ローマでMANGA[90]パルンボの「CUT」ウェブコミックで公開/midori

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90年代に講談社のモーニングが、海外の作家に書き下ろしてもらった作品を載せるという前代未聞の企画を遂行していたときに、ローマで「海外支局ローマ支部」を請け負って、そのときのことを当時のファックスをスキャンしつつ、それをもとに書いているシリーズです……。

前回は舅の死を看取ったばかりで、そのことを番外編として書かせてもらった。前々回の7月のテキストの続きが今回のテキストということになる。





●忍耐のパルンボ

現在の主人公は南イタリア、マテーラ(サッシと呼ばれる洞窟住居がユネスコ世界遺産に登録されている。宮崎駿監督が「天空の城ラピュタ」を思いついたと言われ、メル・ギブソン監督映画「パッション」の舞台となった)出身、ボローニャ在住のジュセッペ・パルンボ。

すでにここで扱ったイゴルト、ヨーリのお友達で仕事仲間でもあり、先の二人に続いてNIPPONで作品掲載を夢見て我慢強く編集者とやりとりを重ねた。

パルンボは忍耐の人だ。最初のパルンボからのコンタクトは1965年6月19日。これはその前の5月に、イゴルトとヨーリ担当編集者である堤さんがボローニャまで来て打ち合わせをした時に、パルンボも提案のネームを見せた。その続きだ。

この打ち合わせの時も、イゴルト、ヨーリと掲載決定作家との打ち合わせを当然先にしたので、3時間以上じっとおとなしく待っていたのだった。

この季節、毎年講談社では異動の時期であり、長いことモーニング編集部に務めていた堤さんはそろそろ自分の番だろうと、海外作家に対する反応が鈍くなっていた。

それと、私の見方だけれどパルンボが提案したCUTに対して、あまり興味が沸
かなかったのではないかと思う。実際、異動騒ぎが収まって、堤さんはモーニングに残り、国際版権室から英語堪能の竹中さんが編集部に移動してくると、パルンボの担当を竹中さんに譲ったのだから。

押したければ編集者は作家を離さない。まだ掲載が決まっていない、日本市場にとっての新人の作家を「僕が押します!」と言っても、編集部にとって何の不都合もないのだから。

編集部からの返事は三か月経った同年10月3日。二番目の担当編集となった竹中さんの通信だった。その次の通信は一ヶ月半経ったパルンボからの11月18日付け。

一番目の担当編集者、堤さんとのミーティングで思考をそのように調整し、三か月後に担当が変わって、思考も変わる。別の仕事をしながら作品のお膳立てを考えるのは容易ではないと思う。

その次は、なんと翌年1996年9月の通信。私から竹中さんに「担当を変える云々はどうなりましたか?」と質問している。いくらなんでも10か月も何もやりとりがなかったとは考えにくい。

竹中さんは一度イタリアに来ているから、ボローニャで打ち合わせをしたはずだ。それにしても間隔が長すぎる。竹中さんもあまりCUTとパルンボがピンとこなかったのだろう。

そして、翌月、1996年10月24日の通信で三番目の担当編集者、新さんが登場する。パルンボがモーニングの企画に顔を出してから、一年四か月後のことだ。

例えば新人が作品を持ち込んで、サジェスチョンを受けて、また次の作品を持ってきて……とやって、一年で連載が決まったら早いほうだと思うけれど、パルンボの場合、放置プレイ期間が長かった。それでも諦めずに、何度でもやり直し、それもなるべく担当編集の意見に沿おうと頑張っていた。

その後、やっと新さんという、「パルンボさんのユーモア感覚が好きで、いつかぜひともご一緒に仕事をしたいと思ってました」という担当編集に巡り会えたのだ。

新さんは、パルンボが今まで二人の編集者に提出した9話に関して、一つづつ「スラップスティックコメディ」という見地からの修正案を出してきた。

パルンボも気に入って張り切ってネームの作り直しにかかったものの、腰を痛めたり、悪性インフルエンザにかかったり、やっといいコンビが誕生したのになんとも運の悪いことが重なり、ネームの提出が更に一か月後になった。

新さんとのコンビでの第一話の完成原稿が届いたという通信が入るのは、翌年1997年の6月。ボローニャでの初の打ち合わせから二年が経過した後だった。

初顔見せしてから二年、という時間の長さそのものより、その間どうなるかわからない状態でも諦めない、というパルンボの態度に痛く感心したのだった。

●デジタル世界に先駆けた新しいMANGAの見せ方

パルンボの三人目の担当編集者、新さんは編集部で企画を進めていた MORNING ON LINEに関わっていたウェブコミックの先駆けで、モーニング誌に連載されていた作品の一部を試験的に掲載していた。デジタルであることを意識して、紙媒体とは違う見せ方を模索した面白い展開を採用していた。

