わが逃走[190]手取川七ヶ用水大水門を見に行くの巻/齋藤 浩

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金沢での仕事が終わった翌朝、手取川七ヶ用水大水門を見ようと思い立った。

明治36年、日本における近代治水の父、ヨハネス・デ・レイケの指導によって完成したという、煉瓦と石積みの美しい土木遺産だ。

手取川扇状地を流れる七ヶ用水の歴史は古く、川の支流などを基とした治水・利水は、すでに古墳時代には行われていたらしい。しかし、この地の歴史は洪水や日照りの歴史でもあり、周囲の村では長らく水争いが絶えなかったという。

近代用水への転換となったのは、幕末から明治にかけての「富樫用水」取水口新設工事だ。

枝権兵衛の指揮のもと、岩山を削ったトンネルを含む総延長1キロを超える水路が、四年の月日をかけた大工事の末、完成。

これにより、約1800ヘクタールの田畑への水問題が解決、村を干ばつから救った。しかし明治期に入るとこんどは水害が深刻化する。

ついに金沢県(当時)は手取川の洪水対策を決意、河川改修工事に乗り出すこととなった。そこでお声がかかったのが、我らがヨハネス・デ・レイケというわけだ。




日本を旅すると、行く先々でデ・レイケの仕事と出会う。

怪人二十面相も駆け抜けたであろう東京の神田下水、あまりにも有名な常願寺川の河川改修、そしてあの美しい四日市港の潮吹き防波堤など、土木遺産好きなら誰でも知ってる物件の多くに、その名前を見いだすことができる。

しかも、それらの多くが現役の施設で、今なお機能しているところがスゴイ。今回のお目当て「手取川七ヶ用水大水門」ももちろん現役。

というわけで、金沢駅前のホテルから白山市白山町へと向かう。ちなみに白山市白山町と書いて、はくさんししらやままちと読む。

JR西金沢駅経由という手もあるが、どうせなら北陸鉄道石川線を全線乗ってやろうと思い、金沢駅からまずバスで野町駅へ向かった。

20分ほどで到着。渋い昭和な駅だが、中途半端に改築した結果つまらんことになっていたので、写真を撮るのを忘れた。

周囲の店はほぼシャッターが下りていた。ふた昔前くらいは活気があったことだろう。

振り向けば駅前にカッコいい風呂屋が! おそらくもう営業してないと思うが、木造の入口と煉瓦造りの浴場?

こういうものこそ生きた文化財にすべきだと思う。

加賀百万石に暮らす人々は見栄っ張りなのか、名のある路地や名所旧跡をことごとくピカピカに修復してしまう傾向がある。

それに対し、観光客の少ない路地裏風景の痛みが激しく、空き家・空き店舗の劣化や取り壊しが目立つ。

結果、歴史的風景が失われるという負のループに入っているのではないか。ちょっと心配。

さて列車は野町、西泉と走り、JR乗り換え駅である新西金沢を出ると、終点までほぼまっすぐ進む。

車窓には規則的に並んだ建売住宅が延々と続く。この単調さは、音楽に例えればハウス。

それが途切れると、こんどは田んぼが延々と続く。富山地方鉄道のようなローカルならではのスペクタクルは期待しない方がいい。

終点の鶴来には約30分で到着。鶴来と書いてつるぎと読む。駅舎はそれなりに古く、由緒ある雰囲気の木造建築だ。

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ただ駅前は中途半端に再開発してしまったらしく、歴史と伝統の風情が消失。少々残念である。

さて、案内所で「手取川七ヶ用水大水門」について尋ねるも、誰も知らない。聞いたこともないという。パンフレットのpdfを見せてもピンと来ないらしい。

そりゃそうだ、そのスジでは有名な土木遺産も、地元の人にとってはあたりまえすぎて盲点なのだろう。

私が育った某S玉県で、見沼用水について尋ねられても私は答えられんし。

ダメもとでタクシーの運転手に聞いても同様だった。たしか近くに廃線になったナントカ駅と白山ナントカ神社があったはずなので(うろ覚え)、そこまで乗せてもらうことにした。

5分ほど走ると、右側に治水施設とおぼしき建物が見えてきた。どうやらアタリのようだったのでそこで下車、渋い国道の風情を楽しみつつ歩きはじめるとすぐにイイ感じの路地を発見。入っていくと美しい階段、その先に廃線跡。

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線路を越えるとそこに、手取川七ヶ用水土地改良区白山管理センターがあった。なんともいいかげんなノリで、よくぞここまで辿り着いたもんだ。

この脇に手取川扇状地の用水の要、明治36年に完成していまだ現役のフォトジェニックな『大水門』があるのだ!

ところがなにやら様子がおかしい。近寄ってみる。なんと!

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工事中ではないか!

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そこへたまたま施設の人がやってきたので尋ねてみると、現在大水門は大規模修繕中で、完成は2017年の春とのこと。うわー、こうなったらまた来年来なければ。

大水門入口から振り向けば、旧加賀一の宮の駅ホームと駅舎。廃線からまだ数年しか経っていないのに損傷が激しく、線路だったところは草ぼうぼうランドと化している。

こんな立派な木造建築を廃墟にしてしまうなんてもったいない! 是非水門とセットでの保存を願う。

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大水門は水戸明神の森南端にあり、写真は北端に位置する取水口。こっちは工事中ではなかったので、美しい煉瓦づくりの四連トンネルを見ることができた。

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手取川にかかる和佐谷橋。床が木で、歩くときしむ。主塔とおぼしき構造が残っていたので、おそらく以前は吊り橋だったのではなかろうか。

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帰り道、鶴来駅まで歩いてみたが、フォトジェニックな風景やシブい物件が次々と現れ、これはこれで大変満足。楽しい一人旅でした。

というわけで、次回(来年)へと続く。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。