[3944] ソウルは坂の町だった!

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          《こんな明朝体見たことがない!》

■わが逃走[163]
 ソウルは坂の町の巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[23]街中で見つけた素敵な書体たち〜第3回〜
 日本人の感性には明朝体がマッチする?
 関口浩之

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■わが逃走[163]
ソウルは坂の町の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20150709140200.html
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ソウルは坂の町だった!

この町の全体像はまだつかみきれなていないのだが、いたるところに路地があり、階段がある。そこには普通の人の普通の生活があるのだ。

観光とは観光地を見ることではなく、それを繋ぐ道沿いにある人々の生活と自分の暮らしとの違いに気づくこと。そしてその違いを楽しむことだろう。

外からの目だからこそ見える面白さもあるし、その逆もある。

お互いの目線で“面白い”場所を語り合えば、文化のつながりも世界の広さも体感できるというわけだ。

うーん、楽しいなあ。

という訳で、今回はソウル駅周辺の普通の町を紹介します。

今回いろいろと面倒をみてくださったキムさんの案内で、地下鉄一駅分を歩いただけなのですが、それはそれは充実した時間でした。

韓国が世界に誇る美術館や博物館よりも、路地裏をひたすら歩きたがる隣国からの客人に、彼も初めは戸惑っていましたが、つきあっていただくうちに「へー、こんな近くにこんな不思議な所があったんですネ。初めて来ました」とノリもよくなってきました。

キムさん、ありがとう。楽しかったです。

大四畳半
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/001 >

そこは、ちょっと前の日本のような懐かしさと、最先端のテクノロジーが混在するという、大四畳半的とでもいうべき世界でした。

ちょうど松本零士の描くメガロポリス東京ステーションのような、近景と遠景とのギャップが秀逸。ここからアジアの、大陸のパワーが生まれているのです。

混線しそうな電線
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/002 >

アジアといえば電線。たとえばヨーロッパの人が日本に来ると、赤いポスト、四角い学校、そして電線に異国情緒を感じるのだそうです。

さて、韓国の電線の張りっぷりは、日本のそれと比べるとかなりワイルドでした。このあたりからも大陸のパワー、熱い人柄のようなものを感じるといったら大げさでしょうか。

以前、博多や宮崎でも似たような張りっぷりのものを見た記憶があります。こんなところにも大陸文化伝来の道筋を感じ、興味深いです。

階段と扉
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/003 >

謎物件。蹴上が異常に高く、踏面も異常に狭い階段の先に、小さすぎる扉。このあたりの町並みは日本の下町と似ているといえば似ているのですが、こういう謎な物件に出くわす確率は、俄然韓国の方が高いと思いました。

普通の路地
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既視感あるのに、なんか違う。そんなところがこの町の魅力です。日本のようであり、中国のようでもあり、ヨーロッパを感じる瞬間もあります。
路地の向こうから現れる人をイメージしてみてください。

電柱
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なぜ道の真ん中に? このおおらかさがタマランのです。
電柱を見にわざわざ外国に行くことはないですが、現地に着くと、こういった何気ないものの方がその国らしさを感じます。

坂の上から
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/007 >

古い瓦屋根の住宅の向こうに高層ビル。思うに、美しさとは『対比と調和』が生み出す物語を意味するのではないか。

脇道とその先
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/008 >
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/009 >

麓へ通じる階段道の両脇にはランダムな間隔でいくつもの路地が。その先にはさらなる枝道があり、まるで尾道や長崎のようです。

迷子を楽しんでいると、小さな広場に出ました。一本の木を中心に、路地が集まり、さらにその脇の階段から次の階層へ向かいます。このへんはトスカーナ辺りの城塞都市的といえなくもない?

