[3919] 3Dプリンターの多種多様なフィラメント

投稿:  著者:  読了時間:16分(本文:約7,900文字)


《わしはアポロのほうが好きや。小枝でもええけど》

■ショート・ストーリーのKUNI[175]
 ぼくはお返しをしたい
 ヤマシタクニコ

■3Dプリンター奮闘記[60]
 3Dプリンターの多種多様なフィラメント
 織田隆治




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■ショート・ストーリーのKUNI[175]
ぼくはお返しをしたい

ヤマシタクニコ
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20150604140200.html >
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ある日のこと。どこにでもいるような平凡な中学生の岡本くんは、教室でみんなと一緒になって騒いでいた。

その日は苦手な数学の先生が急にお腹をこわして自習となったため、教室は非常に盛り上がりカオスと化していたのであるが、あまりの盛り上がりように隣のクラスで国語の授業をしていた先生が怒鳴り込んできた。

「こらっ! ちゃんと自習せんか!」

それまでおしゃべりしていた者、妙な雑誌を回し読みしていた者、弁当を早々と食べていた者などそれぞれがあわてて自分の席に戻り、隠すべきものをさっと隠し、何食わぬ顔でノートを広げた。ただひとり、どんくさい岡本くんだけが、はっと気づくとチョコボールの箱を手にしたままだった。

「岡本、それは何や! 学校に何持ってきてる!」

岡本くんはあわててそれを窓際に置いた。そこへどこからともなく一羽のカラスがやってきて、目にも留まらぬ早さでチョコボールをしっかりくわえたと思うと次の瞬間にはもうどこへともなく飛び去っていた。

「ななななな何も、持ってません!」

「うそつけ、確かにいま...」

言いかけたものの証拠がない。先生はむむむと唸ったまま自分の教室に戻って行き、岡本くんはほっと胸をなでおろした。

件のカラスは人間でいえば、岡本くんと同じ中学生くらいという少年カラスであった。少年カラスは翌日、仲間うちでは博識で知られ、先生と慕われている年かさのカラスのもとへおもむいた。

「先生、教えてほしいことがあるんですけど」

「だれかと思えば良雄やないか。しばらく見んうちに大きなったな。なんでも教えたるで。カラスよけネットの突破の仕方か、それとも人間の子供からいじめられたときの仕返しの仕方か。レベル1からレベル5まであるけど、どれにする。遠慮せんと言え」

「実は昨日、おなかが減って減ってふらふらになりながら飛んでたんです。それである中学校に迷い込んだところ、教室の窓際にいた男子生徒がチョコボールを差し出してくれました」

「ほう」

「それを食べたところみるみる元気が出ました。おかげでいつものようにゴミ収集場をあさることもできました。あの男子生徒のおかげです。それで、あの生徒にお返しをしたいんですが、どんなお返しをしたらいいでしょう」

「お返し?」

「はい。亡くなった母さんに聞いたことがあります。人間は何かもらったり親切にされるとお返しをするそうです」

「ふむ。わしも長いこと生きてるが、そういう相談を受けたのは初めてや。わしらを見たら女子供は悲鳴をあげる。逃げ惑う。石を投げるやつもいる。当局に通報して『カラスをなんとかせえ』と苦情をいうおっさんおばはんもいる。悪いことはいわん。人間とはしょせんそういうもんや。お返しなんか考えんでもええ」

「えー、そうなんですか」

「ああ。ひょっとしたらその中学生もおまえを手なづけてつかまえて、焼き鳥屋にでも売り飛ばすつもりやったんちゃうか。そんな手にひっかかってどないすんねん」

「そんな。しかもチョコボールですよ。カラスみたいな鳥のキャラで有名な。そこに何らかのメッセージがこめられていると思いませんか」

「余計あやしいがな。だいたい、わしはアポロのほうが好きや。小枝でもええけど」

「先生、ほんとは自分がよくわからへんから適当にごまかそ思てるんちゃいますか」

「あほ言うな。お返しくらい、やろ思たらどないでもできるわ。しやけど、君みたいな子供には難しいねん。人間同士でもこれがもとでトラブルになったりするくらいやから」

「え、そうなんですか」

「ああ。何かもろたらその半分くらいのものでお返しするという『半返し』が多いけど『倍返し』というのもある。あと、ちゃぶ台返しとかどんでん返しとかもあるが、これは関係ない」

