[3864] レタリングとカリグラフィーのお話

投稿:  著者:  読了時間:22分(本文:約10,700文字)


《「フォントおじさん」と呼ばれる》

■もじもじトーク[15]
 レタリングとカリグラフィーのお話
 関口浩之

■デジクリトーク
 字典ってエンターテイメント!
 柴田忠男




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■もじもじトーク[15]
レタリングとカリグラフィーのお話

関口浩之
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20150305140200.html >
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こんにちは! もじもじトークの関口浩之です。今回は「レタリングとカリグラフィー」のお話です。

洗練されたロゴやセンスのよいポスターを見るとわくわくしますよね!

僕は音楽好きなので、かっこいいレコードジャケットを見ると衝動買いしたくなります。最近はiTunesで音楽を買う時代だから、レコードジャケットと言わないのかな(笑)

1980年代前半までのレコードジャケットは、アナログのグラフィックデザインの時代だったので、奇抜なジャケットが多かった気がします。

では、その頃に入手したレコードジャケットをアップします。じゃーん!

< http://goo.gl/occstM >

・ドン マクリーン
・ピーター ポール アンド マリー
・BILLY & THE BEATERS
・LARRY LEE
・ドゥービーブラザース
・シカゴ
・カーペンターズ

なんか、いい感じだなぁ〜☆ 文字がしっかり自己主張していますね。アーティスト名や曲名の文字に味わいを感じます。手描きのレタリング文字かなぁ...。写真植字? 金属活字?

一番上のジャケットの「アメリカン・パイ」の文字は、ラグランパンチとスランプを足して二で割ったような書体ですね。

当時のレコードジャケットは、アーティストの写真とレタリング文字の組み合わせが多かったですね。

どのジャケットもかっこいいです〜! その頃に買ったレコード(LP版やEP版)は、だいぶ処分してしまいました。今思うと、もったいない気がします(涙)

エアーチェックを日課のように楽しんでいた学生の頃、よく聴いたアーティストばかりです。当時、学生だった僕は、アーティストのロゴ、例えば "Chicago" のロゴを模写したり、カセットラベルにきれいにレタリングしたりしました。

●レタリングとカリグラフィー

この二つの言葉、似た意味のような気がするので、ウィキペディアで確認してみました。

・レタリング

レタリング(英:lettering)は、本来手で「文字を書く」という意味である。しかし、現在はデザインされた文字を指す場合や、書体を選択することなど、広い範囲で使われている言葉である。広告や雑誌には実に様々な書体が使われており、どこでどのような文字を使うかによって、同じ文章でも印象が変わるため、主にデザイン業界では色や写真・イラストに続く大きな要素の一つとなっている。身近なところで言えば、テレビ番組や企業のロゴに使われる文字もレタリングの一例と言える。

・カリグラフィー

カリグラフィー(ギリシア語)は西洋や中東などにおける、文字を美しく見せるための手法。字を美しく見せる書法という面は日本の書道など東洋の書と共通する部分があるが、筆記にペンまたはそれに類する道具を用いているため、毛筆を使用する書道とは表現されたものが異なる。

一般的にカリグラフィーの起源とされているのは、1世紀後半から2世紀にかけての古代ローマにおける碑文、特にトラヤヌス帝が建立した石碑の文字である。当時のアルファベットには小文字はなく、文章は全て大文字で綴られていた。キャピタル・モニュメンタリスと呼ばれるこの文字は、現代に至る活字書体の原型であり、また手書き書体の規範となった。このキャピタル・モニュメンタリスを元にしてペン書きに適するように作られたのがローマン・キャピタルである。

わぁー、調べたら、よけいに混乱してきました...(笑)

letter[動詞]は「文字を印する[入れる]」だから、letteringはざっくりいえば「文字で表現すること」でいいんじゃないかな。そして、カリグラフィーは「欧文書体を美しく見せる技法」ぐらいに捉えたらいいのかなと思います。

アップルのスティーブジョブズが、大学でカリグラフィー講座を受けていたという逸話は有名ですよね。

最近、カリグラフィーの動画で感動したものがあったので紹介します。カリグラフィーを理解する上で、わかりやすい例だと思います。すごいです!