デジタルなら動きや音を入れることができる。紙では絶対に無理なことだ。かといってアニメにしてしまうわけではない。

紙に描かれたコマ割りの原稿を分解し、画面上に一コマづつ、場合によっては二コマ、三コマ出す。

紙のマンガ本の良さは、読む人が自分の読みたいスピードに合わせてページがめくれるところ、という新さんの見解をいれて、一話ごとに全ページダウンロードしてからページの移動ができるようにしていた。

当時のインターネットは電話回線を使っていて、画像のダウンロードには時間がかかった。わずかにあった電子書籍、電子雑誌は1ページ毎に読み込んでいたので1ページ読み終わると、次のページのダウンロードを待たなければならなかったのだ。

たしか、Shockwaveというマルチメディアのデータを再生するプラグインを使っていたように記憶している。すべてをダウンロードした後なら「自分の読みたい速度」でクリックしていけば良い。

この企画でさらに関心したのは、作品ごとによって扱いを変えたことだ。田中政志氏の「ゴン」の場合、動画も併用した。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%B3_(%E6%BC%AB%E7%94%BB)

例えば、内容に合わせたとぼけた感じのBGMとともに、何かを見つけたゴンが草原を転がるシーンでは、ゴンの丸まった体の絵がクリックで次のページに行く前に、転がってコマから出て行く。

パルンボのCUT、「Cut vs Taxi」では、CUTが手をあげてタクシーを呼ぶコマが画面が出ると「TAXI!」と一瞬声が聴こえる。

CUTがドアに掴まったまま暴走するタクシーが道路工事人をかすめ、タバコを吸おうとしていた工事人がライターをマンホールに落として、ガス管に火がつき爆発が起きて、三つのマンホールの蓋が爆風で飛ぶシーンでは、3つのコマがクリックを待たずに次々と現れては消える。

「ボン!」「ボン!」「ボン!」と黒い画面の中、枠取りしたコマが三回右から左に移動しながら現れては消えていく、という演出を使った。CUTではゴンのような動画は使わないで、コマの出現速度の変化、最小限度の声、BGMを使用した。

他にも、一コマに中に二つ吹き出しがある場合、読みの速度を想定しつつ、一つ目のフキダシが現れて消えつつ、二つ目の吹き出しが現れるとか、鍵になる重要なセリフだったら、一瞬大きくなって色が変わるとか、感性に合った見せ方の工夫がされていた。

新さんの意をうけたグラフィックスタジオの一人がやっていたそうで、マンガ原稿デジタルアレンジという仕事ができてもいいくらい、面白い演出だった。

インターネットでMANGAを読むという行為がまだまだ一般的でなく、ネットでMANGAを読む人が増える前に、世間のデバイスはスマホに移行してしまって、この面白いやり方は進化せずにしぼんでしまった。表現方法として私は気に入っている。

幼稚園の頃、クリスマスパーティで園長先生がおおきな「立体紙芝居」をやってくれた。一枚の絵に出てくる登場人物が別になっていて、切り抜いた人物の絵を園長先生が手で動かして、切り目の入ったドアの中にいれたりするのだった。そのやり方がとても気に入って、自分でも真似して作ってみたりした。その面白さに似たものを感じたのだろう。

さて、こうしてパルンボはネット上ではあるものの、やっとNIPPONの出版社と仕事という経験を手に入れたのだった。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

ちょっと自分の中に変化が出てきた今日このごろ。ずっとずっと、誰かの言うことを聞かねばならない、いい子でいなければ嫌われてしまう、叱られてしまう、という呪縛の中にいた。その魔法からようやく解放されつつある気分の今日このごろ。

還暦をすぎて、生きるっていうことの意味がわかってきたような気がするし、この夏に看取った舅の死も大きく影響している。いつかは死ぬのだという実感だと思う。

人に悪を及ぼさず、社会人として人様に迷惑をかけない範囲であるならば、何を怖がる必要があろう?

例えば、やることがあって夕飯の後のお皿がシンクの中。今までもそういうことが何度かあり、そのたびに罪悪感に苛まれつつ、汚れたお皿の姿が頭の片隅で重さを増しつつ、他のすべきことをしていた。良い主婦の姿ではないから。

優先順位の結果(気分的なものでもある)夕飯の食器を放っておいて誰に迷惑をかけるわけではない。ビクビクしてる必要ないじゃないの。と、まぁ、事象としてはこういう小さなことなのだけれど、毎日の生活の中でいかにこうした小さなことで、自分を苦しめたり苛めたりしてきたことか。それはもうやめ。

MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/18803/

midoriyamane
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