「関係なかったら言わんといてください。もうちょっとで中学校にちゃぶ台持って行くとこでした」

「とにかくそういうわけや。お返しなんかせんでもええ!」

「ひどっ。先生がそんなカラスとは思いませんでした。もういいです。ぼくは一人で、いや一羽で調べに行きます!」

良雄はそう言って飛んで行った。行く先は天王寺動物園のツル舎だ。

「もしもし、鶴さん」

ケージの外から良雄が呼びかけるとタンチョウヅルが首をくねくねさせ、針金みたいな脚でしゃなりしゃなり歩きながら近づいて来た。

「何かご用かしら。坊や」

「実は人間にお返しをしたいことがありまして。そのやりかたを教えてほしいんです。やっぱり恩返しといえば鶴さんかと」

「ふふふ。その通り、恩返しといえばあたしたち鶴よね。いざとなれば我が身を犠牲にしてでも、美しい織物を織って、真心に報いるっていうお話、知ってるわよね......うふっ」

「は、はい。学校の図書館にあった本で読みました」

「あなたたちも同じようにすればいいんじゃない? 簡単なことよ。あ、そうか! 黒い織物しかできないわね。ごめんなさいね〜、ほほほ! それより、あたしたちの場合、道に倒れていたら人間がつい助けてしまうわけだけど、あなたたちの場合はそうじゃないわよね。ほーほっほっほ」

「憎たらしいおばはん...いや、何でもありません。えっと、もっと他の方法はないんでしょうか」

「他の方法...そうねえ。そもそもあなたたちカラスが、人間に恩返ししたくなるシチュエーションってどういうものなの?」

「はい、それはこれこれこういうことがありまして。それでその男子中学生にお返しをしたいのです」

「何それ。チョコボール? たったそれだけのこと?」

「ええ......まあ」

「悪いけど、そういうの、あたしたちからすれば当然のことで、いちいちお返しなんかしないのよ。きりがないでしょ、美しいあたしたちの場合......あなたたちにすれば滅多にないことでしょうけどね。ほーっほっほっほ、ほーっほっほっほ!」

良雄は怒りにぶるぶる震えた。悔し涙がぼろぼろこぼれた。

「に、二度と聞くもんか!」

良雄はタンチョウヅルに思い切り糞をひっかけて帰ってきた。

ねぐらに戻り、ふさぎ込んでいると先生がやってきた。

「今日はすまんかった......良雄、どないしたんや。泣いてるんか」

「いえ......泣いてなんか、泣いてなんかいません。ただ......あの......ぐすっ」

「言わんでもええ。おまえがどこに行ってきてどんなことがあったか、だいたい想像つく」

良雄はすすりあげた。

「お返しなんか意識することあれへん。ただ、相手を喜ばせたいんやったら、どうやったら喜ぶか考えたらええねん」

良雄はうなずいた。

「元気出せ。今度仲間全員で動物園に行って、ツル舎の前で『アホーアホー』て叫んだるさかい」

「......そんなしょうむないことせんといてください」

それからおよそ一か月、良雄は中学校に通い、岡本くんの生態を観察し続けた。いったいどういうことをすれば岡本くんが喜ぶかを探るためであったが、どうしたら喜ぶかがわかる前に、岡本くんがカラスが大嫌いということがわかってしまった。

自分がちょっと窓際に近づいただけで「うわーっ」と叫ぶ。

「あれは勘違いやったんか......」

良雄はますます傷ついたそうだ。


【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
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5月30日夜にあった小笠原沖地震はM8.1、震源の深さが682km、全都道府県で震度1以上を観測したというが、私は全然気づかなかった。一方、その2日前、28日の未明に大阪ではごく局地的な地震があって、これは短いけど強く、くっきりとした揺れだった。M3.6だが震源の深さは「10km」だったとのことだ。なるほど。
< http://www.tenki.jp/bousai/earthquake/detail-20150528024256.html >


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■3Dプリンター奮闘記[60]
3Dプリンターの多種多様なフィラメント

織田隆治
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20150604140100.html >
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最近すごく忙しくて、なかなか時間が取れないんです。何の時間って?

そりゃもう呑みに......ではなく、3Dプリンターをいじり倒して研究するってことです。実際、呑みに行く時間もあまりないんですけどね......。

今、僕の事務所には、熱溶解ニュルニュル方式のプリンターが四台。UV(光硬化)式のプリンターが一台あんですが、ニュルニュル式のプリンター、一台はまだ梱包が解かれないまま置いてあったりします。

最近、色々な方面の3Dプリンターの会合なんかに顔を出しているせいか、色々な素材サンプルをいただくことが多くなってきています。

熱融解ニュルニュル式でも、透明のもの、金属調のもの、いろいろあります。それを、思う存分試してみたいところですが、日常の業務に追われて、なかなか手を付けられない状態にあります。

うう〜! 色々やってみたい!

