装飾山イバラ道[178]「生誕300年記念 若冲展」と「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」展を見る/武田瑛夢

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最近面白い展覧会がたくさん開催されていて、行けるものには行く日々だ。

「若冲展」には連日超満員ということで、平日といえどもかなりの覚悟をして行った。シルバーデーを外して行ったけれど、やはり展覧会は行けるなら開催してから間もなくの、まだ空いているうちに行くのがベストだと思う。

●生誕300年記念 若冲展

http://jakuchu2016.jp

事前にWEBの感想を見ると、どの時間でも2〜3時間は並ぶという(終盤だったので)。朝方の涼しいうちなら並べそうだと思い、上野の都美術館に朝7時に着いた。

本来9:30オープンだけれど、ここのところ9:00オープンが続いているとのことで、2時間は待つことになる。すでに列はだいぶ長かった。





私のように会期終盤になってしまったなら、朝の開場時間前はオススメの時間帯だ。メリットは、1.涼しい 2.列が動かないので座りやすい 3.待つつもりの人しかいない、などがある。

朝一のデメリットとしては「どんなに空いている日でも、開場までの時間は待つしかない」ということだろう。

私はメリットの3番の「待つつもりの人しかいない」が特に良い点だと思う。行列で辛いのは、「なんでこんなに待つんだ!」と怒っている人の気分や声が伝わってくることもあると思うのだ。

朝早い時間帯に来ている人は、開場前の時間なのだからその点は何も文句がない。長い時間待つのは自分が早く来たからで、最初から人のせいではないのだ。

逆に「早く来てよかったわ〜」という声があちこちから聞こえてくる感じだった。まぁ、そう思っていないと待てないし。

一時間ほど、夫と代わりばんこで立ったり座ったりしていると、列が門の中に移動になった。ずっと座っていても疲れるので立っている方が楽なのかもしれない。携帯できる椅子がいろいろ出ているから買っておけばよかった。

そこからは歩きながら列が進み、さほど待った感じがなく展覧会場へと入ることができた。景色が変わるのも待ち時間のストレス解消になる。

音声ガイドを借りて中に入り、一階のメインの展示コーナーへと移動した。

これも入り口付近は混むというWEBの感想を読んでいたので、早いうちに最もボリュームのある展示の「動植綵絵(どうしょくさいえ)」と「釈迦三尊像」を見ることにした。まだ一番前も空いていて間近で作品を見ることができた。人々の感想は確かで有難い。

私は多摩美時代に、古美術研修旅行で京都の相国寺に行っているので、若冲の作品はその時から大好きだ。10年前には上野のプライスコレクション「若冲と江戸絵画展」を見ている。

ただ、ここまでのボリュームで若冲の絵を見続けられたことはなかったので、まさに至福の時だった。

特に「釈迦三尊像」はその大きさや絵柄の面白さ、細部の美しさに感動した。絵の中のお釈迦様と目が合うというのはなんとも素晴らしいものだった。

今まで仏像や仏画は数多く見てきたはずなのに、あれほどバッチリこちらを見られている感覚になったことはない。絵の状態がとても良くてクリアだということ、見下ろされているような高さが絶妙だということがその理由だろうか。

若冲の絵柄の親しみやすさというか、かしこまっていない感じが良かったのかもしれない。

そして「動植綵絵(どうしょくさいえ)」の群鶏の、鶏の動きや羽のバランスは何だろう。本物の動きを観察して自分の中で完璧に美しくして絵の姿として固めているような、何とも言えない解釈の連続だ。

動きや立体的な形があるものを平面に描くには、自分の出来るすべてを出し切らないといけないのだという、覚悟のようなものが感じられる。

今回、展覧会の図録の表紙にもなっている鶴の絵も私は好きで、気持ち悪いくらいの角度の鶴の首や顔のバリエーションが描かれている。

若冲が目で見た鶴のすべてが一枚の絵に凝縮して収められている。それは鶏の絵でも花でも雪でも同じで、平面一枚に時や存在をまとめる絵画という、表現方法の素晴らしさそのものなのだ。

・若冲図録とクリアファイル
http://eimu.com/dgcol/jya01.jpg

展覧会のお土産と言えば、今はハガキよりもクリアファイルかもしれない。皆が手に何枚も持っている。私も展覧会でも映画でも遊園地でも、何かしらのクリアファイルを買っている。

プラスチックなのでカラーの絵柄の保存性が高いし、値段も安い上にかさばらないのがいい。実際に結構使ってもいるけれど、一番大事なクリアファイルはもったいなくて使えない。

