[4153] ショート・ストーリー「お乗りください」

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《ボクは結構なビビりなのだ》

■ショート・ストーリーのKUNI[196]
 お乗りください
 ヤマシタクニコ

■はぐれDEATH[02]
 引っ越しドタバタ顛末記 その2・七時間の地獄
 藤原ヨウコウ




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■ショート・ストーリーのKUNI[196]
お乗りください

ヤマシタクニコ
https://bn.dgcr.com/archives/20160630140200.html

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ある朝、おれが会社に遅刻しそうになって思いきりあせっていたとき、そいつは現れた。おれの目の前に止まって、

「お乗りください」と言う。

それは君もきっとネットの動画で見たことのあるロボットによく似ていた。四本の脚と胴体とも呼べないような胴体でできていて、まるでまだ製作途中でめんどくさくなって放り出したような外見にもかかわらず、巧みに柔軟な関節を駆使してひょいひょいと歩く、障害物もものともせず、どこまでもひょいひょいと進むあのロボットに。同じではないけど。

そのロボットはおれの前でひょいっと背を低くして、もう一度言った。

「お乗りください」

おれは乗った。会社に遅刻しそうなことを伝えると、そいつはすぐさま歩き出した。けっこう大股ですいすいと歩くから、思ったより速い。おお、この分では遅刻しなくてすむかもしれない。

「いやあ助かった。うちの会社ってやたら通勤に不便なとこにあってさ、バスに乗って10分、電車に乗り継いで20分、途中で急行に乗り換えて、下りたらまたバス。しかもそのバスというのが本数が少なくて、1時間に2本だよ。何が悲しくてあんなとこに事務所を置いたかねえ。田舎だし。時々タヌキの親子がやってくるんだ。はははは」

ロボットは快調に走っていた。乗り心地は悪くない。ロボットの背中はけっこう広い。座面に使われている素材は柔らかく、かといって柔らか過ぎず、いい感じだ。

上下動はほとんどなく、安定感は抜群。ほおおおお。よくできているもんだ。見かけはぱっとしないが性能は上々というわけだ。

おれは楽しくなってきた。まわりの景色を眺めてみる。細い道でも入っていけるのでバスが通らない道を通ったりするから、新鮮なのだ。きょろきょろと見るのに徹していると、気のせいかそいつの歩き方が遅くなってきた。

「おれ、ロボットに乗るのって初めてなんだけど、けっこう快適なものだな」

「ぶんぶんぶん 蜂が飛ぶ」

ロボットはなぜか歌を歌い出した。

「しかし今日みた夢は最悪だったな。トイレのドアを開けたら社長がいてあわててドアを閉めて台所に行ったらそこにもいる。冷蔵庫を開けても社長がいる。なんだか足がむずむずするのでスリッパを脱いでみたら中から小さな社長が出てくる。まいったなあ。おれ、よっぽど疲れてるんだなあ。

だいたいうちの社長、どうしてあんなに漢字に弱いんだろなあ、いや、あれはわざとか。『股間』を『またま』と読んだり『様子』を『さまこ』と読んだり。はずかしいのでそのつどおれたちが指摘するんだけど、またすぐに忘れるんだなあ。

いや、漢字だけじゃない。『市中引き回し』を『市中引きずり回し』と思い込んでたりするし、『ひらがな』を『ひがらな』と言ったり、ほんとになんというか変な人で、もうどうにかしてほしいんだよねー」

ロボットは早足になった。どんどん進む。

「ところがその社長に愛人がいるというんだから、世の中わからないよな。なんでも社長より7つ上とか。あの社長より年上って、ありえないよな! 男まさりのしっかりした人らしいから、ひょっとして社長ってマザコンかも」

ロボットは速度を上げ、ひょいひょいひょいひょい進む。いいぞ、その調子だ。

なんだかちょっと疲れたなあ。そういえば急ぐあまり朝ご飯を食べそこねたのだ。腹が減ったなあ。何も食べてない割にしゃべりすぎたせいか…としばらく黙っていると、またロボットの歩みがゆっくりになってきた。とろっ、とろっ、とろっ…。

「ん?」

おれの頭に何かがひらめいた。おれは試しに話してみた。

「この間、家でラーメンを食べながら新聞を読んでたら近所で、いきなり『わあっ!』というでかい叫び声が聞こえてびっくりしたんだけど、なんだったと思う? うわさでは◯◯さんちのご主人が買った宝くじが一等だったらしいんだ。家族そろって当たり番号と照らし合わせていて、思わず声が…あ、また歩き方が速くなってきた。おい、ひょっとして」

