わが逃走[176]押せないボタンの巻/齋藤 浩

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みなさんこんにちは。未だ腰が痛い齋藤です。

とはいえ、だいぶ良くなってきました。しかし、歩き方がまだC-3PO的だったりします。

腰痛であることをうっかり忘れ、自然に見返り美人のポーズをとってしまいグキッときたり、右脚の付け根をかばいすぎたら左足の付け根が痛くなったりと、うっかりミスを繰り返す毎日。

そんな中、公共交通機関を利用してちょいと隣町まで行こうとした際、驚くほどの“障壁”の存在を実感した話は前回『日本のバリアフリーの巻』で語りました。今回もその続きを書かせていただきます。




腰痛になって気になったことのひとつに、歩行者用信号の点灯時間がある。今までまったく気づかなかったが、信号機が青を点灯させている時間は意外なほど短いのだ。

つまり、腰痛持ちは横断歩道を渡り切れないことがある。これはコワイ。この恐怖を感じて以来、信号が青の場合は一旦赤になるのを待って、再び青になったところを渡るよう心がけた。

信号は、地理的・時間的条件などによって点灯パターンが定められているのだと思うが、今回けっこう見落とされてるかも、と感じたのが路面の傾きである。

坂道ならまだわかりやすいが、腰痛がひどいと、アスファルトの微妙な盛り上がりやくぼみですら越えられなくなるのだ。

ましてや慣れない条件の人が車いすで、となると危険にさらされる率はより高まるだろうし、本人のストレスも相当なものとなるだろう。

かくいう私も何度か轢かれそうになり、しまいには「すべて腰痛である私が悪いのです」というような寂しい気持ちになってきて、「これ以上世間様に迷惑をかける訳にはいかないので、外出はせずに家でじっとしていよう…」と考えている自分に気づき、コワくなった。

あれ? 同じようなこと前回も書いたか。でもこれって、いろんな意味で危険だよね??

さらに今回、気になってきたのが踏切だ。今まではとくに気にせず渡っていたが、こういう状況に陥ってみると、「もし渡ってる途中で動けなくなったとき遮断機が降りたら…」などと考えてしまう。

クドいようだが、腰痛だろうとなかろうと、すべての人にこういったことが起こりうるのだ。コワいでしょ??

で、そんなときはどうすべきか。列車に止まってもらうしかない。

そのための手段として、最近の踏切は遮断機脇などに『非常停止ボタン』が設置されている。線路の真ん中に取り残された本人には押せないけどね。でもまあ、ないよりマシだ。

という訳で、近所の踏切を確認してみたところ、またしても問題点を見つけてしまった。

結論から先に言ってしまうと、どこにボタンがあるかわからないのである。

まず、この『非常停止ボタン』を押さねばならない状況を想定する。その状況下における精神状態とはどんなものかを考える。

これはもう、ひと言で表せば『動転』でしょう。

あっ! 友達が線路の上で固まってしまった! と思ったら警報が鳴りだし、遮断機が下りてきた!!

(…そもそもこの時点で『非常停止ボタン』の存在に気づくだけの冷静さがこのオレにあるだろうか)

で、警報機のあたりを見てみる。こんな感じだ。

まず目につくのは三角柱に記された『非常停止ボタン→』という文字だが、矢印がどこを指しているのかがわからない。

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近づいてみたのがこの写真。より一層わからない。

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ならば引いてみるべし。後ろに下がって周囲を見回すと、道を隔てた反対側にも『非常停止ボタン』の文字があった。どうやら矢印は、これを指していたようだ。

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そのあたりに行ってみる。踏切自体が黄色×黒で塗装されているわけだが、周囲には注意書きがたくさん存在し、警戒色だらけになっている。

まずは警報機の赤ランプ、そして赤×白で『STOP 非常停止ボタン』『係員以外立入り禁止』『監視カメラ作動中』『ボタンを強く押す 非常ボタン』『非常ボタン』、黄色×黒で『溝に注意』。

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で、『溝に注意』と『係員以外立入り禁止』、『監視カメラ作動中』は置いといて、残った『STOP 非常停止ボタン』『ボタンを強く押す 非常ボタン』『非常ボタン』のうち、どこに本物のボタンがあるのか。どこを押せば列車が止まるのか。

正解はここです。写真のAのパネル内、円で囲まれた部分。

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より目立つBのあたりを探していると、間に合わなくなります。いや、すでに間に合わなかったかもしれません。

…これじゃまるで消火器と郵便ポストの間に、シャア少佐を立たせているようなものではないか!

まずはデザインの基本の基本! 情報の整理を!!

表記が『非常停止ボタン』『非常ボタン』と統一されてないことも混乱を招く
原因のようだ。

そもそもすべての人に対し、たとえば日本語の読めない人に対しても、このボタンの機能が伝えられているだろうか。

思うにこの『非常停止ボタン』、サイン掲出に関する全国統一規格が存在しないのではないか?

だとしたら今すぐ情報伝達のプロを中心としたチームを立ち上げるべき。人の命にかかわることだ。

森英恵や黒鉄ヒロシではなく、メンバーにはグラフィックデザイナーを起用してほしいと切に願う。

オリンピックまであと4年。日本人の識字率も100%ではない。

以下オマケ:踏切周辺の情報は極力減らすべき。「赤は目立つ」という思考停止が情報伝達を妨害している。またポスターにある椿のイラストが、非常停止ボタンと色、形が似てしまった。

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駅のホームの非常停止ボタン。「目立つよう黄色で」というルールは、壁が黄色の場合も有効なのか検証すべき。

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【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。