映画ザビエル[17]綺麗ごとを、あなたに/カンクロー

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◎未来を生きる君たちへ

原題:HAEVNEN
制作年度:2010年
制作国・地域:デンマーク、スウェーデン
上映時間:118分
監督:スザンネ・ビア
出演:ミカエル・パーシュブラント、トリーヌ・ディルホム、ウルリク・トムセン

●だいたいこんな話(作品概要)

エリアスは学校でいじめを受けていた。父アントンは医師としてアフリカ難民キャンプとデンマークを行き来する生活が続いていることで、エリアスの抱える問題に気付けずにいる。

ある時、いじめられていたエリアスは、転校生のクリスチャンに助けられ、二人は急速に距離を縮めていくのだが。

第83回アカデミー賞で最優秀外国語映画賞を獲得。





●わたくし的見解

子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいなことを殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ。

これは、太宰治「桜桃」の冒頭文である。

「未来を生きる君たちへ」は、決して夫婦喧嘩を持ってまわった物言いで描いてもいないし、一粒のさくらんぼさえ登場しない。

だからといって、このおせっかいな邦題のごとく、未来を生きる子供たちに向けて、あるいは子供たちの世界を物語としている訳ではないと思う。

「子供より親が大事」とまでは言わないけれど、子供たちの親、大人たちの物語でもあると強く感じた。

二人の少年、エリアスとクリスチャン、そして彼らの家族が中心に描かれている。原題は「復讐」とのことで、さすがにタイトルが(たとえ血文字でなくとも)漢字で「復讐」となれば、観客動員も期待出来ず、配給会社も邦題を考えて当然とは思う。

しかし、だったら英語タイトルの「IN A BETTER WORLD」でいいじゃん、などと邦題についての文句はつきないが、それはまた別の話。

少年たちと、エリアスの父(アフリカ難民キャンプで医師として働いている)の姿を、カメラは主に追いかける。それぞれに、理不尽なほど一方的な暴力が襲いかかるのだ。

暴力に対して復讐を是とする子供たちと、非とする姿勢を貫きたい、またそれを子供たちに理解して欲しいと切に願う父親。

主人公たちが皆、真摯に生きている。これはスザンネ・ビア監督の映画に見られる共通点で、私がとても惹かれている部分でもある。

映画の彼らはみんな、それぞれにベストを尽くして生きている。しかし、だからといってベストな結果が得られるとは限らない。むしろ得られないことの方が圧倒的に多い。そしてベストを尽くしても、必ずしもそれが正しいわけでもない。

このあたりのシビアさがリアルで、観ていて正直しんどいけれど、ただただ重苦しいだけでは終わらない。映画の中に、スプーンひとさじの綺麗ごとがある。これも私がスザンネ・ビアの作品を好もしく思える重要な要素だ。

この物語を、このように解釈して、このように感動してください。というお膳立てが非常に弱い映画だ。そのくせ結局は綺麗ごとか、と物足りなく思われる人もいるに違いない。でも私は、映画に綺麗ごと、何がいけないの? と思う。

生きるということは、たいへんなことだ。あちこちから鎖がからまっていて、少しでも動くと、血が噴き出す。(太宰治「桜桃」より)

現実はいつだって厳しい。せめてフィクションに綺麗ごとを。フィクションの中だけでも正しい世界を。

スザンネ・ビアは、ハリウッドに進出したこともある監督なのだけれど、この作品のように古巣デンマークで映画を撮り続けて欲しい。そう強く感じた。

綺麗ごとの分量がハリウッドだと変わってしまうのだ。ヨーロッパで撮ると、ちょうどスプーンひとさじ位で心地よいのだ。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。