Otaku ワールドへようこそ![238]サンクトペテルブルクでロシアの本気を見た/GrowHair

投稿:  著者:  読了時間:30分(本文:約14,800文字)



朝、サンクトペテルブルクの街を一時間ほど一人で散歩してみた。ひょっとしたら寒いんじゃないかと、7月初旬なのに冬服も持っていったのはまったくの見当外れで、半袖で過ごすのに快適な気温だった。空気がからっと乾いていて爽やかだ。

ホテルを出て、目の前のリゴフスキー通りを右へと決めたら、あとはひたすらまっすぐ。道幅が広く、中央には路面電車の単線の軌道が走る。トロリーバスのケーブルも吊ってある。

歩道を照らす街灯用に立ち並ぶ鉄製のポールは、細いので視界の邪魔にならないし、しゃれた作りなのが歴史ある街の景観とよく調和している。

無粋な円柱の電信柱はどこにもない。路面電車やトロリーバスの架線は、両サイドの建物の側面から側面へと渡されたワイヤーで吊ってある。車道を照らす平べったい楕円体の明かりも吊ってある。

誰かが統一コンセプトの下に、街全体を設計したのではなかろうかと思えるほど、クラシックな趣きがあって美しい。壮大で荘厳。一度完成したら、景観を変えないよう、何世紀にもわたって維持しているのだろうか。

まるでテーマパークにいるようだ。人々が共有する愛国心が具現化して、こうなったのかともみえる。

しかし、とにかく、何もかもがデカい。ガリバーの巨人の国に来たかと思うほど。ひとつひとつの建物がでーーーっと横に長く、京都の三十三間堂に匹敵するくらいの幅がある。歩けども歩けども1ブロックが終わらない。

こんな。
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大きなデパートがあり、観光バスが何台も停まっている。その先には大きなターミナル駅があり、改札ゲートから人々がぶわぶわぶわっと吐き出されてくる。金曜の朝8時過ぎ。通勤途上の人たちだ。誰も笑わない。熱が逃げないよう、口をなるべく開かない土地柄なのだろうか。

店名など、表示されてる文字が絶望的に読めない。ものすごく心細くなる。馴染みのあるチェーン店などを見かけると、砂漠でオアシスに行き当たったかのごとく、ほっとする。

それって、いつもと言ってることが逆だ。いつもだと、そういうのは異国情緒に水を差してくるようで興醒めだと嫌ってたっけ。

“КАФЕ” は、そこらじゅうで目につくので、すぐ覚えられる。カフェである。“РЕСТОРАН”はレストラン。これだけは知っていた。

中学・高校時代に仲のよかった吉村行弘は、両親がロシア人と中国人で、ロシア語のアルファベットには発狂しそうになると言っては、よく「ペクトパー:РЕСТОРАН」の例を持ち出していた。

韓国料理の店が「かんこくしょくどう」とひらがな表記していて、したたかさを感じる。

リゴフスキー通りがT字に突き当たったところで引き返す。同じ道の逆サイドを戻ってくる。途中で酒屋みたいなお店に入り、水とジュースを買う。ジュースはアセロラドリンクみたいな味で、まあまあ美味い。

ロシア人女性の中には、ときおり、こっちの動作や呼吸が一瞬停止してしまうくらいの超絶美人がいる。もしあんなのとおつきあいできたら、平均寿命が短いのなんかあんまり気にならないよな。一方、男性の中にはプーチン大統領みたく頭が禿げてる人が、日本よりも圧倒的に多くいる。

建物の下のほうに開いている横長の四角い穴を通って、縁の下から犬が三匹、出てきた。でかい。太ってる。毛がぼさぼさ。歩道を堂々と闊歩していった。





●みんな揃ったところでまた散歩

9:00amにホテルに戻ってきた。ペクトパー、いや、レストランで朝食。さっきは席が空いてなかったので、あきらめて散歩を先にしたのであった。慌てていて、周辺地図をもらい忘れていた。フロントで言うと、ペラ一枚のをくれた。

7月1日(金)は特に予定が入ってなくて、近辺を散歩して過ごす日。10:00amにロビー集合。土日に予定されているイベントにゲスト出演するため、日本から行ったコスプレイヤーは、太宰ガロさん、晄貴さん、葉槻(はづき)憂哉さんの三人。ひよ子さんも、ドイツに引き続き、同行してくれた。

晄貴さんは、2006年3月4日(土)にパシフィコ横浜で開催されたコーエーのイベント「ネオロマンス・アラモード2」で撮らせてもらっている。さらに、その一週間後、3月11日(土) には、浜離宮にて、『遙かなる時空(とき)の中で』の和装姿で個人撮影させてもらっている。十年来のお友達だ。

