ローマでMANGA[89]番外編私達にできることはなにもない/midori

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,200文字)



90年代に講談社のモーニングが海外の作家に書き下ろしてもらった作品をのせるという前代未聞の企画を遂行していたときに、ローマで「海外支局ローマ支部」を請け負って、そのときのことを当時のファックスをスキャンしつつ、それをもとに書いているシリーズ……のはずなのだけれど、今月は状況が特殊で資料をあれこれ見る状態にないので「番外編」です。

来月92歳の誕生日を迎える舅が我が家にいる。150年ぶりという猛暑がヨーロッパを襲った7月に、避暑を兼ねて郊外の我が家にお出で願ったのだ。

4年前に後妻を亡くしてから、一人暮らしをしていた。耳が少し遠くなったくらいで、ボケはないし、買い物も料理も得意な人で十分に独立した生活をしていた。

ところが、あっという間に瀕死の人になってしまった。高齢者は実に脆いということなのだ。その過程はあとに回す事にして、現状を言うと、Hospiceという制度の臨死ケアを受けている。

< https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%82%B9%E3%83%94%E3%82%B9 >
< http://www.naito-izumi.net/archives/150.html >




●誰にでも訪れる終着点の死に向かう

Hospiceの制度は病気の治療はしない。もう先がない事がはっきりしている人を対象に、死期を早めたり延ばしたりするのではなく、状態を自然に保ちつつ、痛みを和らげて平和にあの世に送っていこうとする医療ケアだ。

私達は在宅ケアを選んだ。医者は週に一度、看護師は毎朝来てくれる。病院に毎日通う疲労から解放されて、家族も少し気が楽になる。

最初の日に医師が来て診察し、状態をはっきりと言ってくれる。病院から運んできた日の木曜日に最初の診察があり、回診日である次の火曜までもたないかもしれないという。

舅の体が今どういう状態にあるのか、普通の言葉を使ってわかりやすく説明してくれる。そして処方した点滴には何が入っていて、それぞれどういう役目をするのかも説明してくれる。三週間入院していた病院の医師とは大違いだ。

私と旦那と、ベローナから飛んできた義理の妹が医者の話を聞いていたが、活発そうな若い女医さんは、旦那が状況を受け入れていないことを素早く見て取った。

旦那の目をしっかりと見つめて、旦那の年齢を聞いて60歳と言う答えを得ると、「今日までお父さんと一緒にいられたというのはとても幸運なことなんですよ」と言った。家族の心理ケアまでしてもらった。

女医さんが処方してくれたのは、痛み止めと利尿剤と肺を広げて呼吸を助ける薬のミックス。確かに点滴が始まってしばらくすると、舅の呼吸が安定し、唸るのをやめて眠る人の呼吸になった。

言葉が無くなって、どこか痛いのかどうして欲しいのかコミュニケーション手段が無くなっていたところに、ガイド兼通訳を得た思いだ。

生まれて少しづつこの世に慣れていくのと逆の過程をたどっていく。立てなくなって寝たきりになる。声があやふやになり、言葉にならない音声とわずかな頭の動きでコミュニケーションをどうにか取る。内臓の機能がだんだん衰えていく。ただひたすら眠っているような状態になる。

一番困る状況は情報がないことだ。なにをしたらいいのかわからない。このガイドのお陰で、死に逝く人がどの辺にいるのかわかる。

そして、私達にできることはなにもないということも。なにをしたらいいのかわからないという状況も、私達を困惑とある種の罪悪感に陥れる。でも、何もできないのだ、とはっきりわかることで、静かに見守ることができる。

もっとも、呼吸が段々苦しそうになるのを聞くのは辛いけれど。舅はこのリンクにある説明に添った状態で症状が進んだ。
< http://www.geocities.jp/yccfh851/newpage22..html >

●死が遠い世界

私が小さいころ、いわゆる昭和30年代は祖父母、両親、子供の三世代で暮らすのが当たり前だった。世代が違う者達が暮らすことで起こる軋轢もあったけれど、自然な時の流れ、繰り返す生と死、世代交代ということを自然に学べたように思う。

世代交代、繰り返す生と死ということは、自分の時が自分だけでは終わらないということを学ぶことだ。つまり、人生は一回だけ、だから自己中心的に自分の楽しみだけを求めればいい、という考え方にはならないということだ。

今は、自分が死ぬ、という考えから遠く生きていく。暴飲暴食、美食、ある人はドラッグで自らの肉体を傷つけていく。

この世にあるときの肉体は天からの借り物。借りたものは大事に使って、社会の役に立てる、というのがよく死ぬための良い生き方なのでは、と思う。

と、このフレーズを書いていたら、明治天皇の「教育勅語」を思い出した。知らない方はぜひ読んでみてください。
< http://chusan.info/kobore8/4132chokugo.htm >


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
< https://www-indies.mangabox.me/episode/18803/ >

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
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