ところのほんとのところ[142]写真の加工に罪悪感のない人たち
── 所 幸則 Tokoro Yukinori ──

投稿:  著者:



「National Geographic」の超著名な写真家の、Photoshop編集がバレて炎上中だそうです。一大スキャンダルだそうです。

もともと写真の歴史から考えると、フェアリー(妖精)写真でヨーロッパが大騒ぎして数十年後に、その写真を撮った当時は少女だったおばあさんが、本の挿絵を切り抜いて妖精に見えるように撮影してプリントした、と告白して一件落着。

今では、自然派というか風景写真の世界でもごく一般的に行われていて、裏を知るとがっかりするような話がいっぱいある。(><)




例えば、幻想的な夜の草原を無数のホタルが飛び交ってる写真などが代表格だ。バックが暗闇だから非常にやりやすいのだろうが、昔ほどホタルが出ない日でもたくさんシャッターを押して、Photoshop編集で無数に飛んでるような写真が出来上がる。

実はフイルム時代も多重露光で同じようなことができたし、プリント作業でやってる人もいた。

例えばタレントの広告などでも、肌を素晴らしく見せるためにPhotoshop編集は行われている。

実際、ライティングや化粧の技術できれいに見せるテクニックなら、商業写真の世界では日常的に行われている。というか、写真が生まれてほどなくスポッティングという修正技術が生まれた時から、例えば見合い写真や肖像写真ではほとんどが使われていたでしょう。

ただどちらかというと、嫌なものを消すという考えが多かったと思うけれど。

なかにはリスフィルムを使って、同じ鳥がきれいに並んでいる写真を提示して見せた写真家もいたし、砂丘の写真家の中の浮いた帽子などもその類だろう。

フォトグラフという言葉の意味は、光で描く絵のような意味なので、特におかしくはない表現手法だったのではないだろうか。

ただ、報道やドキュメンタリーや「National Geographic」のようなものになると、[ところ]も写真という文字から受けるイメージとして、真実なんだろうと期待するし、そうであってほしいと思う。

だけど、それらの世界もその写真が有名な雑誌や新聞に掲載されたり、そういうところと契約することによってお金を得てる人が多いわけだから、いつ撮れるかわからない名作を待っているわけにもいかない場合もあるだろう。

有名になり期待がプレッシャーになって自殺した写真家もいるし、人から写真を買って自分のものとして発表することもあると聞く。

実際、かなり古いがこういう話がある。報道写真などでも、有名なのはトラック事故の写真で、ぐしゃぐしゃになったトラックの手前に壊れた人形が落ちていたことで名作と言われたが、トラックとは何の関係もない人形を手前に置いただけのものだった。人形はなかったのに置いたという可能性も高い。

そして、例えば地震で、夫が妻や娘を庇うように倒れていた写真を目撃者が携帯で撮った。それが全世界へ配信された。その写真も、もしかしたら写真を撮るためにそこに入ってもらった可能性だってゼロではない。

だけど、前者は交通事故の悲惨さを伝えることはできたし、地震の写真は真偽は本人にしかわからないけれど、地震の被害の悲惨さを伝えることができたという点では良いことだったのだと思う。

問題は今、世界中で行われている異常に増え続けている写真のコンテストだ。カメラ雑誌だけではなく、あらゆる企業が、あらゆる自治体がコンテストをしている。

そして、特にネイチャーやスナップ部門で、合成や過度な編集をどうやって見分けるかが大変な問題になっている。

「Sony Photography Awards」でも、プロフェッショナルフォトジャーナリズム部門で20%近い作品がPhotoshop編集が確認されたことで追放されるそうだ。これで歯止めがかかればいいけれど、そうはいかないだろう。

像があるべきところから像が消されるということが、最初の写真の修正だったのだから。

建築写真では電線を消すことに夢中になったし、自分のポートレイトからは、不必要なものを消していくことが容易になっていくように、写真業界がそう持って行ったのだから。

最近の携帯に始まり、あらゆるカメラに美肌効果が搭載され、つまらない写真でも面白く見せることができるソフトウェアを、カメラ内にも入れてしまっているんだから。

だいたい自分が撮りたいイメージを具現化するために、カメラを使って自己表現としての作品を撮るという気持ちが最初にある人もいるだろうが、カメラがただ好きで、有名になりたい、みんなに自慢したいという人が多いのだから。

そしてこの2000年以降に写真を始めた人には、最初からフォトショップがあったし、フォトショップが普及するまではスキャナーやプリンターにライト版がただでついてきたのだから。

写真の加工に罪悪感もないだろうしね。僕らはそれまでに30年以上暗室だけでやってきたという土台があるから、罪悪感も感じるけど。それでも暗室で実験はしてきたよね。その差が意識の差にもつながっていると思いますね。


【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則  http://tokoroyukinori.seesaa.net/

所幸則公式サイト   http://tokoroyukinori.com/