路地を進む
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/010 >
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/011 >

路地を進み、階段を下ります。この道幅ゆえ、ゆずりあいの気持ちが大切。

麓から
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/07/09/images/012 >

いま来た道を見上げてみると、けっこうな高低差でした。

さて、今日紹介するのはここまでですが、ソウルにはこういった路地や階段が
いたるところにありました。

ガイドブックには韓国料理とエステと、韓流スターのことしか書かれていませんが、地元の普通の町並をほんの少し散歩してみるのもイイでしょ。
隣国の文化が薬膳のごとくじんわり伝わってきます。

東京・ソウル間は約二時間。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[23]街中で見つけた素敵な書体たち〜第3回〜
日本人の感性には明朝体がマッチする?

関口浩之
< https://bn.dgcr.com/archives/20150709140100.html
>
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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。前々回より四回連続で「まちもじ」特集をお送りしてます。今回は第三回です。

普段の生活の中で見つけた文字にフォーカスしたお話です。街中の看板やポスター、中刷り広告、テレビテロップなどから気になる文字を取り上げます。

●街中で発見した素敵な明朝体

最近、とても気になるポスターがあります。これです!
< http://goo.gl/M1vS04
>

最近、個人的に好感度アップ中の石原さとみさんが出演している、鏡月のコマーシャルで使用されている明朝体です。

「夏と、きみと、ふんわり鏡月。」のキャッチコピーも素敵ですが、ここで使われているひらがな、すごく雰囲気ありますよね!

「ふ」なんか、ふんわり雲の上に浮かんでいる感じがしませんか? 筆を滑らかに動かしている筆づかいが伝わってきます。

「と」「き」「ん」「わ」「り」もじっくり観ると、素敵ですね〜。

このキャッチコピーをゴシック体に置き換えると、ふんわり感はでないと思います(笑)

いままで、焼酎のボトルラベルで使用されている書体といえば、毛筆体が多かった気がします。男のお酒って感じがします…。

石原さとみさんを採用した効果もあると思いますが、ふんわり感を出して若者や女性にも気軽に飲んでもらうため、このポスターが採用した明朝体は絶妙だと感じました。

二番目のポスターは、ベットマットレスの広告ポスターです。このポスターを見たとき、心地よさを感じました。

星空を背景に明朝体を横書きで配置していますが、宇宙という大自然の空間に文字がとけこんでいます。

字間をあけて組むことで、ゆったり感が出ています。マットレスのCMですし、心地よさを伝わることは大事ですね!

ちなみに、僕は、紙のデザインに関してはまだまだ勉強中でして(汗)、文字詰めについてはコメントできる造詣は持ちあわせておりません(修行中です)。

三番目のポスターはビールのお中元のポスターです。日本人の慣習であるお中元、そしてお酒には明朝体がしっくりきますね!

●このポスター、いいね!

このポスターは半年ぐらい前に期間限定で、都営大江戸線の六本木駅のエスカレータ脇に30枚ぐらい貼り出されたポスターです(パネル展示といったほうが正しいかな…)。 じゃーん、これです。
< http://goo.gl/4tDkUX
>

高畑勲さんが脚本・監督した「かぐやの物語」のPR広告です。特命コピーライター太田光さんが書き下ろしたコピーライティングのパネルです。

通常、ポスターといえば、映像ビジュアルがバーンと押し出されて、それにキャッチコピーが書かれていることが多いですよね。

でも、このポスターが非常に新鮮だと感じたのは、文字のみで表現されているからだと思います。

そして、キャッチコピーの長さに応じて、文字の大きさが変化しています。

パネルの大きさが限られているので、一行に二文字、三文字のケースもあり、文字だけでこれだけ印象に残るポスターは見たことがありません。

ここで使われている明朝体の書体は何だろうと、すごく気になりました。

たぶん、あの書体かなぁ…って予想はしてましたが、家に戻って書体見本帳で確認したところ正解でした!

