、作品のアイディアが閃くのに似ている。何日も何日ものたうち回り、脳漿がカラカラに乾いてしまうほど脳味噌を搾っても、これだと思えるアイディアが出てこない。

考えるのに疲れて、いつのまにか忘れていたら、台所でキャベツを千切りにしているときに、誰かが囁いたかのように、いきなり思いつくのである。

滲み出すようにジワジワではなくて、やにわに、出し抜けに、不意に、唐突に、地雷を踏んだように思いつく(思い出す)のである。場所も時間も関係ない。

▼でものはれものところきらわず【出物腫れ物所嫌わず】
屁(へ)も腫(は)れ物も場所・場合に関係なく出るということ。
──大辞泉より

忘れていたものを思い出す、アイディアが浮かぶ、屁や腫れ物が出る。これらの現象が起きるのには、同じホルモンが作用しているものと思われる。

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自宅のあるマンションに出入りしている清掃業者が、毎年カレンダーをくれるのだが、そのカレンダーがドアに画鋲で張ってあるのに気づいて、一瞬、業者がご親切にも家に忍び込んで張ってくれたのかと思った。

張った人間がいるとすれば私しかいない。しかし、張った記憶がまったくないのである。

・業者が住居侵入して張った。
・自分が張ったのだが、その記憶が失われている。

どちらかというと、まだ前者の方が受け入れやすい。

飲むと簡単に記憶を失くすのは、自他ともに認める私の魅力だが、酔っていながら、カレンダーをドアに張るような高度な技術の持ち主ではないことも自他ともに認めるところである。

やはり、自分で張っておきながら、その記憶をすっかり失っているのだ。ああ、死にたい。

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話は逸れるが、私の家の壁やドアはカレンダーだらけだ。しかもそれぞれ年が違う。2015年、2014年、2013年、2011年、2008年、そして1997年。

カレンダーのコレクションをしているわけではないのだが、べつに邪魔にもならないので、そのままにしていたら、こうなったというだけのことだ。

カレンダーといえば、今年のは..................あれれ? 何を書こうとしていたのか忘れた。ちょっとお待ちいただきたい。

(6日が経過)

......だめだ。思い出せない。こいつはバカウケ、グランドスラムだと思ったのに......もの凄く面白かったのに......もう呼吸困難で窒息死するんじゃないかと思うくらい大笑いしたのに......。

それを忘れちまったんだぞ! だから、いつも言ってるじゃないか。何か思いついたら、すぐにメモをしなきゃダメなんだよ! 書いてる途中でTwitterを見たりなんかするから忘れるんだ!

『先生の愛した数式』読んだろ......『博士の恋した数式』だっけか? まあとにかく読んだろ? 80分で記憶が消えてしまう数学者だったか天文学者だったかが、聞いた話や起こったことをメモにして身体じゅうに貼り付けて、なんとか周囲のひとびととの絆を維持しようとする小説。小川なんとかという女性の作者だ。思い出したか? お前もそのくらいの努力をしろよな。

それが映画化されて......ええと、なんて名前だったっけ。『ルビーの指輪』を歌ってた人で、黒澤映画にもよく出ていたんだけど、その俳優が博士の役をやってたな。それと、博士の家に派遣される家政婦を樋口可南子がやってて、いいキャスティングだったと思うよ、あの映画。

あ、そうだ。博士とどういう関係にあるのか忘れたけど、かつての日活の大スターだった女優がなにかの役をやってたな。たしか『男はつまらないよ』シリーズでマドンナを演じてたんだよね。そう、石坂浩二と夫婦だったんだ。まだ夫婦かどうか知らないけど。

あ、違った。樋口可南子は『明日への記憶』の、若年性アルツハイマーと闘う主人公を献身的に支える妻の役だ。じゃ『博士の愛した葬式』の家政婦を演じた若い女優は誰なんだ。たしか「津」の字がついたと思う。津川雅彦じゃなくて、宇津井健じゃなくて、島津斉彬じゃなくて(みんな男やんか。しかもひとりは幕末の薩摩藩主やし)。

そういや『明日への記憶』で、若年性アルツハイマーに冒される役をやった男優は、なんつったっけ? 『ロストサムライ』に出てた、ハリウッドでも評価されてる俳優だよ。『硫黄島からの便り』で主役をやってた。あ、役所広司だ。そうだそうだ役所広司!

