[3890] 肩甲骨と肩甲骨とのあわいで

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《ところで永吉、いったい何が不満なんだ?》

■私症説[68]
 肩甲骨と肩甲骨とのあわいで
 永吉克之

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 東北の美味しいお酒を飲もう
 福間晴耕

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■私症説[68]
肩甲骨と肩甲骨とのあわいで

永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20150410140200.html
>
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私は、これまでいろんな仕事をしてきたが、企業や職場の方針に抵抗したことが一度だけある。

そのほかの場合は、ここは言うべきことを言っておかなければ、後任の人がまた理不尽を被ることになる......と思いつつ、結局は不満を抱えたまま従容として辞めていくというのが常だった。

「主任さん、僕はですね、あなたの肩甲骨のあたりを一発叩いて、そういう風にしてから、この会社を辞めてやろうと思ってるんですぜ」

「おーい、永吉。私を叩くことはよすんだ」

その時、私に友情を抱き、私を深く理解し、前日いっしょの電車で帰った、同じ部署の依田様がやってきて、私と主任の間にすっぽりとはまり込んだ。大柄な彼の後ろに小柄な主任が姿をくらましたので、私は未曾有の安堵を覚えた。

「永吉様、武力を用いずして解決する努力はしたのか? 叩くのか?」

「叩く。そう考えるのが僕だが」

「主任、永吉様がなぜ怒っているのか、公平な立場から解説させてもらいたいという想いに、僕はいま満ち満ちていまにも破裂しそうかもしれないんです」

「それは君、むしろ解説をしてみてもいいんじゃないか?」

                 *

前夜、私が輾転反側しながら考えた末、主任の両側の肩甲骨の間あたりを手のひらで叩いて辞めるのがいちばん無難な、最小公倍数的な方法だとわかった。というのは、肩甲骨の間を、人間の急所である「眉間」のメタファとしてとらえるのが日本文学の伝統だからだ。

それを実行するつもりで早めに出勤し、主任がロッカールームで作業服に着替えているところを背後から襲おうとしたのだが、私がロッカールームに入るや相手が振り向いたので、肩甲骨のあたりを叩くのが難しくなって、なんだかわからないけれど口論になった。

そこに、依田様が出勤してきたのだった。

「主任。永吉様は派遣社員なんだそうですから、主任の脳裏をかすめる人事方針。それこそギリギリなこと。マサルさんや僕が是非に及ばずと考えるとしても、そうだよね。ね、永吉様。一切がね」

依田様が、私のことを弁護してくれているのをありがたいと思いつつも、いささか舌足らずなところがあるので、補足した。

「主任。依田様の言ったことだ。このままでは《百年河清を俟つ》ことになると思うわけです。僕たちは派遣社員という立場です。定年になって、正社員から嘱託社員となった人びとがパンとサーカスを求めて、僕らの職場にふらふらと流入してくる。派遣と嘱託では、わーははは、身分が違ふとぞいひける」

「永吉。身分が違うから、派遣が嘱託に駆逐されるのは経営者長谷川の野望なのか、それとも事故なのか。私はいま、この狭いロッカーのなかで考えていたので、ほら、頭が四角柱になってしまった。考え方も非常に四角柱的だ。おい、依田。君はどう思う?」

依田様は、一晩じっくり考えてから、ぽつりぽつりと話し始めた。

「ぐわー主任! 嘱託も人間、派遣も人間! しかし嘱託は、余生を埋めるために仕事をしている。派遣は、いまを生きるために仕事をしているというのが僕の見解であったとしても、主任には届きますまいて!」

「この、虚(うつ)けが!」

主任は、背後にいたのを幸いと、依田様の肩甲骨の間を四角柱になった頭で突いたので、依田様は、どうと倒れて二度と動かなくなった。

「さすがは世に聞こえた眉間のメタファよのう。一撃で身罷りおったわ。ところで永吉、いったい何が不満なんだ?」

「仕事中は規定の作業福着ろ主任言う。でもときどきはクリーニング出せ言う。クリーニングのおカネ会社ださない言うから自腹だからみんなつぶつぶ言う。ワタシ作業するときの福もてこの国きた。でも会社の作業福着るないとダメ言う。ワタシ起こる。起こると奥さん泣く。子供たちこわがる。もう家族連れて日本に帰りたい」