おれはまさかと思いながら聞いた。

「ひょっとして、おれがしゃべるとどんどん速く歩けるのか?!」

ロボットはうなずいた。一応、頭のようなものがついていて、それが上下したというか。

「で、おれが黙るとだんだん歩けなくなる?! そんな! おまえは…乗る人間のしゃべりからパワーを得るのか?!」

ロボットは、はいはいと言わんばかりに連続でうなずいた。

「まじか! いや、でも、おれもそんなにずっとしゃべり続けるのもあれだし、いいよ、もうそろそろ下ろしてくれても。ていうか、ここはどこだ?!」

なんだか見たことない地区をおれとロボットは歩いていた。やたらと眺望が開けているのが不気味だ。人も車も通っていない草原にびゅうびゅうと風が渡り、電線が揺れる。

何なんだこれは。ちょっと遠くに来てもいつもの私鉄沿線ならなんとはなしに見当がつくものだが、そんなレベルではない。他府県、いやほとんど異国の雰囲気さえ漂う。

「すみません。道を間違えたようです」

「なんだと?!」

「心配いりません。だいたいの方角さえわかれば、いつか着きます」

「いつかって、いつなんだよ!」

おれは心細くなった。

ロボットは足取りだけは軽やかにひょいひょいと歩く。とんだものに乗ってしまった。乗らなきゃよかった…そう思って黙り込むと、ロボットの速度がまたとろとろと落ちる。しゃがみこみそうになる。

ロボットを虐待しているみたいで気分悪い。おれはあわてて話題を頭の中で探し、しゃべり出す。

「む、むしの運動会があってさ、なんでも5年ぶりの開催なんだって。さて、優勝したのはどんな虫?! 答はゴキブリ…5期ぶり、なんちゃって!」

ロボットはほとんど止まりそうになった。おやじギャグを言ってはいけないようだ。あせる。うーん…おとといの晩ご飯のおかずはなんだっけ。ああ、思い出した。唐揚げ弁当を買って帰ったんだ。よし、まだだいじょうぶみたいだ…いや、認知症のテストをやってるんじゃないって! 

うううう…おれは思いあまって歌を歌ってみた。どんぐりころころから水戸黄門、ひみつのアッコちゃん、ちびまるこちゃん、北国の春、学生街の喫茶店…。

ロボットはかろうじて、進んでいるかいないかと聞かれたらまあ一応進んでいるのかなあという状態だ。

「歌はだめなのか」

「だめなことはありませんが、情報量が少ないので効率が悪いです。あと、あなたは少々音程がはずれます」

「ほっとけ。しかし、なんとか着いてもらわないと。あー、困ったな。えーっと。会社の同僚の大山くんが、最近盆栽つくりを始めた。なんでも世界一大きな盆栽を目指すんだそうだ。3メートルくらいのって、それは盆栽というのかなあ」

ロボットはひょいひょい歩き出した。

「その大山くんの隣の席の平野さんはものすごい美人で」

ひょいひょいひょいひょい!

「でも、来月結婚するんだけどね」

ひょい、ひょい…。

「…おまえ、案外いいやつかもな」

「ぶんぶんぶん 蜂が飛ぶ」

なんだこれ。2回目だ。あ、そうか。こいつは照れたときにこの歌を歌うのか。おれはなんとなくこいつに親近感を覚え始めた。よし、なんとかこいつがひょいひょいと歩けるような話をたくさんしてやろうじゃないか。

そんなわけでかれこれ4時間もの間、おれはしゃべり続けた。

親戚一同の人間関係から牛丼の作り方、自分のツイッターのアカウント、ズボンのサイズに好きなアイドル、きのこの山とたけのこの里ではたけのこのほうが好きなこと、手を組んだときは右手の親指が上にくること、エビフライのしっぽは食べるがエビ天のしっぽは食べないこと、トイレに行く前と行ったあとで体重が3キロも違ってびっくりしたこと、母親の趣味がサルの人形つくりであること、『必』の筆順がいまだにわからないこと、友達に三代続いた双子がいることなどなど思いつく限りしゃべった。