・【万年筆の本気を見た】カリグラフィの書き方がとてつもなく美しい動画
(2014年02月28日 エンタメウス)
< http://goo.gl/vJVWpC >

●タイポグラフィ

そういえば、もっと身近な言葉で、タイポグラフィもありますね。こりずにウィキペディアでチェックしてみました。

・タイポグラフィ

タイポグラフィ(英:Typography)は、活字(あるいは一定の文字の形状を複製し反復使用して印刷するための媒体)を用い、それを適切に配列することで、印刷物における文字の体裁を整える技芸である。

タイポグラフィの領域はその周縁においては、木版を用いて文字を印刷する整版、見出し用途のための木活字の使用、やはり木活字を使用する古活字版、さらにはレタリングやカリグラフィ、東アジアの書芸術と、技術的内容においても審美的様式においても、深く連関する。

あぁー、この三つの言葉、定義が結構重複しているような......。

でも、レタリングもカリグラフィーもタイポグラフィも、文字を美しく表現するための概念、技法ということです。

タイポグラフィを理解する上で、日本語Webフォントを活用したモーションタイポグラフィの事例を紹介します。ぜひ、ご自身のTwitter IDを入力して再生してみてください(Twitter ID持ってなければ有名人のTwitter IDで再生してみてください)。

・Motion Typography
(ウェブフォントデザインアワード2011 主催者FONTPLUS作品例)
< http://goo.gl/ddmcbx >

タイムラインを形態素解析して、さまざまな書体で3Dで表現しています。すごいでしょ! こうやってタイムラインを、文字の動きで表現すると、思わず時間を忘れて見入ってしまいませんか!

形態素解析とは、言語で意味を持つ最小単位に分割し、品詞判別することなのです。この作品では、助詞の文字サイズを小さくすることで、動詞や名詞が引き立って表現力がアップしています。

そして、動きを加えることで楽しさが増して、どんどん読みたくなります。ちなみに、ブラウザの右下に書体名が表示されてるので、書体の勉強にもなりますね。

さまざまな文字がブラウザに表示されますが、画像文字ではありません。日本語Webフォントなのです。つまり、テキストです。

入力したTwitter IDの直近タイムラインをTwitter APIで呼び出して、その後、形態素分析しながら、font-familyをランダムに適用させてモーションタイポグラフィを実現しています。

●文字が持っている表現力

こちらの作品もご覧ください!

・作品名:SeeSea / 制作:ニフティ株式会社クリエイティブデザイン部
(ウェブフォントデザインアワード2011 最優秀賞)
< http://goo.gl/EaeXDB >

この作品を眺めていると、文字自体が発信力を持っていることが良く分かりますね。文字が泳いでますが、魚に見えてきます(笑)

それぞれの魚の特性に合わせて、大群で動いたり、ふわふわ動いたり、伸び縮みしたり、見ていて楽しいですよね(仕事で疲れたときに癒されてください)。

ためしに、好きな魚をクリックしてみてください。詳しい説明がでてきます。おぉ、すごい!

下のほうへずっーとスクロールしてみてください。左下で佇んでいる「鸚鵡貝」をクリックしてみましょう。「おうむがい」です。親子で『この漢字読める?』なんて会話で楽しむのもいいでしょう。そういえば、この鸚鵡貝(おうむがい)で使用されている書体は、モトヤのバーチという書体です。

僕はおうむがい書体って呼んでいます。じっと見ていると、この書体がおうむがいに見えてきちゃうんです。モトヤさん、すみません。

メイリオやヒラギノ角ゴでは、そのような印象を与えることはできないと思います。

・ウェブフォントデザインアワード2011 受賞作品アーカイブ
(主催:マイナビWeb Designing / FONTPLUS)
< http://goo.gl/QeWzGV >

●フォントおじさん

最近、まわりから「フォントおじさん」とか呼ばれることがあります。ただ単に文字や活字、書体やフォントに興味があるだけです。

最近、カリグラフィー講座やタイポグラフィ講座に参加する機会がありました。その道の諸先輩の方々から話を聴くと、まだまだ修行がたりないなぁと思います。フォントやデザインの勉強って楽しいですね。

「文字」や「フォント」の分野は、一般の方にとっては「敷居が高く、難しそう」と思うかもしれませんね......。でも、そんなことないんです!

