[3938] カラリオプリンタを見直した!

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《くっそー、またサポートに連絡だー!》

■ローマでMANGA[88]
 宙ぶらりんのパルンボ
 midori

■グラフィック薄氷大魔王[438]
 「Photoshopのカラー設定」「カラリオ買ってきた」他、小ネタ集
 吉井 宏




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■ローマでMANGA[88]
宙ぶらりんのパルンボ

midori
< https://bn.dgcr.com/archives/20150701140200.html
>
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90年代に講談社のモーニングが、海外の作家に書き下ろし作品をのせるという前代未聞の企画を遂行していたときに、ローマで「海外支局ローマ支部」を請け負って、そのときのことを当時のファックスをスキャンしつつ、それをもとに書いているシリーズです。

……という謳い文句が使えなくなってきたと、「ローマでMANGA 85」から書いている。海外の作家に書き下ろしを依頼する企画の、登場作家三人目のパルンボを迎え、時代も進み、コンピュータを導入して、通信書類はすべてその昔のHDの中、と思い込んでいたからだった。

●山から証拠が出てきた

ところが、たくさんの漫画本と雑誌とスケッチと通信書類やコミックス見本市の資料などの山(一応ファイルに分けてあるのだけど)の中から、パルンボと書いたバインダーが見つかった!!! 

その中にはパルンボがいちいちコピーして、私用とモーニング編集部用に郵送してくれていたネームと、日本から送られてきた感熱紙のファックスも、私が送ったコピー用紙に印刷されたり手書きだったりの通信分、訳文もあった。

それを見て思い出したけれど、Macパフォーマを手に入れてすぐにメールに移行したわけでなかった。まずはMacのNOTEBOOKという、携帯型でかなり小さいけれど、分厚くて重い白黒画面のコンピュータを使っていたのだった。

HDメモリは16MB!! 内蔵HDに記憶できる容量は限られていて、いちいちファイルをフロッピーディスクに移動していた。フロッピーディスク。この名称を思い出すのに約10分ほどかかった。懐かしくて涙が出ちゃうでしょ。

そして、やっと証拠物件から詳細な記述ができる。最初の日付は1995年6月19日。パルンボ手書きの手紙と、「CUT」のネームが二編あった。

パルンボの手紙には、ボローニャでの堤さんとのミーティングから導かれた形式で作ったネームで、気に入ってもらえるように願うという意味のことが書いてある。

「AMORE」と「YURI」を描いていたIGORTと、「不思議な世界旅行」と「MINUS」を描いていたヨーリとのミーティングのために、担当の堤さんがボローニャまで足を伸ばし、その時にパルンボも掲載に向けて「CUT」の売り込みをしたのだった。

一編はCUTが屋上からカメラを抱えてバンジージャンプをし、シャワーの女性の姿をカメラに収めるが、悲鳴を聞いて駆けつけたダンナがCUTにとびかかる。一緒に屋上まで戻ってカメラを渡す。でもポラロイドで撮った写真はCUTの手中に……。

二編目。ハンターが奥方を伴って狩猟に。たくさんいたはずの鳥たちの姿が急に見えなくなる。そこにCUTの姿が。不審に思いつつも探すが、どうしても鳥がいない。気落ちして諦めて帰宅することにする。

車窓からCUTの姿を野に見る。車が通り過ぎると、CUTの膨大な髪の中から鳥がたくさん飛び出してきた……。

二編とも16ページの構成で、CUTとメガネ美人とつるつる頭に髭の紳士が登場する。堤さんに言われたらしく、どちらにも一ページ全部使ったコマが一枚入っている。CUTの動作の種類は多くないが丁寧にその動きを描いている。

次の通信は、なんと最初の通信から三か月半経った10月3日付けで、担当編集が代わっている。その間のやりとりファックスがないのはなぜなのか覚えていない。

新しい担当は、モーニング編集部がいよいよ「海外の作家に書き下ろしをお願いする企画」順調と見て、国際室から引っこ抜いてきた英語堪能の竹中さんだ。

謎の三か月半を調べてみる。その時期のイゴルトファイルに鍵があった。同年5月、もらった原稿の感想を来週書きます。ボローニャで竹中がやってくれてもいいけど、という堤さんのファックスがあった。