ロボットはひょいひょいひょいひょい進み、進み過ぎて会社の場所をとっくに通り過ぎていたことがわかってまた後戻りして、紆余曲折を経てなんとか会社に着いた。

おれはもう、しゃべりすぎでのどがからから、腹はぺこぺこだった。もう少しかかっていたらロボットの背中で意識を失っていたかもしれない。

「なんだ、無事だったのか」

会社の前で社長がいつものようにほうきとちりとりを手に、背中にはモップを背負って立っていた。掃除が趣味なのだ。

「君の来るのがあまりにも遅いので大山君に『あいつは一人暮らしだし、心配だから一度、さまこをみてきてくれ』と言ったばかりだよ。それに乗ってきたのか」

「はい、遅くなりましたが」

おれはまだロボットに乗ったまま言った。

「あまり余計なことを言わなかっただろうな」

「ええっ?」

「そいつは最近あちこちに出没していてね。どうも何者かが情報を集めているらしいんだな」

「ええっ?」

「かなり乗り心地がいいからみんなリラックスして、ついつい何でもしゃべってしまうらしいんだよ。ていうか、しゃべらないと動かなくなるだろ」

そういう社長の背後に、おれは見た。おれが乗っているのとそっくりな四つ足のロボットがどこからかすうっと現れ、道を歩いていた中年の男に「お乗りください」と呼びかけているのを。おれはぞっとした。思わずロボットに問いかけた。

「そうなのか? おまえ…そうなのか?」

ロボットは応える代わりにぶつぶつつぶやいていた。耳を近づけると「記録完
了、記録完了…」と聞こえた。


【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
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少し前、朝日新聞の「作家の口福」というエッセイのコーナーで姫野カオルコさんが怒っていた。たとえば、よく料理雑誌などで某店の料理が紹介されるとき、その店の料理を「食べる」ではなく「いただく」と書かれていたりする。

「いただく」は謙譲語であり、相手を敬い、自分がへりくだることばであるから、雑誌は「読者をして、某店に対して、謙譲させていることになるではないか。…『食べる』とニュートラルに書くべきではないか」というような趣旨だ。

私は「いただく」はなんとなく丁寧語のような気がしていたので、え、そうなの、と調べたら確かに謙譲語だ。とはいっても、食事の前に「いただきます」というのは、「いま、このようにして食事できるということに」感謝する言葉だと思っていた。

料理を作った人に対してではなく、もっと大きなものに対してへりくだるというか…。だから、丁寧語みたいなものかと。でも、確かに最近「いただく」が氾濫気味であるとは思う。「食べる」でいいじゃないかと思うことも多いよね。


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■はぐれDEATH[02]
引っ越しドタバタ顛末記 その2・七時間の地獄

藤原ヨウコウ
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この日(水曜日)の引っ越し荷物の引き取りは、13時頃から始まり一時間強ほどで終わってしまった。ボクはこの後、深夜バスに乗って京都へ向かうことになるのだが、出発は夜の23時半。

荷物が何もない部屋で、何して時間を潰せっちゅうねん……それでも、iPadで遊んだりなんかして、なんとか16時頃までねばった。

だが、落ち着きがないことでは人後に落ちない。そんな自信の持ち主である。時間つぶしの具体的なプランも持たないまま、バスが出る横浜へ向かうことにした。これで約七時間の地獄が始まることになる。

お金がないときの暇つぶしの定番と言えば、ボクの場合はアルトサックスの試奏である。これはとても楽しい上に、結構な時間消化ができる。お店の方はたまったもんではないだろうが、ボクはこの手をよく使っていた。

だが考えてみれば、この手が通用したのは御茶ノ水や大久保のような、管楽器店が多数ある場所だったのだ。横浜にそんなオイシイ密集スポットがあることは聞いたこともない。

JRで移動中に検索してみたら、案の定それらしい場所はない。それでもお店を二店ほど見つけたので、取り敢えず納得することにした。

横浜駅に着いたのはいいのだが、実を言うとボクはこの辺の土地勘はゼロに等しい。そもそも関東で、ある程度分かりそうな場所というのは、極めて局地的なのだ。新宿東口・西口界隈、御茶ノ水〜神保町界隈、吉祥寺。

あとは出版社がある界隈。あれ? ホンマに少なすぎる……三年間の関東滞在といっても、しょせんはこの程度なのだ。

ボクの行動パターンがいかに偏っているかを知る、良いデータなのかもしれないが、はっきり言ってボク以外の人には何の役にも立たないのは言うまでもあるまい。

そもそもボクは、人混みが極端に苦手なのだ。加えて東京である。田舎もの特有の(?)猜疑心と恐怖におののいていたことは、想像しやすいだろう。

それでなくてもボクは、結構なビビりなのだ。そうは見えないらしいのだが、人を外見で判断してはいけません。立派な小心者なのである。非常識だけど。

さて、ここで登場するのがGoogleマップ君である。一昔前(いや二昔かそれ以上か?)なら、地図を片手にぼんやりと行くところだが、いくら時代錯誤な感覚の持ち主のボクでも、iPhoneくらいは使える。

