ところのほんとのところ[132]今日から写真集「Einstein Romance」のための写真展
── 所 幸則 Tokoro Yukinori ──

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12月19日(土)まで開催された植田正治写真展「幻影」では、合成、多重露光といった技法を駆使し、シユールレアリズムに影響を受けた作品が展示されていた。

実はこの時代の写真家って好奇心が旺盛で、たくさんそういった作品を生み出している。植田さんだけでなく、マグリットに限って言っても、影響を受けた作家がどれほどいたのか。


海外ではマン・レイはシュールレアリズムの作家としてあまりにも有名だろう。写真による作品が最も有名と言っていい。合成がどうとか、撮りっぱなしがどうとかなどと言う人がいるが、メーカーか馬鹿に洗脳されてるのか?

昔から撮りっぱなしの写真家なんかいない。素養のない人は写真家が暗室で何やっていたかを知らないようだ。

四十代より下のアート好きと称するギャラリーをやってるような人は、写真がどういう歴史を歩んできたかもろくに知らないようだ。暗室に入っていたフィルム世代こそ、色々な挑戦をしていたのだ。

特に白黒なんかでは、たとえば黒い帽子を宙に浮かしたりする手法は、わざわざ言う必要もないけれど、セットでなければ合成なのだ。どっちも意図してしているという意味では大差ない。評価も変わるわけでもない。

目のない人は先入観だけで判断する。まるで宗教のように。

東京よりパリ、パリよりニューヨーク。都会に行けば行くほど、もはやメディア(フィルムだのセンサーだの)に対するこだわりはない。どうしても印画紙の匂いがしないとだめだと、意地になってる人は大都会にもいるけれど、嗜好としてはもちろん構わない。

しかし、そういう人はただのマニアと言っても過言ではないと思う。そういう人がやっているギャラリーは、昔の切手屋さんのような歴史を歩むだろうね。

[ところ]だって人生のほとんどはアナログ暗室人間として生きてきたし、その頃にしか撮れなかった写真作品は、記録としての意味もあるのは当然であり、貴重な文化遺産でもある。

しかし、写真を体験したことのない人は、メディアにこだわり過ぎるようだ。そうか、脳が硬直しかかっているか、ろくに勉強もしていなんだろう。

そもそも写真の大もとの構造を考えてみると、ピンホールという現象があってのことであり、それは人がいようがいまいが存在したのだ。フィルム全盛なんてたかが60〜70年で、写真の基本っていうのもどうかしている。

写真の基本を言うなら、半年は暗室漬けになってからしてほしい。ピンホールも一度体験してみるといい。一番簡単なのは大型カメラで体験できる。レンズもいらない。ただ、黒い紙に針で穴をあければいい。それが写真の原点だから。その時に暗箱に花びら入れるとか、水入れて魚を泳がすとか、いくらでも楽しめたはず。

だいたい、その現象を写真と訳した人がダメなんだ。真実なんか写らないよ。光で見えるものが映るだけ。表面だけだよ。

さて、今日から個展が始まります。さっきまで設営で大変だった〜。


●所幸則写真展「アインシュタイン・ロマンス」という贈り物
─写真集は芸術表現の高みを目指す─

写真家・所幸則は2015年12月22日より27日までの6日間、東京・渋谷のギャラ
リー・コンシールにおいて、写真集「Einstein Romance」を観賞するための写
真展を開催します。
http://galleryconceal.wix.com/gconceal#!gallerya/cywb


現在、写真はデジタル化の流れにより、パソコンやタブレットの画面上で楽しむ機会が増えています。しかし、写真が本来持つ表現力、その奥深さはプリントや高精細印刷を施された写真集でなければ伝わりません。

2015年年8月に上梓した写真集「Einstein Romance」は最高クラスの美術印刷技術を持つ、京都のサンエムカラーで印刷されました。この写真集ではドットが規則正しく並ぶ一般的な印刷とは異なり、特色も必要なだけ使いランダムな極小ドットで構成される高度度なFMスクリーン印刷が使われています。

そしてB4変形横位置は現在、手製本でしか作れません。それも最高レベルのところに発注しています。それだけで1800円、国内最高の印刷技術を持つ職人集団とのコラボレーションがなければ得ることのできない芸術表現が、この写真集に結実しています。