まずは「明朝体やゴシック体の違いって?」「好きな明朝体は?」「好きなゴシック書体は?」、「セリフ体、サンセリフ体って何のこと?」「美味しそうな書体ってどんな書体?」「腹が立っている時はどんなフォントを使うの?」などなど、そんなところから初めてみましょう。

そんなことを意識して、テレビのテロップや街中のポスターを見てください。新しい発見がたくさんでてきますよ!

【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
< http://fontplus.jp/ >

2月中旬に、人生初めての胃カメラ検査しました。

年末に人間ドック受診して、1月に結果が郵送されてきました。なんかいつもより少し厚い感じがしたので嫌な予感がしたのですが、やはり、紹介状が同梱されてました(汗ダラダラ)

胃炎(ピロリ菌も検出)と診断されました。早速、20年以上お付き合いしている人形町の内科クリニック(僕にとっての赤ひげ先生)に行きました。

赤ひげ先生いわく「俺の紹介でいい病院紹介してあげるからさぁ〜、ちゃちゃって胃カメラ飲んできちゃって〜」って軽いノリでした......。

え、え、えー、噂では「苦しいよ」「最近は鼻からやるやつもある」「管が細くなったとはいえ、楽じゃないよ」など、良い話は聞かないので、かなり心配。

数日後、浜町にある病院へ行きました。ここ数か月ずっと忙しかったのと、同日朝に前回の「もじもじトーク14」の原稿書きしてて、入稿したのが病院の待合室だったので、逆に心の準備ができてないまま、「関口さ〜ん、まずは問診やりますよ〜」の声を聞いたので、なすがままで、検査に突入しました(笑)

では、その時の実況中継です。

1.問診が終わって、となりの処置室へ移動(まだ、頭の中は仕事モード...)

2. 数名の看護師さんが複数の検査準備で追われている(慌ただしい感じ...)

3. 注射針のようなものが用意される(少しドキドキ...)

4. なんかの液体が吊るされたものがガラガラとやってくる(何が始まるの?)

5. 僕の担当は慣れた雰囲気の婦長さんタイプ(少し安心...)

6. 看護師さんに「これが麻酔ですか?」と聞くと爆笑される(そんなわけないじゃんと言われるw)

7. 生理食塩水を点滴される(なんのためだろう?)

8. 点滴されながらガラガラと移動して胃カメラ検査室へ(ドキドキしてきたような......)

9. 3cmぐらいの氷の麻酔薬を渡されてなめる(えっ、これが麻酔? ガリガリ噛んじゃだめよと言われるw)

10. ベットに横になる(こんなんで麻酔効くのかなぁ...)

11. マウスピースをセットされてテープで固定される(よだれが垂れてもいいようにタオルもひかれるw)

12. 気がつくと......爆睡してたらしい......

13. 検査開始から10〜15分後に看護師さんから元気な声で「終わりましたよ〜」と言われる(なんの記憶もないw)

14. 麻酔が完全に抜けるまでベットで1時間ぐらいゆっくりしてってね〜と言われる(なんかすごくうれしい!)