続いて、ヨーリの同年6月のファックスでは「堤さんと仕事が続けられことになって嬉しい」とある。つまり、会社の異動の季節が挟まれて、堤さんの海外作家に対する反応が落ちていた頃で、かつ竹中さんが新しく登場、誰が誰を担当を継続するのか、新たにするのかを部内でいろいろ調整する必要があったのだろう。

その間も週刊誌は出さなくちゃいけないので、まだ掲載されていないイタリア組はちょっと脇に置かれていたわけだ。

10月の竹中通信では、16ページの二編は展開が冗長なので、もっとスピーディに16ページではなく8ページにまとめる。女性キャラはいつもメガネをかけているが、もっと魅力的な女性のほうがいいのではないかと、堤さん提案でパルンボが守った二点、「読み切りの16ページ」「CUT、ヒゲおやじ、メガネ美女のトリオ」がごそっと覆された。

竹中通信を見て、パルンボの目玉が飛び出した姿を想像してしまう。[85]でこのトリオを提案したのは竹中さんだと書いてしまったけど、記憶違いだった。同通信で竹中さんは、ネームにいらないと思うコマに×印をつけて送り返してきた。丁寧な反応だ。

パルンボが送ってきた16ページのネームを見ると確かに冗長な感じがする。例えば、バンジージャンプの話では、屋上でカメラを構えたCUTが飛び降りるまでに3ページ、目指す階まで落ちてシャッターを切るまでに4ページも使っている。

絵の技量はすごいので、構図の変化やパースの取り方は見ていて目に楽しいのだけれど。おそらく、イゴルトやヨーリに聞いていたMANGAの構築法(ヨーロッパのマンガと比べて動作を丁寧に描く)というやり方を念頭に置いていたのだろう。ちょっと丁寧すぎました。

それから一か月ほど経って、パルンボからの手書きの手紙とやり直しのネームが出てくる。

CUT、ハゲ男、美女のトリオはそのままで、それぞれの性格づけを書いてきた。今まで出てこなかったCUTの特徴として「モジャモジャの長髪で何でもできる」というのを入れてきた。

バンジージャンプの話では、髪がするすると伸びて屋上に戻ったりする。特殊技能だ。でも、これは結局採用されなかった。こういう特殊なパワーを入れると少しづつ話が曲がっていくしね。

それでも、CUTの性格付けはここではっきり決まり、後に担当編集者が再々度代わっても受け継がれていった。

●放置プレイはいやよ

次の連絡はなんと翌年の9月。約一年もパルンボは宙ぶらりんのまま放って置かれたことになる。

例によって、パルンボのネームコピーと一緒に私の連絡文が付いている。以前のネームではなく、まったく別のエピソードで、竹中式に8ページで美女はメガネをかけていない。

私の連絡文はMacのNotebookにあったお絵かきソフトを駆使して、楕円形のバックの上にグラデーションで球体様の影を施した円をあしらって、名前と住所を記入したものをヘッドとしてつけたりしている。

コンピュータを使った最初のグラフィック作業だ。どう考えてもファックスを通したら潰れてしまって、グラデーションも袋文字もよく見えなかったろうと思う。

その通信文は懇願文だ。「担当を決める云々はどうなりましたか? 担当が決まってしょっちゅうやりとりできれば、ネームの上がりもやり直しもスピードアップできると思いますが。」とある。

エピソード内容も違うし、文の内容からして、ファックスは残ってなくてもこの前にもさすがにいくつかのやりとりはあったのだろう。直接電話でやりとりしたのかもしれない。

堤さんの時と同じように、竹中さんもパルンボとフィーリングが合わなかったのかもしれない。編集部内の様々があったとしても、担当編集者と作家の息が合って、次々と話が進めば作品の上がりも早くなるはずだ。担当もネームを見ての意見がすぐに出てくる。

8ページのネームはスピード感があって面白い。一年の歳月は無駄でなかったと思わせる。プロらしく、パルンボはずいぶんとMANGAを勉強したようだ。この頃にはモーニング誌を送ってもらっていたはずだし。

そしてまた一か月辛抱した後、「ローマでMANGA 86」ですでに書いたように、パルンボは新さんという気の合う編集者と巡りあうことになるのだった。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

MANGA構築法講師を、肩書だけでなくなんとか仕事に持っていきたい。学校で講師をしているものの、正式コースではなく年に4か月の、あまり技術のない一年生を相手にしているので手応えが小さい。

