[4200] 明朝体とゴシック体、そしてアンチゴチ

投稿:  著者:  読了時間:15分(本文:約7,000文字)



《会社を辞めるときは極力慎重に》

■わが逃走[188]
 困ったひとの巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[48]
 明朝体とゴシック体、そしてアンチゴチ
 関口浩之





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■わが逃走[188]
困ったひとの巻

齋藤 浩
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20160929140200.html
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S氏は、とある真っ当な雑誌の編集者だったのだが、酒の飲み過ぎが仇となって退社しフリーとなった。震災前のことだったと思う。

会社ではなく酒をやめればよかったのだが、同じマンションに何人かフリーランスの人がいて、みんなそれなりに生活できていたので、「じゃあ、オレも」と後先考えずに辞表を出したのではなかろうか。おそらくそうだ。そうに違いない。

少し考えればわかることだが、フリーでやってる人は皆、少なくとも「食っていけてる」わけで、「食っていけなかった」人は、フリーとして存在していない。

つまり、視界に入るフリーの人は、一見いい加減に見えたとしても、少なくとも生活ができている。

なので、「あの人がやっていけてるんだからオレだってなんとかなる」という考えは成立しない。命取りになる。

私を含む同じ集合住宅に住む何人かは、S氏から「チームへなちょこ」として認識されており、そう思わせてしまった我々はそれなりの責任を感じていた。

S氏はフリーとなった後も酒の飲み過ぎが仇となり、いろいろやらかしてしまったらしい。

昨年は救急車で運ばれ緊急入院。

アル中病棟を退院したときは別人のように生き生きとしており、ああ、もう大丈夫かと安心したが、結局その日からまた飲み始めてしまった。

そしてついにこの5月、彼は長年暮らしたこの集合住宅から去っていったのだった。

今日、訃報が届いた。いずれこうなるとは思っていたけど、早すぎたなあ。

アル中以前のS氏はユーモアのある知的なおっさんで、(適量の)酒を飲みながら、デザインや建築についてのウンチクを楽しく、わかりやすく語ってくれたものだ。

私のグラフィック作品についても客観的に批評してくれた。気のいい先輩であり、兄貴だった。

いつだったか、彼が暮らす囲炉裏のある部屋に遊びにいったとき、オリーブオイルを敷いたフライパンの上で餅を薄く焼いて、その上にたっぷりと大根おろしを乗せて食べるとイイぞと、その場で作ってくれたのだが、それがすこぶる旨かったことを思い出した。

この料理の主役は大根おろしであり、大根おろしをいかに旨く食べるかの究極の答えがこれだという。なるほど、納得の味である。最近ご無沙汰だったけど、久々に作ってみようかな。

レンジファインダーカメラの面白さを知るきっかけをくれたのも彼だ。

10年ほど前、「もう使わないから」というS氏からフォクトレンダーBESSA-Tと2本のレンズを1万円で譲り受けたのだ。

見た目の格好良さと、周囲がみんなデジタルになってしまった反動から、このカメラで街角スナップを始めたわけだが、現像されたネガフィルムを見て腰を抜かすほど驚いた。

とにかく美しい。適度なコントラストがありつつ黒がツブレない、白がトバない。広角レンズでも歪まない。

ただしフルマニュアルカメラだから、油断するとピンぼけもするし、露出も間違える。

でもこれって、なまっていた勘が蘇る楽しさ、上達する喜びが味わえる最高の道具ではないか!!

以来、レンジファインダーカメラは私にとってなくてはならない人生の友となったのだ。

ときどき紹介する写真作品『趣味の構造美』シリーズも、実はここからスターとしたと言っても過言ではない。

そういった意味からも彼には本当に感謝している。

で、この一件から何を言いたいかといえば、S氏のご冥福をお祈りするとともに、会社を辞めるときは極力慎重に。とくに性格的向き・不向きは絶対にあると思います。

客観的に自分のダメなところを判断し、リスク回避のため具体的にどうすべきか熟考し、検証を重ねること!!!!!


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[48]
明朝体とゴシック体、そしてアンチゴチ

関口浩之
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20160929140100.html
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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

今年の東京の日照時間は、9月として四半世紀ぶりに少なくなっているようです。9月18日から24日までの一週間は、一日の日照時間が連続して一時間未満だったようです。

すっりとした秋晴れの毎日になってほしいですね。僕は天体観測マニアなので、星がきれいな夜空が待ち遠しいです。

というのは、最近、デジタルカメラを購入したのです。古いカメラは10台ぐらい持っており、10年ぶりくらいの新規導入です。ライブコンポジット機能が付いた、オリンパスの「E-PL7」というミラーレスカメラです。

