[3994] フラットワールドからの侵略

投稿:  著者:  読了時間:14分(本文:約6,900文字)


《また言うが15〜17インチのCintiqがあったらなあ》

■ユーレカの日々[45]
 フラットワールドからの侵略
 まつむらまきお

■グラフィック薄氷大魔王[449]
 懲りもせず液晶タブレット復活
 吉井 宏





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■ユーレカの日々[45]
フラットワールドからの侵略

まつむらまきお
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20151014140200.html
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先日、大学の近くをクルマで走っていて、変なことに気がついた。赤、青、黄の自動車用信号機。その点灯がやたらクッキリとしている。

停車中によく見てみると、信号灯の表面が真っ平らで、その上にあるはずの「ひさし」がない。以前、ニュースで見たことがある、寒冷地用の信号機だ。

●寒冷地仕様信号機

LED製の信号機は発熱量が低く、ひさしに積もった雪が溶けない。そこでひさしのないタイプが登場した。LEDは電灯より輝度が高いため、ひさしがなくても視認性は確保できるという(これはこれで、吹雪が付着するなどまだ問題点はあるそうだが)。

大学のあたりは年に一〜二度、雪が積もる。寒冷地とまではいかないが、自治体区分かなにかの都合で、この機種が取り付けられたのだろうか。

電灯式の信号機だと、点灯していても中心部が明るく、周辺は徐々に暗くなっていく。LEDは小さな光源を複数、配列してあるのだが、よく見ないと個々の光源は見えず、面全体が一様に光って見える。

従来の電灯型信号機は、かなりごつい機械で重量もある。取り付けも支柱だけでは保たず、上からワイヤーで補強してあったりする。電球取り替えの為に機械を開けるフックなどもある。

つまり、凸凹していてゴチャゴチャしている。これに対し新型信号機はやたらスッキリしている。点灯面はフラット、その周辺にはベゼルもなく、本体も薄い。重量が軽いからだろう、支柱への取り付けもシンプル。ディテールがほとんどない。

要するに、まったく存在感、質量感のない色の円がぽっかりと空中に浮かんでいる感じなのだ。なんだろう、この奇妙な感じと、既視感は。

●フラットデザイン

なにかに似ている、とまず気がついたのは、MacOSのウィンドウのタイトルバー部分。信号機と同じく3色の円が並んでいる。以前のMacOSでは、このボタンは立体的な球としてデザインされ、パネルに埋め込まれているように見えた。

ところが最近のMacはフラットデザインとやらで、ボタン類の見た目がペッタンコになっている。存在感がまったくない。あの感じだ。

個人的にはフラットデザインというのは、インターフェイスとして優れているとは思えない。たしかに見た目はスッキリしているが、スッキリすればいいというものではないだろう。

たとえばウィンドウシステムの場合、どこからどこまでがコンテンツ(本文)で、どこからどこまでが操作系なのかが曖昧になってしまう。

もし、現実のノートに文字を書く時、ペンや消しゴムがフラットな記号であったら、どうだろう。シールのようにペッタンコで存在感がなければ、すぐに見つけられないだろう。

それでもフラットデザインは大流行らしく、Googleなんかもフラットデザインが進んでいて、先日はロゴまでフラットになってしまった。

寒冷地仕様の信号機は、モノとしての存在感が皆無で、このフラットデザインとよく似ている。ついにその侵攻が現実世界にまで侵食してきたかのようだ。

●グラフィカルな都市

信号という機能からすれば、周りの風景から浮かび上がっていることは機能的だが、景観という意味では違和感があるように思える。たとえば風景画で、それをリアルに描こうとしても平面的にしかならない。記号にしかならない。

看板やポスターはどうだろう? 日本の風景は、欧米の都市と比べるとものすごくグラフィカルだ。どの通りでも、建物を覆い尽くす看板や貼り紙。そしてそのほとんどが文字で埋め尽くされている。文字というグラフィックが都市を覆い尽くしている。

