わが逃走[163]ソウルは坂の町の巻
── 齋藤 浩 ──

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ソウルは坂の町だった!

この町の全体像はまだつかみきれなていないのだが、いたるところに路地があり、階段がある。そこには普通の人の普通の生活があるのだ。

観光とは観光地を見ることではなく、それを繋ぐ道沿いにある人々の生活と自分の暮らしとの違いに気づくこと。そしてその違いを楽しむことだろう。

外からの目だからこそ見える面白さもあるし、その逆もある。

お互いの目線で“面白い”場所を語り合えば、文化のつながりも世界の広さも体感できるというわけだ。

うーん、楽しいなあ。

という訳で、今回はソウル駅周辺の普通の町を紹介します。


今回いろいろと面倒をみてくださったキムさんの案内で、地下鉄一駅分を歩いただけなのですが、それはそれは充実した時間でした。

韓国が世界に誇る美術館や博物館よりも、路地裏をひたすら歩きたがる隣国からの客人に、彼も初めは戸惑っていましたが、つきあっていただくうちに「へー、こんな近くにこんな不思議な所があったんですネ。初めて来ました」とノリもよくなってきました。

キムさん、ありがとう。楽しかったです。

大四畳半


そこは、ちょっと前の日本のような懐かしさと、最先端のテクノロジーが混在するという、大四畳半的とでもいうべき世界でした。

ちょうど松本零士の描くメガロポリス東京ステーションのような、近景と遠景とのギャップが秀逸。ここからアジアの、大陸のパワーが生まれているのです。

混線しそうな電線


アジアといえば電線。たとえばヨーロッパの人が日本に来ると、赤いポスト、四角い学校、そして電線に異国情緒を感じるのだそうです。

さて、韓国の電線の張りっぷりは、日本のそれと比べるとかなりワイルドでした。このあたりからも大陸のパワー、熱い人柄のようなものを感じるといったら大げさでしょうか。

以前、博多や宮崎でも似たような張りっぷりのものを見た記憶があります。こんなところにも大陸文化伝来の道筋を感じ、興味深いです。

階段と扉


謎物件。蹴上が異常に高く、踏面も異常に狭い階段の先に、小さすぎる扉。このあたりの町並みは日本の下町と似ているといえば似ているのですが、こういう謎な物件に出くわす確率は、俄然韓国の方が高いと思いました。

普通の路地



既視感あるのに、なんか違う。そんなところがこの町の魅力です。日本のようであり、中国のようでもあり、ヨーロッパを感じる瞬間もあります。
路地の向こうから現れる人をイメージしてみてください。

電柱


なぜ道の真ん中に? このおおらかさがタマランのです。
電柱を見にわざわざ外国に行くことはないですが、現地に着くと、こういった何気ないものの方がその国らしさを感じます。

坂の上から


古い瓦屋根の住宅の向こうに高層ビル。思うに、美しさとは『対比と調和』が生み出す物語を意味するのではないか。

脇道とその先



麓へ通じる階段道の両脇にはランダムな間隔でいくつもの路地が。その先にはさらなる枝道があり、まるで尾道や長崎のようです。

迷子を楽しんでいると、小さな広場に出ました。一本の木を中心に、路地が集まり、さらにその脇の階段から次の階層へ向かいます。このへんはトスカーナ辺りの城塞都市的といえなくもない?

路地を進む



路地を進み、階段を下ります。この道幅ゆえ、ゆずりあいの気持ちが大切。

麓から


いま来た道を見上げてみると、けっこうな高低差でした。

さて、今日紹介するのはここまでですが、ソウルにはこういった路地や階段が
いたるところにありました。

ガイドブックには韓国料理とエステと、韓流スターのことしか書かれていませんが、地元の普通の町並をほんの少し散歩してみるのもイイでしょ。
隣国の文化が薬膳のごとくじんわり伝わってきます。

東京・ソウル間は約二時間。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。