ガロさんとひよ子さんと私は、前日、モスクワ乗り継ぎの便で来て、夜遅くに到着している。スペインやドイツのときにも乗った、12:00成田発の例のアエロフロートロシアンルーレット。今回もまた、ふつうに着陸できたことをもって、機内に盛大な拍手が起きた。

晄貴さんは、フランスでも会っているけど、旅慣れたもんで、今回はついでにとエストニアやフィンランドを回ってから、われわれと合流した。

通訳は、ニコライ・コノヴァレンコ氏。日本に長く住んだことはないと言いながら、ふつうに日本語が話せており、非常に頼りになる。

リゴフスキー通りをまた右へ。デパートと駅まではさっきと同じ道。駅のところでネフスキー大通りへ左折する。角にはお土産の店。ショーウインドウに展示されたマトリョーシカが美しい。

7月の第一土曜日は「ドストエフスキーの日」であることをニコライ氏が教えてくれた。つまりは翌日だ。それ、行ってみよう。

横っちょへ入る道の脇に露天商が並ぶ。めちゃめちゃちっこいストロベリーが小さいプラスチックカップに入って200ルーブル。売ってるおばちゃんが値段を英語で言ってくれた。1ルーブルは現在1.67円だけど、ルーブルをざっと2倍して円に換算する感覚だ。超小粒のストロベリーはかなりすっぱいけど、さわやかな味だった。

フォンタンカ川にかかるアニチコフ橋は、馬の彫刻が特徴的だ。でかいのでぱっと目につく。ここから遊覧ボートに乗る。

川というよりは堀だ。両端がネヴァ川とつながっている。ネヴァ川は、ラドガ湖からフィンランド湾へ至る川で、全長74kmと短めだが、大河である。挟まれてあと二筋、川が流れていて、突っ切る水路には水の十字路が二か所にある。

遊覧ボートは、フォンタンカ川を下流へ進み、T字に分岐する水路へ右折し、二つ目の十字路を右折し、T字路を左折するとネヴァ川に出る。少し行ったところで右折すると、これが元のフォンタンカ川で、出発点へ戻る。一時間ほどだったか。

川から見上げる街の景色がすばらしい。教会は、丸い屋根の上端がひゅっとすぼまって突き立つ形状をしており、どう見ても東洋的な造り。ここはインドかいな、と錯覚しそうになるほど。思わず「何教ですか?」とニコライ氏に聞いちゃったが、キリスト教である。

ネヴァ川の対岸には要塞が見える。島の周囲が赤レンガの壁になっており、上がって行けないようになっている。

遊覧ボートを降りた後、ネフスキー大通りをさらに進む。右側にコメディーシアターがあり、その前でアイスクリームを売っている。そこでくつろいでいると、通行人がずいぶん写真を撮って行った。

すぐ脇から右へ入っていくマラヤ・サドヴァヤ通りは、おしゃれなショッピング街になっている。入口には、ちょっとした水のオブジェがあり、浅い水に浸かって置かれた球体の大理石がどの向きにも手で回せる。

道の両脇の二階ぐらいの高さのところに一体ずつ猫の像がある。互いに恋をしていたとか。人々が賽銭を投げ上げていく。ひよ子さんが投げ上げたコインは、魔法のように一回で乗っかった。ベンチでくつろいでいた老夫婦が見て大笑いしていた。

せっかくこれだけ景色のいい街にいるのだから、コス撮影したい、ってことで話がまとまり、ここから引き返して、いったんホテルへ戻る。

ホテルに着いたのが2:30pmごろ。4:30pmに再集合しましょう、ってことで、いったん、それぞれ部屋へ。コスプレイヤーの三人が着替える間、私は必死になってロシア語アルファベットを覚える。

●英語読みが癖になっていると発狂しそうになるロシア語

ロシア語のアルファベットは33文字ある。キリル文字という。

大文字:АБВГДЕЁЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯ
小文字:абвгдеёжзийклмнопрстуфхцчшщъыьэюя

よく顔文字で鼻になってるやつ(Д)はDだったのか。

英語の場合、"cat"の発音は「キャット」で、"game"の発音は「ゲイム」で、
同じ a の綴りでも発音が異なる。ロシア語ではそういうことは起きず、綴り
から一意に発音が決まる。そこは非常にありがたい。