図録も大変なボリュームなので、これは買っておいて損はない一冊だと思った。

●ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞

http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/16_kuniyoshi/

こちらは渋谷という立地で、なんだかオシャレな展覧会だ。公式WEBに混雑の目安情報が書かれているのもありがたい。

さほど混んでいなかったので、かなり近づいて見られたのは良かった。浮世絵なのでサイズは小さいものがほとんどだからだ。

こちらも音声ガイドを借りた。最近の音声ガイドは生真面目さがなくて面白いし、気分を変えてくれるので便利だ。

この展覧会では、先輩の国貞と若い国芳の切磋琢磨を見ることができる。国芳の三枚を連ねた大胆な構図は役者の舞台に広がりと動きを与えている。

一瞬を捉えているというよりも、部分を見るたびにそこにいる役者が動くアニメーションのように感じられた。

音声ガイドの解説では、役者や花魁は今のスターやセレブ的な存在だったという。綺麗な着物に流行の髪飾りに化粧をして船に乗って花火を見る。だんだんと江戸の暮らしの豊かさが羨ましく思えてくる。

浮世絵はポスターであり、ファッション雑誌であり、現世の浮世の生活を捉えたものだ。

多色摺の細やかな技術は、分業によって洗練されていった。浮世絵のような版画は「絵師」「彫師」「摺師」が力を合わせて完成する。

国芳や国貞のように「絵師」の名前ばかりが残っているけれど、優れた彫師や摺師も競い合ってお互いの評判を気にしたに違いない。

国貞の役者絵の構図はきっちり真面目な印象がある。明るい色彩の役者絵には銀色も多く使われ、見る角度で反射して色が変わるのが美しかった。摺りの色がとても薄いところがある、とても繊細な色出しだった。

浮世絵はどの工程の作業にも「気合いで決めてドン」というような潔さがある。

線一本を残してギリギリで彫るのも、色の版に紙をピッタリ合わせて置くのも、バレンで摩擦して紙をさっとはがすのも、モタモタしていられないものばかりだ。自分の手を信じていないとできない動きができている人たちなのだ。

もちろん、絵師の筆の動きの抑揚が素晴らしいからこそ、その勢いを彫りで損なわず、摺りで甘くならないようにしているわけだ。

世の中、どんなものも連携プレーで出来ているけれど、お互いに尊敬とプライドがあるからこそうまく流れていく。日本の美しい仕事が残る浮世絵が、外国でも大切にされ続けてきたのが嬉しい。

こちらのグッズでは、展覧会場限定のガチャで手に入る国芳の根付(ストラップ)が話題だ。コップのフチ子で有名な奇譚クラブ製作のもの。

グッズコーナーにはクリアファイルや布物はあったけれど、キーホルダー的なものはこれぐらいだったので試してみた。一回400円だ。

・歌川国芳根付
http://eimu.com/dgcol/gas01.jpg

最初に出てきたのは「猫骸骨」で、ドクロをよく見ると白い猫が集まってできているというもの。公式WEBのトップページ、右の男の役者の着物の柄として描かれている。

この根付は裏まで猫が詰まっていて、ものすごくよく出来ている。本物の浮世絵では、横はあるけれど裏までは見えないので、立体化した人の技だろう。

根付一番人気は「踊る猫又」で、私もこれが一番欲しかったものだ。夫がガチャを回した時に出てきたので、その後は夫に頭が上がらない一日となった。

・「踊る猫又」根付
http://eimu.com/dgcol/cat01.jpg

猫又は尻尾が二つに割れている猫の妖怪で、浮世絵の中でも同じポーズで踊っている。浮世絵では後ろ姿も描かれているので立体化しやすいキャラかもしれない。

それにしても、手ぬぐいを頭にかけていたり、浮世絵特有のカクカクっとした筆の動きも感じられて、なんと素晴らしい立体化だろうか。

たぶん、普通に記念グッズで売るとしたら1000円はしてもおかしくないと思う。ガチャガチャなので安いのかな。下駄も揃えばコンプリートだったけれど、欲しかった猫又が出たところで満足だったので2コだけのゲットとなった。

若冲展は終了してしまったけれど、国芳国貞展はBunkamura ザ・ミュージアムで6月5日までやっている。声に出して笑いながら見ている人もいて、浮世絵の楽しさが伝わる展覧会でオススメだ。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/

ワークチェアのキャスターが壊れてボロボロしてきた。替えが売っているけれど、ポリウレタンだとまたボロボロしそうだしナイロンだと転がりすぎそうだし、ゴムだと転がらなさすぎそう。結局は一番中くらいの摩擦のポリウレタン製キャスターにしとくかな。