よし、記憶が鮮明になってきたぞ。

そうそう!『博士の愛した葬式』で家政婦を演じた、名前に「津」のつく女優は、財津一郎だった。

古いところでは『てなもんや三度笠』にも出演して人気を博した財津一郎だが、最近では、♪ピアノ売ってチョ〜ダ〜イ でしかその姿を見ることができなくなった。コメディアン出身だが、芝居も歌も巧く、一括りにはできない才能をもった人だ。個人的には、もっとも復帰を望んでいる女優のひとりである。

【ながよしかつゆき/戯文作家】thereisaship@yahoo.co.jp
ここでのテキストは、ブログにも「ほぼ」同時掲載しています。
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ブログ:無名藝人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
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筆者は50歳前後で独身の貧乏アーティスト、元専門学校講師。デジタルアートの作品展で、彼の作品自体の妙なところに加えてその解説がやたらおもしろかったため、「日刊デジタルクリエイターズ」編集長から芸術についておもしろおかしいエッセイを書いてみないかと誘われる。

連載当初の数回は比較的まともだったが、徐々に独特の確信犯的思いこみエッセイに変身、その妙なおもしろさが爆発的な人気を呼び、本人も文筆の才能を開花(?)ますます不条理な世界を突っ走っている。

不自然なまでに誇張された表現、真実だかフィクションだか判別しがたい話、あたかも人生の本質であるかのように装っているが実は空疎な話、一行で済む話を何十行にまで水増しして書く根性、針小棒大。

内容は、芸術、人生、社会、言語などと分類できないこともないが、そもそもあまり意味のない内容なので、全部ごちゃまぜにして上・下各26編を掲載。それぞれタイトル下に、不条理イラストを添付。また個展などで発表した作品も20点ほど収録、そのタイトルと解説もじつに独特な世界。

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■晴耕雨読[08]
防災グッズを見直そう

福間晴耕
< https://bn.dgcr.com/archives/20150123140100.html
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先週の17日で、阪神・淡路大震災からちょうど20年が過ぎた。自分は当時、東京のゲーム会社で働いていたが、朝から全員がTVの前に集まってまるで爆撃を食らったように燃え盛る街の映像を見て戦慄したのを覚えている。

その後、東日本大震災などもあって、遅まきながら防災グッズを揃えたが、この機会にもう一度見直してみることをお勧めしたい。

と言うのも、以前に買い揃えた防災グッズもしまいこんでいるうちに、備蓄食糧の消費期限が切れていたり、懐中電灯の電池が切れていたりしてるかもしれないからだ。

特に自分のようにずぼらな人間だと、そもそも防災グッズ自体、ロッカーの奥にしまいこんで、何処にあるか分からなくなっている可能性すらある。

そして、東日本大震災の後に防災グッズを買い揃えた人はみな経験していると思うが、当時は防災グッズが圧倒的に品薄だったので、その時に買いそびれたまま、すっかり忘れている物もあるかも知れない。

あと防災グッズをいま買っておくと良いことが、実はもうひとつある。それは東日本大震災の時に「こんな物があったらよかったのに」という様々な防災グッズや便利な道具が、それから何年かたった今、ようやく完成して市場に出ているからだ。

解りやすい例だと、ガイガーカウンターは震災当時は特殊な専門家向けの高価な製品しかなかったのだが、今ではエアカウンターを始めとした数千円で手に入るものが売られている。

また非常用のソーラーパネルも、以前は気休め程度の発電量しかないオモチャに毛の生えたものか、逆に非常に高価だったり大掛かりなものしかなかったのが、今では一万円ちょっとで災害時やアウトドアでの使用目的なら十分実用に耐える製品が売られているのだ。

そして個人的に一番重宝しているのは、携帯用モバイルバッテリーだろう。年々電池の容量が増えているお陰もあって、今なら短時間であればインバーターを繋ぐことで一般家電でさえ動かせる製品すら、手の届く値段で出回っているのだ。

そこまで大げさなものでなくても、スマートフォンなどのモバイル機器に充電できる小型のバッテリーがあれば、日常生活でも役に立つ。特に最近のスマートフォンは使いっぱなしにしていると驚くほど早く電池を消耗するので、使う機会も多いだろう。

その他にも、防災に使えそうなキャンプ用品もわずか数年で驚くほど進歩しているので、この機会に調べてみると良いと思う。

例えば、高機能アンダーウェアに関しては、ユニクロのヒートテックよりもはるかに高機能(まあ登山など生死がかかっているから当然だが)な保温・速乾性のシャツや、洗濯が出来ない国際宇宙ステーションでの使用を想定した防臭性のあるアンダーウェアなどがある。値段は張るものの、一度手に入れたら手放せなくなるほどの優れものだ。ぜひ、お勧めしたい。

あと災害時に問題になるのが、トイレが使えなくなることだ。非常用のトイレも用意しておいたほうがいだろう。

特に車に乗ることが多い人は、車内でも使える携帯用トイレを買っておくのをお勧めしたい。大きな災害にならずとも、交通事故や大雪など車の中に閉じ込められるケースは意外に多いからだ。

その他に意外に重宝するのが、スーパーにも売られている風呂水浄化剤だ。これがあれば汲み置きの風呂水を長持ちさせることが出来るし、日頃は普通に使うことで汚れがつかず、風呂掃除の手間も省けるので一石二鳥である。

最後に、ここで触れたグッズの中で、自分がわかる範囲でわりと人気のある物をあげておく。ただし、これらすべてを試したわけではないので、実際に購入する際は自分でリサーチして判断して欲しい。