15. 車椅子で移動して簡易ベットで横になると、更に1時間ぐっすりおやすみ☆〜

このところかなり忙しかったので、半日休息できたし、なんか癒されました。看護師さん達も優しかったし。

「氷の麻酔薬」っていうのに驚きました。テクノロジーは日進月歩ですね。病院の設備によると思いますが......。

胃カメラはつらいと聞いてましたが、僕のケースではそれが全くなかったです。というか、何をされたか全くわからなかったというのが問題(?)のようです。

看護師さんがマウスピースをセットしたあとに、胃カメラを操作した(らしい)ドクターを紹介され、「よろしくお願いします」と会話をしたのは覚えているけど、その数秒後から記憶がないのです。

疲れていたせいなのか、麻酔が効きやすい体質なのか、苦痛は一切、感じませんでした。記憶がないのであたり前ですね......。

歯医者で抜歯する際にされた麻酔注射では、注射された局所の感覚がなくなるのですが、今回の「氷の麻酔薬」はしびれる感じがなかったです。喉の部分(内部)の麻酔なので、そのような感覚がなかったのかもしれません。

以上、現地レポートですが、僕の場合はラッキーなケースだったかもしれません。ご参考になれば幸いです!

【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
< http://fontplus.jp/ >

1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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■デジクリトーク
字典ってエンターテイメント!

柴田忠男
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20150305140100.html >
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筆者の都合で急な休載となり、スペースが空いてしまった。穴埋めといってはなんだが、久しぶりに上の方のスペースにテキストを置くことになった。

本日の相方はWebフォント・エバンジェリストなので、かつてフォントに深く関わっていたわたしもその分野のことを書こうと思ったが、もはや新しいことはわからない。デジクリのバックナンバーを探ったら、自分の記事を見つけ、おお、27年前の自分はけっこうマトモなことを書いていたなと思い、これ再掲載することにした。わずかに手を入れている(タイトルも)。


【日刊・デジタルクリエイターズ】 No.0056 1998/06/16 より

京都の「文字デザイン研究会」編集の季刊「MOJICA」から、文字コードについて、専門学校を出たばかりの人でもすぐに読みこなせるような、チョーやさしい内容で書いてくれと依頼が来たのは、まだ厚いセーターを着込んでいる頃だった。

即座にお断りした。だってよくワカンナイし、コワイんだもん。文字の世界は奥が深く、というか魑魅魍魎の巣窟で、何を書いても必ずどこかから石が飛んでくるという危ない世界だからだ。

だが、3月8日に「日本語の文字と組版を考える会」の公開セミナーで「文字コード」を勉強したら、やらなきゃいかんかなーと思い、最初はつきあいで買ったつもりの「JIS 漢字字典」が読めば読むほど面白いので(序文にも感動したので)、この字書を徹底的に読めばなんとかなりそうな気がした。では及ばずながらやってみましょうと返事して、早くも3か月を経過した。

3月、4月は何もしなかった。というよりなにもできなかった。「カラーマネージメント!」「ディジタル・イメージギャラリー」という手間のかかる書籍を連続して作っていたからだ。5月はホッとして少しのんびりし過ぎた。

本格的に資料を読み始めたのは、ついこの半月である。締め切りを半月延ばしてもらったのに、まだできていない。本当にできるのだろうか。

この頃、「原稿執筆モード」に入らないと、しっかりした文章を書けなくなった。いつそのモードに入れるのか、自分でも分からない。これを「お筆先」と呼んでいるが、来てもらえれば一気に集中できるのだ。

そう勝手に思い込んでいるのは、追い詰められないと本気になれないという困った性分なのだろう。今は「文字コード執筆モード」に入るために、このテキストを書いている。

そういえば、未来編集という会社が運営する電子会館アットクラブの「著作権フォーラム」で文字コード問題が語られていて、私の名前も登場していると、メディアのメーリングリスト主宰の福富忠和さんが書いていた。さっそく覗きに行ったら、「日経デザイン」6月号の「本当に『漢字が危ない』のか」という私のレポートに関してだった。

このレポートは、結果として「漢字が危ない」と言っている陣営を批判している。最近の「漢字危機」の論調はやはりおかしい。このまま放置するのは危険だと思う。東大とか文藝家協会とか、オピニオンリーダーたちが声高に発言すると、マスコミはそっちに引かれるものである。