それでも、看板には質感がある。表面には反射がある。電灯には明るさにムラがある。それなりに存在感がある。これに対し、寒冷地仕様の信号はさらにもう一段、存在感が薄らいで、記号だけがクッキリと浮遊している。

●虚構と現実の境界

実在の中に浮かび上がる、存在感のない記号。この感じ、ドラマの中で見たことがある。ドラマ「シャーロック」では、主人公が観察したり推理している主観ショットで、文字がグラフィカルに映像に乗っかるという演出がなされている。ゲーム画面でよくある、人物やモノのパラメータがその横に表示されるのと良く似ている。

最近見た「シェフ」という映画では、twitterについてしゃべっている場面の背景にtwitterの画面が浮かび上がり、ツイートする場面ではピヨピヨとアニメーションの鳥が、実景の中を飛んでいく。

これらは映像としてはリアルではないが、映画の演出としては実感がある。なぜなら私たちはいつもスマホを片手に、現実世界とインターネットの情報世界を脳内で合成しているからだ。テレビを見ながら感想をツイートし、BLOGを見ながらお店を探し、食べながらインスタグラムに写真をアップする。

スマホのグラフィックと現実体験は混ざり合い、まさにゲームやシャーロックなどの映画の場面のように記憶されている。

だからあの信号機はとても奇妙に見えたのだ。現実と虚構の境目が崩れてしまった感じ。自分が居るのが、現実の世界なのか、ディスプレイの中の虚構の世界なのか、はたまた、脳内で作られたイメージなのか。境界がとてもあやふやな、不安な感じがしたのだ。

映像の中では、現実にはないサインを合成することで、実感のある演出が成立しているが、この信号機のような現実味の薄いシンボルが実世界で増えてくると、シャーロックやシェフのような演出も成り立たなくなるだろう。

「ピクセル」という映画では、パックマンはじめ、80年代8ビットゲームのキャラクターたちに世界が侵略される話だ。

ひょっとしたら、フラットなシンボルの世界侵略はもうはじまっているのかもしれない。

【まつむら まきお/まんが家、イラストレーター・成安造形大学准教授】
twitter:http://www.twitter.com/makio_matsumura
http://www.makion.net/  mailto:makio@makion.net

森 巧尚さんの本「Swiftではじめる iPhoneアプリ開発の教科書」のカバーイラストを描きました。毎コミ改めマイナビ改めマイナビ出版さんから、10月末発売。
http://www.amazon.co.jp/dp/4839957037/


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■グラフィック薄氷大魔王[449]
懲りもせず液晶タブレット復活

吉井 宏
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20151014140100.html
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もうほとんど今まで書いてきたことの繰り返しになります、すいません。今回は、僕にとっての液晶タブレット総括みたいなものです。

今年3月までに液晶タブレットを全廃したけど、液タブ使いたい発作に時々襲われる。15年も使ってきた上で「やはり廃止しよう」って決めたはずなのに。

近々ラフを大量に描く仕事があって液タブを激しく使いたくなってきた。ペンシルに期待のiPad Proは11月発売で間に合わない。

苦渋の決断w ……WACOM Cintiq 13HDをついに購入。

●13HDを選択した理由

今までの液タブ経験のすべてを総動員して決定。

・タッチの有無

タッチは使わないから「無し」一択。マルチタッチ操作によるキャンバスのスクロールや回転など、Cintiq Companion Hybridやintuosなどで慣れようと相当試みたんだけど、どう考えても左手によるキーボードショートカットのほうが便利。同様に、本体のファンクションキーもまったく使わない。

・画面サイズ

Cintiq 27インチでは広すぎる。そもそも22インチも広すぎて手放したんだから。広いほうが手を大きく動かせるから描きやすいのは確かだけど、その利点をも打ち消してしまうふたつの理由がある。