このライブコンポジット機能、天体写真を撮る僕のようなマニアにとって、すごく嬉しい働きをします。

星雲や銀河を撮影するためには長時間の露出が必要なのですが、都内は空が明るいので、数秒で明かりをかぶってしまいます。ライブコンポジット機能があると、暗い空は暗いまま、星雲や星団の明かりのみを重ね合わせしてくれるんです。

ハッブル望遠鏡のようなきれいな写真は無理ですが、マンションのベランダ天体観測所からアンドロメダ銀河やオリオン星雲が、それなりに撮れるはずです。

残り少ない今年のもじもじトークで「アンドロメダ銀河の撮影に成功しました!」とかの記事をご期待ください………

さて、今回のもじもじトークは「明朝体とゴシック体」のお話です。

●明朝体とゴシック体の違い

前回のもじもじトークでは、20個の明朝体を並べて観察しました。明朝体オタクでなくても、「おっ、じっくり観察すると、個性が異なるさまざまな明朝体があるのね」と感じることができたと思います。

明朝体とゴシック体の違い、みなさん、ご存知ですよね。出張中に街中で見かけた明朝体とゴシック体を写真に撮りました。こちらです。ジャーン!
https://goo.gl/E0QSAl

この二つの、書体を入れ替えたら、受ける印象が変わりますね。

●明朝体とゴシック体の使われ方

「明朝体」と「ゴシック体」の二つの書体、不仲のようにもみえるけど、仲良
しでもあるのです。

では、この二つの書体の特徴を列記してみましょう。

明朝体:

縦画に比べて横画が細い。漢字にはウロコが付いている、ちょっと幾何学的なデザイン。だけど、ひらがなやカタカナは楷書体のような雰囲気を持っている。明朝体における漢字とそれ以外の文字(ひらがな、カタカナ、英数字)の字形デザインには違いがあり、それの違いによりメリハリが出て、リズム感が生まれる。本文で使われることが多い。

ゴシック体:

横画と縦画の線の太さが同じ。漢字とひらがな、カタカナが同じトーンの字形デザインで作られている。小説の本文で使われることは少ない。見出しで使われることが多い。

歴史をたどってみると活版印刷や写植の時代から、小説の本文は必ずと言っていいほど明朝体が使われています。つまり「読み物として使う書体は明朝体である」「長文を読むには明朝体が適している」ということは証明されていると思います。

明朝体はリズム感があるので、長く読んでいても疲れない、斜め読みもしやすいということなんだと思います。

書体デザイナーの講演セミナーに度々参加してますが、「書体の王道は明朝体」「明朝体は奥が深い」「まだまだ明朝体を究めていない」「明朝体に終点はない」というお話を聞いたことがあります。

「あれっ、でも、ウェブサイトでは長文もゴシック体で使われているよね」という意見もあるかと思います。

これは、ディスプレイの解像度に関係しています。明朝体は横画が細く、ウロコやハネの細かい要素が多いので、解像度の低いディスプレイではきれいに表示できないのです。

パソコンが誕生した頃の画面解像度は640×480だったと思います。最近のパソコンの画面解像度は高くなったといえ、1366×768解像度のノートパソコンを使用している方も少なくないと思います。

そんな環境では、デザインが直線的で横画も細くない、ゴシック体のほうが情報を表示する上で適しているのです。

スマートフォンやタブレットのような高解像度ディスプレイが主流になり、パソコンも同様に高精細な画面が普及すると、明朝体で表現するウェブサイトが増えてくるかもしれません。

●アンチゴチって書体、知ってる?

漫画の吹き出しの中の文字を観察してみてください。漢字にはゴシック体、ひらがなには明朝体を太くしたような書体が使用されています。この太い明朝体のような書体をアンチック体といいます。

ひらがなに「アンチック体」、漢字は「ゴシック体(ゴチック)」を使っているので「アンチゴチ」と呼ばれているのです。

そうなっていることに気づいていなかったみなさん、漫画の吹き出しの書体がどうなっているのか、ぜひ、漫画を手に取って観察してみてください!

なぜ、このような書体が使われるようになったのでしょうか? パッと見たときにメリハリ感が出る、つまり、肉声が伝わるということだと思います。漫画の吹き出しは、しゃべり言葉ですからね。

漫画の吹き出しでの利用以外で、ウェブサイトでアンチゴチをうまく活用している事例を紹介します。

電通報
https://goo.gl/k52FKd

メリハリというか、インパクトありますよね。四角い枠の中にリード文を「アンチゴチ」書体でポンポンと配置して表現したのは、ウェブメディアならではのなかなか良い発想だと思います。

今回は明朝体とゴシック体のあれこれのお話でした。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/

1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステム
やプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(09/29)