アルファベットさえ頭に叩き込んでおけば、意味は分からなくても、とりあえず発音できるようにはなるのだ。

そこはいいんだけど、英語読みが癖になっていると、見かけと発音がぜんぜん合ってないやつがいろいろあって、発狂しそうになる。

ロシア語のВの発音は英語で言えばVである。ИはI、НはN、РはR、СはS。うげー。あまりに寒すぎるもんだから、手がかじかんで字がうまく書けず、異常に下手な字を判読しそこなって、間違って伝わってしまったのだろうか(ケバヤシ説)。

こんな説もある。「あるロシア人が、西欧で文字を習得し、資料を持って帰国の途についた。ところが、乗っていた船が難破し、本人は無事に帰国できたものの、文字に関する資料が失われてしまった。そこで、やむを得ずうろ覚えで再現した結果、できたのがキリル文字である」。

これも俗説で、正しくない。ロシア語独特の文字もあり、Гの発音はG。これ、ギリシャ文字のΓ(ガンマ)から来てるよね。Лの発音はLで、ギリシア文字のΛ(ラムダ)っぽい。Пの発音はPで、ギリシア文字のΠ(パイ)っぽい。Фの発音はFで、ギリシャ文字のΦ(ファイ)っぽい。つまり、キリル文字のほうこそ、元からあんまり変わってないのだ、と。

では、ここで練習問題です。これを読んでみましょう。“БУРГЕРКИНГ”。はいはい、「バーガーキング」ですね。街で見かける店名などの文字を、一文字一文字解読してつなげて読んで、意味が分かったとき、やっとこの国でなんとか生きていけそうだぞ、との感慨を覚える。

一方、15秒ぐらいかかってやっと判読できてみれば、これかい、というズッコケ感もすさまじい。

“СТАРБАКС КОФЕ”は「スターバックスコーヒー」。
“Макдоналдс”は「マクドナルド」。

●宮殿広場と要塞でコス撮影

4:30pmに再集合して、タクシーで宮殿広場へ。先ほどのネフスキー大通りをさらに進むと、ネヴァ川を背にして冬宮殿が建ち、現在はエルミタージュ博物館として利用されている。その手前にあるのが宮殿広場。

ナポレオン戦争の勝利を記念したアレクサンドルの円柱が、広場の中心に建っている。歴史にはまるで疎い私だが、サンクトペテルブルクはかつてレニングラードと呼ばれていて、ロシアの首都だった。血の日曜日事件(1905年)、十月革命(1917年)などの歴史的事件がこの広場で起こっている。

宮殿の建物があまりにデカいせいで、スケール感覚が狂ってしまう。広場もそうとう広いんだけど。逆に人が豆粒みたくみえる。

馬車で広場を一周するのに二人で600ルーブルだという。ガロさんと乗る。料金さえ払えばもっと遠くまでも行ってくれるというが、広場もいい加減広いため、遊園地のアトラクションに乗ったくらいの満足感がじゅうぶんに得られる。

宮殿の右脇からネヴァ川に出る道は、細い川に沿ってついている。さっき、遊覧ボートで通ってきた川だ。

ネヴァ川沿いに少し上流に行ったところにあるカフェへ、ニコライ氏が案内してくれた。店名の“МИРАКЛ”が自力で読めた。「ミラクル」でしょ。
http://vk.com/miracleclub

蕎麦を注文してみたら、ヌードルではなくそぼろみたいな感じ。褐色の小さくてやわらかい粒々がどっさり盛ってある。言っちゃ悪いけど、つるつるすすって食う日本のそばのほうが美味いので、私は「手抜きそば」と呼ぶことにする。

7:30pmくらいにミラクルを後にして、タクシーでネヴァ川にかかるトロイツキー橋を渡って対岸にある要塞へ。「ペトロパヴロフスク要塞」。英語風に言えば「ピーター・アンド・ポール・フォートレス」。

川からは容易に上がれないようになっているようだが、陸側から行けば、徒歩で橋を渡って島の上に行ける。

金ピカの尖塔は、金メッキではなく、金製なのだとか。そこで鐘の音楽のライブ演奏が進行している。上のほうの窓が開いていて、生演奏の音が聞こえてくる。すげーいい音。心が洗われるぜぃ。

一階には司会の女性。広場には背もたれのない平らなベンチが並べてあって、30人ほどの観客が聞き入っている。公共の場所なので、お金は取られない。

雨が降ってきたので、われわれは別の建物の入口前のファサードで雨宿り。鐘の音楽の観客は、傘を差している。終了すると、高い窓から演奏者の女性が顔を出してあいさつした。9:00pmは余裕で明るい。