「不可なり。この職場が、還暦を過ぎた嘱託社員に埋め尽くされる。君ら派遣は放逐され、曙光の見えぬ将来を想って暗澹たる気分になる。そんな理想郷が現実のものとなるまで辞めるのは許さないということになったりもする。いったい何が不満なのか、自分の気持ちを率直に表現することをためらう。敗北したいのか。そんな感じだ」

抗議はことごとく論破され、私は、言葉を遣い尽くした。

                *

襲撃未遂事件以来、主任は、眉間のメタファを守るためにランドセルを背負うようになった。そのなかには、高密度に圧縮された教科書や学用品が1ミリの隙もなく格納されており、ライフルの弾丸も通さないという。しかし、それだけにかなりの重荷になるはずだ。

そんな重装備に対して、手のひらで叩くことの無力は明白だが、私は諦めるわけにはいかなかった。身を挺して私の盾となり命を落とした依田様のためにも、私は主任の襲撃を敢行しなければならなかった。

物理的な力が及ばなければ、言葉での駆け引きに持ちこむしかない。

「主任。ランドセルを下ろしてくださいませんか、という僕の要求を主任はどのように捉え、どのように対処しようと考えておられるのか、いや実際、興味は尽きませんなぁ」

「おいおい、人にランドセルを下ろせと言う前に、まず自分が重荷を下ろしたらどうなんだ」

わたしは主任さんのお言葉に甘えて、重荷を下ろさせてもらおうとしたんですけど、職場では、重責と呼べるような地位にいるわけではないので、下ろすべき重荷がありません。それに扶養家族もいないので、私生活においても重荷がないのです。

来年、60歳になるというのに、いまだに重責を担う立場というものを知らず、いつでも交換の利く部品のようなポジションにいながら何の危機感もなく、一銭にもならない芸事にうつつを抜かしている男に対する皮肉が、主任の言った《重荷を下ろしたらどうなんだ》の真意だったと理解したのは、わたしが結婚出産を経て、職場に復帰してからのことでした。

【ながよしかつゆき/『無気力文学』主宰】thereisaship@yahoo.co.jp
ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。

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無名藝人
< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
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■晴耕雨読[11]
東北の美味しいお酒を飲もう

福間晴耕
< https://bn.dgcr.com/archives/20150410140100.html
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先月の11日で東日本大震災から4年が過ぎた。震災後、飲兵衛の自分が出来ることとして、被災地のお酒を飲む様にしていたが、あまりに美味しいお酒ばかりで、気が付くと応援に関係なく東北のお酒を飲むのが習慣になっていた。

震災後は雨後の竹の子のように、食べて応援・買って応援ということで様々な物がクローズアップされ、それを取り上げるサイトやメディアも多数あったが、4年が過ぎた今、そのまま忘れ去られている物も少なくない。

そんなわけで、改めて振り返る意味も兼ねて、自分が見つけた被災地の美味しいお酒を紹介したいと思う。

それにしても、今回調べて分かったが、津波で壊滅した蔵は比較的再建しているのに対し、原発事故で壊滅した蔵の半数近くが再建されていないことには複雑な思いがする。

○岩手県

●菱屋酒造店
岩手県宮古市 [千両男山]
< http://homepage3.nifty.com/hisiya/
>

甚大な被害を受け再建中。「2011年12月6日に再建の最初の米を蒸しました。
2015年現在大吟醸は詰めましたので注文可能です」
・オンラインショップ
< http://www.securite.jp/shopping/273/
>
< http://shiawasemilk.cart.fc2.com/
>

●酔仙酒造
岩手県陸前高田市 [酔仙、雪っこ]など
< http://suisenshuzo.jp/
>

甚大な被害を受け再建中。「多くの方々のご支援のおかげで、新工場を設立するまで復興を遂げることができました。震災前とおなじようにとはいきませんが、徐々に販売できる銘柄を増やし、新しい歩みを進めています。」
・本店のサイトからオンラインショッピングが可能

●両磐酒造
岩手県一関市 [関山]など
< http://www.seisyu-kanzan.com/
>

内陸部とはいえ被害を受け、商品は200本以上割れ、瓶詰め機はラインがずれ、さらには敷地内の空き瓶置き場が3メートル近く陥没した。
・本店のサイトからオンラインショッピングが可能

