《これは忍法でなく体質なのでは?》
■わが逃走[192]
読書感想文が書けない。の巻
齋藤 浩
■もじもじトーク[53]
2016年新書体、勝手にベスト3〈続編〉
関口浩之
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■わが逃走[192]
読書感想文が書けない。の巻
齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20161215140200.html
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毎年初夏と秋口に開催される句会に参加している。メンバーのほとんどが、以前勤務していた広告制作会社のコピーライター。
美しく、印象に残る名句の数々を生み出す彼ら“言葉のプロ”を相手にいかに戦うか、というわけで、毎回楽しくアイデアを出しつつ末席を汚す私なのであった。
そんな尊敬する複数のコピーライターが絶賛する小説。それこそが山田風太郎の忍法帖シリーズだ。老若男女を問わず、参加者のほとんどが大絶賛。
そんなに素晴らしいのかと『甲賀忍法帖』を読んでみたところ……。
以下ネタバレ注意。
第一印象は「これは忍法でなく体質なのでは?」だった。粘着性の痰を吐いて相手を絡めとるとか。性交渉をすると息が毒性を帯びて相手を殺すとか。
正直な話、「くだらねー」としか思えなかったのだ。
句会で年長者にそのことを話すと、あれはまだ真骨頂に達する前の作品なので、短編を読んでみてはどうか、とアドバイスを頂いた。
そこで選んだのが『姦の忍法帖』だ。Amazonで2円だったので早速購入。読み始めると……。
お殿様ご自慢の盾を構えた伊賀忍者を、同じくご自慢の矛で突く甲賀のくノ一。果たして強いのはどちらか。
武器と防具の性能以上にそれを使う者の精神力も問うべきである、よってお殿様の御前でまず性交渉をした上で試合をする。
といったおかしなルールでトーナメント戦をするという、まことにもってくだらない話。
忍法しゃくし返し!
筒状のものの先端からぴゅっと飛ぶ白濁した液がかかった者は、あれよあれよと言う間に肉体が変化し、体積は大人のまま胎児になり、受精卵になり、しまいには巨大な精子と卵子になるという忍術だそうな。
そもそもこれは忍術といえるのか。単なる魔法なのではないか。
忍法で隠居と手代のちんちんをすげ替えるなど、さらにどうでもいい話もある。主人公は特異体質で、一度女体と性交渉をすると相手の女性器がどろどろに溶けてしまう。そこに違う男がちんちんを挿入すると根元からとれる。
その上で、ふたつのちんちんを入れ替えたりしてるうちに、もとのちんちんがどへ行ったかわからなくなったとか、溶けた女性器をこねまわして男性器に作り替えて性転換するとか。
わからん。何を言いたいのか全くわからん。それゆえ「アホらしい」以外にまったく感想らしきものが書けない。
胃に毒虫を飼っていて敵に向けて吐くとか。これはまあ忍法といえなくもないが、毒をもつ虫を胃の中で飼えるというのは体質あってのことだろう。
女性器から分泌される液に浸した紙を、敵の顔に貼付けて窒息死させるとか、これも体質のなせる技。
やはり忍法帖というよりも体質帖とすべきではなかろうか。
美しいおなごを使い、忍法を完成すべく巨大なちんちんを鍛錬する話。
一度種付された女体にちんちんを挿入し、主君の精子を吸い上げて他の女体へ移す忍法『馬吸無(バキューム)』。アホとしか思えない。
吸い上げたものを国元の奥方様へ移すべく金玉袋に保存して、尿意をがまんしつつ忍びの者はひた走る。
途中、ちんちんを虫にさされて痒みにも耐えながらひた走るのだ。
この話の読書感想文を書けと言われても、私には書けん。
数々の言葉のプロの先輩が絶賛するにもかかわらず、「くだらないと思いました」としか書けん。
小学生のとき「もし自分が主人公だったら、きっとこうだったろうな」的なこ
とを書いてみなさいと当時の担任に言われたが、物語があまりにも荒唐無稽す
ぎてまったく感情移入できないのだ。
それなら“作者の気持ちになって考えてみよう。”
女体からちんちんを使って吸い上げた殿様の精子を自分の金玉袋に入れて、国元まで運ぶロードムービー的な、だからなんだ?