○寝袋・シェラフ

これらについては自分は詳しくないので、参考になりそうなリンクのみ紹介。
・寝袋・シュラフのプロが極秘で教える『失敗しない選び方・使い方』
< http://outdoor.rash.jp
>

○モバイルバッテリー

・cheero Power Plus 3 13400mAh 大容量 モバイルバッテリー
今売れ筋のモバイルバッテリー。大容量の割には小型なので持ち運びつつ多くの機器に充電できる。重量245g、サイズ92×80×23 mm。

・MobilePowerBank 52800
一般に市販されているモバイルバッテリーの中では、現時点で最大級の容量を持つ。重量は1.5kgもあるが、容量は52800mAhと大型の鉛蓄電池に匹敵する。

・Anker Astro Mini 3000mAh 超小型・スティックタイプ モバイルバッテリー
これも割りと売れ筋。約80g、89×23×23mmと、とにかく小さくて軽い。

○折りたたみ式ソーラーチャージャー

・Anker ソーラーチャージャー
折りたたむとA4サイズながら、14Wの発電量でスマートフォン以外にもタブレットなどにも充電できる。

・GOALZERO Nomad7 V2
様々なバリエーションと周辺機器で多くのモバイル機器に充電可能。このタイプはAnker程の発電量はないものの、折りたたむとB5サイズとコンパクトなので持ち運びには便利。(更に大容量タイプもあり)

○高機能アンダーウェア

・パールイズミのヒートテックセンサー
こちらは自転車用ウェアだが、自転車は登りで大量に汗をかき、それが下りで急速に風で冷やされるという過酷な環境なので、高機能な冬用アンダーウェアが要求されている。

・モンベルのジオライン こちらは登山用の有名ウェア。

【福間晴耕/デザイナー】
フリーランスのCG及びテクニカルライター/フォトグラファー/Webデザイナー
< http://fukuma.way-nifty.com/
>

HOBBY:Computerによるアニメーションと絵描き、写真(主にモノクローム)を撮ることと見ること(あと暗室作業も好きです)。おいしい酒(主に日本酒)を飲みおいしい食事をすること。もう仕事ではなくなったのでインテリアを見たりするのも好きかもしれない。


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編集後記(01/23)

●2014年12月19日、政府の地震調査委員会が驚くべき発表をした。地震の発生確率(今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率)が、これまでより大幅にアップしたのだ。たとえば、東京は46%(前回'13年版26%)、横浜78%(同66%)、埼玉51%(同30%)、千葉73%(同67%)となっている。なぜこんなアップになったのかというと、主に'14年までに判明した新しい研究成果を盛り込んだ結果だという。発生確率の上昇が顕著だったのは首都圏だけだ。地震学の権威で安倍内閣参与の藤井聡・京大名誉教授によると、東京直下地震が起きる可能性は、東京オリンピックまでに100%だという。ひえ〜!

3.11でさえ首都圏は大混乱したが、あれとは比べものにならない巨大な地震が起こる可能性が異常に高い。しかし、人々にあまり危機感はないようにみえる。なったらなったでなんとかなると、甘い考えでいるのだろうか。わたしが防災委員を務めるわがマンションの理事会でも、危機感はほとんどない。理事の半数が何の備えもしていないという。一般住民もそんなものだろう。「震災対応マニュアル」もちゃんと読んでいないのだろうな。いまだに正確な住民情報が把握できていない。居住者名簿の制作に協力的でない人たちが、全戸の2割くらいいるからだ。まったくどうしようもない人たちだ。

昨年配布した「震災対応マニュアル」が不完全だったから、更新版をほぼ仕上げたところだ。住民の一体感がほとんどないから、「共助」はあまり期待できないが、災害対策本部とフロア、ブロックの構成をわかりやすいかたちにした。震災直後からの生活における禁止事項を明確にした。さらなる「自助」を強調した。災害対策本部にはいちおうの対策備品はあるが、水や食料の備蓄は一切ない。備えておく防災グッズは一般のアンケートでは、水、非常食、懐中電灯、ラジオ、携帯充電器の順だが、防災プロが選ぶベスト5は、笛・ブザー、懐中電灯、携帯トイレ、マスク、ポリ袋の順である。

水、非常食は優先度が低い。なんとかなる。それ以上に重要なのはトイレである。これが死活問題となる。私たちは安心して排泄ができる環境があるからこそ飲食ができるのだ。在宅避難を選ぶマンション住民は、不幸中の幸いで、自宅のトイレが使える。もちろん水洗トイレはヘタしたら一か月は使えないから、「非常用トイレ」「簡易トイレ」を使用する。不便ではあるが、避難所の仮設トイレに比べたら天国だろう。だが、この必要性を分かっていない人ばかりだ。各戸で備えよ、といっても聞かない。そこで考えた。マンションの備品として購入し、全戸に配布するのだ! 200万円以上かかる。できるか?(柴田)


●寝ないで仕事をするとケアレスミスばかりで、バグ取りに余計な時間がかかる......。(hammer.mule)