私は、彼らの発言に対して頷ける部分もあるし、おかしいなーという部分もある。そこで「日本語の文字と組版を考える会」セミナーを素材にしてレポートしたのだが、どう考えても「漢字危機論者」の方が分が悪いと判断せざるを得なかった。

そして、やはり「著作権フォーラム」からは反応があった(その内容は正当な批判だと思う)。これから、もっとあちこちからなんやかんや言ってくると思うが、面白いじゃないかと期待している(だが、文字関係者によれば、文字についてうかつに発言する人は本当に痛い目にあうぞ、と警告してくれた)。うかつ者の私は少しコワイ。

なお、アスキーも6月号で「漢字文化は危なくない」という特別企画を組んでいた。この内容はかなり高度で難しい。だが、文字コードを定義することの困難さや、インターネット時代の国際化においてユニコードの持つ意味などが理解できる。

「日本語の文字と組版を考える会」では、文藝家協会とJCS(符号化文字集合調査研究委員会、いわゆるJIS)両者に呼びかけたが、文藝家協会は参加を断ってきた。意見の違う者同士の討論は実現しなかったのである。

余談だが、「日本語の文字と組版を考える会」の「組版ソフト総点検」でも、参加を呼びかけた3社中2社(カタカナ名の会社)が出てこないという苦い経験もある。

「懲りない男」と業界で評判(?)の私は、JPC(Japan Publising Consortium)7月のセミナーで、再びこの問題を取り上げようと考えた。今度は、意見の違う立場のボス同士(東大の坂村健さんとJCSの芝野耕司さん)に同席してもらおうという、実現したらマスコミも大喜びの企画だった。

残念ながら、芝野さんが海外会議のため参加できないとのことで、流れてしまった。企画は、文字コード問題の現状をわかりやすく解説する内容に変えて開催するので、文字コード問題ビギナーはぜひ参加して欲しい。

さて、「JIS漢字字典」だが、文字コード問題を考える人には絶対必要な一冊である。JIS批判を行なう人の多くは、原典たるJIS X 0208:1997規格票を読まずに、あちこちからの噂や誤解にもとづく批判を孫引きしているようだが(そうとしか思えないチョー誤解が多い。あるいは悪意か?)、これからはあまり無責任なことは言えなくなる。

なぜなら、この字書にはその規格票がほぼ丸ごと縮刷版で収容されているのだ。14,000円もする規格票が、字書(4,800円)の中に入っているという信じられないサービスだ。買っていない、読んでいないではすまされまい(もともと、すまされんケド)。反JISの人もすぐ書店に行って買ってこよう。

これを読めば、「密室の中で、漢字を知らない理系の連中が、勝手に漢字を作っている」などという無知な俗説は払拭される。今後、こういう俗説を口にするテアイは笑いものになるだろう(と期待する)。

JISの委員会はボランティアである。個々の漢字の典拠を徹底的に調査するという途方もない難事業である。地味な汚れ役だ。よくやってくれた、本当にご苦労さまと誰もが思うに違いない。

もちろん字書としての使い勝手はすごくいい。漢和辞典には載っていない読みもある。ワープロ漢字辞典というのがあるが、あれの本格派だ。JISコードだけでなく、新字源、大漢和の検字番号まで載っている。便利。便利。

しかも、鈴木一誌さんのデザインがすばらしく美しいので、拾い見していても楽しい。コラムが35篇載っていて、これがまた面白い。まさに「字書ってエンターテイメント!」だった。

JISはこんなインチキ字をこしらえおってケシカラン! と怒りまくっている人(高島俊男氏)の文章が「週刊文春」1997-7/3に載っていた。『こんなインチキ字』ってのは、僥倖の僥の字を■(ニンベンに尭)にしたというのだ。だが、そんな字はJISにはない(どころか日本にない)。自分で勝手に作った架空の文字だった。こういうのをデッチアゲというのだ。