タクシー2台に分乗してホテルに戻る。ホテル前の歩道で後の車の到着を待っていると、通行人からよく写真を撮られた。朝は気持ちが仕事モードだったのか、道ゆく人々はクスリとも笑わなかったのだが。

金曜の夜ともなると週末モードに切り替わっているのか。パーティーノリの人、けっこういるじゃん。走っている車を停めて、4人全員が降りてきたグループがあった。私と一緒に写真を撮ると、走り去っていった。

11:00pmでやっと暗くなってくる。

この日の写真はこちら。
http://picasaweb.google.com/Kebayashi/6305732067914650785

●本人が見たらびっくり仰天ドストエフスキー祭り

古典的な純文学というと、眉間に皺が寄りっぱなしになっている、知識人と称されるおじさんたちが難しい顔をして論じるべきものであって、文学専攻者でもない一般の人々にとっては、せいぜい高校で読書感想文を書く宿題が出たんで読みかじったという程度の、馴染みのなさなのではないでしょうか。

だとしたら、芥川龍之介や夏目漱石や森鴎外や三島由紀夫で祭りをやって、盛大にどんちゃん騒ぎして盛り上がろうぜ、って発想にはなかなかなりにくいかもしれない。市ヶ谷駐屯地で三島由紀夫祭りとかやったら、すんごい怒る人が出てきそうではないか。いや、私が知らないだけで、どっかではやってるのかもしれないけど。

ドストエフスキー本人も、「んもう、後世のやつらってば、オレでそういう盛り上がり方すっかよー」と、上のほうであきれているかもしれない。

7月2日(土)の朝、また散歩。今度は朝食後に。リゴフスキー通りをまた右へ。デパートの手前で、単線の路面電車の軌道が狭い道へと左折していく。その道がクズネチニ通り。

マラタ通りに出たところで、軌道が左右に分かれ、複線の軌道へと合流していく。十字路を突っ切った向こうに続く道は、車両が進入できないよう封鎖されている。

立ち止まって振り返ったりすると、後ろから勝手に写真を撮っている人とコンニチハしちゃって、ちょっと気まずい。

そこを進むと「ドストエフスキー博物館」がある。祭りの準備が進行している。仮設ステージを設営中。祭りは正午かららしい。ステージ両脇のでかいスピーカーからは、すでにノリのいい音楽が大音量でガンガン。英語やんけ。

狙って行ったわけでもないのに、年にいっぺんの祭りの日に当たったタイミングもラッキーなら、その会場がホテルからものの10分ほどのところにあったという位置関係もラッキーだ。

キヤノンの一眼レフで真剣に撮ってる、白ヒゲのおじいさんがいる。祭りのオフィシャルカメラマンらしい。私も撮られる。立ち位置など、いろいろ注文された。

そのまま直進してウラジミルスキー通りに出たところで右折し、昨日のネフスキー大通りに出て左折。

馬の彫像のアニチコフ橋を渡り、道の左側、コメディーシアターの向かいあたりに広場があり、ジャズ祭をやっている。

イベント名は『ПЕТРОДЖАЗ』。読み下せば、『ペトロジャズ』。
http://petrojazz.ru/

アルファベットがちょっと読めるようになっただけのことで、街との距離がぐっと近くなった。もうびくびくおどおどしなくてよい。肩の力を抜いて、明るい気持ちで見物して歩くことができる。

通りの中央にテントが背中合わせに二列、隙間なく立ち並び、両向きにバザーが出店している。奥にはちょっとした広場があって、特設ステージが設けられ、ジャズを生演奏している。ボーカルは大柄の女性。英語やんけ。

戻ってネフスキー大通りを渡り、昨日の賽銭猫の像の道を奥まで進む。そこにも広場があって、テントが立ち並び、バザーをやっている。特設ステージが設けられているが、設営しっぱなしで、人の気配がない。

別の道からネフスキー大通りに復帰する。若い男性が、写真を撮らせてくださいと声をかけてきた。ネットで画像を見て私を知ってたとのこと。おおお、サンクトペテルブルクにもいるんですねぇ。ちょっと有名人の気分。

ドストエフスキー祭りの会場に戻ってみれば、人がどっと増えている。生演奏のパレードが通っていった。メンバーに抱えられて、巨大な人形が何体も通る。

なんと、「ドストエフスキーの日」のオフィシャルウェブサイトに、私の写真も掲載されているではないか! 私は時間の関係でろくに居られなかったのだが、あのじいさんが撮ったと思しき何百枚もの写真を見ていると、すばらしいイベントだったのだと分かる。
http://new.vk.com/dostoevskyday

