ローマでMANGA[99]mangaとマンガの融合が始まる/midori

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりしていきます。

●mangaの影響を受けていない絵柄で作品を描く

「天才的なプロジェクト」はまだ形にならない。11月に話が出て(出して)、その後もだらだら、のろのろと進んでいるもの、興味を示した出版社見つけて「2月あたりから掲載になりそう」てっいう話はどこかへ逝ってしまった7月なのだ。

「天才的なプロジェクト」というのは、今年の1月29日配信のデジクリで触れた、学校の原作者と作画家(どちらも、それぞれプロとして仕事をしながら学校で講師をしている)とのコラボのことだ。
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20160129140000.html

どこが天才的なのかというと、イタリア人の頭から出た物語に、日本人の私がmanga式の構築法を駆使して構成をし、イタリアのマンガ界で仕事をしている作画家(イタリアではマンガ家と言うと作画担当の意味になる)が絵をつけるという折衷なところだ。

このプロジェクトの重要なところは、mangaの影響を受けていない絵柄で作品を描くところだ。manga風の絵柄でmanga構築法で構成された作品だと、エセmangaと見られてしまう。





エセmangaが悪いわけではないが、今回の私の目的はmangaは絵柄のことではない、と証明するためなので、まずいのだ。

原作者のフランチェスコはすごくたくさんの本を読み、映画を見る人で、知識量がすごい。学校では、e-Bookのコースを持ち、「創作的思考開発」というセミナーも持つ、学校内出版部の編集者でもある。

フランチェスコが出してきたストーリーは、流行りのゾンビが出てくるがゾンビはメインではなく、主人公の特殊性を可能にするために設定した。

スリラーであり、深く読むと自我とはなんぞやという問いかけを拾い出す事もできて、なかなかよく考えてある物語だ。暗さがイタリアの読者に受けそうだ。どうしてイタリア人って暗い話が好きなんだろう?

●欧米マンガ式とmangaが程よく混ざった結果

フランチェスコが用意したのは31のエピソードに分け、各エピソードをあらすじ仕立てにしたもの。主人公やその他の登場人物の行動を追って書いてある。どういう気持ちで動いているのかは表現されていない。よろしい、私の出番はここだ。

同時に作画家のジャンピエロが、キャラデザインをした。フランチェスコはハッキリしたイメージを持っていて、自分のイメージに近い写真や画像を送って来た。

あ、こうした作業が始まる前にFacebookに非公開グループページを作り、ミーティングの場所を確保した。ミーティングはFacebookのメッセンジャーを通じて行う。「送って来た」と言うのは、このメッセンジャーを通じて送って来た、という意味。

最初のエピソードはプロローグだった。まだどこの出版社とも話をしていないので、判型やらページ数が決まっていない。

えっ、先にそういうことを決めてから制作にはいるんじゃないの? と思うかもしれない。でも、イタリアの場合、出版社によって条件が変わってくる。

とりあえずプロローグの完成原稿持って、出版社に売り込みに行くことにした。ここで、この日伊共同作業の象徴的な出来事が起こる。

プロローグは、主人公の青年が森の中を車で行き、突然現れた障害物に驚いてハンドルを切って大木に激突。燃え出す車から這い出して、近くにあった川の中に消えてしまう。というもの。

企画の大将であるフランチェスコにお伺いを立てた。

「何ページ使っていいの?」

答えは何ページでも、お前が演出を考えるのだから任せる、とのこと。

プロローグを書いた4行を何度も読み返し、続く物語の展開と雰囲気を考え、頭の中でフィルムを回して、10ページくらいでいけるなと考えた。

「10ページでいけそう」という私の言葉に、フランチェスコは、

「えっ! 10ページも??! 2ページくらいでできると思ったのに」

言葉は使う人それぞれにのせるニュアンスが違う。フランチェスコと私が想定する「何ページでも」のページ数には、大きな隔たりがあったのだ。

フランチェスコは、どうしても行動を羅列するヨーロッパ式で考え(1ページの情報量が多く読む速度が遅い)、私は雰囲気やキャラの感情を伝えるmanga式(登場人物の行動と読者の読む速度が一致するので、読む速度が速い。キャラの一つの行動にコマ数が多く必要)に考えたのだ。

