ローマでMANGA[95]mangaを仕事に結びつけるセミナー
── midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●manga構築法は右往左往

学校が用意するセミナーは、学校に在籍してる学生は無料で参加できる。私のmangaセミナーもそのひとつ。たいていは、マンガ作家になりたいコミックス科在籍者が参加することが多いが、イラストレーション科、アニメーション科、脚本科からの参加も多々ある。

私がセミナーで伝授したいのはいわゆるmangaの絵柄ではなく、mangaが持つ物語の構築法だというのは、ここでも何度か書いた。

そのことを速攻でわかってもらうために、かつての「manga・セミナー」から「manga構築法とその技術セミナー」という長い講義名にしたのだった。




それが功を奏して、単純なmanga・セミナーという名前の時より希望者が増えて、小さな教室に収まりきれずに去年は二クラス、今年は三クラスになった。

学校は三年制で、学年が進むに連れて課題が専門化していき、家でやる課題の数が多くなる。そのために参加者のほとんどはやや暇な一年生だ。三クラスになった今年のセミナー参加者はやはり90%一年生。

一年生だから悪いわけではないが、マンガ家になりたい人たちなはずなのに、学校に来る前に自分で勝手に作品を作っていた、という生徒はすごく少ない。

ひとつも作品を作った経験がないと、私の講義の意味がなかなかわからない。二年、三年と続いて参加するなら意味があるけれど、そうではないのでまったくと言っていいほど手応えがないのだった。

そこで、画力がついた学校を終えた生徒か、あるいはそれに相当する画力の持ち主を対象にマスターコースの設定を学校に打診し、やりましょう! ということになったのが三年前だ。

画力のある生徒は私の講義の意味の飲み込みが早く、具体的な作品制作が期待できる。

東京にあるmanga専門学校のコラボをお願いして、講師を送ってもらうことにした。それには出費がかさばるので、別会計であるフィレンツェ校と一緒にマスターコースを運営していくことにしたのだが、結果として船頭さんが多すぎてなかなかまとまらず、フィレンツェ校はこの企画から降りることになった。

さらに、方針を若干変更した。もともとこの学校は専門学校で、卒業生が学んだことを仕事に結びつけることができるようにすることを目的にしている。

だからこそ、mangaはヨーロッパ市場では仕事に結びつかないという校長の判断で、長年セミナーの位置に甘んじ、正式コースにならずにいたのだ。

仕事に結びつくような方法を入れようではないか、と美女の教務課長が提案してきた。

すでにコミック科ではコミックス・マスター・コースが発足している。そこではローマのさる出版社とコラボし、編集者を送ってもらっている。

学年度の最初と中間と終わりに編集者が学校に来る。編集者が授業をするのではなく、出張編集部になるのだ。

編集部が求めるもの、出版社の傾向を説明し、それに同感する参加者がその出版社の傾向にあった作品を作る。

中間で編集者と話し合い、学年度末でその作品か参加者の傾向が気に入れば、編集者はその生徒と、学校抜きでコンタクトを取り続けることになる。

出版社は新たな作家を手に入れる機会になり、生徒は仕事への扉に近づき、学校は「仕事に結びつく専門学校」という宣伝効果を得ることになる。

このやり方をmangaマスターコースでも取り入れようかと言うことになった。

というのもここ数年、イタリアでもボチボチと小さな出版社がmangaを読んで育った作家の、mangaっぽい作品を出すようになったのだ。

その名もJ-popという出版社にコンタクトを取ると興味を持ってくれた。
http://www.j-pop.it/


そして、海外の作家を怖がらない日本の出版社を見つけた。

サイレントマンガオーディション
http://www.manga-audition.com/


厳密には、オーディションだが、後ろに「コアミックス」がいる。サイレントマンガオーディションは当初、日本語だけで募集していたが、海外専門の部署を作った。

海外部は年に一度の募集で、昨年から年に二度の募集になった。応募数がどんどん増えてるらしい。

サイレントマンガの面白いところは、フキダシを禁止しているところ。まさに膝を打つアイデアですな。

manga作品をたくさん作ったことのない人や外国人は動作を描こうとし、気持ちなどはセリフで説明しようとする。セリフが使えなければ気持ちを演出で表すしかない。これはmangaの真髄に近づくとてもよい方法だ。

しかも、ストーリーは作らなくていい、テーマの感情を表せば良い、というオーディションななのだ。

サイレントマンガオーディション、略してSMAも外国人が動作を描いてしまうこと、感情だけを描くことが難しいと見て取ったようだ。

何故ならば、日本人用の募集のテーマは「キュンとした一瞬」とか「微笑みがこぼれた一瞬」という感情の一片なのだが、外国人用のテーマは「ラブレター」とか「友情」とか具体的な何かがテーマになっている。