正午の集合時間ぎりぎりにホテルに戻れた。

●上のほうからの声に導かれてのイベント参加

ところで、今回の渡航のそもそもの目的は、散歩することではなく、イベントに参加することであった。『AniCon 2016』。
http://new.vk.com/aniconspb

前回7月8日(金)配信分で、アイドルグループ「アップアップガールズ(仮)」のミュージックビデオの味つけにちょこっと出演させてもらえたのは、故・櫻井孝昌氏の上のほうからの計らいのような気がすると書いた。

今回のイベント参加もまた、元はと言えば櫻井氏とのつながりを通じてであり、やはりそんな気がする。「置き土産だ。受け取っておけ」と聞こえたような。

2015年11月13日(金)にIOEA(国際オタクイベント協会)を中心とする飲み会が湯島であり、私も呼んでもらえた。当時、事務局長を務めていた櫻井氏は、遅めにやってきて、私の斜め前に座った。相変わらずエネルギーのカタマリみたいなパワフルさで、饒舌であった。

私が櫻井氏にお目にかかるのは、このときが最後になった。櫻井氏の訃報を聞いたのは、12月4日(金)のことであった。

その会に、ロシア人コスプレイヤーが二人、参加していた。マリナとヴァレリア。マリナから英文のメールが届いたのは、2016年1月22日(金)のことだった。AniCon 2016に参加しませんか、というお誘いだった。半年近く先のことで、なんとも言えないが、状況が許せば行こうと決めた。

2月23日(火)、デジタルハリウッド大学にて、櫻井孝昌氏の追悼イベントが開催された。呼びかけたのは学長の杉山知之氏。みずから司会を務め、アシスタントは声優の上坂すみれさんだった。

上坂さんは上智大学ロシア語学科出身で、アニメ『ガールズ&パンツァー』ではノンナの声を演じ、クラーラ役のジェーニャとロシア語で会話している。

上坂さんは、去年のAniConにゲスト参加している。櫻井氏も同行し、レポートしている。
http://docs.circle.ms/won/pages/anicon.html

日本からのゲスト出演者たちがステージ上で回れ右して、客席を背景に撮った写真が掲載されており、右端が櫻井氏、その隣りが上坂さんである。

「日露双方のステージをすべて楽しもう、ステージ上のパフォーマーを盛り上げようという観客すべての気持ちがひしひしと伝わってくる。日本人出演者もみな、そのロシア人観客の暖かい気持ちに感動していた」。

私も今回、まったく同じことを思った。というか、今年もそういうふうに盛り上がったのは、櫻井氏たちが去年、布石を打っておいてくれたおかげである。ありがとう。「ほんとはオレが行くとこだったんだけどな。後は任せたぞ」。

●熱い歓迎ムードでたいへんな盛り上がり

タクシーでイベント会場へ。「モスコフスキー文化センター」。ものすごく立派な劇場。客席は一階席だけを使用しているが、それでも600席ある。天井にはでかいシャンデリア。重厚な雰囲気。この場所で過去にどんな格調高い公演が開かれてきたかと想像するとビビるレベル。
http://www.kdzentre.com/

第一部で太宰ガロさん、晄貴さん、葉槻憂哉さんが一緒にステージに上がる。それぞれ一言ずつごあいさつ。三人とも初っ端でロシア語を発して拍手喝采を浴びていた。さすが。

その後、他のコスプレイヤーたちをステージ上に呼び込んで、みんなで記念撮影。そのとき、私もどさくさまぎれに登場。どさくさにまぎれなかった。歓声すごい。

第一部が終わると、入れ替えの間に第二部のリハ。今度は私の出番だ。内容については事前に簡潔に知らされていたけれど、よく飲みこめてなかった。そう言えば、なんかしゃべることになってたんだっけ。リハでようやく理解する。

「何分しゃべればいいの?」、「好きなだけ。10分でも15分でも」。さっきのレイヤーさんたちみたいに軽く一言ごあいさつ、ではなくて、何かスピーチをしろってことらしい。

え? ぜんぜん考えてきてないんだけど。……とは言わなかった。これだけしっかりとお膳立てしてくれている運営に、そういう腑抜けたこと言っちゃ駄目だよね。まあ、しゃべればいいわけだ。

あんまりあせってない私。スペインでは、いきなりこれからステージって言われて、乗り切ってるしなぁ。

リハが終わると、観客が入り始めたので、客席に降り、最前列中央の席に腰かけて待機。第二部の初っ端が出番。それまでの15分ほどの間に、スピーチの内容を頭の中で組み立てる。

