羽化の作法[22]段ボール村になってからの変化/武 盾一郎

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,800文字)



通称「段ボール村」とは、1996年1月24日の東京都による野宿者強制排除(段ボールハウス強制撤去)によって、新宿西口地下広場に野宿者が集中したことによって出現した。

赤ちゃんも産まれる時は泣き叫ぶけど、段ボール村も都によって強制的に段ボールハウスを根こそぎ剥がされて、泣き叫ぶしかない人々が集まったところから始まった。始まりは「泣き叫び」。これは表現だって同じだと思う。

それまでも、段ボールハウスが密集するエリアはあったのだけど、なんとなく自然発生的に段ボールハウスが増殖して、個人個人が近くに暮らしているだけという感じだった。

「段ボール村」と呼ばれる理由には、個人が密集してるだけではなくて、コミュニティが形成され、明確な意志を持った有機集合生命体のように動き始めた、ことだと思う。その駆動輪となっていたのが野宿者支援活動の「新宿連絡会」であることは間違いないだろう。

だから、「段ボール村」とは「(排除したい)東京都」と「(それに抗う)活動家」の存在によって産まれた「対立エネルギーの実体化」とも言える。

コミュニティが形成されていた証拠は、段ボールハウスの建築様式にある。段ボールを二人がかりで紐で編んで組み立てる建築方法は、協力し合わないと建てられない。建築の専門家も現れた。

参照「羽化の作法[21]段ボール村と段ボールハウス建築」
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20160823140300.html

と、ここまではちょっとユートピアチックな原始共産制の出現なのだが、コミュニティができて交流が生まれた一方で、トラブルというか問題も起こるようになった。

人間の関係性密度が濃くなって、良い面だけが高まることはなくて、悪い部分も高くなるのだ。徐々に段ボール村の仲間内のイザコザが多くなっていくのも肌で感じるのだった。

タケヲと僕は、強制撤去から一か月経ない2月15日から段ボールハウス絵画を再開した。





●雑誌「FLASH」に掲載される

1996年2月22日“ネズ公の家を仕上げる(3日間) 大久保さん来るフラッシュ写真とる 東京新聞の記者が偶然通りかかり写真を撮って去る週刊朝日のカメラマン偶然通り写真を撮る:制作ノートより”

「フラッシュ」とは写真週刊誌のことで、強制撤去後に取材をされていた。記事はこちら↓
https://www.facebook.com/junichiro.take/photos/a.1053736031337950.1073741847.206228169422078/1273577059353845/?type=3&theater

画像にある絵が、強制撤去されて現在は動く歩道となっている通称〈B通路〉に建っていた段ボールハウスに描いた『スイートホーム』である。

強制撤去後、段ボールハウス絵画と野宿者の所有物は、新宿の地下にある巨大な倉庫に一時的に保管されていた。東京都は強制撤去の際に住民を無理矢理どかして放り出し、家財道具やら段ボールハウスを丸ごとトラックに積んで地下道を一気に片付けたのである。

ある意味、絨毯爆撃の掃討作戦である。いくらなんでもそれは酷いと思ったのか、都は保管してある倉庫を開けて私物を取りに来る日を設定した。

「段ボール村」の人たちは、強制撤去で奪われていた私物を取り戻す際に、段ボールハウス絵画『スイートホーム』も取り返して、西口地下広場に現れた「段ボール村」に戻して建て直していたのだった。

この日の制作ノートには通行人のネガティブな反応も記してあった。

オバタリアン風女性「絵なんか描いてないで仕事するようすすめたら」

中年サラリーマン風オッサン「汚ったねえんだよ」

中年サラリーマン風オッサン「火をつけてやる」(絵を描いている最中に言われて、振り返ると、そのまま人ごみに逃げ込んでいた)

オバサン「役所の迷惑になるようなことはするな。みんな迷惑なんだから絵を止めなさい」

今これを読むと、女性は具体的な提案をしてくるのに対して、オジさんは感情を吐き出すだけの傾向があるようだ。罵声を浴びせられることもあったが、共感してくれる人も大勢いた。

翌日の2月25日のノートには、成田空港反対派の過激派をやってると強制撤去前に言ってきたお兄さんが再びやってきて、「じゃがいもくうか?」と言ってじゃがいもを置いて行ってくれたり、「素晴らしい!」と伝えて、人ごみに消えていく人もいた、と書いてある。

●迫川尚子さんとの出会い

強制撤去後に「段ボール村」が生まれてもうひとつ素晴らしい出会いがあった。それが喫茶店ベルクの副店長で写真家の迫川尚子さんである。

西口地下広場、当時の通称〈インフォメ前〉のちょっと奥の方で絵を描いていたとき、可愛らしい女性がカメラを首からぶら下げて「こんにちは〜」とにこやかな笑顔で軽やかに挨拶をしてきた。

彼女が新宿東口の喫茶店ベルクの副店長、迫川尚子さんだった。これまでも木暮茂夫さんに代表されるように、カメラを持って段ボール村に来て撮影していく人は何人かいたけど、迫川さんはかなり違っていた。

覚悟を決めないとコミュニティに入れないハードルの高い雰囲気がある中、迫川さんはまるで爽やかな風のように真っ赤な派手なコートをひらりとゆらして、まるで妖精のように段ボール村の人々の写真を撮るのだ。

最初、ちょこっと撮って通り過ぎて行くだけの人かと思ったのだが、迫川尚子さんはずっとダンボール村に通い写真を取り続けるのだった。

(新宿ダンボール村?迫川尚子写真集1996ー1998)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4925064762/dgcrcom-22/

(つづく)

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