[3930] シンガポールで考えた

投稿:  著者:  読了時間:32分(本文:約15,600文字)


《技術開発力とビジネス才智とでシステム化社会をリードする熱帯の小国》

■Otaku ワールドへようこそ![213]
 シンガポールで考えた
 GrowHair




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■Otaku ワールドへようこそ![213]
シンガポールで考えた

GrowHair
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20150619140100.html >
───────────────────────────────────

政府が賢いと、国ってこんなにも繁栄するもんなのか。

空港混雑で20分間ほど空中待機していた飛行機は午後6時ごろ着陸した。入国審査で長い列をなす外国人たちを尻目に、帰国者たちはまるで鉄道の自動改札のごとく、無人ゲートをすいすい通り抜けていく。

TT氏に迎えられ、タクシーでホテルに向かう。初めて降り立つ国への好奇心から、目を凝らして夕暮れの景色を眺めていると、ハイウェイ脇には熱帯植物が鬱蒼と生い繁る。狭い都市国家に、こんなにも広々と豊かな自然が広がっているのが意外だった。

「国の方針なんです」とTT氏は説明してくれる。ただでさえ熱帯なのに、都市化によってさらに気温が上昇してはたまらない。緑化しようと決めると、マレーシアなどから木々を一本一本買ってきて植えたのだとか 。どれもこれもよく剪定してあって、枝ぶりがたいへんよろしい。よくよく見れば、下草が密生しているわけではなく、歩けるように芝生になっている。まるで庭園だ。

木々は政府の財産で、一本一本にコストがかかっている。傷つけたりすると、べらぼうに高い罰金を取られる。木々の一本一本から、国の豊かさを誇られているように感じた。

●狭くて暑いけど、豊かで、きれいで、洗練された都市国家

シンガポールはマレー半島南端からジョホール海峡によって隔てられた島国で、赤道の137km北に位置する。東京23区ほどの面積に約五百万人が居住する。

多民族国家で、英語を共通語とする。TT氏たちは日常的にマンダリン(官話)で会話している。しかし、必ずしも華人というわけではないらしい。他には、マレー語やタミル語が使われている。

高度に都市化され、すべてが人工的である。森林でさえあの調子だから、国内に居る限り、生まれてから死ぬまで、天然の自然に触れる機会はどこにもない。

暑い。カンカン照りの昼間歩くと、日差しが強烈すぎて、オーブンで焼かれている気分だ。夜になっても蒸し蒸しする。建物内はキンキンに冷えてて、入った瞬間の爽快感と出た瞬間のむわっと感がたまらない。夕方に限らず、一日中いつでも激しい雷雨が来る。けど、15分ほどで止む。

標高の一番高いところでも163.63メートルしかない。貯水池はあるけど、水は圧倒的な供給不足で、マレーシアから買っており、三本のパイプラインでつながっている。ここ数年、海水を淡水化するプラントが稼働するようになり、自給率を引き上げている。淡水化技術は海外に売ることで収入源にもなっている。

中東から石油を買ってくれば、お金が出て行くばかりである。武器の製造・輸出はしないが、石油精製技術などで還元し、国家が潤っている。

技術立国で国家繁栄を図るならば、高い教育水準を維持することは必須条件で、ここが弱くては、グローバルな競争を勝ち抜いていくことができない。

英タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)が発表している「世界大学評判ランキング」は、世界で最も権威ある大学ランキングと言われている。2015年3月12日(木)に発表された2015年度版において、アジア大学ランキングをみると、1位が東京大学、2位がシンガポール国立大学、9位が京都大学、10位が南洋理工大学と、いい感じに張り合っている。人口差を考えると、そうとうがんばっているといえる。
< http://www.timeshighereducation.co.uk/world-university-rankings/2014-15/regional-ranking/region/asia >

どこへ行ってもゴミひとつ落ちていない清潔さで評判が高い。エレガントで
未来的な建造物からなる町並みの高級感が醸すプレッシャーもあるだろうし、
きれい好きの国民性もあるかもしれないが、ぶっちゃけ、厳しいルールによる
ところが大きい。違反に対する罰金が高いのだ。

さまざまな生活様式や価値観をもつ人々が、特にゾーンで区切られることもなく、共存している多民族国家である。「空気を読め」なんて土台無理な話である。言い争いの歴史を重ねてきたであろうことは想像に難くない。

