[4106] オープンソースな世界

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《地方に住んでて写真家になれるのか?》

■羽化の作法[14]
 辻仁成さんのコラムで新宿段ボールハウス絵画が紹介される
 武 盾一郎

■ところのほんとのところ[141]
 るいまま組 瓦町プロジェクト
 所 幸則 Tokoro Yukinori

■crossroads[12]
 オープンソースな世界
 若林健一




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■羽化の作法[14]
辻仁成さんのコラムで新宿段ボールハウス絵画が紹介される

武 盾一郎
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20160412140300.html
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1995年8月、新宿西口地下道の段ボールハウスに絵を描き始めてから三か月後、僕らは千葉県船橋市のラブホテルに暮らして壁画を描いていた。

ヤマネ失踪ネゲロ事件以降も、いろいろ過剰な日々が繰り返されるのだが、それらも日常化され、制作は続くのだった。悲惨系のことばかりではなく、もちろん良い事件もあった。

●辻仁成さんのコラム

11月10日、東京新聞の辻仁成さんの「本音のコラム」で、僕らの制作が紹介された。

【新宿駅の西口に、高層ビル街の下を突っ切る地下道があり、そこには大勢のホームレスが住んでいる。段ボールハウスと呼ばれる手作りの家で彼らは寝泊まりしている。その数は六百人で、平均年齢は52.5歳だ。

匂いが凄い。壁際を占拠した段ボールハウスからくる匂いに思わず鼻を摘んでしまう人も多い。都庁をはじめ、高層オフィスへ通勤している人達からはかなり嫌われているようだ。

さて、最近東京都や新宿区がそこに、動く歩道を作る計画を進めている。段ボールハウスの人々を追い出して、僅か数百メートルほどの距離に動く歩道を持ち込むのだそうだ。苦肉の策とも取れる。

ホームレスの人々の行き場を奪うと心配する反対意見に対して、賛成が大勢を占めているようだ。

区や都がどのような方針で、動く歩道の建設に踏み切るかは、用心しながら見極めるとして、先日久しぶりに現場を訪ねてみると、面白いものを発見した。

その段ボールハウスに絵を描いている連中がいたのだ。作風はヒップホップ的現代アートとでも評したくなるような斬新でシュールな絵ばかりだった。

責任者の武盾一郎さんは、画家の卵で27歳。他の二人の仲間たちとは芸大の予備校で知り合ったのだそうだ。

音楽や絵画は元来路上から生まれてきたものである。彼らが都市の回廊へ迷い込み、いつ撤去されるか分からない段ボールに筆を走らせている理由も頷ける。

彼らがホームレスの人々の問題をどう考えているかは、その絵の暖かさで十分伝わってきた。

芸術が高い敷居の向こう側へ姿を消した今、青年たちは冷風が吹きすさぶ街の中へはっきりとした声を伝えようとしている。その声の寿命は短いが、しかし志は高い。】

1997年に芥川賞を受賞する二年前である。今改めて読み返してみると、とても良く書いて頂いてありがたいかぎりです。

なんだかんだありつつも、ラブホテルでの壁画制作は進んでいった。

制作ノートより

11月17日(金)今日は晴れて暖かい。

〈イチコ(武)〉
壁が一つになって行く。ひとつの流れ、ある世界の光を放ってきている。光と影と絵と人が空間を作っている。そんな時、この風景がスクリーンに感じる。それともデジャヴュ?

〈タケヲ〉
晴れて暖かい何とも外にいるのが気持ち良い日なんだ。こんな日って体のコンディションが悪くても描くのがとても楽しいよ。まったくその通りだな。あと3台分で全部埋まる。

