わが逃走[172]コーヒーが旨いの巻/齋藤 浩

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こんなタイトルで書き始めたわけだが、私はとくにこだわりをもってコーヒーを飲んでいる訳ではない。香りがいいか悪いか。味は苦いか酸っぱいか。その結果旨いかマズいか。その程度しか考えていない。

喫茶店で飲む場合はその店のポリシーに従う。そんなに好きな味でなくてもロケーションが良ければ何度も通う。

中には、コーヒーカップに入った泥水を出すような店もあるのだが、そんな店でも居心地が良ければ文句は言わない。

たまに素晴らしく旨い店に巡り会うことがある。たとえば我が家から徒歩1分のところにある喫茶店P(仮称)である。

オヤジが脱サラして始めた店で、開店してからもうすぐ10年くらいになるだろうか。夜中にコーヒーを焙煎するイイ香りが漂っていたので、翌日行ってみたところ、絶妙な味わいで感動したものだ。





何度か通ううちに私の好みをマスターが覚えてくれて、「今回のローストだったらこっちの方が好きだと思うよ」などといろんな味を試飲させてもらった。

なるほどー、旨いコーヒーってこういうことなのね!! 何事も教育って大切である。

以来、豆もこの店で買っている。ただしちょっと高いので3回に1回くらい。

ちなみに安い豆2に対してこの旨い豆1の割合で抽出すると、安いコーヒーに旨いコーヒーの香りが移り、まるでキュウリに蜂蜜を塗ってメロン味になるような、リッチな気分が味わえることを発見したのだ。

さて、我が家における電化製品の故障率はすこぶる低い。ブラウン管のテレビは20年以上もったし、掃除機も15年間故障知らずだ。世の中から消滅したとされているレーザーディスクさえも、現役で稼働中である。

ところが、コーヒーメーカーだけは10年間で5回も買い替えている。別に乱暴に扱っている訳ではないのだが、よく壊れる。

最初のは確か東芝製だった。これは3年くらいもった。電動コーヒーミル付き、カプチーノも作れる立派なヤツだ。

結局カプチーノなんざ一度も作らなかったが、使いやすくけっこう気に入ってた。電動コーヒーミルの性能も良かったが、かなりの大音量を発した。

いちど午前8時頃にこれを使ったところ、朝の遅いヒトである極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)から、激しく抗議され、以来屋外に出て豆を挽いていたのだが、なにせコーヒーメーカーとコーヒーミルは分離できないため、デカイものを抱えて異音を響かす私の姿は、ご近所の皆様の目には異様に映ったようである。

うすうすそれに気づいたのか、ある日極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)から手動コーヒーミルが支給され、今後これを使うよう指示された。筒状のステンレス製で、歯がセラミックのモノである。

これがかなりイイ。粉の粗さの調節が容易で、挽き方ひとつで風味も変わる。へー、こんなに違うものか! と喜んでいたら、コーヒーメーカーが壊れた。

電源が入らず、たまに入っても抽出できない。悩んだ結果これを廃棄、新しいものに買い替えることとなった。

で、デロンギのカッコイイやつにした。いかにも本格派っぽく見えるシルバー×赤のモデル。たしか2万円くらいしたかな。

独自のナントカドリップ製法が可能で、その秘訣はお湯を均一に注ぐナントカノズル! とかそんなコピーが書いてあったような気がする。

さすがはイタリアンプロダクト! 中国製だけど。ところがこれは1年と1週間で壊れた。1週間前なら保証期間だったのに! というクヤシサから、即廃棄。今思えばもう少し冷静になってるべきだったと思う。

それを馴染みの喫茶店Pのマスターに話したところ、奨められたのがナントカいう聞いた事もないメーカーのものだ。

マスター自ら何十種類のコーヒーメーカーを試し、費用対効果も含めてこれがイチバン! ということだった。

早速購入。マスターが言うほどの効果はわからなかったが、不満はなかった。強いて言えばデカイということくらいか。

ところがこれは半年で壊れた。修理を待つ間コーヒーが飲めないのが嫌だったのでさらに同じものをもう1台買うも、こちらも半年で動かなくなった。いずれも電源が入らなくなるトラブルだ。

もう、呪われてるとしか思えない。

変にリサーチするのはやめにして、もう安いヤツでいいよと思い、3000円以下のシンプルなヤツをAmazonで買った。象印のやつ。

あまり期待していなかったのだが、これがすごく良かった。結局5年以上使っているが、一切故障ナシ。手入れもしやすくすこぶる快調。

やったぜ! コーヒーメーカーでついにアタリを引いたぞ!!

その後しばらくシアワセな日々が続いたのだが、ある日、豆を挽こうと思ったところ、なぜかミルのフタが外れていたのだ。

定位置に本体とハンドルはあるのに、フタだけがないのだ。周りを見てもどこにもない。テーブルの下も、棚の下も探したが見つからない。

フタなど飾りだ、構うこっちゃねえ! と思いガリガリとハンドルをまわしてみたところ、豆が飛び出てしまい全く役に立たない。困った。

月日はめぐり、フタを探して1年が経った。しかし一向に見つからない。

その間、豆は店で挽いてもらうようになったのだが、こういう状況は無精者をより無精にする。豆を挽くってけっこう重労働だったのだ。最初から粉だと実にラクチン。

挽きたてこそ最も旨いと思っていたが、一概には言えないということもわかってきた。とくにローストしてからあまり時間の経ってないものなどは、粉を冷凍しておいたほうが風味が落ちないこともあるようだ。

とはいえ、選択肢が粉だけというのもねえ。

先日、蓋が落ちてそうなところをさらに念入りに探したが、やはり発見には至らなかった。

こうなったら諦めて自作しようと思い立ち、直径を計測すべく本体を逆さにしたところ、なんとメーカーの名前と電話番号が彫られているではないか!

勝手にノーブランド品だと思い込んで10年くらい使っていたぜ。早速フタだけ売ってくださいと問い合わせると、「当社は部品の小売はしておりません」

しょぼーん。しかし、「ご愛用いただいているようなので…」と、嬉しいことに特別に送ってもらえることになった。ありがとう、メーカーの人!!

ちなみになぜパーツとして供給できないかというと、本体との接合部がカブセ式なので個体差が出てしまい、ぴったり閉まらないおそれがあるからとのこと。

たしかに届いたフタは若干ユルかったため、本体フチにセロテープを一周巻いてスペーサーとしたところ、ぴったりと収まった。

ここでようやく真っ当なコーヒーミルと、コーヒーメーカーのある生活が戻ったわけだ。

ガリガリと豆を挽くのはめんどうだが、これからコーヒーを飲むぜ、という気持ちになって気分がイイ。こころなしか仕事もはかどるような気がする。

あくまでも気がするだけだが。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。