○宮城県

●角星
宮城県気仙沼市 [金紋]など
< http://kakuboshi.co.jp/
>

津波により港近くの店舗は全損、多くの方々のご支援のおかげで現在は製造販売を再開。
・オンラインショップ
< http://kakuboshi.shop-pro.jp/
>

●男山本店
宮城県気仙沼市 [伏見男山]
< http://www.kesennuma.co.jp
>

本社3階建ての建物は津波により乗り上げた船と衝突し倒壊した。材料を保管していた倉庫も流されたが酒造所の酒蔵は高い場所にあったため、津波は酒蔵の入り口から数メートルのところで止まり被災を免れた。
・本店のサイトからオンラインショッピングが可能

●新澤醸造店
宮城県柴田郡川崎町 [伯楽星、愛宕の松]など

1873年創業時に建造した蔵は震災で修復不可能なほど破損し、瓶貯蔵していた日本酒4万本を損失。その後、県内川崎町の廃業した蔵を買い取り2011年12月中旬より出荷。
・参照 <
>
・取り扱いオンラインショップ
< http://www.tutitatu.com/sake/niizawa.html
>

●大沼酒造店
宮城県柴田郡村田町 [乾坤一]

震災では大きな被害を受け仕込蔵、槽に大きな被害を受ける。その後「300年の歴史を自分の代で閉じるわけにはいかない」と苦難の中、蔵を立て直し現在は出荷を再開。
・取り扱いオンラインショップ
< http://www.tajima-ya.com/kenkonichi.html
>

●寒梅酒造
宮城県大崎市 [宮寒梅]
< http://miyakanbai.com
>

蔵が倒壊するなど甚大な被害を受けるが、ファンドを受付け急ピッチで再建工事を行い2011年12月に新しい蔵を完成させ例年より一か月ほど遅い12月7日に仕込みを開始。翌年から新酒を出荷を再開させる。
・取り扱いオンラインショップ
< http://jizake-ya.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=1488925&csid=38
>

●佐々木酒造店
宮城県名取市 [宝船浪の音]
< http://www.naminooto.co.jp/
>

震災による津波で会社、蔵全体が全壊流出。奇跡的に残った震災前に搾った新酒を翌年2012年3月に復興酒として販売後、市内の内陸部に仮設店舗と工場を建設し2013年に最初の蔵出しを実現する。
・本店のサイトから電話・FAXにて注文可能。

○福島県

●鈴木酒造店
福島県双葉郡浪江町 [磐城壽]
< http://www.iw-kotobuki.co.jp/
>

津波で酒蔵も自宅も全て流失。また原発から7kmの警戒区域だった為、一時会津に避難。その後、2012年11月に山形県長井市で再建。
・取り扱いオンラインショップ
< http://www.umaisake.ne.jp/goods/nihon/iwaki_kotobuki/
>

●冨沢酒造店
福島県いわき市 [白冨士]
< http://www.shirafuji-sake.com/
>

震災によりタンクが倒れ作業場の屋根が落ちる。原発から3.6kmの警戒区域にあるため酒蔵の冷凍庫からこうじ菌と酵母を持ち出し、会津の花春酒造の醸造施設で新酒を完成させる。
・本店のサイトから注文可能ですが、ネットに不慣れなためレスポンスが遅れることがあります。

●大木代吉本店
福島県西白河郡矢吹町 [自然郷、こんにちは料理酒]など
< http://www.musicsecurities.com/communityfund/details.php?st=a&fid=222
>

蔵は大小14棟あり、5棟が全壊し、その他にも大規模半壊など大きな被害を受けた。
・取り扱いオンラインショップ
< http://foodios.com/season/sake/kuranomoto.htm
>
< http://item.rakuten.co.jp/ono-sake/c/0000000325/
>

●宮泉銘醸
福島県会津若松市 [宮泉]
< http://www.miyaizumi.co.jp/
>

500本もの商品が破損、土壁の崩落、貯蔵庫にいたっては"酒のプール"と化していた。また蔵から少し離れた場所にある倉庫は全壊するなど大きな被害を受けた。
・取り扱いオンラインショップ
< http://uekiya-shoten.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=661565&csid=0
>


【福間晴耕/デザイナー】
フリーランスのCG及びテクニカルライター/フォトグラファー/Webデザイナー
< http://fukuma.way-nifty.com/
>