3:00pm。第二部開始。セーラームーンのコスチュームに身をつつんだ華やかな8人のセーラー戦士たちがまず登場。音楽に合わせてかわいらしくダンスを踊る。って、ヒゲがぼうぼう、スネ毛もぼうぼうのおじさんたちじゃん。題して、セーラーメン・ショー。

こういうところで本気を見せつけてくるのがロシア流なのか。勝てる気がしない。ダンスでくるっとターンするたびにスカートがふわっとなって、たいへんまぶしい。うわっ、目がつぶれるぅー。

呼び込まれてステージに上がる。ものすごい歓声。セーラー戦士らに合わせて踊ってみたりとか、ポーズとってみたりとか。

ロシアって、学校で裏声のトレーニングでもやってるのだろうか。男の子たちが、すごい高音域の美しい裏声で、ヒューヒューと囃し声を送ってくる。

さて、セーラー戦士たちがはけ、ステージに私が残る。ニコライ氏が通訳として後方に立つ。

たった今、頭の中で組み立てたばかりのことをしゃべる。これが大受け。ひとこと言っては喝采、またひとこと言っては喝采で、なかなか先に進めない。

櫻井氏が去年レポートしていたとおりだ。熱い歓迎の意を表してくれて、全力で場を盛り上げてくれる。

ざっとこんな内容。

・ロシアに来るのは初めて モスクワ空港で飛行機を乗り継いだことは二度ほどあるけど、外には出てなかったので

・来る前、割とばたばたしていて、ロシアについて予習している時間があんまりなかったので、ほぼ何も知識なく来ちゃった

・ロシアに対してもっていたイメージはふたつある。

・ひとつ目は「おそロシア」。ロシア発の命知らずの輩の動画や写真が、日本でもずいぶん拡散している。高いところに登ったり、無謀な運転したり、いちばん好きなのは、メントスコーラのペットボトルがカメラを直撃したやつ。

・もうひとつは、「文化」、最近読んだ川口盛之助氏の記事、「日本は文化がすごい」と示すために、文化的活動の活発さを表す指標を考案している。でも集計してみたら、ロシアがダントツ(※)そうか、ロシアに来たら、見るべきは文化なんだ。

・すでに散歩して、いろいろ見た。金ピカの尖塔の教会で、鐘の音楽の生演奏を聞いた、ドストエフスキー祭り。ドストエフスキーは『罪と罰』など、何編か読んだ。ジャズ祭り、週末に日常的に文化的なイベントが催されるロシア、すごい

・ロシアと日本、もっと交流さかんになるべき。政治的にはいろいろ課題があるのかもしれない、島とか。しかし、われわれ庶民にとってはあまり関係のないこと。われわれは草の根レベルでつながっていけばよい。一般の人々が互いに深く理解しあえば、政治の問題も骨抜きになっていくかも。

・すでにロシアを楽しんでるけど、また何回でも来たい。知り合いに面白いアーティストさんがたくさんいるんで、連れてこられたらいいなぁ。

※6月24日(金)に「日経テクノロジーオンライン」に上がった記事。

川口盛之助『クールジャパンとモテる男の条件 グロス・ナショナル・タレントで見た、世界の中の日本』。
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/317534/062100018/

私はちょこっと勘違いしていた。ロシアがダントツなのはダンス分野の成績においてであって、全ジャンルの総合成績においてではなかった。ま、許してちょ。

なんとかやり遂げた感触。日本からのゲストを迎える暖かい気持ちが伝わってきて、ほんとうにありがたかった。と同時に、祖国を愛する熱い思いも伝わってきた気がする。

文学や演劇やダンスや歌を心の底から愛していて、そういう文化活動を何よりも大切なことと考えている。祖国の文化にものすごい誇りをもっている。

昨今の世の中は、テクノロジーの進化が世の中の変化を先導している。コンピュータやロボティクスや人工知能方面の急激な技術革新により、従来は人間固有の領域と考えられてきた職域が、遠くない将来、機械に奪われる可能性まで取り沙汰されるようになってきている。

もっと言えば、人間は自身の存在価値や尊厳の根拠をどこに求めたらよいのかという、根底の部分で心配になってきている。

そういう世の中の流れにあって、ロシアの人々は、人として何がいちばん大事なことなのかがよく見えていて、文化を大切に思う気持ちがマジョリティに共有されているようにみえる。そこがロシアの根っこのすばらしいところなんだろうなぁ。

4:45pm〜5:15pmにサイン会。冷房のよく効いた部屋で、三人のゲストコスプレイヤーと私が机の後ろに横並びで腰掛け、来場者が横へ移動して、自分で持ってきた紙に全員からサインをもらう形式。60人ぐらいにサインしたか。