本当はプロを相手に、このコラムで書いている編集者のようにネームをMANGA構築法で直してみたいのだ。

最近小さな出版社から自作のMANGAを出版した青年と話していて、「mannga-editor」というページをFaceBookに作ったら? という示唆を受けた。

私の立ち位置というものがイタリア、ヨーロッパにはないものだと今更ながらにわかったのだ。

< https://www.facebook.com/midorimangaeditor?fref=ts
>

デジクリで語っている編集者のあり方というのは、日本のマンガ編集者独特のもので、ヨーロッパのマンガ編集者はこのように作家の仕事に介入しない。作品のあらすじ、登場人物の絵と情報、数枚の完成原稿を見て、良ければそれで作品依頼をして出来上がりを待つ。

マンガ学校の講師は作家であるのが普通だ。

日本のMANGA構築法とイタリア人の描画法、メンタリティから出てくるストーリーを合わせて新しいマンガを作る、という夢の実現に一歩近づくか……。

MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
< https://www-indies.mangabox.me/episode/32604/
>

COMICO 無料マンガ 「私の小さな家」
< http://www.comico.jp/manage/article/index.nhn?titleNo=1961
>

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
< http://midoroma.blog87.fc2.com/
>


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■グラフィック薄氷大魔王[438]
「Photoshopのカラー設定」「カラリオ買ってきた」他、小ネタ集

吉井 宏
< https://bn.dgcr.com/archives/20150701140100.html
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●Photoshop CC 2015の「カラー設定」に注意

3台のMacに入れて数日間使った後、気がついた。カラー設定がデフォルトの「一般用-日本2」になってるじゃないかー! 確認したら他のマシンも「一般用-日本2」になってる。ギャー!

プロファイル無しやsRGBの画像をAdobe RGBに変換せず、そのまま保存しちゃった画像がいくつもあるぞ。

インストールの際に「設定を引き継ぐ」にしたはずなので「プリプレス用-日
本2(異なるプロファイルの画像を開くときの確認のみオフに設定)」になってるはずと安心してた。SNSでも数人がそうなってるとのこと。使用環境によってどうなってるかはわからない。

実害も出た。数日間「一般用」で作業していたため、「プリプレス用-日本2」で作った追加画像と色味が合わない。全部をAdobe RGBで作り直すのは大変すぎるため、しかたなく「一般用」に設定し直して画像作成。

「一般用」って専門家じゃない人が混乱しないようにsRGBに統一、プロファイル不一致などの警告が出ないようになってるのだ。まだ気がついてない人が全世界で数千万人単位でいそう……。

●iTunesの曲が途切れる

2005年8月にiTunesストアがオープンして初めて購入したアルバム4枚。途中で突然無音になってるものが9曲もある。始まってすぐ途切れるのも、終わり間際が途切れているものもある。

当時、サポートに連絡したら、元データが原因だろうということで返金処理してもらってそのままになってた。消えてる曲は削除したのでiTunesで欠番になってる。

で、Apple Musicが始まれば実質タダみたいなものの、最初に買ったアルバムが不完全なままなのはどうにも気持ち悪い。ってことで、「購入する最後のアルバム」として、重複購入の警告を振り切って4枚のうち2枚を購入してみたところ

……途切れたままじゃ〜〜ん! 10年経ってりゃ修正されてると思うじゃ〜ん! くっそー、またサポートに連絡だー!

で、返金処理になったけど、お金払うから音源を直してほしいな〜。

●カラリオプリンタを見直した!

写真プリントを人に渡す必要があって、奥さんの6色カラリオ複合機EP-805AWを使用。何度か使わせてもらったことはあるけど、本気プリントは初めてだったかも。

以前使ってたエプソンの顔料インクプリンタは、ノズルがすぐ詰まってメンテナンスが大変、スジスジを解消して最初の一枚がプリントできるまで一時間くらいかかるのが恒例になってた。染料インクの機種は手入れなしでいきなりプリントできるねえ! それだけでも感激。

で、顔料プリンタの時に買った「写真用紙エントリー」と「フォト光沢紙」を使用。前者はめちゃくちゃキレイ! おどろくほど精細な上にキレイ! こんなキレイなプリントが個人所有の安いプリンタで出来ちゃうわけ? とあらためて驚いた次第w

「写真用紙エントリー」でこの発色なら「クリスピア」はどうなるんだ? と怖ろしくなるほどw

その後「フォト光沢紙」でプリントしたら、発色がぜんぜんちがう。ちゃんと用紙を設定設定した上で「きれい」でプリントしたのに、地味で浅い。光沢紙だけど紙ベースで安く、見栄えはいいけど普通紙みたいなもの、ということらしい。