その結果、細かいことまでいちいち法律で明文化されている。電車内にドリアンを持ち込んではいけないとか。チューインガムは所持すら禁止とか。地下鉄内で飲食禁止とか。泥酔禁止とか。

日本だとマナーの問題として「ご協力をお願いします」の領域に属しそうなことまでルール化されている。言い換えると、グレーゾーンがほとんどない。ルールに反していない限り、自由が最大限に尊重され、何をしても文句を言われる筋合いはないぞ、というわけである。

一見、モラルに反するようにみえる行為であっても、うっかり文句をつけたりすると、言った側が悪いことになりかねない。

逆に言えば、違法行為をはたらかない限り、どんな民族であろうと、どんな価値観をもっていようと、一市民としてウェルカムですよ、と迎え入れてもらえているようなもので、実は寛容ともいえる。集団への同調圧力みたいな重苦しい無言の空気が苦手な人には、かえってさばさばして居心地がよいかもしれない。合理的だ。

シンガポールの英語は「シングリッシュ」と呼ばれ、微妙な力の抜け加減がおもしろい。"What do you work as?" が職業を聞かれてるもんだとは分からずに、三回ぐらい聞き返しちゃったよ。

これ、"I work as a teacher." みたいに答えたら、「教師になりすまして無資格でやってます」ってニュアンスが漂いそうだけど。シンガポールではあまり気にならないらしい。

●起業するならシンガポール

経済的に沈滞したムードが十数年にわたって続き、このまま沈み続けたら太平洋と日本海が一続きになっちゃうんじゃなかろうかと懸念される日本とは対照的に、シンガポールの人々は、昇り調子のトレンドが将来にわたって続いていくであろうと明るい展望をもっていて、ムードに活気がある。

昇り調子の活気あるムードというのはいいもんで、起業家精神たくましく、ビジネス構想へのゆるぎない自信と、実現の途へ突き進む力強い覚悟とを備えた猛者であれば、いっそのことシンガポールに移住して進めたほうがやりやすいってことはあるかもしれない。

そんな成功例として、株式会社ブシロードの代表取締役社長である木谷高明氏の講演を聞いたのは、2012年9月25日(火)のことであった。

日本動画協会が主催し、経済産業省が後援して、秋葉原UDXにて四日間にわたって開催された「アニメビジネス・パートナーズフォーラム」の「オープニング・ターゲティング・セミナー」の二日目。
< http://www.town-college.com/udx/search/000598.php >

2012年10月5日(金)に配信されたデジクリでレポートしている。
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20121005140100.html >

サイトによると、セミナーの主旨は下記のようなものである。

「アニメビジネス・パートナーズフォーラムは、アニメ&キャラクターのコンテンツ・ホルダーが、国内外メディア・コンテンツ企業、製造・サービス・飲食・観光・地域事業者等とともに、新たなアニメ&キャラクター・ビジネスの創出を目指し、共同マーケティング、共同ビジネスモデル開発、相互ビジネスマッチングを行う「場」です。

日本の産業界にアニメ&キャラクタービジネスが果たす役割と可能性を明らかにし、11月以降開催予定の6つの「テーマ・ワーキング」のテーマとビジネス展開をご案内する場として「オープニング・ターゲティング・セミナー」4日間シリーズを開催しました」。

株式会社ブシロードは、カードゲーム「ヴァンガード」を目玉に掲げ、シンガポールを拠点として海外展開して好調である。アジア展開を狙うにあたって、拠点の国を選定する際、セキュリティレベルが高いことなどを理由にシンガポールになったのだとのこと。レアカードを一枚盗まれたら終わりだから、と。

なんでもかんでも高度にシステム化されているシンガポールは、この種のビジネスに好適な環境ということであろう。

当時のアジア大学ランキングにおいては、シンガポール国立大学は4位、東京大学は8位だったが、そのシンガポール国立大学の卒業生を4人もまとめて採用できたと自慢していた。ブシロードはシンガポールでは非常によく知られている会社であるとのこと。

本当かいなと思って、今回訪星した際に、シンガポール国立大学や南洋理工大学の学生たちに手当たり次第に聞いてみたが、知らないという人はいなかった。

それにしても、超エリート大学を卒業してゲーム会社に就職する人が四人もいるとは! 日本だったら、東大を出てブシロードに行くなんて言ったら、親が泣いて反対しそうなところではある。