寝る時間を削ぐとなんとでもなる気もするんですが、さすがにこの状態の忙しさで、睡眠をこれ以上削るのは凡ミスを誘発したりするので、今はグッと我慢。

それでも、少し空いた時間に、少しずつでもやってみることにしています。

前回、3Dプリンターも色々と機種が出そろってきて、よくなってますよ〜ってなことを書いたんですが、ここ一年くらいの間に、多種多様なフィラメントが出て来ています。

PLAをメインに使っているんですが、素材の持つ特性上なのか、いろいろな障害に気がつきます。

まずは、縮みの問題。PLAはABSに比べて、安定して出力できるので、最近では熱溶解式プリンターではメインの素材となっています。

しかし、特に大きいものを出力することが多い僕にとって、はじめはいいんですが、時間が経過するにあたって、かなりの歪みや伸縮が起こることが、かなり気になってきています。

僕の場合、出力したものを原型にして、シリコン型を起こして樹脂に置換えることが多いんですが、ワンオフのものについては、コストや制作期間の問題から、PLAそのものを使うこともあります。

その場合、時間が経過することで、この「歪み」や「伸縮」が顕著に現れて来ます。

湿度や温度など、周りの環境に影響される素材でもあるので、できるだけ外気などに触れないよう、表面に塗装を施してみたりして、そういった現象を抑える方法を取ってはいるんですが、半年から一年くらい時間をおくと、どうしても歪みが出て来てしまいます。

こういった問題も、色々なパーツ分割など、多少工夫すれば少しは抑えることも可能なんですが、それでもやっぱり問題は出て来ます。

先日、フィラメントを制作しているメーカーの担当者さんとお話をしたんですが、出来ればそういった伸縮がおきにくい素材の開発をお願いします! とお伝えさせて頂きました。

そうすると、数日後に、ちゃんとサンプルを送って頂けました!ありがたいですね! これも、ちゃんと試験してみなきゃ!

その他、この熱融解式のプリンターでは、木製ライクのフィラメント(ケミカルウッドのように、粉体にした木を練り込んだもの)や、金属ライクのフィラメント(粉体の金属の粉を練り込んだもの)、電気を通しやすいフィラメント、ガラスライクの物、食器等に使えるものなど、いろいろなものが出て来てます。

光硬化樹脂タイプのプリンターより、その性質上、沢山の種類のフィラメントが開発されています。これは、他の方式のプリンターよりも、そういった面ではとてもエキサイティングな状況にあると思っています。

例えば、通電する素材としない素材を組み合わせて、2ヘッドで出力すれば、立体的な電子基板が出来ますし、今まで平面で回りくどかった基盤も、立体的に通電できることで、コンパクトな基盤ができる可能性もありますよね。

これは、家電のさらなる小型化やコストカットにもつながって行くことになると思います。

ABSライクのPLAなんてものも出て来ていますが、まだ僕は使ったことがないので、今度試してみようと思っています。

あ〜いろんなフィラメントを使ってテストしたい!!!!

ご提供頂いているいろいろなサンプル、頑張ってテストしますので、もうちょっとお待ちください、すみません。って、ここで書いても伝わらない(笑)

で、光硬化式のプリンターですが、そろそろもう1グレード上の機種を狙っています。今使っている機種は、ちょうど一年くらい前に購入したもの。

熱融解式のプリンターとはまた違うノウハウが必要になってきます。

この光硬化式のプリンターですが、基本はオブジェクトをつり下げる方式のものがほとんどなんですが、これがきれいに失敗なくプリントするのはなかなか難しいんですよね。

ちょっと何らかの原因があると、テーブルから剥がれる現象が起きて、出力に失敗すること多数。

設置面とオブジェクトの位置関係や、底面積の工夫など、その機種に合った方法を模索する必要があります。

使用される光硬化樹脂にも特徴があり、色々な機種のプリンターの素材をミックスして、最良の素材を見つけて行く方法もあります。

こういったように、それぞれの種類のプリンターも、色々な種類の素材が出ています。どういう用途で、どういう素材を使えば、うまく効率良く出力できるのか?

バスっと一発で出力出来る素材なんてないのかなぁ、なんていつも思ってます。

この光硬化式のプリンターですが、これがまた熱融解式より困難で、せっかく買ったのに使いこなせないパターンが多いようです。かくいう僕も、いまだに数回に一回はミスをして、出力に失敗しています。

ジュエリー専門でやっている方には必須のプリンターのようですが、僕の仕事の場合、この光硬化式のプリンターの使用頻度は低くて、すごい精度のものを必要としていないんですけどね。

たまに、細かいものを出力しなければ行けないので、一台くらいはあった方が便利なんです。

こういうように、使う目的によって、プリンターを選んで行くことも重要です。どの制作にはどのプリンターが合っているのか? なんてことも知識として持っている方が、無駄な出費と労力と精神力を減らさないで済みますね(笑)

これからも、色々な種類の素材が出て来ると思うですが、とっても楽しみです!あ〜でも、早く色々試したいので、頑張って仕事こなします!