●浅羽通明「『反戦・脱原発リベラル』はなぜ敗北するのか」を読んだ(ちくま新書、2016)。浅羽といえば「ニセ学生マニュアル」だが読んでいない。オタクやオカルト分野の論評は、たぶん宝島系で読んだことがあるが忘れた。この本は、オタク的で少し意地悪なご隠居と、リベラル派に同情的な質問者の対話編。ご隠居は「反戦・脱原発リベラル」の動きを観察し「これでは勝てないな」という。理由1:原発を再稼働させ、安保関連法案を成立させようとする安倍政権に撤回を迫れるだけの決定的なカードを、リベラルの側が何も持っていない。ちょっと目障りなだけで、なんとも思われていないのがあのデモだ。

理由2:リベラルの人たちの発言には、これで本当に勝ちたいと思っているか、と疑われるものが多かった。若手論客・古市憲寿に「デモをやるにしてもちゃんと目標を定めて効果測定してやっていかないと意味がないんじゃないですか」と問われた社会学者の小熊英二教授は「効果測定なんかしたら楽しくないから意味がない」と答えた。「これだけの規模のデモを無事に行うことができた。そのこと自体が快挙だ、完全勝利だ」と映画監督・想田和弘。目的と手段がいつのまにか転倒している。理由3:彼らのアピールが、安倍政権へ投票しているだろう層を、納得させるだけのリアリティに乏しいものばかりだった。

ご隠居はこの三つの理由を一つずつ、詳しく論じていく。「三ちゃん二生のデモ」という見立ては秀逸。デモ参加者は、ばあちゃん、じいちゃん、かあちゃん、学生、先生で、労働の現場の働き手が数えるほどしかいないデモでは、実務的知性が希薄で、「命より大切なものはない」「あの戦争を繰り返すな」という常套句が生活者の実感からかけ離れている。あの戦争って? 誰が大東亜戦争をもう一度やれと言ってるんだ? 原発や安保関連法には、日本の社会経済を担う現役にとってどうしてもくい止めるべき急迫性はない。あるのはリベラルのバーチャル脳内観念世界限定の話であり、真に受けるのが愚かであろう。

冷笑家を自認する筆者のとびきりの提案。原発を吉祥寺と千代田区へ、東京の米軍基地の拡大、さらに高学歴・高偏差値・実家の年収1000万以上の子息子女から徴兵していくシステムを確立→政財界トップは我が子を殺したくないから開戦に踏み切る確率は激減、戦争はできるがしない国の完成だよ。ご隠居はリベラル派を「セカイ系で中二病」と診断する。リアル系を予めブロックし、大東亜戦争と日本国憲法で自己中にガッチガチに守りを固めたのが日本のリベラルだ。この本、「反戦・脱原発リベラル」が勝利するためのヒントがいくつも入っている。読んで不愉快になるでしょうが、我慢して読みましょう。 (柴田)

浅羽通明「『反戦・脱原発リベラル』はなぜ敗北するのか」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/448006883X/dgcrcom-22/


●アメージングモデルエキスポ続き。以前、怪物屋さんの前を帰宅途中に通ったの。ビジネス街にこんなお店があるなんてと入ってみたら、先にいたお客さんに怪物屋さんが丁寧にアドバイスされていたところ。

店の中を見回ると、SF映画やコブラのクオリティの高いフィギュアがあった。会話のきっかけが何だったか忘れたんだけど、あ、そだ、家にキューティーハニーやデビルマンのガレージキットがあって、どんな塗料がいいのか、(塗料を買えば)アドバイスしてもらえるのか、塗ってもらうならいくらぐらいかかるんだろうかと聞いてみたんだった。

費用は考えていたより安くて驚いた(内緒)。一日二日で完成できるものじゃないのに。怪物屋さんは血管まで描かれた上に、肌の色を何度も塗られるのだそう。ハリウッド作品にも参加されていた。作品名は忘れたけど知ってる作品だったよ。続く。 (hammer.mule)

マニアに大人気「怪物屋」で火災 大阪で男性店長やけど
http://www.sankei.com/west/news/150802/wst1508020019-n1.html

キューティーハニーのはボークスのだった。1995年
http://www.i-webart.com/garege/hany2012_8/index.htm
原画が空山基氏、原型は圓句昭浩氏

作っている人がいた
http://coolgirl.blog.shinobi.jp/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%80%80%E7%A9%BA%E5%B1%B1%E5%9F%BA%E3%80%80%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%8B%E3%83%BC/

デビルマンは先日お亡くなりになった韮澤靖氏のもの。
http://www.fg-site.net/archives/post_old/79984
他にも未完のものが……汗

怪物屋さんが係わられたコブラの話とかがある。レディめっちゃ良かった
http://blog.acro-japan.com/page/5/?s=%E6%80%AA%E7%89%A9%E5%B1%8B

スキン塗装
http://blog.acro-japan.com/2014/10/25/%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E5%A1%97%E8%A3%85/
「怪物屋さんの特徴といえば、やはりスキン表現ではないかと思っています。肉色の下地塗装の上に、チッピング・点描にて肌色を何度も重ねていきます。」