そして応募作を見ると、始めと終わりがあるショートストーリーになっている。

「感情だけを描く」というのが理解できないんだね。もっとも、日本の応募作(入賞作)もショートストーリーになってるものが多いけど。

やり方が大いに気に入ったし、外国人を受け入れることも気に入って、メールを出して見たところ、なんと、コラボOKの返事をいただいた。

先ほどフィレンツェ校が降りたと書いたが、SMAとコンタクトをとっているときはまだ健在だった。

SMAとコンタクトを取り、講談社で作品を描いた大御所イゴルト氏も、作家として話をしに来てくれるというお許しを取り付け喜んでいたのだが、フィレンツェ校はまだ生徒を集めるには魅力がないと言い出した。

そんなことですったもんだして、話がなかなか進まないままに時間ばかり過ぎてしまい、業を煮やした美女の教務課長が「とりあえずローマ校だけで出発してみる」と打診をし、フィレンツェ校はあっさりと降りてしまったのだ。なかなか話が進まないことに、あちらも疲れていたのかもしれない。

せっかくSMAとのコラボができるようになったのに、マスターコース生徒募集に良い期間が過ぎてしまい、今年も見送ることになってしまい、いつものセミナーだけになった。

いいじゃん、セミナーでもコラボすればと思いつき、SMAにもマスターコースはまだ出発できませんが、セミナーは出発しますので参加者たちに応募を強制します、と連絡した。

セミナーは一月半ば開始。SMAの今年の一回目の応募締め切りは3月末だ。セミナーは5月末まで。

とりあえずmanga言語の文法を説明してから、作品を作ってもらうという心積もりでいたのでちょっと困った。

特別扱いしてもらえないでしょか、というメールを送ってみたけどそれには返事がなかった。これまでの経験で、日本側から返事がないのはNOという意味だ。

1月半ば開始で3月末が締め切りって、二か月半しかないじゃん。二か月半……二か月半もあるじゃん!

マンガ家になりたいという者が、たとえ作品を作ったことがないとしても、オーディションがいう最低5ページ、最高10ページの作品を作れないでどうする??!

自分のレベルよりちょっと上の練習をしたほうが、腕が上がるということもあるでしょ?

と、いうことで、セミナーですぐさま作品つくりにとりかかることにしたのだった。その紆余曲折は次回に。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

ヨーロッパ大変です。

ただし、ベルギーやフランスのようなテロは、イタリアでは起こりにくいのではと思ってます。過去の植民地出身で二世、三世という層がないからです。イタリアはリビアを持ってましたが、戦後に国交断絶してリビア人がイタリアに移住することがなかったからです(カダフィ大佐のおかげ??)。

フランス、ベルギーではもと植民地出身で、当地の国籍を持ち当地以外で生活したことがないので、出身地のアイデンティティがない。でも、国内で出身地のせいで差別を受ける、という不満層がテロリストの素地になってますが、イタリアには内側からテロリストが生まれる基盤がありません。

それと、何かとアバウと評されるイタリアですが、イタリアのインテリジェンスは優秀だそうです。パリ襲撃のテロリストの一人がイタリアに移動してた(逃げた? 次のテロの準備?)のを探しだして逮捕しました。

イタリアの社会がちょっとひっちゃきになっていることに関して言えば、民主主義はイタリア人には早すぎたのではないかと思ってます。

ムッソリーニの独裁で、もっとイタリアという国を前面に押し出した政策を、もっと続けて行くのが必要だった若い国です。統一されて高々150年ですからね。ひいおじいちゃんの代にやっと「イタリア」になったんです。

イタリア人という意識が希薄です。だから、政治家も国のためと考え難いのだと思います。もちろん国民も。そのため、「固定資産税を撤廃します!」を政策に掲げたベルルスコーニを当選させたりしちゃうのです。公も民も目先の利益のみ。

国民に国家という意識がない国がどうなるかの良い見本です。

若者は夢を持てず、将来に希望が持てません。現実に職がなく、優秀な者ではなくてコネのある者が職にありつく中、EUの恩恵を使ってイタリアを捨てる者が増えています。年金生活者もイタリアを出て、物価の安い国に移住す人が増えています。

国が大変だ、さぁ、どうにかしよう! ではなく、さぁ、逃げ出そうになってしまうのです。

日本という国が2600年以上、一つの国として続いていることの意味をよーーく考えて、それを大事にしていくのが日本人の義務であり、その計り知れない恩恵を守っていくことだと、外から見るとつくづく思います。

MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/51486/


主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/