●自国は実験場、狙うのは世界市場

シンガポールの特徴として、なんでもかんでも高度にシステム化されているという点が挙げられる。空港の入国審査の帰国者専用無人ゲートを見て、なるほどこれか、と思った。到着していきなりシンガポールのシステム化魂を見せつけられた思いである。

シンガポールのビジネス事情について、もうひとつ講演を聞く機会があった。今年の4月25日(土)の夜に開催された「外のニコニコ学会β」においてである。4月25日(土)、26日(日)と幕張メッセにて「ニコニコ超会議 2015」が開催され、出展者のひとつとして、「ニコニコ学会βシンポジウム」のブースが構えられた。

その特別イベントとして、ニコニコ超会議初日の夜、会場の最寄駅である海浜幕張駅の近くにある「ワイアードキッチン ペリエ海浜幕張店」にて、超会議とは無関係に、「外のニコニコ学会β」が開催された。

テーマは、「海外と / 海外で研究してみた 〜 研究者って海外出たほうがいいの? 〜」。国際関係問題はとかくヒステリックに炎上しがちな話題なので、放送しないナイトセッションとして、このような形をとっている。
< http://niconicogakkai.tumblr.com/post/115876962336/more >

五人の講演者が登壇し、それぞれ15〜20分ほど講演した。その中で、チームラボ株式会社の高須正和氏が「シンガポールでニコニコ学会βをやってみた」と題して講演している。

チームラボ株式会社はウィキペディアによると「東京都文京区に本社を持つ、独立系のシステムインテグレート企業である。設立は2000年12月、資本金は1000万円、従業員数は200人。東京大学発のベンチャー企業として知られる。ウルトラテクノロジスト集団を自称し、プログラマ(アプリケーションプログラマ、ユーザーインターフェイスエンジニア、DBエンジニア、ネットワークエンジニア)、ロボットエンジニア、数学者、建築家、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、CGアニメーター、編集者など、情報化社会のさまざまなものづくりのスペシャリストから構成されている」とある。

高須氏は、講演者プロフィールに「無駄に元気な、チームラボMake部の発起人」とある。シンガポールに移り住み、もう日本に帰ってくる気があんまりないらしい。

高須氏によると、シンガポールは「国民の平均世帯月収が約85万円、六人に一人が一億円以上の資産がある、アジアで最も豊かな国」とのこと。それを聞くと、行って暮らすだけで自動的にリッチになれるような気がしてくるではないか。なにしろ平均的な生き方をしているだけで、そんなに入ってくるってんだから。

市街地を車で走るためには、ERP(Electronic Road Pricing)というシステムを搭載することが義務づけられている。日本のETCに似たものだが、20Km/h以下まで減速する必要はなく、全力で走っていてもゲートが車を感知して課金される。

日本の料金所ベースの課金システムとはかなり違う運用がなされていて、「混雑する時間帯は課金額が大きい」とか、「混雑する時間帯は特に、右側の一車線だけ課金額が高い」といった、こと細かな料金調整がなされているとのこと。

急いでいないときは、ピーク時が過ぎるのを待てば安くなるので、おかげで交通量が均されて、混雑が緩和される、と。急いでいるときは、右側レーンからすいすい追い抜いていけばいいが、その代わりに、料金が自動的にじゃんじゃん加算されていく、と。実に合理的なシステムだ。

それを聞いていたので、実際に行ったときに見てみると、たいへん不思議なことに、一番右のレーンが一番混んでいた。みんなリッチすぎて、課金による抑制効果が薄れてんのかな?

まずは自国の街をスマート化して、人々の暮らしを安全で効 率的で快適なものにしていこうという狙いはもちろんあろう。しかしながら、そのようなシステムをがんばって作って導入していったところで、国土面積が狭く、人口五百万人程度の小国では、経済効果はたかだか知れている。本当の狙いはそこではない。

世界で最も進んだシステムを作ったら、それを国外に売って儲けよう、と。自国はそのための実験場。よーくテストして運用実績を作っておき、システムの完成度を高めておけ、と。空港の入国審査の無人ゲートもさてはそのクチか。

ドローンを作る技術は欧米がすでにリードしているらしい。ならば使う技術だ、ってわけで、シンガポールはそっちに力を入れているとのこと。ドローンをいっぺんにたくさん飛ばし、お互いに衝突しないように制御する仕組みを確立しよう、と。

レストランで注文した料理や飲み物をドローンが運んでくる、というのがすでにテスト運用されているらしい。自動搬送システムを作る側の観点からすると、地を這って運ぶほうがラクそうではあるが、障害物や移動する人などをよけるのが面倒くさそうで、がらんと空いた空中を活用するほうがいいのかも。