フランチェスコの「プロローグで10ページも必要なら、後はどうなるのか考えただけでも怖いよ」という言葉を尊重し、行動の羅列方式と感情をベース方式を混ぜることにして、4ページのプロローグにした。

フランチェスコの気に入るところとなったが、ジャンピエロが作成した原稿を元にもう一度考え、1ページ丸々使って「障害物」を挿入しようということになり、結局5ページになった。欧米マンガ式とmangaが程よく混ざった結果となった。

●日伊併合マンガならではの問題に直面

本編に入ってから、もう一件、日伊併合マンガならではの問題にぶつかった。

manga式構成といっても、市場がイタリアで、読者がイタリア人で、イタリア語を使うことで出てくる問題だ。

オノマトペが使えない!

mangaで普通に使っているオノマトペは、日本語の特徴から来ている。日本語は副詞が豊富だ。泣くにしても、「シクシク」泣いたり、「ワァワァ」泣いたり、「さめざめ」泣いたりできる。

そしてその「シクシク」「ワァワァ」「さめざめ」がそのままオノマトペとして使えるのだ。雨はシトシト降ったり、ザーザー降ったり。

欧米語は副詞がそれほどない。豊富なのは形容詞。

mangaを欧米語に翻訳する時に、翻訳家がすごく苦労するのもオノマトペだ。何しろ、ないものを作らねばならないのだから。

私がオノマトペを使いたかったシーンは、主人公が無言で玩具の修理をしているシーンだ。主人公のキッチリした性格を表現し、かつ、仕事場を見せながら仕事場にあるものと主人公と玩具の繋がりがなんだか妙だ、と読者に疑問を起こさせる役目がある。

一人で仕事をする主人公が、している事を独り言で読者に解説する事は避けたかった。動画だったら、主人公の手元や仕事場の様子を写しながら、聞こえるのは作業の音だけ、という風にしたかった。

日本語だったら、まずドライバーでネジを締めている手元を見せながら「キュッキュッ」というようなオノマトペを入れ、室内を描いたコマにそのオノマトペを入れれば、作業が続いていることを読者にハッキリ示す事ができる。

キュッキュッばかりでなく、「カリカリ」とか「カタッ」とかいう音も、作業中の音として入れる事ができる。

でも、イタリア語には、こうした作業を示すオノマトペが………………ない!

無理に作ったとしても、イタリアで普遍的なものではないので、読者には伝わらない。

ストーリーボードをフランチェスコに見せたら気に入ってくれた。でもオノマトペは入れても無駄なので、音のないコマが続くことになった。

欧米マンガ式に、ほとんどのコマにキッチリ背景があるので、出来上がりの原稿は寂しくはない。そか、オノマトペがない事も、欧米マンガでは背景が大事になる原因の一つになるのかも。

●あとは進むのみ! だったのだが

そうこうしてるうちに、フランチェスコとジャンピエロが目をつけた出版社に話に行って、気に入られて帰って来た。

月に10ページ、最終的に98ページの単行本3冊にする。メドがついた。これで、各エピソードに大体何ページ使えるのかも分かった。後は進むのみ!

早く仕上げてくれ! というフランチェスコをよそに、ジャンピエロはアーティストらしく、この物語にもっとマッチする描き方を見つけた、と言って、すでに出来上がっていたプロローグを全部描き直して三か月が過ぎた。

そして、消えてしまった。フランチェスコが他の作画家に換える! と脅かして「そんなに怒るなよ、月刊の仕事があるって言ったじゃないか」と言いつつ戻って、オノマトペなしの、玩具を修理するシーンを仕上げた。

そうこうするうちに、フランチェスコも締め切りに追われて消え、私も外出の仕事があって5月、6月が過ぎてしまった。

熱いうちに打てなかった鉄が冷めてしまったのか???

