[4182] ショート・ストーリー「夜ふかし倶楽部へようこそ」

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《問題はどうやって「やる気」を育てて行くか》

■ショート・ストーリーのKUNI[199]
 夜ふかし倶楽部へようこそ
 ヤマシタクニコ

■3Dプリンター奮闘記[82]
 人を育てるということ
 織田隆治




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■ショート・ストーリーのKUNI[199]
夜ふかし倶楽部へようこそ

ヤマシタクニコ
https://bn.dgcr.com/archives/20160901140200.html

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ある日のことです。街を散歩していると、古びた建物の一室で何やら会議がおこなわれている様子です。窓のすき間からみえるひとびとはごくふつうの身なりで、おだやかな雰囲気です。

一体何の集まりかと思いながら室内の黒板を見ると「夜ふかし倶楽部設立総会」と書いてあるではありませんか。そこで私は、あまりほめられたことではないと思いつつ、会議をのぞき見することにしました。

なぜなら私自身が夜ふかし人間だからです。

「えー、本日はお集まりいただきありがとうございます。私は設立発起人のひとりです。ではただいまから当倶楽部の設立宣言案を読み上げます」

そう言ったのはかっぷくのいい、背広をきちんと着た紳士でした。

「異議のある方は手をあげて、ご発言ください」

出席者たちは神妙にうなずきます。

「ひとつ。われわれは生まれつきの夜ふかし体質によってやむなく夜ふかし生活をせざるを得ない者たちの集まりである」

異議なし、と声がします。拍手するひともいます。

「ひとつ。われわれは決して仕事をさぼっているわけではなく、その体質によってさぼっているようにみえるだけである」

手を上げたひとがいました。中年の、おなかの出た男性でした。

「えっと……さぼろうとしてさぼってるわけではないとしても、結局さぼっていることになるかもしれないとか思うんですが」

別のひとも発言します。

「悪気があるわけではないということですよね」

「でも、前の晩ちゃんと早く寝ていれば翌日職場でいねむりをすることもない、とみんなから思われるではないですか。いや、実際そのように言われたことはありませんか。ぼくはしょっちゅうですが」

「大ありです」

「早く寝られたら苦労はないのですよ」

「そこがほれ、さぼっていると思われるわけでして」

「思われるだけではなく、ですね」

会場はざわざわしてきました。

「えー、わかりました。この項は保留といたします。次、われわれは平和と友好をモットーとする集まりであり、決して早起き人と対立するものではない」

「異議なし」

「早起き人と対立して、そもそも勝てるみこみがありません」

「まったくです。早起き人は最強です。早起きは三文の得と信じているひとたちです。私には意味がわかりませんが」

「そもそも数が多い」

「たてつくなどとんでもない」

「でも、あのう、もっとソフトにしてもよろしいのではないでしょうか。『決して早起き人と対立するものではございません』とか」

いかにも上品な奥様風の女性が言いました。

「そこだけ文体を変えてもおかしいのでは」

「みなさん、卑屈になったり遠慮する必要はないのですぞ。早起き人と対立しなくていいが、われわれはわれわれのプライドを大切にしていかねばなりません。それでなくてはこのような会を設立する意味がありません」

異議なし! の声が乱れ飛びます。

「では表現について一考の余地ありということで次、まいります。ひとつ。われわれは夜ふかしはするが徹夜はしない」

おお、という声があがりました。

「これについては設立発起人5名の間で議論が分かれましたが、そもそも徹夜という行為は夜から朝まで、いや、次の日までまたがる行為であります。夜ふかしの域を超えております」