日本だと、首相官邸に飛び込んだとかで、ドローン自体が悪者みたいな扱いになってきている。取り締まる法律を作れ、と。新たな産業が芽生えて大きく育ちそうな希望の光とみている人がどれほどいるだろうか。経産省あたりが、あんまり厳しすぎる法律を作っては、産業の発展を阻害しかねない、と、やっと言い出しているようではあるけど。

そういえば、セグウェイが日本に上陸した初期のころ、原宿あたりでデモ的に乗り回して当局にとっ捕まり、道交法違反で有罪を食らって牢屋にブチ込まれ、デジクリに獄中記を書いた方がおられましたな。

あれなんて、発展しそうな産業をひとつ潰しちゃったんじゃないかなぁと思うんだけど。遊園地の片隅にセグウェイに乗ってみるコーナー、みたいなのがちょこっと設けられたりはしてるみたい。

余計なことをするヤツよりも何もしないヤツのほうが偉いっていうこの沈滞ムード、なんとかならんかなぁ。沈没しかけてないか、日本。

いま、どうなってるのかと思って検索してみたら、この7月から公道で乗れるようになるんだとか。うわぁ、遅いよ。今ごろ反省ですかい。神田さんの獄中記って何年前の話だよ?

……ありました、ありました。2004年。法整備に10年かかるとは。名人、ずいぶんと長考されましたな。
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20040830000000.html >
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20040906000000.html >
< http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20040913000000.html >

シンガポールでは、政治家がおおむねテクノロジーに関心があるらしい。中でも環境大臣をやっているVivian Balakrishnan氏はそうとうで、かつては眼科医を務めるかたわら、電子カルテシステムをみずから製作したというし、最近は、ものづくり系のイベントに現れては、熱心に各ブースを見て回り、だれかれとなく気さくに話しかけるそうで。

話の内容も、運用方面ばかりでなく、技術の中身にまで立ち入ってくるらしい。そのギークぶりに高須氏はすっかりファンになったと言っている。

技術にそこまで親しんでいれば、政策立案においても、適確な方向性が見通せるのではあるまいか。少なくとも、ITを「イット」と読み間違えたりはしないであろう。

はぁーっとため息が出る。で、冒頭の感想となる。政府が賢いと、国ってこんなにも繁栄するもんなのか、と。

●日本はビジネスチャンスを韓国に奪われている

逆に、シンガポールから日本を見ると、どう見えているのだろう。やはり昇り調子対下り調子なのか。TT氏に聞いてみた。そのとおりだという。拾えるチャンスまで取りこぼしているよ、と。

まず、英語。日本人は概して英語ができないせいで、著しく損をしている。アジア諸国の中では、北朝鮮と最下位争いをしているレベルだもんなぁ。情報収集力で引けを取ったり、世界の潮流に乗り遅れたり、対話のチャンスを見送ったり、ろくなことになってないらしい。

日本の英語力が低いのは、一度も植民地化されなかったからだという幸いな側面はある。自国の文化を守っていこうとするならば、まず、言葉で侵略されぬよう防衛に努めなければならぬ。母国語よりも外国語のほうが上手くなることはありえないので、外国語に目を向ける前に、母国語をちゃんとやっておかなくては、コミュニケーション能力そのものが不全をきたす。すべて正論である。

それはそうなのだが。ヨーロッパでは近隣諸国で互いに言語が異なるので、共通言語の必要性に迫られて、小学生でもある程度の英語はしゃべっている。それによってなにか弊害が起きているようにもみえない。母国語をおろそかにしさえしなければ、小さいころから外国語にも触れることに害はなさそうである。

もし日本が国の方針として、科学技術方面で諸外国と張り合い、経済的に豊かになっていくことを目指そうというのであれば、英語をないがしろにしていていいはずがない。

楽天株式会社は2010年7月に社内公用語を英語に切り替えると発表し、2012年7月から実施している。当初、TOEICテストの点数が全スタッフ平均で529点だったのが、現在は700点を優に超えているという。すばらしいと思いつつ、他社はなかなか追随できずにいる。

また、ビジネスの仕組みが違いすぎて、日本とはやっていきづらいともTT氏は述べる。まず、決断が遅い。これはよく聞く。打合せをやろうというと、海外まで大勢でぞろぞろとやってくる。その中には、ものを決める権限をもった偉い人もいる。