この書体は、フォントワークス社の「筑紫オールド明朝」です。上品な中に色気を感じませんか?(意見には個人差があります…w)

六本木で開催されたWebアクセシビリティのセミナーに参加したあと、23時ぐらいにこのパネルを発見しました。すかさず数枚iPhoneで撮影しました。

「今日は遅いから明日早起きしてカメラ持参して撮影してこよう!」と意気込んで翌日、六本木駅に足を運びました。

でも掲載は前日で終了しており、パネルは深夜に撤去されてました………。ガーン………。

でも、ここのWebページで約30枚のパネルが掲載されてました。うれしい!
< http://goo.gl/lDQJp2
>

●筑紫明朝

筑紫明朝の生みの親である藤田重信さんとは、以前、セミナー登壇でご一緒したことがあります。

なので、藤田さんのツイッターで、現在開発している新書体の制作過程の情報や、文字のうんちく話を追っかけております。

そのなかで、気になるものを二つご紹介します。
< http://goo.gl/khu1oj
>

この明朝体の文字比較、すごく楽しいです。フォントオタクでなくても感動すると思います!

一つ目の「冬のクリスマス」の文字比較をじっくりみてください。

左側に掲載されている「リュウミン」や「秀英明朝」は印刷物でよく使われている書体ですね。

「游明朝」は最新のMac OSやWindows OSにバンドルされているフォントなので、最近、Web画面で徐々に見かけるようになりました。

また、「筑紫明朝」はNHKのテロップで使われている書体ですね。

左側に並んでいる四つの明朝体は、比較的見慣れている明朝体と言えると思います。

一方、右側の四つの明朝体をじっくり観察してみてください。結構、くせがある明朝体と感じるかもしれません。

「筑紫Q明朝」はまだ発売されていない明朝体です。はらいがバビューンとすごく延びていて、そして先に尖りがありません。

ここまで個性たっぷりなデジタルフォントは見たことがありません。でも、二番目に掲載した「森鴎外」の文字組見本をみてみると、あら不思議、違和感ありません! 

僕、この書体好きです! このフォントで組んだ森鴎外の小説を読んでみたくなりますね。

ちなみに「筑紫アンティーク明朝」「筑紫Bオールド明朝」「筑紫Cオールド明朝」は発売済みの書体です。

B/Cとあるのは、ひらがな・カタカナのバリエーションの違いで書体名が異なっています。

●エヴァンゲリオン文字

エヴァンゲリオンで使用されている力強い明朝体といえば「マティスUB」ですね。エヴァンゲリオン文字(エヴァ文字・エヴァフォント)と呼ばれています。
< http://goo.gl/W8Ky6v
>

ちなみに、UBはウルトラボールドの略称で、ウェイトが非常に太い書体です。

縦組みと横組みで、これだけきれいに整列させて表現すると楽しくなりますね。

そして、この「マティスUB」という明朝体が使用されることで、エヴァンゲリオンの世界観が自然と伝わってくるのが不思議です。

二番目と三番目の事例は、音楽番組の歌詞で使用されているテロップ文字です。音楽の歌詞テロップは明朝体が多いような気がします。

放送局が違うというのもあると思いますが、女性ボーカルの歌詞では細めか標準の太さの文字、男性ボーカルの歌詞では太めの明朝体が使われてました。

明朝体って、いろいろなフォントメーから何種類も発売されています。そして、同じ書体でも太さ(ウェイト)が3〜8種類ぐらいあります。

明朝体は「これは○○書体だね」とすぐに分からないケースが多いですね。

でも、コンテンツに相応しい明朝体をじっくり選択し、適切なウェイトできれいに文字を組むと、アピール力や伝わる感性や感情が大きく変化するのではないかと思いました。

●金沢で見つけた明朝体

先日、北陸新幹線に乗ってセミナー登壇で金沢へ行ってきました。

駅を降りると正面コンコースに「金沢に来るなら、春か夏か秋か冬がいいと思います。」という垂幕がありました。

親しみを感じる明朝体なのですが、さて、このフォント、なんという書体なのだろうか?
< http://goo.gl/2fwZoA
>

もし、お分かりの方、いらっしゃいまたしたら教えてください〜。よろしくお願いします。

今回は明朝体にフォーカスしましたが、次回の第四話の最終回はデザイン書体のまちもじをお送りする予定です。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
< http://fontplus.jp/
>

