晴耕雨読[29]種子島にロケット打ち上げを見に行った
── 福間晴耕 ──

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一生に一度は見たい、体験したいこととして、自分はスキューバダイビングをやる、ロケットの打ち上げを見る、オーロラを見る、というものがある。

後者ふたつはテレビなどで見られるので、わざわざ行くまでもないと思われるかも知れないが、花火大会をテレビ越しで見ても迫力が伝わってこないように、生身で見るのと映像には天と地ほどの差があるのだ。

特にロケット打ち上げとオーロラは、プロカメラマンでも至難の映像だといわれ、テレビなどでもその片鱗しか写ってないそうだ。一瞬で太陽のように明るくなり、それが音速の何倍もの速度で数百トンの重さの物体が天に登っていくロケットの打ち上げと、全天を淡く色とりどりの光が時に天空の端から端まで瞬時に移り変わるオーロラが、撮るのが大変な対象なことはよく分かる。

そんなわけで、過去何度も打ち上げを見るために挑戦したのだが都度仕事が入ったり、船の予約が取れなかったりして行けなかったのだ。

それが今回、幸か不幸か12月の頭に仕事にぽっかり穴が空いてしまったので、やっと行くことが出来るのだが、そのための準備が想像以上に面倒くさかった。




何より大変だったのは、ロケット打ち上げは別に観光イベントではなく、「こんな時間にこんな場所まで行かなければならない」という状況で、宿や足がそれに合わせて特別に準備されるわけではないことと、その割に見に行きたい人が多いので、油断していると人気コンサートチケット並みの速度で、宿や交通機関の切符がなくなっていくことである。

「(打ち上げアナウンスが出た直後の)三か月前が勝負だよね」と慣れた人が言う。離島ということもあって、宿や交通機関のパイも限られてる中で、先手先手で予定を立てていかなければならないのだが、本当に休めるのか、仕事のスケジュールも不安なら、そもそも打ち上げ自体が天候やトラブルで延期もあり得るという、ギャンブル性があるのだ。

そうして旅立った種子島で、ようやくH2-Bロケット打ち上げを生で見ることができた。今回打ち上げるのは、宇宙ステーション補給機(HTV)通称「こうのとり」の6号機だ。これを現在日本の最大の打ち上げ能力を持つH2-Bによって打ち上げる。時刻は2016年12月9日22時26分47秒である。

ロケットの打ち上げは結構見に行く人は多いとはいえ、当然集客イベントでも何でもないので、打ち上げの時刻は打ち上げる物の事情によって決定されるし、天気などの問題があれば容赦なく延期される。

そんな訳で、一応ツアーがあるとはいえ融通が利かない分、あと一日待てば打ち上げが見られたのに、帰らなくちゃいけないといった事態にもなりかねない。だから、多くの人は自分で飛行機や宿を手配して来る。詳しくはやや古い記事だがこちら。
http://ammo.jp/monthly/0609/


同人誌なので入手するのは難しいものの、完璧なガイドブックである「宇宙(そら)へ! 第3版 宇宙開発見学総合ガイドブック」が参考になるので、興味のある人はまずはこれらを読んでほしい。

・12月8日

今回の打ち上げは金曜日の夜なので、勤め人にも行きやすい日程とは言え、余裕をもって種子島に入るには、9日の早朝便の飛行機に乗る必要がある。

以前、ロンドンに行った時に羽田発の早朝便を使ったことがあるのだが、さすがにきつかったので、今回は前日の夜に羽田空港側のカプセルホテルに前泊することにした。既に旅行気分で、カプセルホテルについているサウナや大浴場を満喫したのはいうまでもない。

・12月9日

打ち上げ当日の朝、羽田空港より鹿児島空港に向けて出発する。種子島は思ったよりも鹿児島から遠い。鹿児島空港から更に飛行機か、船で島に渡る必要があるのだ。

今回、自分は高速船トッピーを使ったが、さすがジェットフォイル(水中翼船)だけあって、座席は指定席シートベルト着用で、まるで飛行機に乗っている感じだった。エンジンもガスタービンのようで、エンジン音が更に飛行機に乗ってる感を高める。

離島の常だが、種子島でも公共交通機関はあてにならないので、今回、種子島内ではレンタカーを借りて移動した。ロケット用のインフラ整備のお陰で道路の道幅は広く、離島らしく車はほとんどなくのんびりしているので、運転はペーパードライバー歴が長かった自分でも快適だった。

それにしても、種子島はまるで田舎に里帰りしたような居心地の良さだった。

泊まった民宿でお茶に呼ばれたり、宿の人の好意で一般には入れない島の人用の見学ポイントに案内してもらったり、食事も田舎に帰省した時のようにすごいボリュームで、しかも島だけあって海産物がすごく美味しいのだ。

お陰で打ち上げの方も最も射点に近い、絵美の湯公園から見ることが出来たのだった。ロケットの打ち上げが見える広場は、屋台も出てちょっとしたお祭り気分だった。

他の場所で見た人の話では、やはりお祭りみたいに屋台などが出ていたらしい。早い人では何時間も前からシートなどで場所取りをしているあたり、まるで花見や花火大会のようである。

テレビなどの動画では大きく見えるロケットも、実際の見学場所からでは、最も近い絵美の湯からでも、実際には小指の先ぐらいの大きさにしか見えない。とはいえ、安全のためにロケットの周囲3km以内は、立入禁止なのだから仕方がない。

