装飾山イバラ道[189]バブルとパライバトルマリン/武田瑛夢

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最近若い頃に好きだったものが再び好きになっている。着るものや食べるもの、見るものなど色々とあるけれど、「ジュエリー」もその一つだ。私には珍しく女性っぽい響きの「ジュエリー」と書くのが、なんだかこっぱずかしい。

●バブル期のジュエリー

宝飾品の30年を振り返ると、その時代毎に思い出がある。バブル時はデパートのフロアいっぱいにジュエリー店があり、キラキラとした照明で商品が入ったガラスケースを照らしていたものだ。

ちょうど新宿のルミネ2に「ジュエリーマーケット」があった時代だ。どのお店もピカピカに輝いていたイメージで、よく売れていたようだった。

その後贅沢なものを買う人が減り、ジュエリーマーケットもなくなってしまった。今や新宿南口にはバスタ新宿ができ、おしゃれな商業施設の1Fには日常の贅沢のためのお店が多く入っているようだ。

高級なパンやコーヒー、大事な人との時間の価値を優先するということか。





今はジュエリーはWEBサイトやオークションなど、昔よりも手に入れる手段が増え、競争のせいか価格も安い。金は上がったのに、さほど価格が高く感じないのはなぜだろう。

私はアラフィフなので20年前の金の価格を調べてみる。おおよそ金相場はグラムで1500円程度で、現在が4600円程度だとすると3分の1ほどだった。地金だけで見ると、ちょっとの間にこんなに上がったのかと驚く。

実際、相場とかよくわからないけれど、体感としては店頭のジュエリーは「高く」なるというよりも「軽く」なったと思う。価格を上げる代わりに、見た目は同じようでも地金を薄くして軽い商品が増えたのだ。これは後で書く技術の進歩も関係している。

私が持っている指輪にも、若い頃買ったわりにしっかりと重いものがある。裏を抜く加工に手間をかけるよりも、簡単に作っているせいかもしれない。母の世代がよく言うのは「昔のものほど良いのよ」という言葉だ。

●宝石の価値

宝石はというと、宝飾品と呼べる大きなカラットの石であれば時代の影響もあるけれど、デパートで気軽に買えるようなものはあまり変わっていないと思う。

宝石屋さんのWEBや通販番組では、鉱山の採掘量が価格に影響するという説明をよくしている。

確かに綺麗な石がいつまで採れるかは掘ってみなければわからないわけで、鉱山から宝石が採れなくなって、商品が高騰する例は多いにあるようだ。本当に採れないのかどうかは、山の持ち主しか知らないけれど。

私もいつか欲しいなと憧れていた「パライバトルマリン」という美しい青い宝石は、人気があり価格が大幅に上がってしまった。現在は少ない在庫商品や中古などを見かける程度だ。

「パライバトルマリン」は、ブラジルのパライバ州で採れる独特の鮮やかな蛍光色を含む青緑色の石。

画像検索すると、ソーダ色のキラキラな石がたくさん表示される。色幅が多いトルマリンの中で最も貴重で高価な種類だ。

ネオンブルーは銅と酸化クロムによるもので、その含有量の違いで緑っぽいものや青いものがある。

どの山の鉱脈から採れたかによる成分の違いは色の違いとしてそのまま表れる。最近新品として作られているのは、薄い明るい青のもので濃い色のものは少なくなった。

1989年以降供給された宝石というから、歴史的には新しい。しかし、あまりにも人気が出て高騰したせいで、その採掘権をめぐり争いになり供給が止まったりしたようだ。

流行っていた当時は良い色のもので1カラット100万円位だったものが、今は同じような中古商品が2〜3倍以上の価格だ。ジュエリーなんて中古になれば驚くほど安くなることが多いのに、欲しい人がいると価格は下がらない。

しかし、いま価値を認められているものが、何十年先も同じ価値なワケがない。もしかして、どこかの別の山にパライバトルマリンがザックザク出てきてしまったら?

ポケモンGOで、出現しやすくなったポケモンの価値が暴落した感じになるのと同じで、いっぱいあると欲しがる人が減ってしまうのが人間なのだ。

●新しい技術

昔の商品の方がしっかりしていると上で書いたけれど、地金が薄く、軽いことが悪いことばかりでもないと今は思える。

最近のジュエリーでよく見るのは「レーザー溶接」で作られた商品で、薄い金のプレートを加工して立体的に組み上げて、接合部分をレーザーで溶かして留めてあるものだ。昔はロウ付けという、電気ハンダで金を溶かしてくっつけていた。

デザイン本体部と糊となるロウの融点の違いを利用していたので、接合部は多少盛り上がる。現在のレーザー技術でくっつけた商品はかなりデリケートで、ほぼ盛り上がりなんて見つけられない。

そして、18金の板に細かいレース模様のような柄をレーザーカットしたものなどは繊細で美しく、手作業のものとは違う魅力がある。

人の手での加工は不可能な細かさでも、データから切り出すことができるのだ。設計も加工もコンピューターで作られるものが増えて、どんなものが生き残っていくのかとても興味がある。

3Dプリンターにジュエリーの元の型となるワックス作りを任せるのは、すごく理にかなっているし、このジャンルも技術開発が加速していくだろうと思える。

私も当時は、小さい裸石を集めては好みの枠にセットしてもらっていたことがある。石のシェイプに似合う枠を選ぶのは、絵画に額をつけるのととても似ていると思う。

石の色に合わせて枠の金色をホワイトにするのか、イエローにするのか、ちょっと頑張ってプラチナにするのか、ダイヤを脇に入れるか入れないかなど、予算と相談しながら決めるのだ。

加工ができるかできないかは、職人さんに相談して決める。自分ができないことをオーダーするのは、出来上がりにも予測外のことが起きる可能性があるので、ワクワクでドキドキだった。

機械加工が進歩しても手作りの良さが消えるわけではないので、ずっしりとした温かみのあるジュエリーに贅沢さを見出す人もいるかもしれない。

きっと未来になれば、こんなジュエリーが欲しいと思い描けばイチニノサン! でポンッと出てくることも可能かもしれない。

「いや未来じゃなくてももうあるよ」こう言う言葉も最近よく言われてしまっている気がする。

考えつくことなんて、どこかにもう存在するのが当たり前なのは、嬉しいやら悲しいやらだ。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/

昔は悪者とされていたコーヒーは、今は飲んだほうが良い飲料とされているらしい。研究者のテーマの影響を受けやすい私たちだけれど、朝の占いと一緒で、自分に都合の良いことだけを信じるようにしている。コーヒーは好きだから体にいいのは都合がいい。