そうだ、自分用にカラリオ買おう! レーザープリンタとスキャナを別々に置いてて、USBと電源ケーブル計4本がのたうってるけど、カラリオ複合機なら一台で済む上にWi-Fi接続したら電源ケーブル一本になる。

レーザープリンタはメンテナンスフリーで高速で安定してプリントできるけど、カラリオがメンテナンスしなくてキレイにプリントできるなら、多少スピードが遅くてもかまわないや。そもそも大量にプリントすることなどほとんどないわけで。

あと、打ち合わせなどで配る資料がインクジェットだとちょっと恥ずかしいとか思ってたこともあるけど、最近はビジネスインクジェットが普及してるらしく、もらった資料がインクジェットのことも多い。そのへんも大丈夫。どうしてもレーザーが使いたい場合は、コンビニプリントが使えるし。

●カラリオ買ってきた

さっそくカラリオEP-807AWを買ってきた。Wi-Fi対応なのでスキャンもプリンタも無線。電源ケーブル一本でOK。どこに置いてもいい。ところが、無線LAN接続の設定ができない〜。一旦USBで繋いで設定するんだけど、ウンともスンとも……と思ったら、LANコネクタにUSBの四角いほうを差してたw (差せるサイズなんだよ!)

気を取り直して設定続けるも、やはり設定できず。奥さんのEP-805AWはすんなり無線接続できたはずなんだけどな〜。検索するとカラリオとMacの無線接続は一筋縄じゃ行かないそう。

いろいろ調べたら、PINコードを打ち込む方法があるとのこと。プラス、カラリオの設定画面のヘルプにMacでの無線LAN接続方法がちゃんと書いてあった。あと、ルータ経由じゃなくて直接無線接続のほうが簡単という話も。
< https://support.apple.com/ja-jp/HT201900
>

とりあえず、無線でプリント成功〜!

●スキャンが期待はずれ……

デフォルトのドライバからもスキャンできるけど、非常に簡易なもの。細かい設定ができるEPSON Scanアプリでカラリオのスキャンを使うには、設定アプリからネットワーク接続のカラリオを選ぶ必要がある。スキャンも無線で成功。

しかし、専用機GT-X820にくらべると、めちゃくちゃ遅い。プレビュースキャンが300dpiスキャンモアレ軽減アリ並みに時間かかる。

何か間違ってるのかとあちこちいじっても改善されない。USB接続でも同じ速度。ラフや下絵をスキャンするには遅すぎる。どうしてもスキャンしなきゃならない一枚ならガマンできても、日常的にラフスケッチ20枚くらいをちゃっちゃかスキャンするのは到底無理。

で、iPhoneのEvernoteスキャンカメラを思い出して使ってみたら、アプリ起動からスキャン保存まで数秒で済んじゃう。Macにすぐ同期されてるから手間いらず。「日常ラフスキャン」はもうこれでいいやw

「本気スキャン」には今までどおりGT-X820を使おう。大量スキャン用にはScanSnapもあるしね。

その後、カラリオ本体の液晶操作パネルを使って「スキャンしてパソコンに送る」を試したら、プレビューの手間がない分だけ速い。まあ、枚数が少なければ使えないこともなさそう。

しかし、複合機のプリンタの性能は極限まで上がってるのに、スキャナは最低ギリギリのまま放置。家庭での使用ではもうスキャナって重要視されないんだろうなあ。

【吉井 宏/イラストレーター】
HP < http://www.yoshii.com
>
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
>

ニュースで思ったこと二つ。

・「竜巻」と言ったら負け、っていうルールが気象関係者にあるんじゃないのか? 明らかに竜巻でも「突風」と言い張るのが不自然。気象用語の基準なんだろうけど、多少ゆるめればいいのに。

・振り込め詐欺の防止方法思いついた。自治体や警察がニセの「オレオレ詐欺電話」を、引っかかりそうな高齢者宅全世帯に年に一回くらいかける。ってのはどうかな? 予防注射的に。

・パリの老舗百貨店Printemps 150周年記念マスコット「ROSEちゃん」
< http://departmentstoreparis.printemps.com/news/w/150ans-41500
>

・rinkakの3Dプリント作品ショップ
< https://www.rinkak.com/jp/shop/hiroshiyoshii
>

・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
< https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii
>