これにより読者に何を訴えたかったのか。
「人工授精は忍法だ」と言われても、
「はあ、そうですか。」なのである。
つまり、まったくわからん。
このままでは先輩諸氏には到底かなわない。
少しでもいい句を書けるよう、次は「くノ一忍法勝負」を読んでみようと思う。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■もじもじトーク[53]
2016年新書体、勝手にベスト3〈続編〉
関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20161215140100.html
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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。
2016年「もじもじトーク」の仕事納めです。今年もお付き合いいただき、ありがとうございました。ほんと一年って早いですね。来年こそは、体も心も、もう少しゆとりを持って過ごせればいいなと思っております。
あれっ、タイトルが前回のと同じじゃん……と思われるかもしれませんが、今回は、2016年新書体、勝手にベスト3の〈続編〉です。
前回、頭にパッと思いついた3書体を記事にしましたが、配信された後で「あっ、あの新書体も気になるなぁ〜」と心残りになってしまいました。なので、前回の続編企画をさせてください〜〜!
◎今年リリースされた書体、勝手にベスト3〈続編〉
前回の勝手にベスト3は「ゴスペル」「筑紫アンティークゴシック」「秀英にじみ明朝」でした。それぞれ、個性はまったく異なるけど、書体の設計思想がとても明確な書体だったと思います。
さて、「今年リリースされた書体、勝手にベスト3〈続編〉」は、どんな個性のある書体が出てくるのでしょうか。
●可愛らしい「きりこ」
まずは、「きりこ」という新書体をご紹介します。
こちらが「きりこ」というフォントです。
http://www.moji-sekkei.jp/kiriko.html
「えっ、これ、フォントですか?」と思われるかもしれません。この書体は、砧書体制作所(旧:カタオカデザインワークス)の新書体なんです。
とにかく「可愛らしい!」と感じました。ほっこりします。
この数年、手書き風フォントが流行りましたが、「きりこ」はそれとは違います。まさに「文字と図形のあいだ」のフォントなのです。
「も」と「キ」を一文字取り出して眺めると、記号にしか見えないと思います。でも「おもちゃ」「キラキラ」というように文字して並べてみると、不思議と読めてしまいます。
「音楽教室」もちゃんと読めちゃいますよね。
発売したらすぐに購入するつもりでしたが、忙しくしているうちに、買い忘れてしまいました。パソコンの中に「きりこ」がいないので、今回は、自分で文字見本を作ることができなかったので、砧書体制作所のサイトへリンクを貼りました。
「かなフォントです。」「漢字はオーダーです。」とあります。仕様のところに「アルファベット・数字、漢字を一部収録しています。」と書かれています。
このフォントは、ひらがなとカタカナが、基本収録されているようです。漢字の作字オーダーは1文字1,000円で承りますと書いてあるので、自分の氏名を作字してもらおうかな……。四文字だけの注文もできるのかなぁ……。
「きりこ」は書体デザイナー木龍歩美さんの新書体です。丸明オールドの生みの親である、片岡朗さんの事務所で書体設計されています。
なんと、日本タイポグラフィ年鑑2016のタイプフェイス部門ベストワーク受賞、東京アートディレクターズクラブ年鑑2016にも入選しています。
木龍さん、おめでとうございます。セミナーで何度かご一緒したことがあるので、自分のことのように嬉しいです!