価格も10,000円前後を想定しないと現在は売ることができませんが、10,000円で本を買う人達がどれほど日本にいるでしょう。手に取ってほしいから半額の5,000円(税なし)に設定しました。

そこで写真集「Einstein Romance」を実際に手に取り、圧倒的なクオリティと、高度な印刷技術による写真集の可能性について感じ、考えていただく機会を持ちたいと考えました。日本に根付いたはずのすぐれた印刷技術による写真集文化が危機を迎えている今、ぜひ見ていただきたいと思います。

会場には、写真集「Einstein Romance」をじっくりと観賞していただくスペースのほか、オリジナルプリントの展示、高精細なモニターでオリジナルの音楽とともに所幸則の作品を楽しんでいただける展示も計画しております。なお、写真展期間中、午後数時間はほぼ毎日、本人が在廊いたします。

最終日の27日にはESPACE KUUキュレーターである太田菜穂子さん、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科非常勤講師の片山裕さん(ビジュアルアーティスト)とのクロージングトークを開催する予定です。

[ところ]の在廊日程は、所幸則Blog「CHIAROSCUARO」でご案内します。
http://tokoroyukinori.seesaa.net


今回は期間も短いので、[ところ]は出来るだけギャラリーにいるつもりですし、いない時も呼んでくれれば15分以内にはギャラリーに戻りますから、ぜひ会いに来て下さい。写真集には目の前で直接サインをさせていただきます。

「アインシュタインロマン」以外にも「One Second Shibuya」も販売します。アインシュタインロマンとワンセコンド渋谷のオリジナル楽曲付きDVDも、数は少ないですが明後日夕方から2,160円で販売します。

アインシュタインの楽曲は大口俊輔くん、「あまちゃん」の出だしのアコーディオンは彼ですが、コムデギャルソンのショーの楽曲なども手掛ける新進気鋭のピアニストです。

ワンセコンド渋谷の楽曲は、ラーメンズの音楽などを手掛ける天才チェリスト、徳澤青弦くん。どちらも写真を見てインスピレーションを得て書き下ろした曲が、vの作品集と同じ順番で動く映像にリンクさせ映像作家の西村たけしが編集した見ごたえのあるものです。

本とDVDセット、もしくは本二冊セットの方は消費税カット。どちらかでもこの個展会場で本を買った方はトークショーのドリンクをサービス。もちろんオリジナルプリントを買ってくれた方もドリンクサービスさせていただきます。


●「アインシュタイン・ロマンス」という贈り物
太田菜穂子(東京画 コミッショナー)2015年11月5日

人類の歴史とは“時間”というどうにもならない魔物に翻弄されるそれだったのではないでしょうか? 人は「不老不死」の妙薬を求め、「ミイラ」となり再生を信じ、「タイムカプセル」という玉手箱に想いを託し、「タイムマシーン」という乗り物の発明に大いなる関心を寄せてきました。

時間を超える存在への憧れや欲望がこうした発想を生み、そこには膨大なエネルギーと情熱が注がれてきました。しかし、“時間”は人間の前に“無常”として立ちはだかり、決して止まることなくひたすら未来に向かって疾走し続けてきました。

ただ、所幸則が「アインシュタイン・ロマンス」として捉えた時間の姿は、それとは様相がかなり異なります。宇宙の律動のように精緻で、音楽のような立体感で時間と融和し、ひたすら私たちに並走するかのように描かれています。

写真である以上、それが現実世界で撮影されたものであることは確かです。が、ここに写し出された風景はあたかも、パラレルに存在する“もうひとつのあるべき世界”に出会ったかのような感覚、さらに写真でありながら、“動いている”を実感するその不思議な感触は、美しい時間と共に永遠に走り続けることを許されたような開放感として体感されるのです。

Imagination is more important than knowledge. Knowledge is limited. Imagination encircles the world.

空想は知識より重要である。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む。Albert Einstein(アインシュタイン)

所幸則の写真実験は、空想することを起点とし、世界の表層を覆った雑念を除き、その奥から真実を彫り起こす作業、既成概念の呪縛を解く行為なのかもしれません。


【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則  http://tokoroyukinori.seesaa.net/

所幸則公式サイト   http://tokoroyukinori.com/