なのに、その場では何も決めない。話だけ聞いて、では持ち帰って検討しますという。で、三週間ぐらいなにも音沙汰がなく、じりじりしているあたりでやっと「あの話ですが、お受けいたします」と返事がくる。たいてい、それまで待っていられない。動きがない状態で停滞しているわけにいかないので、他あちこちあたるわけである。

それで、いい返事がもらえれば、当然、そっちへなびく。「遅かったです。もう他に決めちゃいました」となる。その代わりに、もし交渉がうまくいって、いざ製造に進むとなると、そこは日本、抜群に早いそうである。つまり、音沙汰のなかった三週間の間に、部品調達先や生産ラインなど、あちこちに根回ししているわけだ。

もし安請け合いしちゃって、いざ生産となったときに、キャパが追いつかなくて納期に間に合いませんでした、というような事態になると、信用に傷がつく。武士に二言があってはならないのだ。そこに重きを置くもんだから、なかなかものごとが決められない。

お調子者が、ハッタリかましてでも「できます」と言ってくれちゃったほうが、発注側にとってはありがたいってことなのかもしれない。どうも日本相手にはビジネスをやりづらいってことで、ビジネスパートナーとしては、韓国のほうがいいぞ、ってムードになってきているそうだ。

おーい日本。シンガポールとはもっと密に対話をしといたほうがいいと思うぞ。

さて、前置きが長くなったが、私は今回、いったいどんなミッションを帯びてシンガポールを訪問したのであるか。

●大学生によってキャンパス内で開催された手作り感あるイベント

6月6日(土)、南洋理工大学の講堂にて、「MinnaCon」と称するイベントが開催された。漫画とアニメとゲームのイベントで、バンドによるアニソンの演奏、同人誌や手作りグッズの販売、コスプレ大会、アニソンカラオケ大会などが行われた。

南洋理工大学(NTU)「Visual Arts Society」とシンガポール国立大学(NUS)
「Comics and Animation Society」との共催。支援するのは「Singapore Cosplay Club」。
< http://www.facebook.com/MinnaCon >

前述のように、シンガポールやシンガポール国立大学は前々から気になっていたのだが、こっちから気になっていると、ある日、向こうから呼んでもらえるというのがなんとも不思議な感覚だ。理屈で考えると不思議でも、私の身にはよくあることなので、あんまり気にならなくなっている。

主催者側から招かれて行ったので、飛行機代、タクシー代、宿泊費、食事代は先方持ちである。「地球の歩き方」に高級ホテルとして掲載されているホテルの20階の部屋が予約されていた。バイキング形式の朝食は品数豊富で、選んでいてわくわくする。スイカとメロンとパイナップルを山盛りにしちゃった。

イベントで私に与えられた役割は
(1)会場内をうろうろし、来場者から写真を撮られる
(2)ステージに立ち、英語でインタビューを受ける
(3)コスプレコンテストで審査員を務め、英語でコメントする
といったところである。いやぁ、簡単すぎて申し訳ない。

海外のイベントにはいくつか参加しているが、今回は行っても知り合いが一人もいない点と、日本語しゃべれる人がいないのが若干心細かった。私の他には、韓国からコスプレイヤーのEki Holicさんが呼ばれていた。

イベント自体は現役の学生たちが運営していて、手作り感いっぱいの素朴なものであったが、海外からのゲストのアテンドについては、失礼があってはたいへんと思ったのか、イベントの企画運営会社のプロに依頼している。TT氏はそこに所属する人である。

「中国国際動漫節」の来場者数が約120万人、日本の「コミックマーケット」が夏冬合計で約100 万人、フランスの「ジャパンエキスポ」が約20万人、スペインの「Japan Weekend Madrid」が約2万人。それと比較するのも変だけど、今回のイベントの期待来場者数は500 人。実際には400人強だった。

朝、遅めの時間に島の中心にあるホテルからタクシーで、島の西端付近に位置する南洋理工大学へ。キャンパス内に入ってからも、会場の建物に到達するまで林の中をずんずん走る。広い! キャンパス内で容易に迷子になれるという。

もうちょっとで着くというころになって、猛烈は雷雨に襲われた。建物間は屋根つきの廊下でつながっていて、濡れずに移動できる。合理的だ。イベントはもう始まっている時間だったが、まずは控え室になっている近くの棟の教室へ行って休憩。