僕は、「きりこ」と聞くと、ブラックジャックに登場する「ドクター・キリコ」を連想してしまいました。カタカナですけどね。銀色の長髪、左目に眼帯をした細身の男で、死神的な存在だったと記憶しています。
一方、ひらがなの「きりこ」は、とても可愛らしいです。「文字と図形のあいだ」という新境地を開拓したのではないでしょうか。
では、木龍歩さんと片岡朗さんとご一緒した時のセミナーのレポート記事を二つご紹介します。
WDF Vol.21 デザインの要「フォント」についての知識を深める一日
http://wdf.jp/report/report-wdf21.html
フォトブログ「foto」FontLovers #2に参加しました
http://fotos.jp/fontlovers02/
●素朴さと楽しさが感じられる「つばめ」
次にご紹介する書体は「つばめ」です。Webフォントでサンプルを作成してみました。
https://goo.gl/RYZEbj
「つばめ」は書体デザイナー神田友美さんの新書体です。フォントワークスから今年5月にリリースされました。
ゆる系の手書き風書体とは、ちょっと異なるような気がします。明朝体のうろこ(横画の終筆部)がピンと跳ね上がっているのが特徴的です。幾何学的でもあり、素朴さと楽しさが感じられるます。
今後、テレビのテロップや装丁、ポスターなどで見かける機会が増えるのが期待されますね。
神田友美さんのプロフィール
https://fontworks.co.jp/font/designer/tomomikanda.html
いつか、神田さんに、この書体を開発した背景や想いをお聞きしたなぁと思っています。
●進化した「凸版文久体」
今年最後にご紹介する書体は「凸版文久体」です。
みなさん、凸版印刷はご存知ですよね。凸版印刷の独自書体である「凸版書体」が誕生したのが60年前の1956年になります。
「文意を受け取りやすく」「見栄えがよく」「子どもが間違えて字を覚えないように」との観点で作られたとのことです。
凸版書体はペンで書いたような骨格を持っているのが特徴ですね。身近な感じがする書体でありながら主張は控えめで、「読者が作品に素早く感情移入できるよう」設計されたとのことです。
そして、ここ10年ぐらいで、文字は紙媒体で読むだけでなく、電子媒体でも読まれる時代になりました(場合によっては電子媒体で読む比率の方が高い)。
復刻ではなく、電子化の時代にふさわしい文字へと、凸版フォントを進化させたとお聞きしました。
本来の活字は、漢字に比べて、ひらがな、カタカナがひと回り小さい文字で構成されていました。金属活字の活版印刷ではそれが顕著だったと思います。
読みやすさの一つに「リズム感」があると思います。ある程度、漢字とかなの「でこぼこ感」があったほうがリズム感がでるのです。凸版文久体にはそれが感じされます。
凸版文久体で、我輩は猫であるのサンプルを作成しました。
https://goo.gl/ka1AjL
次に、明朝体で有名な「リュウミン」「ヒラギノ明朝」「秀英明朝」「イワタ明朝体オールド」と「凸版文久明朝」を見比べてみましょう。
https://goo.gl/BvP4Hp
「と」「そ」「や」「さ」「き」で、筆使いのニュアンスが「凸版文久明朝」だけ、他の書体と比べて独特なのがお分かりいただけましたでしょうか? とりわけ、凸版文久明朝の「そ」は特徴ありますね。
こうやって、明朝体を見比べてみると、それぞれ個性が異なるのが分かるのではないでしょうか。とはいえ、この文字を見てすべての書体名が当てられたなら、あなたは、相当な書体マニアに認定されるでしょう。
●ロンドン地下鉄書体
先週、DesignTalks04「エドワード・ジョンストンとロンドン地下鉄書体」
トークイベントに参加しました。
http://typography-mag.jp/news/269/
100年前にエドワード・ジョンストンが制作したロンドン地下鉄の制定書体(Corporate Type)ですが、とても美しかったのです。目からウロコの2時間でした。
欧文については、高校と大学の時に、手書きレタリングやインレタ(インスタントレタリング)、タイプライターでカセットテープをきれいに作成することぐらいしかやったことがなかったので、来年は欧文書体について、もっと勉強したいと思ってます。
来年も肩の力を抜いて、コーヒーブレーク的な「もじもじトーク」をお送りしたい思ってます。ときどき、天体観測やオーディオ関連のネタなども登場するかと思います。
では、また来年、お会いしましょう。あっ、あと一回、お目にかかるかと思いますが……(ひみつ)
【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/
1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。