〈ヤマネ〉
疲れた。つかれた。ツカレタ。

●週間トピックス

とうとう師走に入った。12月1日、制作ノートにはラブホテル壁画制作が始まってからこれまでの、週間トピックが記してあった。

一週目
・201から301へ部屋移動
・黒下地完成!
・パンチパーマの「□□」さんに中華料理屋に連れて行ってもらう

二週目
・白髪ロングヘアーの社長にステーキ屋さんに連れて行ってもらう

三週目
・ヤマネ失踪ネゲロ事件
・段ボールハウス絵画制作「新宿の目」側に進出

四週目
・辻仁成さんから電話
・全体的に良い調子

五週目
・ヤマネスキンヘッドにする

六週目
・壁面全面に手が入る
・ヤマネ風邪をひく

食事のことが週間トピックになっている。よっぽど飢えていたのか。

昼は業者弁当、夜はラブホテルにある食事メニューからのチョイスだったが、そこに一品を足してくれるフロントのおばちゃんがいた。野菜等が多かった。

自分たちは気が付かなかったが、野菜が随分と少ない食事だったのだろう。僕たちは「一品おばちゃん」と呼んでいた。

今思うと、本当に有り難いことなのに、深く感謝することなく、あっさりと当たり前のようにその足された一皿を受け取っていた。

二十代、学生の頃とか、母から田舎の食べものが送られて来た時、有り難さよりも「うぜーっ」と思ってしまうことがあるが、ちょっとそれに近い感じもあった。

でも、「一品おばちゃん」とアダ名を付けて、20年以上経っても覚えてるってことは、そこに何か、母が子に食べもの贈る本能のような愛があったからかも知れない。

フロント業務の他には部屋の掃除をする人たちが働いていた。ほとんどが女性だったが、外国人もいた。なんで外国人だと分かったのかというと、「おはようございます」とかの挨拶が「オハヨゴザマス」とカタコトだったからだ。

ラブホテルで働く人たちとは挨拶程度のコミュニケーションしかなかったが、その奥に「想い」も通わせていることもあった。

12月7日、風邪も治って元気になったはずのヤマネが、また具合が悪そうだ。聞くと、掃除の仕事をしている一人がいなくなっていた、というのだ。

そう言えば、一人、若いアジア系女性がいなかった。その人は夕方になると駐車場の掃除をしていたので僕も覚えていた。交わした会話は挨拶程度だったが。

ヤマネはもうちょっとお話しをしていたようだった。一日の仕事が終わり、部屋でまったりしてる時間、あれこれと彼女のことを喋ってはうなだれていた。

12月に入ると、ラブホテルの壁画は完成へと向かい、新宿では強制撤去への緊張感が高まっていった。


【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/迷走じゃなくて瞑想が必要かも】

京都にある出版社人文書院から小説家・星野智幸さんのコレクション四巻が出版されます。装画を僕が担当することになりました。


制作過程をフェイスブック、ツイッターにアップしております。乞うご期待!

ガブリエルガブリエラ春の展覧会
代官山アートラッシュ『薔薇』展
5月3日(火)〜5月16日(月)
http://www.artsrush.jp/

今回の舞台は13月世の入り口に広がる金色野原です

ぜひお立ち寄りください!

Facebookのページ http://www.facebook.com/junichiro.take
Twitter http://twitter.com/Take_J
take.junichiro@gmail.com


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■ところのほんとのところ[141]
るいまま組 瓦町プロジェクト

所 幸則 Tokoro Yukinori
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20160412140200.html
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さて、新しい年度になり、渋谷のオフィスには大阪芸術大学から辞令が届いていました。毎年、辞令って来るんだなー、と言うのが正直な感想でした。

もう14日には第一回目の講義をしに行くんだな。作家論での最初の講義なので、また、自己紹介など含めての写真に対する考え方なんかの話をするのかな。

るいまま組 瓦町プロジェクト
香川県高松市瓦町2丁目7-14 1F

そして、4月15日〜17日は「るいまま組瓦町プロジェクト4月席」の内容が決まりました。K-Lovers photograhersがお届けするファインアートの世界。

前期4月15日(金)〜17日(日)後期4月28日(木)〜30日(土)の前期です。

瓦町プロジェクトというのはかつて、香川県で最も一日の乗降客が多かった、四国でも最も栄えた瓦町エリアが、今は見る影もなくなっているのを憂いて復興しようというプロジェクトです。

[ところ]は幼少期にこの瓦町に住んでいたので、香川で様々な街の活性化に尽力している「るいまま組」に、K-Lovers photograhersの選抜展示を通して協力することにしました。