教壇があって机と椅子が縦横に整列している典型的な教室ではない。実習室のような感じで、6人×6グループでディスカッションできるよう、正六角形のテーブルが六つあり、壁にはそれぞれの島に対応した液晶スクリーンが掛けてある。南洋理工大学とシンガポール国立大学の学生さんたちが10人ほどボランティアスタッフとして詰めていた。普段はふつうにこの教室で授業を受けているという。

15分ほど続いた雷雨は嘘のように静まり、カンカン照りに。そろそろ会場へ。広々としたホールには、バンドが演奏する低いステージと、コスプレコンテストなどのための高いステージとが設けられている。私が入っていくと、バンドの演奏を聞いていた人たちがわらわらと寄ってきて、写真を撮っていった。来場者たちの中にも、キャラに扮している人たちが多くいた。

同人誌コーナーには出展者ブースが20個ほど。冊子になった同人誌を売っているサークルはなく、一枚もののイラストとか、手作りの缶バッヂなどのグッズを売っていた。柱には、模造紙が貼ってあり、自由に落書きができるようになっていた。描かれたイラストがみんな上手い。

来場者ほぼ全員から写真を撮られ、一通り回ると、ちょっと手持ち無沙汰になってしまい、私もバンドの演奏を聞いて過ごしていた。

コスプレコンテストでは、私を含む三人の審査員が客席の最前列を陣取り、四組が出場した。一人は、日本語でアニソンを歌った。歌詞を完璧に覚えてきていて、発音もおかしくない。

これはてっきり日本語が分かるんだと思って「どこで練習しましたか?」のように聞いたら、戸惑って黙っている。うわ。日本語は分からないけど、歌詞は覚えられた、と。それ、すごくないか? 優勝はその人が獲得した。

特に持ち芸がない私は、この種のイベントに呼ばれると、普通にインタビューを受けることが多い。まあ、聞きたいことはいろいろあるでしょうから。事前打合せがあったためしがない。いつもぶっつけ本番だ。何を聞かれるのか、知らされてないまま登壇する。

時間も適当でよさそうだったので、ひとつ聞かれたら、その答えから発展させて、10ぐらい返す感じで、ずーっとしゃべりまくっていた。通訳がいる場合は、適当に短く切らないとならないが、今回は質問も答えも全部英語なので、非常にやりやすい。かなりウケをとることができた。

シンガポールは初めてかと聞かれ、自己最南端記録更新と答え、この国から受けた印象についてばーーーっ語った。めちゃめちゃ好印象なのは、お世辞でもなんでもなく、本心だ。

勢いで、ぜったいまた来るから、と言っちゃって、拍手を浴びた。まだ具体的に予定があるわけじゃないけど、ぜったいまた行きたいのは本心だ。

最後に、海外からよく来てくれました、とEki Holicさんと私が花束贈呈を受けた。これは今までなかったことで、この手作り感がうれしい。

イベント自体は小規模な部類ではあったが、なぜか新聞が取材に入っていた。「ザ・ストレーツ・タイムズ(The Straits Times)」。ウィキペディアによると、「シンガポール最大の新聞。1845年に創刊。日刊約40万部。記事は英語表記。世界16都市に支部を置き、特派員を派遣している。また、日本においては朝日新聞と提携している」とのこと。割とメジャーな新聞ではないかっ!

6月11日(木)付けで、紙媒体とウェブ版との両方に掲載された。本名とカラー写真入りで。私のことは「頭のイカれたコスプレイヤー(kooky cosplayer)」と。いいけど。
< http://www.straitstimes.com/lifestyle/more-lifestyle-stories/story/singapores-anime-instinct-japanese-pop-culture-still-attracti >

イベントおよび紙媒体の写真はこちら。
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/Event150606 >

最後の二枚は2013年11月に起きた「下乳(したちち)事件」に関するもの。その記事はこちら(英語)。"underboob"(下乳)は頻出単語なので、受験生は覚えておくべし。
< http://kotaku.com/cops-called-for-underboob-cosplay-controversy-1464257715 >

イベント主催者によるレポートはこちら。
< http://www.speedknight.com/2015/06/minnacon-2015the-report.html >

●セントーサ島はいかにも人工的なリゾートワールド

国内でも海外でも、旅に出たら、現地の人と話をしないと、行った実感が得られない私である。初めての国で、聞きたいことがたくさんある中、TT氏とはたっぷりお話ができた。国際情勢や経済に明るく、経営の才覚に長けた人で、シンガポールがいかにして繁栄の途をたどっているのか、よーく教えてもらえた。