まず、液タブが大きくなるほどメニューやパネルまでの距離が遠くなり、手を動かすのがつらくなる。板タブやマウスなら数cm動かせばできる操作が、27インチでは中央から端まで30cm以上あったりする。

もうひとつは、近視老眼メガネ問題w 液タブを使うときの10〜30cmは、眼鏡を使っていてもつらい距離。眼鏡をはずせば20cm以上はボケボケ。眼鏡なしで顔を近づけてると、右上のパネルなどを見るだけでも首を曲げたり頭を移動しなきゃならない。13インチなら眼鏡なしで全体を見れる距離に収まる。

とはいえ、小さすぎる。15〜17インチのCintiqがあったらなあ……って散々言ってるんだけど、なかなか実現しないなあ。

・WindowsやAndroid入りのCintiqは?

先日詳しく書いた、「管理するOSが増えるのは勘弁」「バッテリーが入ってることによる問題」に加え、「3台目のマシンでPhotoshopを使うときの認証解除やログインがいちいち面倒」なこと。

●液タブ使用再開してみた印象

わはは。「液タブ全廃止しよう」って思ったときそのままの印象だったw 時間が経てば変わるかなと思ったけど、まったく同じだった。

まず、ツルツル画面は僕的に完全にダメ。厚手のビニールを貼ったりエラストマー芯を使えばそこそこイケるけど、ヌメッとした書き味が発作的にイヤになったりする。板タブでもツルツルがまったく大丈夫な人も多いらしくて、本当にうらやましい。そういう人こそ液タブ使ってバリバリ描いてほしい。

首が痛くなる件(液タブは手元を見るためスマホネック状態になりやすい)は、台を高くして画面を目の高さにセッティングするなど工夫したので、それほど深刻な問題にはなってないです。それでも一日中液タブを使ってると肩こりがひどい。

調子いいときはドローイングがどんどん捗ることもあるけど、ラフの清書などしっかり描こうとすると摩擦調整の不自由さが気になり始め、「これだったら板タブ使うほうがマシ!」ってなっちゃう。ラフの清書するために再購入したのにw

あと、「液タブを使ってると板タブで描けなくなる」も同じだった。液タブがなかった半年で板タブで描くのに慣れたはずなのに、液タブを使い始めたとたんに板タブで描ける気がしなくなる。

2DのPainter時代は少なくとも三倍速で仕事が進んだし、描きやすいときは奇跡のように描きやすいと思うこともある液タブなのに、困ったもんだ。

先日、「液タブ使いたい発作を抑えるためだけに買うのもアリかな?」って書いたけど、マジにそんな感じで普段は片付けておいてもいいのかもしれない……。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP http://www.yoshii.com
Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/

やった! El CapitanでのPhotoshop無段階ズームの表示の問題がとりあえず直った! Adobeがこの問題が解決されるまでの暫定解決法としてプラグインを公開してくれた。「画像解像度」実行時の問題、ってのもあったのね。気づかなかった。
https://helpx.adobe.com/jp/photoshop/kb/cq10051645.html

・パリの老舗百貨店Printemps 150周年記念マスコット「ROSEちゃん」
http://departmentstoreparis.printemps.com/news/w/150ans-41500

・rinkakの3Dプリント作品ショップ
https://www.rinkak.com/jp/shop/hiroshiyoshii

・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii

・ハイウェイ島の大冒険
http://kids.e-nexco.co.jp

・App Store「REAL STEELPAN」
https://itunes.apple.com/jp/app/real-steelpan/id398902899?mt=8


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編集後記(10/13)

●ユネスコの世界記憶遺産に、中国が申請した「南京大虐殺の文書」が登録されたことに対して、政府は「極めて遺憾だ」と談話を出した。またそれかよ。「遺憾」とは「残念な気持ちが残る」という意味で、ほとんど効果のない、何も言っていないに等しい、カビの生えた、超弩級の、愚かな政治用語である。中国の謀略により日本が国際的に深刻なダメージを受けたのに、最初に「残念だ」かよ。情けないぞ、菅官房長官。この人、よく使うんだな、この低能なフレーズを、ボソボソと。虚構の大虐殺を持ち出した中国の不当さ、汚ならしさを、まず真っ向から正々堂々と、語気激しく追及するのが筋であろう。

