もじもじトーク[43]藤田重信さんの仕事の流儀
── 関口浩之 ──

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

6月13日にNHKで放映された『プロフェッショナル 仕事の流儀 〜異端の文字、街にあふれる〜 書体デザイナー・藤田重信』の番組ご覧になりましたか?

書体デザイナーにフォーカスした『プロフェッショナル 仕事の流儀』の番組は、はじめてだと思います。楽しくて、あっという間の50分間でした。




●書体の持つ不思議な力

番組の冒頭、「書体が変わると印象が変わる」をテーマにして、藤田さんが制作および監修したさまざま書体が紹介されました。

では、番組で紹介された藤田さんの素敵な書体たちを一挙、Webフォントでご紹介します。じゃ〜ん。
http://goo.gl/yT9hkh


ここで紹介したのは8書体のみですが、藤田さんがいままで開発した書体は130書体以上のようです。

1書体制作するのに数年かかると言われてますので、チームで開発したとはいえ、質の高い書体をこれだけ世の中に生み出し続ける人は、他にはいないような気がしましす。

さて、この8書体の中で個人的に最も好きなのは一番上の「筑紫アンティークL」です。『春夏秋冬』って表現すると、この書体、目を引きますよね。古き時代の良き風合いを継承しつつ、でも新鮮さも感じます。

この中で一般的な明朝体は二番目の「筑紫明朝」ですかね……。何をもって一般的と定義するかは難しいですね……。

一般的を、見慣れていると定義したならば「MS明朝」や「ヒラギノ明朝」になるので、それらと比較すると「筑紫明朝」は一般的ではないかもしれません。

三番目の「筑紫B丸ゴシック」は最新のMAC OSに搭載された書体のひとつです。この丸ゴシック、かなが特徴的ですね。

六番目の「クレー」ですが、藤田さんはこんな説明してました。硬い鉛筆的なもので硬い楷書体です。なるほどと思いました。カタログみたら「硬筆体」と分類されていました。

一番最後の「パール」。個人的にはこれも結構好きです。神前結婚式場で使うとマッチしそうですね。

●追求する曲線美

藤田さんの講演を何回か聞いたことがありますが、必ず、曲線美の話がでてきます。過去にこんな話を聞きました。

・蝉の羽根にはいろんな曲線がある。その中でクマゼミの羽根の曲線は美しい。

・オバQの背中の曲線はかわいい。

・車のクーペのカーブはまっすぐに見えても、よく見ると美しいカーブを描いていることが多い。

藤田さんは、文字のハライのストロークにすごくこだわっているいると思います。ある時は、ここまでもかというぐらい伸びやかなんです。ビヨーンって感じです。

たとえば、最初の「筑紫アンティーク」の『姉』の文字をみるとよく分かります。そうかと思うと、うろこやハネの小さな部分においても、曲線を巧みに計算しているような気がします。

●引き算と足し算

番組の中、字游工房の鳥海修さんと藤田さんとの会話が印象的でした。

鳥海さんと言えば、ヒラギノを開発した書体デザイナーです。そして、字游工房はフォントワークスにとってガチンコの競合会社です。

でも藤田さんは、一年半後にリリースする予定の新書体の文字見本を持って、鳥海さんに意見を聞きに訪問したのです。そのシーンが放送されました。

鳥海さんからこんな発言がありました。

・「い」とか「む」、「し」とか「そ」、「て」もぜんぜんダメだな。

・僕はみそ汁を作るときに洗練された味噌汁を作る。でも藤田さんはいろんなものを添加している。いままで食べことない多国籍料理みたいな感じかな。

つまり、鳥海さんは引き算、藤田さんは足し算のアプローチなんですね。一見、引き算のほうがかっこいいと思われがちですが、どっちがいいということではないですね。

引き算の美学、足し算が生み出す個性、ということです。

藤田さんは、こんなことを言ってました。

・20年とか50年たってみないと良いのか悪いのか分からない。

・あれば亜流だったねで終わるか、あれば正解だったねと評価されるかは、わからない。

●開発情報をツイッターで公開

番組の最後のほうで『これは普通だね』や『いいね』の反応じゃつまらないと言っていました。普通の反応じゃあ、一年半後リリースする「Bヴィンテージ」の意味がないと……。

おおっ、将来リリース予定の新書体をテレビ番組で発表しちゃうのね。なんかすごい……。

実は、藤田さんはツイッターで新しい書体の開発情報を、どんどん発信しているのです。

このツイッターまとめ記事では1,000件近く、藤田さんのツイートが掲載されています。最初の10件ぐらい見るだけでも、すごく楽しいですよ。ぜひ、ご覧ください。
http://goo.gl/JAVGYG


普通の会社では、新製品は極秘で開発が進められるはずですよね。でも、藤田さんはどんどん発信して、意見を聞いちゃうのです。

この番組を見ながら、たくさん笑いました。たくさんうなづきました。そして泣きました。こんな素敵な番組を編成してくれたNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』のプロデューサー、スタッフに感謝です。

最後に、この番組のツイッターまとめ記事を紹介しますね。なんと、5,000件近い、ツイートがあったようです。すごい。
http://goo.gl/iEu0oC



【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。