HOBBY:Computerによるアニメーションと絵描き、写真(主にモノクローム)を撮ることと見ること(あと暗室作業も好きです)。おいしい酒(主に日本酒)を飲みおいしい食事をすること。もう仕事ではなくなったのでインテリアを見たりするのも好きかもしれない。


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編集後記(04/10)

●長谷川豊公式ブログ「本気論 本音論」について、三回目。くだけた文体ながら、本音をビシーッと本気で言って、しかも説得力満点である。さすが取材のプロ、プレゼンテーションのプロだといつも感心して読んでいる。でも、経歴で自分が「活躍」してると二回も書いているのはちょっとな〜。それはともかく、書いた記事に対して「何か反論があったり異論がある場合、受け付ける。間違いなくその全てを論破できる自信がある。どんな意見でも言ってきてほしい」と言い切るのだから素晴らしい。じっさい、賛成、反対の多くのコメントがつく。それらの質もかなり高い。コメントを含めてナイスコンテンツだ。

最近おもしろかったのが「鳩山さんが日本の国益を損なう? 違うだろ」である。ルーピーさんがロシアのビザを使ってクリミアに行き、非難轟々。日本では大きなニュースになっていたが、長谷川氏が海外の様子を調べたら「騒いでんの、日本人だけじゃん」「おいおい、本当の意味で『国益(日本の利益)』を損なってるのって......この『バカ騒ぎしている連中』じゃないの?」「聞きたいんだが、鳩山さんって、そこまで影響力ある人だったっけか?」「ほっとけばスルーされる程度の話」。そうそう、あんな救いがたいおバカの言動が、日本を代表するわけないのは誰もがわかっている、はずなのに。

「日本の恥をあら捜しし、日本の恥ずかしい部分を広報して満足し、日本がまだまだ情けない国なんだ、とアナウンスし、日本にはバカがいる、と 日本には闇がある、と ここまで素晴らしい国に成長した、世界一の住みやすさを誇る日本の、欠点ばかりを探して悦に入ってる連中こそが、本物の『国益を損なう存在』なのではないでしょうか?」。まったくその通りである。鳩山サンの言動なんてニュースの価値はないし、政治家がコメントするような話でもない。それをズバッと書いたのは長谷川氏だけではなかったか。日本の行動は世界の耳目を集めて、なんか全然ないことが本当だ。ちょっと残念だけど。

新しい記事では「みんなでNHKにNOと言おう! 〜筑波大の挑戦を支持する〜」がナイス。元ネタはあの超偏向「日刊ゲンダイ」だけど、たまにはいい記事を書く。敵はNHK、あの誰もが納得できない集金システム。家にテレビがあるというだけで毎月の負担を強いるというトンデモ商売に対して、「NHKのみがテレビに映らなくなるアンテナ装置」を筑波大システム情報工学科の視覚メディア研究室で学生らが開発した。「NHKと契約をしない自由」は日本国憲法で保障されている、日本人の基本的人権の一つであることは間違いない、と長谷川氏。大げさな言い方だが大賛成。民放でも大相撲中継やってネ。(柴田)

長谷川豊公式ブログ「本気論 本音論」
< http://blog.livedoor.jp/hasegawa_yutaka/
>


●住宅ローン続き。事前審査の前に電話をして、FAXに代わりメールでの送付でも良いことを確認。担当者さんのメールアドレスを教えてもらう。テンション高くハキハキとしたしゃべり方をする愛想の良い人で、営業さんそのもの。が、これが最初のつまづきであった。

まず、メールでの返事が一切ない。かといって電話がすぐにかかってくるわけでもない。どれだけ忙しいんだろう、低金利だもんなぁと待つが、さすがに遅いんじゃないかと、三日後に電話してみる。審査中です、お待ちくださいとの回答。

そういうものなのか〜と待った翌日に返答があり、留保になっていますと。わかりづらいけれど、このあたりは去年の今頃の話で、というか書きながら思い出したんだけど、他のところでアドバイスもらったにもかかわらず、審査を出すにあたり与信枠ギリギリでの申し込みにしたのであった。与信枠については最初の借り入れの時に、計算方法を銀行から教えてもらっていた。

本審査にかけてみませんか? いけると思いますよ、と言われるが、テンションだだ下がり。仕事だって忙しい。そういやまだ下がるって相談したところは言ってたしなぁと様子見(という名の先送り)へ。続く。(hammer.mule)