一方、有名な観光スポットは割とどうでもいい私である。世界三大がっかりスポットのひとつとして名を馳せる、マーライオンは見に行きたいとも思わなかった。三つの建物のてっぺんにまたがって天空プールのあるマリーナベイサンズは、わざわざ見に行かなくたって、どっからでも見える。

女子用のスクール水着を着てプールサイド歩いたりしたら面白かろうと、ふと頭をよぎったが、あの国ではやらないほうがよさそうだ。

シンガポール自体、マレーシアとの間に二本の橋が渡された島国だが、その南端に、やはり橋が渡されている島がある。セントーサ島である。島全体が「リゾートワールド」になっていて、ユニバーサル・スタジオや水族館などがある。6月7日(日)はそこへ観光に連れて行ってもらった。

何もかもが人工的なシンガポールの中にあって本領発揮といった感じで、いかにもがんばって作りました的な、ディズニーランドっぽいファンタジータウンだ。水族館は大規模で、なかなかよかった。

国を象徴するマーライオンがやけにショボいとよほど評判悪いのか、この島に大きなマーライオンがいて、中から登ると口から街が見渡せる。私は下から見上げただけで満足したけど。これもいちおう政府公認の正式なマーライオンだ。公認マーライオンはいくつかあるらしい。

歩いていると、写真を撮らせてくださいと寄ってくる人がけっこういて、私自身が遊園地のアトラクションみたくなっていた。ミッキーマウスみたいなもん。YouTube に上がっているVICE MEDIAのドキュメンタリー動画を見たって人が二人。私の本名を呼んできた人が一人。世界的に割と有名かもしれない私。ミッキーマウスには負けるけど。

タクシーで橋を戻り、昨年竣工したばかりのスタジアム「シンガポール・スポーツ・ハブ」へ。6月5日(金)から16日(火)まで、「SEA Games(東南アジア競技大会)2015」が開催されている。

水泳の飛び込みでフィリピンの選手が、二人続けて0点をたたき出したことで話題になった今回の大会。この日はマラソンで、カンボジア代表として、猫ひろし氏が走ることになっている。私は見なかったが、後で報道を見たら、先頭集団がまとめてコースを間違えて惨憺たる結果になったらしい。

会場の周辺はいろいろなアトラクションが設けられ、お祭り状態。そのひとつにコスプレコーナーがあり、誰でも入れる公共スペースなので、私もちょこっとにぎやかしてきた。

この日の夜のフライトで戻り、月曜の早朝、羽田に到着。ちょっと冷や冷やしながら職場の最寄駅を通過し、いったん帰って、着替えて、仕事へ。

初めて行って、週末を過ごして きただけの割には、単なる観光とはだいぶ趣きが違って、得てきたものが大きく、シンガポールという国のイメージがずいぶん鮮明になった気がする。

対照的に、日本の先行きがいっそう不透明に感じられるようになった。もし勝ち目がないのなら、その方向性はやめて、イタリアやスペインあたりをお手本にしたほうがいいのだろうか。

日曜の写真はこちら。
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/Event150607 >

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
< http://www.growhair-jk.com/ >

これが配信される6月19日(金)、会社を休んで、タイへの機上の人になります。6月20日(土)、21日(日)に開催される「The Shoppes COMIC PARTY 91 in Bangkok!」というイベントに参加します。会場は「The Shoppes Grand Rama 9」というところで、デパートのようです。
< http://www.theshoppesgrandrama9.com/ >

私が行くことは、フェイスブックのイベント告知ページですでにアナウンスされています。
< http://www.facebook.com/events/709366575853323/ >

……って、このプロフィール欄、前回のコピペ+単語入れ替えだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記(06/19)

●沢木耕太郎の「銀の街から」で教わった、見るべき映画の数々の中から、たまたま、女性が主役の映画を二本続けて見た。中国の「トゥヤーの結婚」とスペインの「ボルベール〈帰郷〉」である。「トゥヤーの結婚」(2006年)の舞台は内モンゴル、乾燥化の激しい草原地帯である。「若く美しいトゥヤー」と沢木が書くが、中年のジャガイモみたいな顔をした、いかにも頑丈そうな農婦である。お色気度は低い。夫は井戸掘りで事故に遭い下半身不随となり働けない。羊の放牧や遠隔地の水汲みは、トゥヤーとまだ子供の長男が担う。苛酷な自然の中、黙々と重労働に耐えるトゥヤーだが、生活苦がのしかかる。