その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。
小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。
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編集後記(12/15)
●世は目下、雑談本ブームまっただ中、だそうだ。雑談のハウツー、マニュアル、常識とやらをなぞる人が少なくないらしい。それじゃだめなんです、といわれても、雑談に必要な心得があるなんて知らなかった。第一、雑談らしいことができる相手は、目下のところ妻しかいない。ところが、その相手がそうとう手強い。新聞やテレビでいろいろな知識を得ているうえ、クイズ系の番組はすべて録画し、毎日午後になると東大生や宇治原など相手に戦っているらしい。林先生の答えられない問題を解いたと威張っている。だから、いわゆる雑談の相手としては適性に欠ける。穏やかで上品な美老女と雑談したいものだ。
梶原しげる「おとなの雑談力」を読んだ(2016、PHP文庫)。雑談とは、成熟した人間でなければなかなかできない高度な技、と言われているんだって。雑談なんてノンキでゆるくて無難なものだと思っていたが、「一見何でもない言葉から、その人の人品骨柄が透けて見えるから厄介なのです」って断じられてもなあ。たんなる時間つぶしのつもりだったが、「そう考える限り、幸せな人生はやって来ない」なんてキッパリ言われてもなあ。この本は雑談の秘訣を山盛りに紹介する本だ。章立てはうまい。「雑談」できない人が増えている/雑談上手になるなら「ベテラン女子」に学べ/雑談マスターになるための心得/
あなたの「ダメ雑談」をこう変えよう!/ほかにもまだある、雑談マスターの隠しワザ/「困ったときはこう切り抜けろ!……キーワードは「ベテラン女子」である。何者? 達人の域にいる「雑談マスター」であるという。気さくで朗かで感じがいい中年女性で、厚かましさや押しつけがましさというオバチャンの負のイメージを取り去った感じ、らしい(いいな。雑談うんぬん以前にいいな)。彼女をお手本にすれば、雑談のスキルが身につきますよ、というお話らしい。なぜベテラン女子がいいのか。上下関係を気にしない、すぐに盛り上がれる、共感力が高い、心優しい、からであるという。本当にステキな存在だ。
彼女の特徴をまとめると「つながる力」と言える、ってのは陳腐化した表現ではないか。ところが「ベテラン女子」とは筆者の抱く理想の雑談名人のイメージに過ぎず、登場するのは前半だけで、後半は普通に雑談ノウハウを語っている。それはなかなか役立つお話だが、どこへ行ったの、ベテラン女子〜。いつまでも、誰とでも、気軽に話せる力は、確かに鍛えなければ得られない。「おおらかさと節度を兼ね備え、リラックスして話し、くつろいだ気持ちで相手に話をさせることができる人、それが『大人の雑談力』を備えた人たちなのです」というが、わたしはまったくその境地に達していない。まあいいか。 (柴田)
梶原しげる「おとなの雑談力」
http://www.Amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569766161/dgcrcom-22/
●山田風太郎といえば、「人間臨終図巻」は読んでみたいと思っている。「著名人(英雄、武将、政治家、作家、芸術家、芸能人など)、923人の死に様を切り取った、稀代の名著。」らしい。いつの間にか英雄らの年齢を越えていたりするのよねぇ。
/私も名前分を作字してもらいたいなぁ。一部収録されている漢字ってどんなのがあるのかなぁ。/雑談難しい……。
/スマホ料金見直しの続き。UQ。「データ高速+音声通話プラン」だと月間データ容量は3GB。3GBを越えた場合はスピード制限がある。足りない時は別途料金でチャージできる。残った容量は翌月繰り越しで最大容量は6GB。
外出が少ないため、ほぼWi-Fiな私には3GBでも余る。auの時は毎月2GB未満で足りていた。それでなくても使わないのに、UQだと「高速モード」「節約(低速)モード」というものがある。
高速で最大150Mbps、節約で最大300Kbpsのスピード。この節約モードにしていたら、いくら使っても容量からマイナスされない。これらはアプリのボタンひとつで簡単に切り替えられる。
動画を見るには高速が必要だけれど、メールの送受信やSNSなんかだと節約で十分。ポケゴーは節約だと多少遅いものの可能。ジム戦でギリギリ。
最初のひと月は節約にし、急ぎの時だけ高速にしていたが、容量が余りまくったので翌月は高速のまま。それでも使い切れない状態。 (hammer.mule)
人間臨終図巻1
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4198934665/dgcrcom-22/