ところが、これが悲劇の始まりだった。さっさと地上に出てしまえばよかったのに、Googleマップを頼りにして地下道をうろついたのが大失敗だった。

適当なところで地上に出たのだが、自分がどこにいるのかさっぱり分からない。地下道でうろうろしてしまったので、東西南北の感覚が完全に失われていたのだった。

昔なら太陽光を頼りに、自分の位置をある程度特定していたのだが、この時ばかりは文明の利器のおかげで、あさっての場所にポツンである。

とにかく、Googleマップと周りの建物を照らし合わせながら、今いる場所を特定するという面倒な作業をしなければいけなくなった。その結果は、目的地とまったく逆方向に向かってずんずん歩いていたという、アホな状態が判明。

さっさと地上に出ておけばよかった、と思っても後の祭りである。今度は地下には降りずに、地上を歩くことにした。この程度の学習能力はある。

ちなみに、最後までGoogleマップと折り合えなかったのはスケール感である。便利に拡大・縮小表示ができてしまうので勘が狂うのだ。一応「徒歩で○分」と表示をしてくれるのだが、こんなものは参考程度でしかないし、距離表示をされてもいまいちピンと来ない。

世代のせいもあるかもしれないが、紙の地図の方がボクにはしっくりすることが、この日判明した。

あっちで迷い、こっちで通り過ぎを繰り返し、本来なら10分ほどで着く(実際帰りはその程度の時間しかかからなかった)はずの目的に着いたのは、約30分後である。

これでしばらく休めるわいと胸をなで下ろしたのだが、お店に入って愕然とした。管楽器コーナーがめちゃめちゃ狭い上に、展示されている楽器も、ボクならまず試そうとすらしたくないものばかりだった。必死で辿り着いてこのていたらく。どっと疲れが出た。

気を取り直して、といきたいところだが何となく悪い予感はしていた。案の定、次のお店も似たような状態。御茶ノ水、大久保をでふぉに考えていたボクがアホだったのだ。というか、あの場所が特殊なのである。当てが外れて歩く気もなくした。

もっとも、普段の運動不足がこの頃から露呈しはじめていた。とにかく足の疲れが酷いのだ。部屋を出て二時間も経っていないのに、ここまでダメージがくるとは想像もしていなかったので、こっちでもショックを受けた。

東小金井から神奈川に移って、運動量が極端に減った自覚はあったのだが、まさかここまでとは。かてて加えて、この後の時間つぶしやら、翌日の強行軍の予定を想像すると、どこまでダメージが広がるのか、この段階では想像すらできない。

膝と足首のサポーターを、引っ越し荷物の中にぶち込んでしまったのを後悔するばかりである。

その後、どこをどう彷徨い、どこでへたって持参の本を読んでいたのかよく憶えていない。憶えているのは徐々に酷くなる痛みだけだ。

じわじわと容赦なくダメージが蓄積されていくのが、実に不気味だった。両足の裏、右膝、左足首、ついには両股関節まで痛み出したのには驚愕した。

とにかくバスに乗り込んでようやく、少しホッとした。これで京都までは座っていられるのだ。幸い隣の席は空いている。これだけでちょっと幸せな気分になれる、というのも正直どうかと思うが、嘘偽りのない思いである。

ある意味、これも三年間の単身赴任の成果(それも負の方向の)だ。京都にいた頃は、何だかんだで賀茂川でアルトを鳴らしていたので、それなりの運動はしていたのだ。

ちなみにボクの練習は、音をでかくするだけなので、とにかく体力を消耗する。テクはどうでもいいのだ。とにかく長時間休みなくでかい音を出し続ける、というアホなコトしかしていない。

考えてみれば、練習するときはしっかりストレッチもしていたしなぁ……いや、ちゃんとストレッチをしておかないと、腹筋や側筋、背筋がつったりしてエラいコトになるのだ。

関東に行って練習する機会が極端に減ったどころか、神奈川にいた二年間は、まったく練習をしていなかったので、もちろんストレッチだってやってない。そのツケがこんな場面で出ようとは。

バスに乗って、ふとiPhoneのバッテリー残量を見たときはびっくりした。40%を切っていたのだ。慌てて車内にコンセントがないか探したのだが、ケチりまくって安い便にしたせいで、この手の設備がないことにやっと気がついた。

そっこーで寝てしまおうと思っていたのだが、海老名SAで簡易充電器を買うまでは寝られない。そもそも売ってるのかどうかも疑問である。

疲れと不安の時間を悶々と過ごしたわけだが、幸い簡易充電器は手に入った。やっと安心だと思ったら、ボクは泥のように眠り込んでしまったのである。


【フジワラヨウコウ/森山由海/藤原ヨウコウ】
YowKow Fujiwara/yoShimi moriyama
http://yowkow-yoshimi.tumblr.com/

http://blog.livedoor.jp/yowkow_yoshimi/


装画・挿絵で口に糊するエカキ。お仕事随時募集中。というか、くれっ!