8:00pm近くまで待ってから、車で移動。

●領事館でお褒めの言葉を頂戴する

サンクトペテルブルク日本国総領事館へ。主席領事と副領事の方々に迎えられ、われわれのために立食パーティーを催していただいた。

お二方ともイベントにいらして、私のスピーチを聞いてくださったそうで、お褒めの言葉をいただいた。

参加者の中に、父親がついて来ていた人がいて、父親は最初、この種のオタク文化に否定的な見方をしてたけど、私の話を聞いて、考えを変えたのだとか。

この日の写真はこちら。
http://picasaweb.google.com/Kebayashi/6305735770044448097

●過酷な暑さの中を走るランナーたちに声援

7月3日(日)、やはり午前中に一人で散歩。この日、マラソン大会があることを、前日に領事館の方から聞いていた。ネットで調べて詳細を把握。

『White Nights』マラソン。
http://www.wnmarathon.ru/

宮殿広場がスタートとゴールになっている。9:00amにスタートということで、ホテルの朝食をパスして、7:30amに出発。地図上では近そうにみえるのは、1ブロックが長いための錯覚で、歩けば一時間近くかかる。

ドストエフスキー博物館の近辺の道には紙ふぶきが散乱し、祭りの後状態。ネフスキー大通りに出たあたりから、大会に向かうランナーの姿がちらほらと。広場近くまで来ると、参加者たちがぞろぞろと大きな流れになっている。広場に着くと、人がいっぱい。

人混みを縫うようにぐるっと一回りしてみたけど、特に反応はなかった。特設ステージが設けられている。前々日には影も形もなかったはずだ。ロシア人、仕事早いね、やるときはやるんだね(皮肉)。

ステージ上には、ランニングウェアの若い女性が四人。リズミカルな軽快な音楽に合わせて、ノリよく掛け声をかけながら、準備体操ダンスを模範演技。ステージ前には200人ほどの人がそれに合わせて準備体操。

延々とやってるし。スタミナあるなぁ。あれ、オレなんかが参加したら、それだけで体力使い果たしそう。この日は、日差しが凶悪にまぶしく、めちゃめちゃ暑くなった。マラソンにはちょっと過酷な天候。

日本人出場者から声をかけられた。モスクワ在住とのこと。

スタートコースが2レーン設けられている。おそらくフルマラソンと10kmコース。スタートは10からカウントダウン。ピストルが鳴る。参加者が非常に多く、ゼッケンの番号は10000番台の人がいる。

「がんばれ」と声をかけると「ありがとう」と返す声が。ランナーが全員走り去ると、広場は抜け殻状態。同じ道を引き返す。大学生の女性二人が声をかけてきて、ネットで私を見て知ってたと。

やたらと広い歩道は、カフェやレストランのテーブルや椅子が張り出してくることまで考慮に入れた設計になっているのか。

そいういうお店のうちのひとつに入る。外側の列のテーブルは陽が当たるので避け、内側のひさしの影の席を取る。「Ресторан с историей Абрикосовъ」。和訳すると「歴史あるレストラン、アブリコソフ」。
http://www.abrikosov-spb.com/

イメージの中の典型的なロシア料理を食べておかなくてはと、ビーフストロガノフ、ボルシチ、ピロシキを注文。朝っぱらだし、これからイベントなので、赤ワインを飲めないのが残念。スパークリングウォーターを注文する。〆て 2,150ルーブル。

食べてる間に、短いコースを走り終えたランナーたちがもう帰ってくる。勢い余って車道をランニングしている人も。

帰り道、馬の彫像のアニチコフ橋のところへ来たら、フルマラソンのコースになっている。川沿いに走ってきて、橋で右折し、ネフスキー大通りに入る。右折する手前が30km地点。

トップ集団が通り過ぎた後、3分間くらい、誰も来ない。ものすごく暑い。ペットボトルの水を頭からかけつつ走るランナーあり。まわりの景色が目に入らずうつむいてつらそうに走るランナーあり。とぼとぼ歩いてるランナーあり。ランナーではなくウォーカーになってる。オレの姿見たら幻覚かと思うかも。