ロケットの打ち上げを撮るのは難しく、ましてその雰囲気を捉えることは至難の業だ。だからこそ、生でロケットの打ち上げを見る価値があるのだが、それでも言葉で表現するならまるでその瞬間、昼間のように明るくなり、種子島中が照らされるのだ。

そして、それから数秒経ってからロケットの轟音が伝わってくるのが、とても不思議な感じだった。打ち上げは夜の22時26分だったので、無事打ち上げが終わるとそのまま宿に戻ってその日は就寝したが、なかなか寝付けなかったのは言うまでもないだろう。

二日目の朝は宿の朝食が8時だったので、いつも通り7時には起床する。朝が早いのも、まるで田舎に帰省しているみたいだった。なんでも宿の方は普通は畑で野菜を作っているそうなので、朝が早いのも当然かもしれない。

おかげで宿の食事も、自家製野菜や果物がふんだんに使われていて実に美味しいのだ。この日の朝食は典型的な日本の朝の食事で魚、具だくさんのお味噌汁、サラダ、卵、納豆といった献立に、デザートのヨーグルトに自家製マンゴーの手作りジャムまで付いてきて大満足だった。

いつも食事は隣室の夫妻と食堂でとっていたのだが、話を伺うと二人は特に宇宙ファンというわけではなく、小惑星探査機はやぶさがきっかけでロケットの打ち上げに興味を持ったという。こんなところでもはやぶさ効果を実感する。

それにしても、今回の宿は実に快適だった。のんびりとした島の雰囲気と、島の人から直接種子島のロケットの話が聞けるのも面白い。島ではごく普通の人でも、今回の打ち上げの前にロシアの宇宙ステーション補給機プログレスの打ち上げが失敗しているのを知っているあたり、さすがはロケットの島だけのことはある。

宿や島の面白い話もいくらでもあるが、そろそろ本題のロケット打ち上げの話に戻ろう。

二日目は午前中に宿をチェックアウトして、夕方の高速船トッピーが出るまでの間、島の南端にある種子島宇宙センターを観光することにした。

打ち上げの翌日なので、施設内の多くは立入禁止だと思っていて油断していたのだが、何でもこの日も、予約すれば宇宙センター内部を案内してくれる見学ツアーが行われていたらしい。

残念ながら自分が気がついた時には、予約が一杯で参加できなかったのだが、今度来ることが出来れば是非とも参加したいと思っている。

そんな訳で、今回はツアーに参加しないと見られない管制センターなどは行けなかったので、だれでも見学できる宇宙科学技術館やH2ロケット実物大模型、小型観測ロケットを打ち上げる竹崎射場、そしてJAXAやマスコミがロケット打ち上げを報道する時に使われる、関係者限定のロケット打ち上げ見学ポイントである竹崎展望台を回ってきた。

ロシアやアメリカとは比較にならないとはいえ、さすがは巨大なロケットを現実に運用している施設だけあって、敷地内は広大で車がないととても見て回れない。今回はレンタカーを用いて本当に正解だった。

種子島宇宙センターは、世界で最も美しいロケット発射施設だと言われている。最初さすがにそれは自画自賛だろうと思っていたのだが、実際に中を歩き回ってみると、本当に種子島宇宙センターはきれいなところだった。

近代的な施設が手付かずのビーチの周囲に点在しているのだ。あまりに見事な砂浜なので、「ここでの遊泳は禁止します」と言う立て札が立っていた。ちなみに、ここ以外の種子島の砂浜もきれいな所はいっぱいあって、夏にはマリンスポーツ目当てに多くの観光客が来るそうだ。一度、夏に、ロケット打ち上げとは別に観光に来るのもよさそうである。

平日なら種子島宇宙センターの食堂が一般開放されているのだが、今回は打ち上げの翌日の土曜日だったせいもあって、またも昼食難民になってしまった。

宇宙科学技術館1階のお土産コーナーで、こんなもの(宇宙の種水・宇宙飛行士が飲む種子島の天然水)を買って水分を補給した。心なしか美味い気がする。なんでも昨日打ち上げられた、こうのとり補給船に積まれたのと同じ水源から汲んだ水だそうだ。

夕方に予約していた高速船トッピーの時間に間に合うように、余裕を持って車で島の北側にある種子島港に戻って、トッピーを待つ間にパンとおにぎりを買って遅い夕食を取る。

それにしても島の売店も、売り子というよりは島のおばちゃんや娘さんがやっている感じが良い。あと大阪のおばちゃんじゃないけど、何か買うとついでに飴をくれるのもうれしかった。

こうして、名残惜しいがトッピーで種子島より鹿児島に移動する。この後に鹿児島観光をするのだが、それはいずれ機会があればどこかで書いてみたい。

今回の旅行では色々と写真も撮ったので、そちらはBlogの方にアップしておいたので、もし興味がおありでしたらそちらもご覧ください。

http://fukuma.way-nifty.com/fukumas_daily_record/2016/12/post-84b2.html

http://fukuma.way-nifty.com/fukumas_daily_record/2016/12/2-9461.html



【福間晴耕/デザイナー】

フリーランスのCG及びテクニカルライター/フォトグラファー/Webデザイナー
http://fukuma.way-nifty.com/


HOBBY:Computerによるアニメーションと絵描き、写真(主にモノクローム)を撮ることと見ること(あと暗室作業も好きです)。おいしい酒(主に日本酒)を飲みおいしい食事をすること。もう仕事ではなくなったので、インテリアを見たりするのも好きかもしれない。