・ハイウェイ島の大冒険
< http://kids.e-nexco.co.jp
>

・App Store「REAL STEELPAN」
< https://itunes.apple.com/jp/app/real-steelpan/id398902899?mt=8
>


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編集後記(07/01)

●「新選組始末記」は若い頃に、講談社から刊行された子母澤寛全集を買って読んだ。むちゃくちゃ面白かった。それまで抱いていた新選組のイメージ(勤王の志士を襲う酷薄残虐な悪党)が一変した。その後、司馬遼太郎の「燃えよ剣」や「新選組血風録」を読み、新選組の大ファンになった。新選組関連の小説や評論、漫画などを手当たり次第コレクションして、いまでもかなり残っている。聖地・壬生寺には三度も行った。いまや「新選組始末記」の内容はすっかり忘れていたので、読み始めると没頭する。根掘り葉掘りの聞き書き形式を用いた、状況再現のみごとさといったら。こりゃたまりません。

浅田次郎の「歴史・小説・人生」という各界14人との対談集(河出書房、2005)で、北方謙三との対談テーマは「新選組」だった。今でも「始末記」を本当だと思っている新選組ファンは多いと思う、という北方に「丸々信じてた。ドラマチックで、素晴らしい世界だなあと感動しましたね。だから後に子母澤寛が『面白いところは全部私の創作だ』って告白したとき、ものすごいショックを受けたもの。ほとんど暗記するくらいに読んでいたから」と応じる。高橋克彦との対談でも「そのときのショックで『壬生義士伝』を書いたようなものです。あれが作り話だったら、これをもっと嘘のでかい小説にしてやれと」と語る。

調べれば調べるほど、「始末記」のあれも嘘だろう、これも嘘だろうというのが出てくる。「また子母澤さんに騙されたと思いつつも、逆に今度は『しめた、これで自由に書ける』と」と浅田。「そう、わからない部分というのは、実は作家にとってはすごく助かるんだよ。実在の人物をどんどん追いかけていって、あるときからパッと消息が途絶えて、墓もないという状態になると、あ、こいつはついに俺のものになった、と思うね」と北方。なるほどねえ、確定している事実に関しては、ある程度それに沿わないとまずいから窮屈だ。諸説ふんぷんで定説がない場合は、何をやっても何を言わせてもいいわけだ。

浅田は、近藤勇の死に方がわからないという。土方の死はかっこいいのに、近藤はどうして無様な死に方をしたのか。完全に戦意喪失してしまったのはいったい何故かと北方に問う。近藤は大阪で銃撃されて怪我をした。沖田と一緒に船で運ばれて江戸に帰ったが、あの段階でもう諦めていたのではないか。剣に命をかけている人間にとっては、死んでもいいと思えるほどの大怪我だったんじゃないか、と北方。ふたりに共通しているのは、新選組に関して今までと少し違うことを書くと、コアなファンから成長した研究家たちの文句が殺到するということ。これは本当の土方さんじゃない、なんて。小説なのに。 (柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/430901707X/dgcrcom-22/
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浅田次郎「歴史・小説・人生」

< https://bn.dgcr.com/archives/20051202000000.html
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北方謙三「黒龍の柩」について後記で書いていた。1876号 2005年12月2日


●マラソン続き。トップクラスの選手らに抜かされた後、数の並んでいるトイレを見かけ、寄ることにした。「トイレは並ぶから早めに行くこと」「皆が同じタイミングでしたくなる」という言葉が頭をよぎったのだ。行くなら数の多いここなんじゃないか?

皆同じ考えのようで行列。日陰で寒くなってくる。脱いで腰に巻いていたウィンドブレーカーを着ると暖かい。念のためのウィンドブレーカーがトイレ待ちの時に役立ったわ。

マラソン経験者にトイレの話を初めて聞いた時、心から驚いた。テレビのマラソン中継で選手らはトイレに寄っていないから。たまに選手らでも行くことはあるそうなのだがテレビにはうつらないし、せいぜい2時間半だし。

でもギリギリランナーは7時間なのだ。いくら汗をかいているとはいっても、しょっちゅう補給しているのだ。続く。 (hammer.mule)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00OK0Z7HM/dgcrcom-22/
>
ウィンドブレーカーの重さは130g。背面のポケットに畳んで収納できる。

< http://www.bodymaker.jp/shop/g/gML010/
>
畳むとこうなる