もじもじトーク[51]文字の定点観測〜第2回〜 機械彫刻用標準書体って知ってますか?/関口浩之

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

◎スーパームーンのお話

今週の月曜日、11月14日は68年ぶりのスーパームーンでしたが、皆さん、ご覧になりましたか? 東京はあいにくの雨天でしたが、翌15日は、雲の合間からお月さまが顔を出してくれたので撮影してみました。こちらです!
https://goo.gl/xsxcW0

満月の翌日なので十六夜のお月さまです。このお月さまの写真の上のほうに、スイカのヘタのような大きなクレーターが見えますよね。「ティコ」という名前のクレーターです。

直径は85kmあります。一億年ぐらい前、大きな隕石が月に落下して、クレーター「ティコ」ができたようです。月の誕生が46億年前なのでティコは比較的新しいクレーターなのです。

そして、ティコを中心に1500kmにも及ぶ、放射状の光のきれいな筋が見えます。なぜ、そのように見えるかいうと、大きなクレーターは太陽の光を浴びると、光を反射させる構造になっているようです。それが美しいな光条になってみえるのです

この写真は、望遠鏡で撮影したので倒立像になってますので、肉眼でみた場合、ティコはお月さまの下のほうに見えます。





●この文字を見たことありませんか?

『文字の定点観測〜第2回〜』では、駅構内で見かけた「機械彫刻文字」をお送りします。

皆さんは、赤いアクリル板に「非常電話」と書かれているプレートを駅構内でみたことありませんか? こちらの写真をご覧ください。
https://goo.gl/W0r8HB

通勤途中で見かけた6枚を、iPhone撮影しました。この文字は「機械彫刻用標準書体」という書体なのです。この書体名、今年の2月まで聞いたことがありませんでした。

丸ゴシック体のようにも見えますが、独特の佇まいを持つ書体ですね。僕はこの文字を見た時、ペンプロッターで描いた文字を思い出しました。

1980年代、CADシステム関連の仕事をしていたことがあって、当時はCADシステ
ム出力装置といえばペンプロッターでした。X-Y軸方向に自由に動くアームが
数種類の太さ、複数カラーのペンを握って、トレーシーングペーパーに図面や
文字を描く装置です。

パソコンからベクトルデータ(座標情報)をプロッターへ送信し、ペンが漢字やかなを描く様子は、30年前の画期的かつ、かわいい印刷装置でした。まだレーザープリンタは登場しておらず、ドットプリンタが主流の時代でしたから。

●機械彫刻用標準書体の特徴

話を戻しますが、機械彫刻とは、彫刻機が回転刃を使ってアクリル板や金属板などに文字を彫り込むことを意味します。

機械彫刻と言えば、僕は「ベントン彫刻機」が最初に思い浮かびました。ベントン彫刻機は、活版印刷の鋳造活字を制作する工程の、母型作成をするための装置です。文字の原図をなぞると、テコの原理の応用で、活字の母型を作ることができます。

一方、機械彫刻用標準書体を彫る仕組みは、ベントン彫刻機にかなり似ています。文字の原図をなぞると、テコの原理の応用で、回転刃がクルクル回りながら、アクリル板や金属版に直接、文字を刻んでいきます。そして刻んだ溝にラッカーを塗り込んで完成です。

彫り込みに使う刃は、作業の途中で付け替えすることはしないので、線の太さが一定になります。横画と縦画の太きさは同じになります。

そして、作業能率の観点から筆押さえやハネ、げたなどが基本的に省略され、角が曲線で描かれているのが特徴です。

彫刻機の構造上、丸ゴシック体になってしまうのです。ゴシック体を彫りたくても回転刃を使っているので難しいです。また明朝体を彫りたくても、回転刃のサイズを途中で交換しなくてはなりませんし、やったとしたら相当な労力が必要です。

また、手の圧の加減で、彫る深さや文字の滑らかさが決まるわけで、手動式の機械彫刻機をあやつれる職人さんは、いまでは非常に限られていると聞きました。現在では機械式MC彫刻機も存在するようです。

それ以外の特徴を列記してみます。

・1960年代から使われ始めたようです。駅構内の電気設備系の銘板、注意喚起のプレートなどでよく見かけます。

・機械彫刻用標準書体は、その名の通り、機械彫刻で刻印するために設計されました。

・日本工業規格のJIS Z 8903、JIS Z 8904、JIS Z 8905、JIS Z 8906で定められています。

・機械彫刻機を使って、プレートの表面を彫るパターンと、プレートの裏面を彫るパターンの二種類あります。とりわけ、裏面を彫るケースでは、雨風に晒されても文字が薄れることが少なく、耐久性が高いようです。

●機械彫刻用標準書体の原図

今年2月に「もじ部特別編:機械彫刻用標準書体の原図を見ながらあれこれ話そう〜駅の案内表示板でよく見るかわいい丸ゴシック体の謎に迫る〜」というセミナーに参加しました。

その時に「機械彫刻用標準書体の原図」を、ポストカードサイズに印刷した原図見本をもらったので、こちらに掲載します。
https://goo.gl/40AYl0

三番目の写真は、標準文字と略字の比較です。僕は「機」「監」「電」の略字がとても気に入っています。でも、この略字は、小さな文字のみで使用することという決まりがあり、略字で制作されたプレートは見当たらないそうです。

駅構内の「緊急電話」とかのプレートでよく見かけるこの書体、実は以前から気になってました。だけど「機械彫刻用標準書体」という、JISで定められた書体とは知りませんでした。

手書き風で可愛らしいこの丸ゴシック、JRのデザイン担当者が大昔に設計して、それが駅構内で使用されているぐらいにしか思っていませんでした。勉強不足で、本当にすみませんでした。

検索してみたら、この機械彫刻用標準書体、ベータ版がダウンロードできるんですね。
http://font.kim/#download

Kimさんという制作者の方のダウンロードサイトです。商用、非商用を問わず無償で使用できるようですが、使用条件の詳細はご確認ください。

この機械彫刻用標準書体は、僕にとって、今年の新発見書体大ニュースのひとつだったような気がします。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/

1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。