いやいや、イタリアマンガ界のためにもこの作品は世に出なければならぬ!頑張ります。

●イタリアからmanga家?

話はちょっとそれる。Silent Manga Auditionというのがある。コアミックス社の主催で、日本人向けと海外向けmangaのオーディションを行う。

日本語と英語以外の言語でも応募要項を読むことができるのは、おそらくここだけだと思う。積極的に海外の作品を受けるというのも、ここくらいだろう。

今年、3月末日締め切りで第5回があった。世界中から応募があって、一次審査を通った作品の中には、、、そして7月に結果発表があった。

イタリアはナポリのサルバトーレ君が準グランプリを獲得した。
http://www.manga-audition.com/sma05-2016award/

サルバトーレ君は、5年前にディアゴスティーニ社の「manga&Anime」の監修をしていた時に、同シリーズのネットコミュニティで知り合った。

すごい頑張り屋さんで、積極的に同志とグループ作って自費出版をし、Silent Manga Auditionにも参加を続けていた。

3月には特別回がもう一件あって、そちらでも賞を受けて日本に招待されたばかりだった。

何かを掴んだのだろう。SMAは他のマンガ出版社主催の新人賞と同じく、プロを育成するのが目的だから、準グランプリを取ったサルバトーレ君は編集部とコンタクトを取って、掲載に向けて準備中。

いよいよイタリア発のmanga家が出るか?!

こちらもmangaとマンガの融合だ。あっち(日本で発表のサルバトーレ君)からとこっち(イタリアで発表のmanga式構成の天才的なプロジェクト)からトンネルを掘っていって、開通して新しいマンガの誕生! をますます夢見てしまうのだった。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】midorigo@mac.com

密かに計画している物語がある。まぁ、思いついただけ、と言ってしまえばそれだけのことだけど。

古代ローマの話なので、塩野七生さんの「ローマ人物語」やその他古代ローマに関する本を読み漁っている。

Youtubeにも色々アップされてて、ローマ人が作った道路や、下水道や、上水道について知るとすごいなぁと関心する他はない。時を遡れば遡るほど愚かで、時代が進むほど賢くなって、その結果の我々が一番優れている、というのは思い込みに過ぎないと改めて思う。



つい最近パンテオンについての動画を見たばかり。世界で一番大きな丸屋根を持つ巨大な建物。これが二千年を経た後も、ほぼ完璧な形で残っている。

カトリック教会として使われたので、中世時代に破壊を免れたという幸運を別にしても、時の風化を受けず、重力に負けず重さをしっかりと支えるために施されたさまざまな工夫に舌を捲く。

レンガと石をうまく組み合わせ、丸屋根の頂上に向かって壁の厚さを削る。さらに軽くするために、模様のふりをしつつ、正方形に分けて中をへこませる。

丸屋根の頂上は直径9メートルの穴を開けてさらに軽くしつつ、光を取り入れる(丸屋根のてっぺんから光を入れると、外光の80%を取り入れる事ができるそうだ。建物の側面の壁からだと30%まで落ちてしまう)。

このやり方で80%も重量を軽減できたそうだ。他にも工夫がタップリ。

ローマでは当時の下水道を未だに使っているのは有名な話だ。

私はローマに住んでいるだけで、ローマ人ではないのだけど、なんだか得意な気持ちになってしまうのだった。まぁ、土木に関して天才的で、すべてに褒められることをしたわけではないけどね。

こうした動画で面白いのは、3Dの発達のおかげで、シミュレーション画像がふんだんにに使われて、本当に分かりやすく解説してくれること。今の時代に生きててよかった。

MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/