それは間違いであるという指摘があったのにもかかわらず、この文章は単行本になった。こういう人にはぜひ読んでいただきたいものだ。

てな具合に、だんだんと「文字コード執筆モード」になってきたのだが、「噂の真相」も、しりあがり寿も買ってきちゃったし、困った、困った。

【プロフィール】
しばた・ただお ゲゲゲの編集長日記を更新。日記書いているばやいぢゃないっうかんじで、われながらあまり面白くない。が、お気楽なSOHO者の実態を知るにはいいかも。
< http://ip-net.ieps.co.jp/ip/st/mag97_12/12_x/index.html >
↑もちろん今はない


・このテキストを書いた当時、わたしは「日本語の文字と組版を考える会」、JPC(Japan Publising Consortium)、アーティスト団体「ディジタル・イメージ」、それぞれの運営に参加していた。

・いま読み返すと、まったく他人事のように思える。「MOJICA」掲載のわたしのレポートを読むと、難解なことを比較的わかりやすく読み解いており、なかなかいい仕事をしたと思う。嗚呼、昔の自分に戻りたい。


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編集後記(03/05)

●電子書籍で辛うじて書籍と呼べるのは漫画だけだと思う。本とか書籍とか呼べるのは紙の本しかない。電子書籍リーダーで読む"書籍"と呼ばれているものは、どう考えても"書籍まがい"である。「そもそも紙の本を真似るというということには、電子書籍の未来はなく、別の道具として独自に進化すべきだと思っているのは僕だけではないはずだ」との、ブックディレクター・幅允孝さんの思いに同感だ。「本なんて読まなくたっていいのだけれど、」にあった言葉である(晶文社、2014)。この本、ブックデザインが貧相で、中身は大丈夫なのか心配だったが、面白本をいくつもレビューしていて参考になった。

筆者は「使えば使うほど、紙の本を読むことがフィジカルな行為だと気づくようになった」という。例えば"読み戻り"が特徴的で、紙の本をめくりながら目と脳で読んでいたつもりだったが、登場人物の確認のために読み戻る時に、「指先の感覚と記憶の交差点をまさぐり、近いページを開くことが不思議とできるのは、すべて体で読んでいたことに由来する」と気が付く。電子書籍リーダーでも"読み戻り"は可能だが、紙とはまったく違う感覚で、むしろ苦痛だ。わたしが電子書籍リーダーを使い始めてかなり経つが、違和感の正体はここにあったのか。

紙の本を読むということ、ページを丁寧にめくるということは、ささやかな運動であり、本に向かう好奇心や持久力は体のコンディションに左右される。手に持って軽くて、文字サイズの調整もできる電子書籍リーダーは「紙の本とは別の方向で担うべき大きな役割があると思えてくる。病気や老眼など身体的理由で読書への興味を失いつつある人をつなぎとめる、お年寄り向け読書ツールとしての進化である。電子書籍は来たるべき高齢化社会の読書を支えるといったら大袈裟な妄想だろうか」。いやいや、本命ではないかと思えてきた。最近、「大活字本」に弱視者や高齢者の関心が高まっているのだから。

「読み戻り」に弱い電子書籍のコンテンツは、直線的な物語の再生に合う。複雑な構造の物語には向いていないだろう。「断片が複雑に組み合わさり、いくつかの時間軸が並行したり、行き来するような物語は、実のところ少し読みにくい」。ともあれ、何に載っているテキストを読むかはあまり問題ではない。読み手が選べばいいのだ。中島敦の格調高い文章は、本で読んでもKindleで読んでも、すっきり理解できた。しかし、SFやミステリーではそうはいかない。

妻は「赤毛のアン」をまた読み返したいが、目が弱ってきたから苦痛だという。Kindleの文字サイズを大きくした画面を見せて、これでどうだというと、こんな画面を見るのはなおさらうっとうしいという。妻はパソコンの画面もケータイの画面も嫌いなのに、時々テトリス専用機で遊んでいる。わたしより遙かにテクニシャンである。トータルな老化防止には役立っていると思う。(柴田)


●hammer.mule の編集後記はしばらくお休みします