「地方に住んでて写真家になれるのか?」

誰もが持ってる疑問に、所幸則が答えるべくスタートした写真家集団「Kラバーズ」のまちなか有志選抜展第一弾。二人がそれぞれの感度で映した香川の新風景。

山田祐司は、雨の日の香川の人たちの過ごし方、人間像をスナップの手法でとらえた、香川でしか見られない写真になっています。

対して谷口浩之は、香川の名所のひとつ、ランドマーク裏五剣山を生活者の視点から追っています。

写真の舞台がどこだかすぐわかる人も、ピンとこない人も是非ご来場ください。入場無料ですがカフェのご飲食をお願いします。

作家在廊予定:山田/4月16日 谷口/4月15日
会期中、チーム主宰・所幸則も3日とも数回来場する予定
ファン、写真マニア(?)はお見逃しなく

「ワインと写真の夕暮れ」

ワイン通として知られる写真家・所幸則セレクトの個性の違うふたつのワインを楽しみながら、写真のことワインのことを語らう日曜日の夕暮れ。

日時:4月17日(日)17:00〜18:30

会費:2000円(2種類のワインテイスティング+ちょっとつまめるピンチョス
付き、2杯目からはキャッシュオン)
定員:25名
会場:るいまま組瓦町プロジェクト

瓦町フラッグの「アスパラ大騒ぎ」のあと、るいまま組瓦町プロジェクトで、ほっとクールダウンをどうぞ。

中国・四国地方でも特に支店文化の強い高松ならではの特徴として、ワインバーが非常に多いことがあげられます。ところが、ワインについていまひとつわからないまま、経費で飲んでいる観があります。

そんな高松で、初歩的なところからワインを理解し、楽しんでもらおうという試みです。ワインについてもう少し知っていたら、ワインのあるお店でもバカにされませんよ。

今回は同じぶどう品種、同じワイナリー、同じ醸造家が作ったけれども全く個性が違うワインを飲んでもらいます。気楽に来てね。

https://www.facebook.com/pages/るいまま組-瓦町プロジェクト/524564094375584


【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則  http://tokoroyukinori.seesaa.net/
所幸則公式サイト   http://tokoroyukinori.com/


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■crossroads[12]
オープンソースな世界

若林健一
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20160412140100.html
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こんにちは、若林です。近畿地方では、毎年恒例の「造幣局の通り抜け」が始まり、いよいよ桜の時期も終わりに近づいてきました。

満開の桜はもちろんですが、散り初めの緑交じりの瑞々しさが好きな自分にとっては、もう少し桜の季節が続きます。

●オープンソースな政府

少し前の記事になりますが、オープンソースに関するこのような記事が出ていました。

US government commits to publish publicly financed software under Free
Software licenses
http://bit.ly/1MpE4dh

アメリカ政府の機関で使われているソフトウェア、特に今後新たに開発するものについては(すべてではないけれど)オープンソースとして公開していくという「ソースコードポリシー」の草案が提出されたそうです。

この草案に対するパブリックコメントを4月11日まで募集するということですので、このメールが配信されるタイミングでは締め切られている頃でしょうか。

この発表、色んな意味ですごいなと思ういます。例えば、国の開発するものといえば入札で受託先が決まると思うのですが、そこで創られたソフトウェアのソースコードが公開されるわけです。

しかも、ただ公開されるだけでなく、それらを自由に改変して再利用できるわけですから、一度受託した企業がその後継の仕事を請けられるかどうかわからない。

もしかすると、自分のところで開発したものをベースに、他の企業や組織が開発を行い、せっかく獲得した仕事を奪われてしまうかもしれない、そんなリスクのある仕事になるわけです。

今の日本のだとちょっと考えにくい、そんな議論が始まることすらイメージできません。

アメリカ政府には、一般の企業と同じくCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)が配置されていて、それぞれ元Microsoftや元Googleの人が役職についています。

これらの方々がこの草案にどの程度関わっていたのかはわかりませんが、その役職上大きな影響力を持っていたのは間違いありませんから、「オープンソース文化」に対する造詣が深い(と思われる)方が関わっているのであれば、このようなポリシーを掲げられるのもうなづけます。

U.S. Chief Information Officer
https://cio.gov/author/tony-scott/

U.S. CTO Twitter
https://twitter.com/uscto

●オープンソースとは何か?

ところで「オープンソース」とはどういうことを指すのでしょう?