「わかります。それに、たとえば朝の3時に起きていれば前の晩から夜ふかししていたのか早起きしたのか区別がつきませんね。これはきっちり、一線を引くべきだと」

「一理ありますなあ」

「おでこに印をつけておけばわかるのですがね。『徹夜』とか、『夜ふかし』とか」

「夜ふかしの延長が徹夜とはみなさないのですね」

「みなしてはいけません。夜ふかしと徹夜は似て非なるもの、ちくわとちくわぶのようなものです」

「徹夜を好む人はむしろ早起き人に近いような気がします」

「では、何時までなら夜ふかししてもいいんですか」

「ううむ。それは大問題だ。2時ではきびしいし」

「3時でしょう」

「遠足のおやつの話ではありませんぞ。空が明るくならないうちならいいのでは。空が明るくなればもはや朝ですから、夜ふかしではない」

「そうですな。では、われわれは夜ふかしはするが徹夜はしない。空が暗いうちに就寝する。たとえ休日の前の日であろうと、としましょうか」

「え、休みの前の日でも徹夜はしてはいけないんですか」

比較的若い、みどりの服を着た男性が言いました。

「当然ではありませんか。休みの日は思う存分ゆっくり寝たいですから」

「その通り。ここで当倶楽部設立の基本に立ち返っていいますと、当倶楽部でいうところの夜ふかし体質というのは、朝は苦手だが夜になるとなぜか元気が出る。かつ、できるだけ睡眠時間は多く摂りたいという、世間の目からすると『限りなくだらだらしているとしかみえない』体質、まったくもって『好きにせえ』と言いたくなる体質なのです」

「ふだん居眠りばかりしているのにまだ寝るかと言われてもめげずに寝る体質といいますか」

「いっそのこと『寝過ぎ倶楽部』としては」

「徹夜する人には、睡眠時間は短くてもだいじょうぶという人が多い。だらだらしてるどころか仕事は集中してしっかり仕上げるというタイプ。われわれと違うところです」

銀髪の男性が何をそんなにというくらい自信を持って言い切りました。

「なるほど。だらだらしていることに関しては資格十分のつもりですが」

みどりの服の男性はしだいに自分がこの会にふさわしいかどうか自信がもてなくなった様子でしたが、私はというと、盗み聞きしながら、自分こそこの会の会員になるべきだとの思いが強くなるばかりでした。

睡魔との闘いに疲れはて、自分で自分がいやになったあの毎日。いまは会社勤めをしていないからいいようなものの、あのころこんな会があればきっと入会していたでしょう。

「次にまいります。ひとつ。当会はいかなる政治的・宗教的な立場とも無縁であり、そのような活動はいっさいしない」

「夜ふかし党を結成する気はないのですね」

「それは残念だ」

「サマータイム法案が蒸し返されたら反対しようと思ったのに」

「あのう」

年配の女性が遠慮がちに発言しました。

「今日はこの集まりに参加できてうれしく思っています。でも、少し気がかりなことがあります。年をとるとだんだん早起きになると聞いたことがあります。わたしもそうなるのかもしれません。そのときは退会しないといけないのでしょうか」

「残念ですが、その場合はいたしかたありませんね」

「晴れて早起き人になったということで、会員一同祝福の気持ちをもって送り出せると思いますが」

「でも年を取っても早起きになるとは限りません」

「そうそう。私の祖父は死ぬまで夜ふかし型でみんな困っておりました」

笑いがひろがりました。やがて質疑応答が一段落すると、設立発起人のひとりが「今日は楽しい一日でした。これにて終了いたします。これは今日の参加者のみなさんへの、ささやかなおみやげです」

そういうと、ひとりひとりに袋に入った何かをわたしました。中にはいっていたのは、あまり大きくないドライバーやペンチなど工具ひとそろえでした。首をかしげるひともいましたが、私にはすぐにわかりました。それが時計を細工するためのものであることが。

あれから一週間ほどたち、私は近くの公園の時計が最近30分ほど遅れていることに気づきました。もう夕方の6時なのに、その時計は5時半をさしているのです。あなたのまわりでもそんな時計があるとしたら、それは夜ふかし倶楽部の会員たちによる、ごくごくひかえめな反撃であるのかもしれません。


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突然、ふすまを自分で張り替えることにした。調べるとふすま紙にも種類がある。シール式やアイロンで貼るタイプ、再湿タイプ(のりがあらかじめついていて、そこに水をつけて湿らせる)、そして自分でのりをつけることから始めるタイプ。

私はもちろん、一番簡単なシール式にした。で、一枚貼ったが、早くも疲れた。まだ七枚残ってる……まあ今年中にできたらいいかと思っている。


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■3Dプリンター奮闘記[82]
人を育てるということ

織田隆治
https://bn.dgcr.com/archives/20160901140100.html

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盆休みも明け、学校では夏休みも明けてきました。みなさん、頭回転していますか〜?