【___FULL_DIMENSIONS_STUDIO_____ 織田隆治】
oda@f-d-studio.jp
< http://www.f-d-studio.jp >


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編集後記(06/04)

●沢木耕太郎「銀の森へ」で知った、2001年のアメリカ映画「ビューティフル・マインド」を見た。アカデミー作品賞を受賞しているが、主演のラッセル・クロウを「とりわけ素晴らしい演技をしていたとは思えない」と沢木は書く。「だが、わたしにとって欠陥だらけのこの作品を、にもかかわらず『よし』と思わせてくれたのは、映画の中盤に訪れるある一瞬によってだった」という。その一瞬とは、文章や生の舞台では絶対に不可能な、まさに映像でしかできない鮮やかなもので、施された巧妙な仕掛けがこれまでの物語を根底から覆すことになる、とまでいうのだから、まさに「見る気まんまん」でモニタに向かう。

この映画はノーベル経済学賞受賞の実在の天才数学者、ジョン・ナッシュの半生を描く物語だが、普通の伝記ものではない。文芸かサスペンスかホラーかSFかというくらい、多彩な表現ジャンルを動員したハリウッド的な人間ドラマであった。沢木がいう「映画の中盤に訪れるある一瞬」とは、これを指すのだなと思う一瞬があるが、たぶん正解だろう。この映画には主人公の「天才、狂気、再覚醒」という三つの段階がある。天才は夢のような研究環境と家庭を得る。しかし国家に見込まれた暗号解読の才能が彼を危険な方向に導き、やがて狂気の世界に陥る。その映画的表現がサスペンスであり、ホラーっぽくもある。

それまでこの映画で見てきたものが実は......、という仕掛けは事前に見破れなかったが、なるほどそうきたかとすんなり納得できるもので、沢木の絶賛ぶりがちょっと意外だった。やがて、暗くて長いトンネルを抜けて、リアルな社会に舞い戻った彼の覚醒は、プリンストン大学でのペンの儀式(完全なフィクションらしい)や、ノーベル賞授賞式という最高の舞台で確認される。ある天才の「崩壊」と「再生」とがみごとに現されていて、確かに「ある仕掛け」がなければ、これほどの感動は得られまい。やはり沢木の導きは正しかったのだ。彼はこの映画を「数学という世界の『ロッキー』物語なのだ」という。

ハリウッドの人間ドラマだから、映画で楽しめる部分はお約束通り、ほとんどフィクションである。池田信夫氏によれば、「才能を鼻にかけて凡人を露骨に見下し、最初に交際した女性を妊娠させながら子供を認知せず、彼女を捨てて美貌で聡明なアリシアと結婚するが、統合失調症が彼の生活を破壊し、離婚に至る。しかしナッシュは、20年余りの『暗黒時代』をへて奇蹟的に回復し、1994年にノーベル経済学賞を受賞した」という人物だ。映画で妻を演じたのはジェニファー・コネリー、わたしの好きな「フェノミナ」の超絶美少女のその後だ。厳重注意:この映画、事前にネタバレを読んではだめです。 (柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00006LSXR/dgcrcom-22/ >
「ビューティフル・マインド」


●マラソン続き。部品を探しに行ってくれたりしたけれど、やはり直らず。馬鹿な話なんだが、ボタンを押すのに力はいるのだが、そのボタンによって開閉する水弁レバーは軽い。下に引っ張るだけ。レバーと切り離したボタンはさほど重くない。これって設計ミスなんじゃないの? 家庭用トイレがレバーになっている理由も理解した。

タイムリミットが迫ってきたので、部屋が移れないか相談してみたら、修理人もそう思っていたと言い出した。電話貸してくれと。えっ、一時間以上かかってそれ? いやわかる。わかる気はするけれど、提案して欲しかった。

が、マラソン特需で空き部屋がないとのこと。カバーをはずしたままの使い方(レバー)を教わり、外出のためいったん修理を打ち切ってもらった。

フロントで鍵を預ける際に謝罪された。むき出しの配管にあるレバーで流すことになったと伝えると、もう一度修理させると言われたので、受付を済ます必要があること、不在でも部屋に入って構わないと話して名古屋ドームに移動。続く。 (hammer.mule)