この件について新聞は社説で何といっているか。読売は「文化財保護の制度を『反日宣伝』に政治利用し、独善的な歴史認識を国際社会に定着させようとする中国の姿勢は容認できない」「日本は早急に、対ユネスコ戦略を練り直さねばならない」とまともだ。一方、朝日は「自民党内からは、南京事件がなかったかのような発言が最近も出た。国際社会で広く認知されている史実を拒み、冷静さを欠く反応を示すようでは、『日本は過去を反省していない』と見られかねない」と書く。南京大虐殺が史実だという。その元を辿れば、本多勝一が朝日に連載した、中国のプロパガンダてんこ盛りの「中国の旅」にある。

「政治が意図をからめて利用すれば、歴史研究は妨げられる。今回の登録を機に、論争のある歴史と政治を切り離す姿勢を日中で確認し合ってはどうか」とエラそうに書くが、朝日は中国に向かってそう言えるか。鼻で笑われるだろう。「よりよき未来をめざすには、歴史を忘れてはならない。それぞれの国の市民が歴史に謙虚な態度で大いに研究し、議論を交わし、指針を見いだすことが重要なのである」と空虚なことを書くが、いまそんなノンキなこと言ってる場合ではない。問題はいまそこにある世界記憶遺産だ。ところで、「それぞれの国の市民」ってなんだろう。国の国民じゃなくて国の市民、ナニソレ?

ホロコーストとしての「南京大虐殺」は、中国のプロパガンダにより作られた虚構である。一般市民30万人を大虐殺? 多くの残留欧米人の監視の中で、空爆によらず地上でどう殺戮したのか? 死体はどう処理した? 陥落の際に市民の大虐殺があったら、現地にいた国民党、欧米人から世界に向けた告発が即刻あるはずだが、まったくそれがなかった。「南京大虐殺」は戦後の中国人の偉大な発明のひとつだ。それにとびついたのが朝日で、虚構の韓国人慰安婦にとびついたのも朝日である。まったくこの新聞はわかりやすい。○か×かよく分からないときは朝日を開き、美しい文体の社説を拝読するがいい。 (柴田)


●El Capitan使いたい〜。Split Viewが便利そう。ただしAdobe関係の不具合が出たら困るので、インストールはしばらく見送り。TotalFinderはルートの関係で、使えるようにするのに手間がかかるらしく開発中止らしい。El Capitanの時のために、PathFinder 6を入れてみたが慣れるまで時間がかかりそう。TotalFinderはシンプルで好きだったわ。

PathFinder 6は、他目当てで買ったバンドルセットの中に入っていて、シリアル番号を持っていた。知らなかった。7にバージョンアップするかは考え中。7の方が便利なんだろうなぁ。

Ingress続き。他人の活動時間や傾向を知ると、空白の時間がわかってくる。敵を出し抜くには夜中や明け方、雨、暑い日、寒い日など、人が動きたくない時、邪魔の入らない時が適している。わかったからといって動けるものではないけれど。

お盆の超暑い日の早朝に、汗をだらだらかきながら歩く。30分で帰宅するつもりが、ついつい1時間半や2時間に。長時間歩いているつもりがないので、水分補給を忘れがち。

涼しい格好とはいえ、普段着で汗だく。普通なら休憩のため涼しい場所に入るはずなのに、入ってしまったら活動できないからガンガン歩くから汗がひかない。そして住宅地にひっそりたたずむ作家さんの生誕地ポータルに寄る。続く。 (hammer.mule)

http://www.cocoatech.com/pathfinder/
PathFinder