ローマでMANGA[87]ボインちゃんと着物
── midori ──

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かつて講談社の週刊モーニングが海外作家に書き下ろしをしてもらっていたことがあって、その時にローマで「海外支局」を請け負っていた時の記録の意味もあってここに書いている。

ところが、今月執筆分の準備が親戚の用事でできなくなってしまい、番外編になってしまいました。

●番外編「ボインちゃんと着物」

ローマのコミックス学校でMANGAセミナーの講師をしている。いわゆる「MANGA絵」の絵の描き方ではなく、かなり独特であるところの「MANGAの構築法」の講義である。

ただし、セミナーは学校入学者ならだれでも無料で参加でき、正式コースの点数には関係しない。つまり、色々あるセミナに興味がある生徒が、正式コースとは別に参加するわけだ。

昨年から、幸い参加者が増えて一クラスに入りきれず、週一〜二時間のセミナーを午後3時からと5時からの二クラスを設けるようになった。

正式コースは10月から開始、セミナーは翌年1月から開始。つまりセミナーが始まる頃はすでにクラスが出来上がっている。

今年の午後3時からのクラスは、参加者のほとんどが同じコミックスコースのクラスから来ている。やる気がある生徒が多く、講義も熱心に聞き、質問にもよく答えて良い循環の空気を作っている。

70年代以降に生まれたイタリア人は、ほぼ例外なく日本のアニメをテレビで見ながら育っている。

コミックスの学校に入学する者はMANGAに興味を持っているわけだけど、それ以外でも日本のアニメ、ゲームを知らない、遊んだことがない、興味がない、という40代から下を探すのは難しい。

日本のアニメ、MANGAは日本の生活や社会の情報がたくさん入っていて、MANGA・アニメファンは興味を日本そのものに持っていく。イタリアに限らず、昨今の海外でのSushiブームはMANGA・アニメが発端だと真剣に考えている

今、学校に来る生徒は大多数が80年代生まれだ。つまり、ほぼ全員が日本アニメ・ゲーム・MANGAの洗礼を受けている。

殊に今年の午後3時のクラスは、アニメ・ゲーム・MANGA以外に大学の東洋文化・日本学科を選択してる子や、日本語教室に通っている子、武道の香取神道流に入門している子などがいて、脱線で日本の話をすると大いに湧くし、質問もバンバン出てくる。

それならば、私がとりあえず持っている振袖一式をお披露目して、誰かに着てもらったらどうかという相手が出てきた。




日本文化ブームなので、サムライやゲイシャを題材にした作品やイラストをよく目にする。でもすごく沢山の人が着物を間違って描いている。

コスプレなどで見る着物は、外人用のペラペラのもので、本物の絹の存在感のある着物には程遠い。私のそれほど高くない振袖でも、伝統から生まれた存在感がそれなりにある。それに、絹のずっしりした着心地は着てみないとわからない。

どうせなら、セミナー参加者だけでなく、学校内で着物に興味のある人に見てもらってもいいんじゃないかと思い立ち、簡単なポスターを作って掲示板に貼ってもらうことにした。

私のアイデアをもっと公にして行っていいのではないのかと、やっと考えがそこまで行くようになった。ポスターを貼って、と学校の事務件受付の30代の女性にお願いしたら「え? 私も参加したい!」といったので驚いた。着物は憧れなのだそうだ。

クラス内の女生徒にモデルになってもらおうと思いつつも、悔恨が残らないようにどうやって選ぶのか、基準を決めかねていたところなので、クラスの外にいる彼女にお願いすることにした。

さて当日。憧れの日本の本物の着物のお披露目。教室に入りきらなかったらどうしよう......と心配していたが、まったくその心配は無用だった。参加者は午後3時のクラスの五人とモデルをお願いした受付嬢のみ。

日本への興味、関心はどこへ行った??!!

それでも、モデルとなった受付嬢は目をキラキラさせて、静かに興奮している。そんなに喜んでくれる人がいるなら、それだけでもこの催しの甲斐があるというものだ。

日本好きなだけに、何人かが自分も着物を持ってくると言っていた。香取神道流は道衣に袴だ。一人は残念ながら外人用のペラペラ。もう一人は現代風の浴衣だった。

道衣と袴は一人で着られる。ペラペラも一人で着られるはずだけど、帯状の白いサッシュを巻くときは、私の顔を見て待っているので巻いてあげた。浴衣も着せてあげる。

道衣袴の彼には、家から持ってきた近藤勇の大小のレプリカを持ってもらった。長身の彼は裾捌きもあざやかに刀をあれこれ振り回してくれた。振り回すという言い方は妥当ではないね。でも他に言い方を思い出せない。正座からの抜身もなかなか様になっていた。

さて、振袖。モデル嬢はイタリア女性らしく、出ているところがしっかり出ていて、カーブがあちこちにあって、着物向きの体型ではない。なるべく体にフィットしたものを着てきてもらったのだが、近くでまじまじ見ると本当に凸凹してて、選択をまちがったかなと思った。

持ってきたタオルを巻きつけて、寸胴に近づける。でも、胸板が厚く(肋骨部分を輪切りにすると膨らみの大きい切り口になる。日本人は平たく潰れた感じ)円周が大きくなって、持ってきた紐や帯が二周できなくて焦った。それでもどうにか着付けを終える。

大きな目に白い肌に白い襟と水色の着物がよく映えていた。ちゃんと着つけたつもりが、そこここで歪んだりしてるのはご愛嬌......。
(FaceBookに登録してる人はここで写真が見られます)
< https://www.facebook.com/elena.ughi/posts/10205565558852466?pnref=story
>

MANGA構築法はいわゆるMANGA風の絵柄ではなくても、ヨーロッパ風の絵柄とも充分調和する。

でも「MANGA」と謳ってしまっているので、参加するのはMANGAに興味のある生徒に限られてしまっている。

MANGA風の絵柄には興味がなくても日本に興味があり、でもMANGAだと思って私のセミナーに来ない生徒にアピールする目的もあるこの目論見だったのだが、セミナー内の生徒しか来なかった。

せっかくの着物だから、皆で学校中を練り歩くことにした。金曜日はセミナーだけの日なので、普段にくらべると人がいない。それでも四つの教室にお邪魔し、会計の部屋まで行ってお披露目をした。行けばよかった! と悔しがった生徒がいたかどうか不明です。

【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

冒頭に書いた「親戚の用事」とは、ベローナに住む姪の「堅信の儀」のことです。カトリックの秘儀のうち、これで正真正銘のキリスト者になる! という大事な儀式です。

ベローナに嫁いだダンナの妹は熱心なカトリック信者なので、息子と娘にこの儀式まで手ほどきしないのは罰当たりというわけです。

舅も一緒にローマから約600キロの行程で、二泊三日で行って来ました。着るものの心配やら、留守中の犬猫の世話役やら、姪への贈り物の配慮やら、いまやこうしたお祝い事には恒例になっている手書きカードの作成やら、気がかりが色々ありましたが、気が合うこともありこうした親戚の存在は、ガイジンの身ながらこの土地に受け入れられた感じがあって嬉しい限りです。

・MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
< https://www-indies.mangabox.me/episode/18803/
>

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
< http://midoroma.blog87.fc2.com/
>

・ボインちゃん、って......。日本ではすでに死語ですね〜。(柴田)