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編集後記(06/30)

●小川榮太郎「一気に読める『戦争』の昭和史」を読む(ベストセラーズ、2015)。昭和の戦争を大局的に捉え、一気に読んでスッキリ解決できる本を目指したという。いままで昭和の戦争テーマの本をいくつも読んできたが、これほどわかりやすい本は初めてである。主な出来事、戦闘ごとに記述を区切っているので、一つの事件を完結した事柄として理解できる。前の事件からのつながり、次の事件への結びつき、その因果関係もわかりやすい。日本側の動きだけでなく、外国との相関関係を追体験できるしかけがある。「外交」と「軍事」との双方で、努めて戦略的な観点から分析している。

歴史をよくある「上から目線」で論評していない。当時の指導者の判断を嘲笑するような書き方はしていない。歴史を考えるときは、当事者になる想像力が必要だ、というスタイルを通している。特定の歴史観に縛られていないというのも特長である。「東京裁判史観=侵略戦争史観」ではない。「大東亜戦争肯定史観=アジア解放史観」でもない。歴史をある観点からのみ肯定することも、否定することも不可能である。そうした単純な歴史の裁断をしない。といった配慮のもとに書かれた本である。いままでわたしは「自虐史観」を嫌悪してきた。この本は自虐でも自尊でもない。当事者史観、といっていいのだろうか。

たとえば、支那事変は主権国家同士の「近代戦争」ではなく、日本と国民党と共産党の「三国志」だった、という見方は新鮮だ。支那事変の開戦責任が不明だったため、この戦争は国際社会において日本による侵略戦争とされてしまった。しかし、この戦争を仕掛けたのは日本でも国民党でもなく、中国共産党である。戦争初期、日本側は全力で戦争回避努力をし続けた。巻き込まれた日本は、なんら国際社会を説得できる戦争目的がないまま勝ち進む。国民党を対日戦争の矢面に立たせて弱体化させながら、安全地帯の農山村で共産軍を増強し、日本と国民党を共倒れさせて、漁夫の利を得たのが共産党(毛沢東)である。

「自分の目、自分の思考力で、自分の国の歴史を、世界地図と世界史の真っ只中に置きつつ、じっくり眺め、反省や批判すべきは存分にするが、同時に、尊敬すべき偉大さは存分に称賛する……人としてあたりまえな、こうした態度で『昭和の戦争』を眺める新時代を、我々はいい加減築き始めねばなりません。本書はささやかで不十分ながら、その試みです」と結びにある。70年前の世界情勢、70年前の価値観の中で、日本がどんな戦いをしたのか、非常にわかりやすく描かれていた。昭和の戦争史をひと通り知りたいが、自虐も自尊も鬱陶しいからイヤ、そういう人におすすめである。わたしも目がさめた。 (柴田)

小川榮太郎「一気に読める『戦争』の昭和史」
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●さまこに爆笑した。ロビは可愛い……。/私なら本屋巡り。今だと椅子や店内カフェがあったりするし。あ、あとGPSを使って遊ぶIngress。活動量は減ったけど、通りすがりにぽちぽち。iPhoneにはGPSがあるので、現在位置や向きはわかるはずだが……。Wi-Fiをオンにしておけば地下道でも大まかな位置は把握できる。ビル街は厳しいけど。

アニメ「弱虫ペダル」の第一シーズンを、Amazonプライム動画で、ながら見。「はじめの一歩」と同じで、素人の主人公は意図せず身体を作っていて、まわりの協力と努力で成長していく話。ワクワク。自転車漫画だと「シャカリキ!」も好きだ。

「ガラスの仮面」の実は天才でしたというのとは違う。「僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)」のまったく才能(適性・個性)のない子が努力と出会いで、というのとも違う。

いやどの主人公も、才能の有無にかかわらず努力はしているんだが。結局こういう話が好きなのね。 (hammer.mule)

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弱虫ペダル

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はじめの一歩

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シャカリキ

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ガラスの仮面

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僕のヒーローアカデミア