僕は少しだけお休みをいただきまして、実家に帰っただけで終ってしまいましたけど……。

さて、僕は専門学校や大学なんかに非常勤講師として行ってる訳ですが、この夏休みってのが、けっこう色々と今後のことに結構影響するんですよね。

「長い休みをどうしていたか?」ってことです。

僕が学生の頃は、ひたすら遊んでいたんですけど、講師をするようになって強く感じることがあります。

学校で今教えているのは、3Dプリンターを使った造形なんですけど、当然のように課題を出すわけです。

学生は、前期でできることを考えて、その課題を進めて行く必要があるのです。

「作りたいものを作る」というだけで自主性を重んじすぎると、難しい目標を持ちすぎたりして、結局完成しなかった。

そういう結果もちらほら出ますので、ある程度線を引いてあげて、それに沿って、自分の作りたいものを作る。という方向にしています。

社会に出ると、自分の作りたいものを作る、というわけにもいかないんですが、まずは「もの作り」を好きになり、完成した時の感動というか、達成感みないなものを感じて欲しいですね。

仕事で色々なものを作るんですが、初めあまり気が進まなかったものも、うまくできるに従って、楽しくなってきます。

そして、完成して納品した時に「いいものができた!」と思われる、言ってもらえる、という充実感を一度味わうと、楽しくてしょうがなくなります。

そういった経験を積んでもらいたいんですよね。

さて、夏休みが明けて久しぶりに学校に行ってきました。それぞれ、課題を進めている学生、進めていない学生。さまざですね。

まあ、僕なんてほとんどやってませんでしたから(笑)

これから、社会に出るために、そろそろ締めていかないといけないな〜なんて思っているんですが、要は「自分のやる気」をどうやって引き出して行くか?ってのが非常に難しい。

それぞれ、個性もありますし、性格もあります。

一人一人観察して、どうやって「やる気」を育てて行くか、ってことがこれまた難しいんですけど、最近やっとなんとなく分かってきたような気がします。

ちょっとしたコツや小技で、できなかったことができるようになったりします。それができた時の学生って「良い顔」してるんですよね。

これがいいんですよねぇ。

一度自信を持つと、次のステップに取りかかれます。そうやって、少しずつステップアップしていくんですね。

それでも、得手不得手があるわけで、技術的なことを学んでもらうのはもちろんなんですけど、どうやってやる気を出してもらうか、ってことが鍵なんだなぁ、と最近強く感じるようになってきました。

これって、社会に出ても同じことですよね。

良いディレクションを行うのは、どうやってチームのモチベーションを上げて行くかってことですよね。

3Dプリンターってのは、基本的にはただの道具、工具みたいなものです。

「どういう物を作りたいか?」
「どういう物を作らないといけないのか?」

ってことが先にあり、そのための道具として3DCADが必要だったり、3Dプリンターが必要だったりします。

3Dプリンターを使ってみたい、という興味だけでは、長続きしないこともあります。逆に3Dプリンター本体に興味を抱いて、3Dプリンターのオペレーター、もしくは開発に興味を持つこともありますが……

ほとんどの場合は、「3Dプリンターがよさそうだから……」「3Dプリンターを使えれば、何かできそう」という曖昧な動機なんです。

「欲しいものがあって作りたい!」という動機付けが一番大切なんですね。

例えば、「自分の好きなキャラクターがあって、それが立体化されていない」とか、「自分の作った回路等を入れる箱が、オリジナルのデザインしたもので欲しい」というような動機ですね。

すべてを3Dプリンターでやることもないですし。そのへんの見極めも必要になってきますね。

「やる気の問題」これは、学校や企業側にも言えることで、どこまで真剣に取り組んで行くか、ってことも必要です。中途半端な機材や思想で、こういった新しいことに取り組んで行くことなんてできないわけです。

最近では、IoTといった事業が注目されています。

このあたりでも、3Dプリンターの活躍する場が広がって行きますし、育てる側の本気度も問われるようになるんじゃないかなぁ、と思います。

なんとなく流行そうだから、なんとなくやらないといけなさそうだから。そういう気持ちだけで始めて、失敗してしまうところもたくさん出るんじゃないでしょうか。

これは、経営側がどこまで先行投資できるか、ってことにもかかっています。良い人材を育てるにはお金も時間もかかります。

このご時世、かなり難しいことではあるんですけど、やるなら本気で取り組む、向き合う必要があるんですね。当然、長い目で……。


【___FULL_DIMENSIONS_STUDIO_____ 織田隆治】
oda@f-d-studio.jp
http://www.f-d-studio.jp



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編集後記(09/01)

