ショート・ストーリーのKUNI[202]超恐がり女はカメムシの夢を見るか-2 衝撃の結末に胸がふるえる涙が止まらない理由がすごすぎる、ことは全然ありません/ヤマシタクニコ

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,900文字)



前回「雑文でお茶を濁させて」いただいたヤマシタです。実はその、仕事のばたばたがその後も尾を引いておりまして、二夜連続で創作ではなく雑文でお茶を濁させていただくことになりました。すいません。

え? もともと創作が雑文のレベル? 創作でお茶濁しまくり? すいません。いや、前回の話の続きを書きたい気分もありまして。


──ある朝あらわれた男は、いつの間にかいなくなっている。

肩幅の広い、いかつい、無口な男。どこからやってきたのか、何をしているかもわからない。語らないし私も聞かない。

薄らぎつつあった違和感がまだ完全に消え去らないころ。ある朝目覚めて台所に行くと、いつもいる男がいない。

なんとなく物足りない、でもどこかほっとした気分でその日を過ごす。

何日か後。





ベランダに出ようと台所のドアを開ける。視界の隅に何か……見えた。ん? と思ってそちらを見た私は絶叫した。

カメムシが見事にぺちゃんこになってへばりついているのだ、ドアのサッシ、私の胸の高さあたりに。

ぺちゃんこになっているので見た目は元のカメムシ(ゴキブリ大)の3〜4割増し。内臓らしき真っ赤なものが端のほうからはみ出ている。だだだ誰がこんなことを!

……私しかいない。

私がカメムシがいることに気づかずドアを開けたときにこうなったわけだ。

ぐえええええええええ。

どきどきしながら用を済まし、ベランダから戻るときも、見ないようにする。そうっとドアを閉める。ふーっ。

そうか……。いなくなったのだ。やつはもういない。罪悪感マックスだが、とにかく、終わった。終わったのだ!

終わってみるとなんともはかない。カメムシが何をしたというのだ。何もしなければ悪臭を放つこともない。あんなひどい仕打ちをしなくても……すまん。すまんのう。私も意図してやったことじゃないんだ。調べてもらえばわかるはずだ……。

ところが、翌日、反対側のベランダに出て洗濯物を取り入れていると、なんと、足下にゴキブリ大のカメムシ発見。私は目を疑った。

二匹いたんだ……。

動きは緩慢だが、私が現れたことで向こうもやや狼狽し、移動しようとする。よりによって、わずかに開けたままのサッシから、室内に向かっているではないか。洗濯物の半分を取り込み抱えたままの私はあせりまくる。

今すぐ、カメムシより先に室内に入ってサッシをぴしゃっと閉めたい。だが、そうすると残してきた洗濯物にくっつくかも。それも困る。

大慌てで残りの洗濯物をぱぱっと取り込み、両手いっぱいにタオルやシャツや下着とハンガー類を抱え込み、ピンチのカゴを片手に持ち、心臓ばくばくさせながらカメムシより一足先に室内に……

入れた! サッシ閉めた! やった! そのままふとんの上に倒れ込む(ふとん敷きっぱなしでした)。

はは……はは………なんとか脱出できた喜びに顔をひきつらせて笑う。いや、たぶん笑いになっていない。ともかく、逃げおおせた! ヤマシタ、やった! 上出来だ!

ほっとして洗濯物をより分ける。ひとつひとつ簡単にたたみ、さてしまおうとしたら……ふとんの上にひときわ大きなやつが一匹!

三匹いたんだ………。

力が抜けた。「へなへなとその場に崩れた」という表現があるが、まさにそれ。だけど、そのままにはできない。大カメムシ付きのふとんでどうやって今晩寝るんだ! 

泣きそうになりながらふとんを抱え、サッシを開け、ベランダに向けてゆさゆさと揺すってみる。カメムシ、落ちろ、落ちてくれ! 間違ってもこっちには来るな!

なかなか落ちない。そりゃそうだ。向こうは向こうで必死でふとんにしがみつく。仕方ないのでまた布団たたきを持って来て、こそげ落とす。

布団たたきは持ち手から先端まで60センチくらいあるが、60センチ離れていてもなんとなくカメムシの感触が伝わるようでぞ〜〜〜〜〜っとする。

早く離れてくれ! ぐずぐずしてるとさっきベランダにいたやつが入ってくる可能性もあるし。早く、早く!

なんとか落ちてくれた。急いでサッシを閉める。

もう何が何だかわからない。なぜか涙がぼろぼろ出てきて、気がついたら号泣していた。完全にパニック………


──君、ぼくたちが複数いると思わなかったの?

──それって、むしろおかしくない?

──こんなに僕たち、顔も体つきも違うのに?

──僕たちが同じに見えるっていうのは安倍総理と福山雅治が同じに見えるようなもんだぜ? ありえなくないか?

──まあしょせん種の違いとはそういうものだな。

──相互理解不能、か。

──ははは……

──ははは……

──ははは……


目の前にあの男が現れる。三人も。三人はゆうらゆうらと重なり合い、また離れながらささやく。ははは……ははは……そうだよ、どうせ私がばかなんだ、ばかなんだよ……。

翌日、私はドラッグストアの殺虫剤コーナーにいた。

私はカメムシを殺したくない。殺したくない。共存したい。その思いに変わりはない。だけど、はっきり言って昨日のような経験を何度もしたくない。

毎日、どこかにゴキブリ大のカメムシ(略してゴキカメだ!)がいるのではとびくびくしながら、タオルやTシャツを何度も何度も裏返してチェックして、それでも見逃してはないか、突然目の前に現れないかと心配で仕方ない状態で暮らすなんて惨めすぎる。

そうだ。カメムシは何もしていないといっても、実際にはこんなに私を追い詰めているではないか。私には、これを使う権利があるはずだ。


──ふううん。

──そういうことをするんだ、君は。

──信じていたのにね。

──虫だって一生懸命生きてるんだなんて、あれはきれいごとだったんだね。

──そういことだったんだね………。


私は耳をふさいだ。せせ、せめて「殺虫成分ゼロ」「マイナス85度で凍結」というやつを選ぶ。


──殺虫成分ゼロでもいっしょだってば。

──僕たちを殺すことに変わりはないんだよ。

──単に人間に無害ってだけ。

──頭悪すぎ。

──まあいいさ。

──信じた僕たちが悪いのさ………


うううううううるさあああああい!

翌日、私は手を下した。震える手で噴射した。何の反撃もしない、じっとしているゴキカメに向かって。後からさらに発見した一匹を加え、都合三匹が私の手によってはかない生を閉じた。

ごめん………。

仏教徒なら手を合わせる、クリスチャンなら十字を切るところか。何も信じていない私はただ、スプレー缶を手にうなだれるしかない。すると空の彼方からきらーっと光が降ってきた。なんだかまーるい、光るものも現れた。

やったー!
カメムシを三匹殺した!

私はメダルをもらえたらしい。XP値も上がったようだ。だが、私の心は重い。残りの人生を私は罪悪感とともに生きねばならない。しかし、殺虫剤は頼りになるわ。


【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
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というわけで現在うちのベランダには三つのご遺体が横たわり、サッシにはさらにもう一体、くっついておられます(いずれもまだ処理する勇気が出ません)。

ラスト、ポケモンGOと縁のない方にはわかりにくいかもしれませんね。すいません。最近、ジムバトルなどもやっております。今頃といわれそうですが。すいません。

いつも「すいません」と書いていると「正しくは『すみません』ですよ」と叱られたことがあります。すいません。