ショート・ストーリーのKUNI[179]番外編縦書きは悩ましい
── ヤマシタクニコ ──

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あんまり暑いのでつい風邪をひいてしまって二、三日、微熱状態。小説を書きかけたが頭がまわらなくて、どうにもこうにもまとまらない。それで、今回は小説はやめて、ふだんばくぜんと思っていることを書くことにします。

最近、ユニクロのチラシを見てたらレディースもののところに「ウインドウペン」という文字列を発見した。アンクルパンツの柄のひとつとして。

一瞬「?」と思い、その後私の脳内に「♪ヘイフレン ウエイクアッ アイムスロウインロックサチョウウインドウペン〜」と歌が流れた。スコット・マッケンジーの「What's the difference」(「花のサンフランシスコ」のB面)の出だし。「windowpane(窓ガラス)」という単語はこの歌で知ったと思う。

チラシにあった柄は細い線で構成されたシンプルな格子模様で、伝統的というかベーシックなものだが、それがカタカナで普通に「ウインドウペン」と表記されるようになってるとは知らなかった。

じゃあ今まで何と呼んでいたのだろうと思って、一応調べたがよくわからない。「窓枠格子柄」と書いてるサイトがあったが(直訳だ)、その方が初耳っぽい。




で、思うのはカタカナの「ウインドウペン」を目にしたとき、それと英語の「windowpane」がただちに脳内で結びつかないということだ(私だけですか?!)

ウインドウペンと前後するころ、新聞の読書欄を見ていたらおもしろそうな本が紹介されていた。題名が「ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン」。新聞なので縦書きだ。

ややこしいタイトルだな、こんなタイトル、いっぺんに覚えられないなーと思って、しばらく見てたら別にややこしいタイトルでもなんでもないことに気づいた。とりあえず図書館で予約することにしたが、図書館のトップページでタイトルを入力するときもなんだかめんどくさいなーと思った。

そして先日、順番がまわってきてその本を入手。現物の表紙を見たら英語で「Novel 11,Book18」とあり、日本語の「ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン」はごくごく小さな文字で添えられているだけではないか! 

現物を見る限り、むしろわかりやすいタイトルなのだが、日本語で(カタカナで)縦書きにするとなんとややこしく、わかりにくくなることか。それに、どんな小説かもイメージしにくい。

おっちょこちょいな主人公が活躍する、調子のいい物語と勘違いする人がいても不思議はないし、ひげづらの強面の大将の伝記小説かもしれない。だけど、英文字のタイトルを先に見れば、それはないような気がする。なんとなく。

と、ここまで書いて読み返し、なんでこの本のタイトルを「11番目の小説、18番目の本」としなかったのかと思う。そのほうがわかりやすいと思うが、訳者の村上春樹はたぶん、元のタイトルのまま、英語のタイトルにしたかったのだろう。

「ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン」は、まあ読み仮名をつけてみました、みたいな。だけど、新聞ではそっちのほうが縦書きで、大きく表示されているのが問題なのだ。

そんなことを、長年勤めた職場では毎日のように考え、悶々としていた。同じように今日もどこかでだれかが、悶々としていると思う。パンフレットやチラシではなく、「基本縦書きと決まってる定期刊行物」に、どうしても入れなければならない英語、カタカナ語をどうするか。

たとえばどこかに「オーバー・ザ・レインボウ」という名前のおしゃれな店が新しくできた、という記事を書こうとする。

縦書きで、店名はカタカナで書けばいいのだが、店主が「できたら、英語で『Over the Rainbow』と書いてほしいんですよー」と言えば、やはりできるだけ尊重したい。店名だけ英語。

そんな場合、当初は全角文字を縦に並べていた。めちゃ読みにくい。大文字はまだしも、小文字だと鼻くそがぱらぱらと散らばってるみたい。ぱっと見て意味もとりにくい。おしゃれな店名も台なし。

部分的に横書き(ふつうの英語)を90度回転させたかっこうで入れてもいいが、それをすると行変えがちょっとややこしくなる。一回きりならなんとでもなるが、同様のケースが今後もあるということを考えないといけない。

で、ああだこうだと言ってるうち……「やっぱりカタカナ表記は便利だな」「なんとかカタカナで了解してもらおうよ」「だいたいここは日本だし!」という結論になってしまう。だが……。

仮に「Over the Rainbow」の店主にカタカナ書きを了解してもらったとする。すると今度は「うーん、どうしてもだめならいいですよ、はい。ただし『・』はなしにしてくださいね」と言われたりする。

つまり「オーバー・ザ・レインボウ」ではなく「オーバー ザ レインボウ」だと。もちろんそれは可能だ。ただし、その場合、「」は必須になる。「」でくくっておかないと、センテンスの途中に完全に一字分のアキが二つもできてしまう。日本語の文章としてはおかしなことになる。これは縦書きでも横書きでもだけど(おかしいですよね?)。

というふうになんだか問題をどんどん派生させながら、事態は縦書きが不利な方向に進むのである。自治体主催の施設やイベントの名前でも、最初から英語表記っていかがなものかと思うけど、実際あるし。

アポストロフィが入った店名なんて縦書きどうすんのだ? だいたいそういう言葉は、カタカナでどう表記するのかも悩ましかったりする。

いや、安易にカタカナ語を増やさず、きちんと適切な日本語に置き換えたらすむ話なんだけど。

地域のタウン誌(私の勤めていたところではない、別の)で、長年縦書きだったのを去年から全ページ横書きにしたところがある。ああ、いよいよ思い切ったなと思う。

いずれにしても、縦書きの新聞はそのうちなくなるだろう。少なくとも、一部のコーナーを除いて基本横書きになると思う。出版物全般としては縦書きがなくなることはないだろうが。

ところで、書きかけていた小説というのはある国で「貧乏ゆすり禁止法案」が反対運動むなしく衆参両院を通過して……という話だった。

なんでそんな法案ができたかというと、切れ者で通っている野党党首は貧乏ゆすりをしているうちにどんどん頭が冴えてくるという体質で、いつも国会では舌鋒鋭く総理大臣を追及、総理はタジタジになってしまう。

それで、法律で貧乏ゆすりを禁止してしまえと総理大臣が考えたのである──こう書いてみるとほんまにまったくつまらん話である。なんじゃこりゃにもほどがある。でも、私も貧乏ゆすりで頭の回転がよくなる体質なら、こんな話でもちゃんと完成したかもしれん。


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とまあ、そういうことです。あ、いまは風邪はほぼ治りました。みなさんもお気をつけて。