一方、余裕で声援に応えるランナーあり。声援者に声を掛け返してきたり。手のひらと手のひらでパシッとタッチしていったり。

通過するランナーたちに声援を送りつつ、ネフスキー大通りを歩く。時おり、救急車のサイレンが鳴り響く。

また正午の集合時間ぎりぎりにホテルに戻る。

この日もまたイベントに参加。しかし、私はステージの出番がなく、ロビーや外の芝生でコスプレイヤーたちと一緒に写真を撮られたりして過ごした。

メディアからのインタビューに答えたりもした。やはりゲストとして日本から来ているシンガーソングライターの谷本貴義氏とともに。谷本氏もまた、客席の反応があたたかかったと喜んでいた。

夜、デパートの地下のスーパーで買い物していたら、見知らぬロシア人から「小林さん」と声をかけられた。

この日の写真はこちら。
http://picasaweb.google.com/Kebayashi/6305738729616499473

●海外との相互交流をもっと活性化したい

空いた時間には私も客席に座り、ロシア人たちによるパフォーマンスを見て過ごしたりもした。みんな演技力が高くて、すごく見ごたえがあった。

音楽や効果音や台詞をあらかじめ録音しておいて、ライブで見せるのは衣装と演技という形式のパフォーマンスが多かった。演劇の心得をもった人たちの層がものすごく厚いんだろうな、と想像できた。みんな、あたりまえのようにレベルが高いのだ。

今回のロシアに限らず、海外に行くといつも思うのだが、ステージで輝く現地のパフォーマーたちと張り合える、ちゃんとした芸をもった日本人が、ゲストとしてイベントに出るべきだよなぁ、本来は。日本の文化や芸能も、なかなかすごいじゃないか、と思ってもらえたら。

私のようなのが行って、じゃんけん大会やハンカチ落としなどして遊ぶのでも、いちおう場は盛り上がるから、いいっちゃいいんだけど。しかし、芸の薄っぺらなイロモノのインパクトで間をもたせるだけじゃ、深みが足りない。観客が盛り上げてくれるのに甘えちゃいけないよ。有名どころの漫画家や歌手や声優が呼べたらなぁ。

現実的には、ハードルが高い。ひとつは予算。ギャラの高いパフォーマーは呼んでる余裕がない。ギャラどころか、規模が小さいイベントでは飛行機代を自前ってこともたまにある 。実際、今回のが、むにゃむにゃむにゃむにゃ……。

それと、時間的な問題。売れっ子は何日もまとめてずっと拘束されるのは無理って言うだろうなぁ。

芸は本格的でも、さほど知名度が高くなかったりすると、そもそも集客につながらないので、あんまり呼びたくないという、主催者側の思惑もある。

逆向きの交流の場ももっとあればと思う。私は、今回のように、現地の人々のステージを見る機会に恵まれて、すごさを知っているけど、おそらく多くの日本人は、まったく想像の域外であろう。

「世界コスプレサミット」に限らず、海外からゲストを呼ぶイベントがもっともっと増えるといいのにと思う。あるいは、日本のマスコミがもっと海外に取材に出るべきなんだけど、たぶん、予算的に苦しいんだろうなぁ。

だからと言って、日本が井の中の蛙になっていて、世界のすばらしさを知らずに自己礼賛してたるんでるのはよくない。世界との交流を通じて刺激を得てこそ、日本は活性化するはず。

世界をちゃんと知ってこそ、盲目的な自己礼賛から脱却し、あらためて日本のほんとうのよさを再発見することができるはず。本物の愛国心が育つのはそれからだ。

……という大志を抱きつつも、個人の力じゃどうにも事態を動かせないのが目下の悩みである。


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セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
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〈ミュージックビデオ、近日公開〉

6月26日(日)に動画の収録があった。とある歌手の新曲のミュージックビデオに味付けとして、ちょこっと出させてもらえる話が来たのである。ご本人との共演シーンはなく、私の収録は単独で行われたため、ご本人とお会いできなかったのは、ちょっと残念。

収録の場でチェック用に再生するのを自分で見たときでさえ「キモっ」と思ってしまったくらいのキワモノ感があり、歌い手さんのファンが見たときのブーイングを想像すると恐ろしいものがある。

収録はしてみたものの、その後の編集会議で全ボツになって終わるんじゃないかというシナリオも、それはそれでちょっと恐れていたのだけれど。

7月19日(火)に編集済みの動画が送られてきた。おー、ちゃんと採用されてる! キモっ。キモいのはもちろんオレで、歌い手さんはめっちゃかわいい。

8月にリリース予定で、それまでは多くを語れないのが、とても歯がゆい。ともかくも、お楽しみに〜♪

〈週末は北京へ〉

今回のが配信される7月22日(金)には、羽田から北京に向かっているはずです。久々にLadybeard氏とご一緒します。というか、海外のイベントに一緒に出演するのは今度のが初になります。