映画ザビエル[01]純文学 for Geeks/カンクロー

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◎風立ちぬ

原題(英題):THE WIND RISES
制作年度:2013年
制作国・地域:日本
上映時間:126分
監督:宮崎駿
出演(声の出演):庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊

●だいたいこんな話(作品概要)

ゼロ戦の設計者、堀越二郎をモデルに堀辰雄の小説「風立ちぬ」からインスピレーションを受けて作られた物語(フィクション)。

大正から昭和にかけての日本。関東大震災や世界大戦へむかう閉塞感の漂う時代に、ただ美しい飛行機を作りたいと情熱を注ぐ青年。その青年とヒロインとの出会いと別れ。

宮崎監督お得意のボーイミーツガールが、かつての日本というリアルな舞台で繰り広げられる。今のところ、宮崎駿監督の長編アニメとしては最後の作品。




●わたくし的見解──紛う方なきオタクの物語である

主人公は零戦を作った人をモデルにしていると知った時点で、オホホと思った。飛行機狂の宮崎さん「紅の豚」以来の趣味全開フルスロットルな映画を作ったのね、と。

年を取ると何でもアリだな、成功してると怖いものナシだな、とも。

ユーミンの主題歌に映像のみの劇場予告を見て、私は泣いた。ポルコ・ロッソ以上に男子力溢れる作品だろうと想像していたのに、それだけではない様子。堀辰雄の要素も思いのほか強く反映されているようだった。時代設定は過去だが、非常にそれは現代とリンクして見えた。

私は映画館で予告編を見ている時、十中八九、涙している。近頃は邦画の上映作品が多いので、泣かせるジャンルが特に多いのだと思う。そして予告を見て泣いた作品の本編は、十中八九、観ないことにしている。私の映画鑑賞は、泣くことを目的にしていないからだ。

だから今ひとつ良くない作品への一般的評価も、喫煙についての云々も、どこ吹く風。私は自身の涙腺バロメーターに邪魔されて「風立ちぬ」の鑑賞に少し迷いがあった。結果的にそれは杞憂に終わった。

鳥人間コンテストに毛が生えた程度の飛行機で、ライト兄弟が世界初飛行(有人動力飛行)に成功したのが1903年。たった十数年後に始まる第一次世界大戦で、飛行機は戦闘機として実用化するまでに至る。皮肉なことに戦争なくして、これほどまでの急速な進化を遂げることも無かっただろう。

航空技術者の誰もが、人殺しの道具を作りたくて心血を注ぎ、飛行機を作った訳ではない。けれども時代は彼らにそれを求めたし、求められたからこそ、彼らは優遇された(資金面も含めた)環境の中でそれを成し遂げることが出来た。

主人公の友人、本庄が口にしたように世の中は矛盾に満ちている。それは戦時中でなくとも同じだ。

主人公の堀越二郎は、完全にオタクだ。私がここでオタクと呼んでいるのは(間違ってもモッズ系ではないのに)ズボンの裾丈が微妙に足りない、二次元の美少女にご執心の殿方だけを指しているのではない。深度の深い人、特定の物事への探究心が非常に強い人を呼んでいる。

二郎は、つねに飛行機にご執心で「二十四時間あたまの中で何かがダンスしている人」系。文字通り寝ても覚めても、飛行機の夢を見ている。

美しい飛行機を夢想する彼にも現実の矛盾は容赦なく、無視することは不可能に等しい。純粋培養的に生きてきた人だからこそ、キツかったに違いない。私がこの作品や主人公たちに好感を抱く理由のひとつは、その矛盾について言い訳をしていないところだ。

震災や、戦争が始まる前の不安で貧しい状況下をあまり感じさせない、ハイソでブルジョワな主人公たちの暮らしぶりだが、だからと言って彼らが痛みを持たない訳ではない。

豊かであるがゆえの劣等感を抱きながら(これもまた凄まじい矛盾だ)、お上品なため感情をぶつけたりはしない。それは、たとえば小津映画の一見無機質なようでいて(無口な笠智衆の)内に秘めた何かを感じた時のような、切なさを覚えた。

そのくせ、大好きだ、と驚くほどストレートに、気後れせず愛情表現する様も美しい。

宮崎駿という稀代のオタクが、現代に求められる才能を持ち成功した庵野秀明に、彼と同様にその時代に求められた飛行機オタク二郎を演じさせた、of the オタク, by the オタク, for the オタクな物語だった。

宮崎アニメ、ジブリアニメという枠ではなく、大変良い映画であり誇るべき邦画だと強く感じた。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル < http://www.eigaxavier.com/ >

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。