わが逃走[169]有名観光地のエリア外を散歩する。の巻/齋藤 浩

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001.jpg金沢はすごい人である。新幹線は満席、平日だというのに。

駅について改札を抜け、コンコースを歩こうにも人だらけでうまく歩けない。いくつもの“熟年びっくりバスツアー”参加者たちが輪になっておしゃべりしているのだ。

回転寿司も行列。回転しない寿司も行列。ホテルに着きフロントへ向かうも、立ち話をする“熟年びっくりバスツアー”参加者たちをかき分けてたどり着く。

そして翌日の朝食もまさかの行列だ。早起きな“熟年びっくりバスツアー”参加者たちが6時前から並ぶのだそうだ。今後は朝食付宿泊プランは無意味だな。

この一年、北陸に拠点を置く会社の楽しい仕事の関係で、金沢に五回ほど通っている。それなりに観光客は多い印象だったが、今回は新幹線開通後初の紅葉シーズンということなのか、とにかく異常な混み具合だ。

金沢が賑わうのは良いことだが、朝食にありつけないというのは初めての事態である。宿泊予約も難しくなっているらしい。これから金沢に行こうと思ってる人は、早めの予約を。

さて金沢の仕事は好評のうちに幕を閉じ、その夜は旨い北陸の幸でヘベレケになった。

翌日、新幹線の時間まで余裕があったので、例によってカメラ片手に散歩することにした。




金沢の『観光客来て来て地区』は、良かれと思って古いものまで新しい素材で作り直してピッカピカにしているのでワビサビがない。

しかし“熟年びっくりバスツアー”の客はそういう場所を好む。私の親を見ていて思うのだが、とくに戦争を体験している世代は灯火管制の思い出があるせいなのか、白熱灯よりも、ビカビカに明るく真っ白な蛍光灯を好む。

同様の美意識が町並みにも適用されているのかもしれない。そして、そういう客はいわゆる観光地然としたところよりも外へは行かない傾向がある。団子屋だの土産物店がなさそうな地区には足を踏み入れないのだ。

自分の日常と旅先における普通の人の日常とを比較して面白がることを「観光」と定義する私にとっては、これはとても好都合なのである。

そんな訳で、今回はひがし茶屋街からちょっとだけ外れた辺りの寺や神社、ではなく、それらを結ぶ生活道路から見た気になる物件をご紹介します。

観光バス乗り場から300メートルも離れると、静かな町並みとなる。人影があっても地元の人をぽつぽつと見かける程度である。

以下は観音院、慈雲寺、松尾神社、宗龍寺の裏を通って、龍国寺、真成寺あたりまでのんびりと三時間ほど歩いた記録。

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観音坂:いわゆる観音院への階段なのだが、それなりに整備はされてるけど、ワビサビは残っている方だと思う。

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観音坂に隣接する住宅群:一階にも二階にもアプローチがあるなんてカッコ良すぎ。

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東山1丁目の「いけず石」:これはとくにトゲトゲでいけず度高し。黄色のペイントが無粋だったのでモノクロでお見せします。

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慈雲寺の前あたり:この辺から山に向かって歩くコースが絶妙。斜面に建つ家々やお寺(とそれらを繋ぐ道)がどれも個性的でイイ。

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慈雲寺からちょっと行ったところ:すばらしい路地と階段。ここが駐車場になる前に訪れたかった。

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同じ階段を見上げる:手作り階段の微妙なカーブが楽しい。既存建材では不可能な風情。右側にはつい数年前まで木造家屋が建っていたのだろう。

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対岸の坂道:小さな橋を越えて階段を登る。以前はここから海が見えたかもしれない。

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海が見えた:宗龍寺裏の急坂を上ると、美しい坂道だらけの美空間に出た。地元の人にとっては普通の農地、住宅地なのだろうが、暮らしの活気を感じられる風景に思えた。

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水路階段:水路の上が階段道になっている。金属製のフタは新しく、以前はどのような素材、形状だったのかが気になるところ。

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龍国寺入口:と書いてあるので入ってみると、ちゃんと龍国寺に着きました。脇のブロックでつくられた祠がやさしげで好きです。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。