夫が離婚を提案する。自分は姉の世話になるから、お前は別の男と再婚しろと。二人が町役場で離婚手続きすると、トゥヤーとの結婚を望む男が次々と現れる。二人の子供連れであることは承知していた求婚者だが、ここでトゥヤーの示す唯一の条件のハードルは高い。子供たちだけでなく、身体が不自由な元夫も連れて行くというのだ。破談が続く。元級友の金持ちや、隣家の善人だが頼りない男がトゥヤーに求婚するが……。トゥヤー(女優ユー・ナン)以外はすべて内モンゴルの人々で演技の素人らしい。この女優も現地の人のように巧みにラクダや馬を駆って、堂々たるものだ。トゥヤーは幸せを掴めるのか。

「ボルベール〈帰郷〉」(2006年)は「男なしの女たち」の世界を描いたものだと沢木は書く。主人公のラインダムは娘とともに、新しい夫と三人でマドリードで暮らす。故郷の母の墓参りの帰りに、ひとり暮らしの伯母の家に寄る。このへんでラインダムを巡る人々の関係が分かるようになっているが、なにか違和感がある。家族なのに顔が似てない。マドリードに戻ると、夫は失業したと告げる。ラインダムには不似合いのいかにもダメ男で、義理の娘を犯そうとして逆襲にあい包丁で刺されて死ぬ。ラインダムは娘と一緒に死体を始末する。あっさり男は消え、その後はほとんど女だけの世界となる。

なんといっても主演のペネロペ・クルスの強さと美しさにはくらくらした。派手な顔立ちだがバランスがよくて、品も悪くない。胸の谷間を強調したドレスなど着こなし歌ったりしてとても華やかだ。廃業したレストランの鍵を預かるという偶然から、次第に周囲の女たちを巻き込んでレストラン経営に発展するという話も楽しい。ラインダムの家系は人数は少ないものの、重大な謎が隠されている。それらは、次第に明らかになる。ちょっと強引すぎるとは思うが、辻褄はあうのでまあいいでしょう。だいたい母娘関係って男にはよくわからないし。地味顔ばかりの女たちの中で、ラインダムだけが咲き誇る。 (柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B001BYB8T6/dgcrcom-22/ >
「トゥヤーの結婚」

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000X3C1P6/dgcrcom-22/ >
「ボルベール〈帰郷〉」


●マラソン続き。ハーフは安田美沙子が出場していたんだって。整列してからVAAMゼリーを飲み、トイレ待ちでもやっていたけどストレッチやフォーム確認。腕ふりが大事で、それが骨盤に伝わると、頑張らなくてもスピードが出る。心臓や呼吸や体力が保たないのでセーブするんですけどね。

大阪マラソンと同じく、大会関係者の挨拶やらは聞こえず。国歌斉唱はMay J.さんで、何か聞こえてたかもって程度。拍手は前方から波が来るので、やっておく。開催してくれてありがとう!

号砲が鳴っても、私のブロックはすぐには動かない。しばらくすると歩き始め、5分ぐらい歩き続けると走る人と、そのまま歩き続ける人とに分かれる。私は後者。スタート前から走る元気はない。

スタート門に近づくと、聞いたことのある声が。ステージがあって、タキシードを着た人たちが、「行ってらっしゃい」と言いつつ手を振っている。あ、ゲッツだ、ダンディ坂野だ。

ティファニーのペンダントは、「おもてなしタキシード隊」という、毎年選抜された男性らが手渡ししてくれる。ダンディ板野はその特別隊員だ。何だろうこの緊張のほぐれる感じ。お祭りなんだなぁと再認識できた。号砲が鳴るまで、怖くて逃げたかったのに(笑)。続く。 (hammer.mule)

< http://blogs.yahoo.co.jp/yamachibi1988/35705643.html >
スタート門近くのステージ。私の近くには矢印4人組がいてゲッツにいじられていた。この4人組は完走者新聞にも載ってたよ〜。

< http://ikemen.web.co.jp/ >
おもてなしタキシード隊。誰からもらったかなんて覚えちゃいねぇぜ。

< http://matome.naver.jp/odai/2141614776858467901 >
サンフランシスコでは消防士さんがプレゼンター。がっしりしててかっこいい〜!