●西村賢太「蠕動で渉れ、汚泥の川を」を読む(2016、集英社)。あの「苦役列車」の北町寛多の、もう少し若い頃の話だ。中学を終えていっぱしのローンウルフ気取りで一人暮らしを始めて一年半経ったが、名実ともに自活といえる状況にない。学歴の不備と年齢の下限の制約でなかなか得られぬアルバイトも、根が働くことが大嫌いだから長続きせず、日雇い、日払い、その夜で消費というシステムにはまり込んで、そこから抜け出せない。そのくせ怠ける日もあるから、その日暮らしも到底成立しない。母親に対する無心、むしりとりも頻繁。三か所で家賃滞納による強制退去をくらい、尻ぬぐいを母親に押しつけてきた。

室料一万円の三畳間の安宿も、またぞろ賃料の支払いが滞りだして三か月、厳冬期に宿なしになる危機に、自芳軒という洋食屋でバイトの仕事を得る。お人好しの主人に住み込みでの通し勤務を懇願し、屋根裏部屋の板敷きを提供してもらう。自己愛が強く、どこまでも誇り高く、根が腐った歪み根性で、根が並外れて怠惰で無計画で、自堕落で自業自得という、およそ共感を呼ばぬ主人公だが、成り行きが気になる。ようやく安住の地を見いだしたかにみえたのだが、彼はあくまでも物事を自分中心にしか考えられない。またもやとんでもないことをやらかして、結局はぶざまに馘首されるという、ほぼ予想通りの話だ。

寛多は後半、洋食屋の仕事に面白味を感ずるようになり、これを職にしようかとさえ考える。いい流れだ。だが店主夫妻は問題の多い彼を見限る。根が人一倍プライドが高く、また人数倍にスタイリストにできている彼の、自分を正当化する嘘や方便を交えながらの釈明も通じず、あまりに幼稚な悪態を吐いて店を追ん出る。またやっちまったな。こんな話のどこが面白いのだ。と思うが、途中で投げ出すことなく、きっちり読了するのはなぜだ。この愚か者の惨めな敗残を見たいという加虐的な気分か。自分はこれよりは遙かにマシな17歳だったという優越感か。でも17歳のわたしは寛多に比べようもなく幼稚だった。

この作家は難解な漢字や表現を用いるのが特徴である。「これがぐれはまとなった今」って何だ? ぐりはま:「はまぐり」の「はま」と「ぐり」を逆にした俗語。物事がくいちがうこと。あてがはずれること。その音変化が「ぐれはま」らしい。「確とふとこっていたものらしい」「我知らずにのうちにほき出した」も意味不明だ。なんだか無理な背伸びをしているように感じる。ところで、カバーデザインはなかなかいいと思う。だが、イラストの自転車でまた間違いを見つけた。チェーンが左側についているという、ありえない構造。自転車の構造と、書籍の綴じ方について、無知蒙昧な絵かきが多すぎる。 (柴田)

西村賢太「蠕動で渉れ、汚泥の川を」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/408771666X/dgcrcom-22/



●最近、21時に寝て1〜3時頃に起きる生活が何度か。これは夜更かしでもないし、徹夜でもないし、早起きでもないし、何にしようか。/カレンダーを細工してくれる人は出てこないものか。

保険相談続き。どういう保険に入りたいか明確に決まっている人にはアドバイスをしないと言っていた。保障はいくら、予算はいくら、などと決めていて、さっさとその条件に合うものをピックアップしろという人はいるらしい。

アドバイスをしようとしたら、保険のことは知っているんだぞ、というような態度をとられるそうな。(騙されないぞという感じ←私の持ったイメージであり、彼はそんな言葉は使っていない)

そんな時は楽だしラッキーで、事務に徹するとのこと。わざわざ来られているのにもったいないなぁとは思うんだって。もっと良い条件はあるのになぁって。

保険会社の出している保険は同じようで、どこも個性を出そうとして商品を多様化しているのだ、と。非喫煙者だと保険料が大幅に下げてくれる会社はあるが、喫煙者だからと割高にならないところもあると、実際にシミュレーションしながら教えてくれた。

喫煙者の方が安くなる保険があると聞いたような気がしたけれど、検索しても出てこないので非喫煙者割引のない保険のことだったのかな。 (hammer.mule)