1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(07/09)

●平山夢明の短編集「デブを捨てに」を読んだ(文藝春秋、2015)。それにしてもあんまりなタイトル。比喩かと思ったらストレート。借金を返せず「うでかでぶか」と選択を迫られ、腕を折られるよりもデブ(ヤミ金のボスの娘で途方もないデブ)を捨てに行く方を選んだ男の話だ。他のタイトルも「いんちき小僧」「マミーボコボコ」「顔が不自由で素敵な売女」というのだから、内容は予想できないけど、同じような「最悪」系テイストなんだろうな思ったらその通りだった。この作家の実話系、都市伝説系ホラーはいくつか読んできたが、小説に出会ったのは初めて。いやはやとんでもないものを読んでしまった。

この短編集の平山ワールドに出てくる人たちは、クズばかりである。一片の同情もしたくない、絶対出会いたくないような外道ばかりだ。自ら不運、不幸の誘蛾灯に向かってしまう昆虫みたいな奴らだ。「俺は元々社会から落ちこぼれた“ダメな人”が大好き。言ってみれば“マイナス方向に成功”してる人だよ。この短編集に登場するのは、みんなが頭の中で切り捨ててしまう人たちなんじゃないかな。思うにまかせない人生を送ってる人ってすごく人間臭い。だからシンパシーを感じてしまう」と「本の話」のインタビューで語っている。シンパシーは一切感じないが、他人の不幸は蜜の味、面白いんだな、これが。

普通の小説家先生は絶対描かない、暴力・貧困・嗜虐・差別のあふれた世界。読んでいてもっぱら不愉快な、かつての筒井康隆を泥酔させて書かせたような、胸くそ悪くなる小説がここにある。といいながら、「デブを捨てに」を読んで、投げ出せばいいものを、結局むさぼるように全編読んでしまったのだから、やっぱり面白いんだな。感動はしないけど。「マミーボコボコ」家族は、テレビでおなじみ大家族物語を過激に茶化した傑作で、最悪のキラキラネーム揃いの子供らと育児放棄両親のバカさ加減が半端でない化け物屋敷。美談風に売った七男五女の大家族ものの正体とは。いいぞ、テレビ局に喧嘩売ってるな。

それぞれの主人公たちは、最終的にはなんらかの赦しや解放があるが、それが救いであるかというと、常識的には違うでしょう。宮部みゆきは書評で「不幸と希望のファンタジーなのだ」と結んでいたが、後味がすっきりというわけにはいかない。爽快感があるという反応もあるが、そりゃ変態だよ。それにしてもあんまりな造本。多少厚紙の表紙の裏は白、本文用紙は安っぽいザラ紙、コンビニ本みたいなチープさを演出しているのだと思うが、せいぜいワンコインが値頃感なのに、926円+税ときた。これは不愉快、内容も不愉快、それでも面白いんだから不愉快。次回も読もうかなと思うのが不愉快。(柴田)

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「デブを捨てに」


●マラソン続き。沿道で休み、ストレッチする人が増えていく。エアサロンパスは大活躍で、いや焼け石に水ではあるが、好きなタイミングで好きなだけ使えるのは良かった。

沿道から声をかけられている人がいた。「大丈夫か? 痛くないか?」とおじいさんに尋ねられて、「痛いわよ。でもしょうがないじゃない。」と返したおばあさん。おそらく70代後半から80代。

この「しょうがないじゃない」は、投げやりでも怒りでもないフラットな言い方。だって私が走りたいと思ったからなんだもん、と聞こえてきそうな。超かっこよくて惚れそうになりました。自分がおばあさんになった時、何かにチャレンジしているだろうか。

でもまぁそのおばあさんともデッドヒートで(笑)。おばあさんと絡まなくなった時は心配になったよ。こちらが歩いてたら追いつかれて、おばあさんステキ〜と、また走るきっかけ・パワーにさせてもらったよ。続く。(hammer.mule)