人によって解釈が異なるところがありますが、私も初めて知った頃の「無料で使えるソフトウェア」という認識から、「無保証で自己責任で利用するソフトウェア」と変遷し、現在では「ソフトウェアだけに限らない知の共有を伴う活動のすべて」という認識に至っています。

この「ソフトウェアだけに限らない知の共有を伴う活動のすべて」というのが現在の「オープンソースコミュニティ」の中での共通認識だと信じています。

つまり、オープンソースというのはエンジニアだけのものではなく、非エンジニアでも、その精神を受け継いだ活動は可能なのです。

今回のアメリカ政府の提案、現在は草案レベルですが具体的に実行される段階になった暁には、政府機関のソフトウェアだけでなく、より多くの知を共有する行動として認識され浸透していけば、世界はよりよいものになるのではないかな。

今でもアメリカが世界のリーダーなのであれば、世界にオープンソース文化を広める役割を負ってもらえれば、と遠く離れた島国の一角で願っています。


【若林健一 / kwaka1208】
Web: http://kwaka1208.net/
Twitter: https://twitter.com/kwaka1208

CoderDojo奈良
http://coderdojo-nara.org/


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編集後記(04/12)

●歳とったなあと実感するのが物忘れである。突然、ナイスなアイデアが閃く瞬間がある。デスクに向かっていれば、すぐにノートに書き取れるが、自転車で走行中の時などは、よし覚えておこうと思うだけで、何か別のことに気をとられた瞬間に忘れてしまう。デイパックの中に手帳とボールペンが入っているのだが、いちいち取り出すのがめんどうなのだ。というか、その存在さえ忘れている。「振り返った瞬間に忘れていた」というのが、いまのわたしの症状である。テキストを書いていて、物の名前が思い出せないことがよくある。少し歳が若い妻に、これこれこういうモノはなんというのだっけと聞きに行く。

いやはや、まさかこうなるとは思ってもみなかった。だから、パソコンを使っていて、直前にした操作を覚えていないという危ない状態に陥り、先週一週間はその収拾にあたふたしたのであった。なぜだ! iPhotoがおかしくなっているぞ。2001年から使っていて、6000点くらいの写真が収容されているはずなのに、最近の一部の写真しか現れないのだ。けっこうパニック。だって、孫1号の生誕から、孫2号の生誕を経て今日まで、親がぜんぜんマメじゃないから、わたしが撮った写真のほうが多いのだ。それらが消失した? 「困ったときは古籏さんに訊け」って勝手に思い込んでいるので、迷惑を顧みず質問攻め。

しかし、症状をうまく伝えられない、というか支離滅裂なんだから、いくら名医でもいい処方できませんて。近所だったら現場に行ってあっさり解決という古籏さんだが、塩尻から戸田は遠すぎる。いやはや、本当にご迷惑をおかけ致しました。Time Machineで過去に戻ってデータを回収する方法を教わって、こわごわ行ってみました。今年の1月に。初めて乗ったTime Machine、ピクチャを回収して戻り、iPhotoを開きアップグレード指示に従う(おかしくなる前も、この指示見たような気がする)。出ました! 回復した。完璧だ。たぶん、アップグレードで変な操作して、その後も変な操作を重ねて地獄を見たのだ。

直前にした操作を覚えていない、って瞬間があるのが怖い。そればかりではない。後記用にいいこと思いついたのでテキストにして、万が一、念のためにとデジクリサイトに行って検索すると、以前にも書いていた。どうりでスルスル書けたわい。そういうのがけっこう少なくない。昔のことは忘れた。だが、ほんの少し前にしたことの確実性を疑う。テレビの予約録画が心配になって、開始時刻を少し過ぎてから行ってみたら、小さい方のテレビで別番組を見ていた依頼人の妻が「確認したよ。ちゃんと録画中。あなたに頼んだときは必ずあとで確認してる」とキッパリ言う。さすがに戦友はよく分かっている。 (柴田)


●え、編集長若いですよ。わたしゃ子供の頃から記憶力が弱く、10年以上前から物忘れがひどくなってきたから、自分を信じないことにしているっ。友人知人に懐かしい話をされても覚えていないことが多い。

たまに思い出せることもあるのだが、引越しを繰り返した上での最初の頃の家から少し歩く蔵の奥にある千個組のマトリョーシカ状態なので引っ張り出してくるのに一苦労。鍵だってかけてあるのだ。

なので懐かし話はいつでも新鮮(涙)! みんな何故そんなに覚えているのだ? 自宅内の倉庫広すぎません? アマゾン並に自動制御してるよね。

なのでiPhoneに向かってメモをとることもしばしば。誤字は後で修正するから気にしない。トリガーさえあればいい。買い物とかなら「○○をリマインドして」とSiriに言えば、OmniFocusに吸い上げてくれる。カードの引き落とし日、宅配ヨーグルトのボックス出しと回収、生協の日や注文締め切りなどはDue。何度それで救われたことか。覚える気ナッシング! (hammer.mule)