3Dプリンター奮闘記[89]FDM3Dプリンター「クホリア」の進化(その1)
── 織田隆治 ──

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今回の投稿が本年最後。早いものですねぇ。

なんかこの前正月を迎えた気もするんですけどね。

今日、素材の買い出しで街中に行ってきたんですが、まだクリスマスってのも始まってないのに、お店ではお正月の飾りの展示が……

凄いなぁ、世の中ってのは。先を行き過ぎ。

まあ、そろそろ忘年会なんかも沢山行われて、もう正月休みの気分になりかけている人が沢山いるのかなぁ。

僕は、なかなかそういう気持ちにならないんですよね。

まあ、前置きはこれくらいにして、FDMの3Dプリンターはかなり早いスピードで進化しています。これは、ちょっと前にも書いたんですけどね。

最近、話題を振りまいているFDMプリンターがあります。




・Qholia(クホリア)
http://q-ho.com/products/Qholia/Qholia.php


これは、「株式会社久宝金属製作所」という、大阪にある会社がリリースした
3Dプリンターです。

「大阪3Dプリンタービジネス研究会」で、その発表が行われて数か月。
http://o3dprinter.com/


代表取締役の古川さんと初めてお会いしたのが「大阪3Dプリンタービジネス研究会」でした。

その時、古川さんから見せていただいたプリントサンプル、凄い! の一言しか出て来ませんでした。

コンシューマー向けの光造形のプリンターと変わらない造形。いや、それ以上の造形力を持っているように見えました。

その時は、かなり遅く丁寧に積み上げているようで、きれいだけど、実用に耐えられるものなんだろうか? というのが、正直な印象でした。

沢山の出力サンプルを見てきましたが、大体は何回もリトライして、一番きれいに出力した物を見せられることが多いんですよね。

お見合い写真やSNSのプロフ写真のような、奇跡の一枚みたいなもの。

そういったわけで、割と懐疑的になってしまっています。やっぱり、自分で使ってみて、本当に良いものかどうかを身を以て認識することが必要なんですね。

そして、この11月に先行販売が行われました。台数は10台。その中の一台を、幸運にも入手することが出来ました。

そして、待ちに待った納品の日がやってきました。納品には、古川さん自身が持って来られました。

そして、セッティング。

クホリアの発表会の際には拝見していましたが、じっくりと見るのは初めてです。まずはノズル径0.3mm、積層ピッチ0.1mmにてテストパターンを造形。

「これはやっぱり凄い」

このクホリアというFDMの3Dプリンターは、これまで高価な光造形プリンターでしか出来なかった表現が、FDMでプリントできる凄いプリンターでした。

何か、凄い特別な機能が付いているわけではありません。

僕は4年前からFDMの3Dプリンターを使っていて、分解したり、メンテナンス、改造もしてきました。

クホリアの凄いところは、ユーザーの立場で考えて作られたことにあります。

「ここ、こうなってたらいいのになぁ」って思っていた所が、全部そうなっているんですよね。

「痒い所に手が届く」と言うべきでしょうか。

造形テーブルの軸の剛性や、エクストルーダーの設置場所、ヘッドの交換方法、セッティングのし易さなど、これまで歯がゆい思いをしていた部分すべてに色々な工夫がされています。

そう。こういうことなんでしょうね。

細かい工夫が上手くミキシングされており、その結果、この素晴しい造形に繋がっているんですね。モノ作りの「こだわり」が、伝わって来ます。

で、実際に色々とプリントしてみて、気がついたことを挙げてみます。

まず、先ほども少し書いた「造形テーブル」のZ軸(上下)の移動です。

これまで僕が使っていたFDMの3Dプリンターでは、造形テーブルは1軸、もしくは2軸でZ軸(上下)に移動する軸が付いていました。クホリアでは、4軸になっています。

大体はテーブルの奥に2軸のシャフトが付いていて、そこから「片持ち」となっているプリンターが多いです。この形状では、造形テーブルに造形物が積層され、重くなっていくに従って、微妙ながら手前が下がって来ます。

そのわずかなブレを抑えるために4軸になっており、このことで造形テーブルのわずかな傾きを起こさないようになっています。

あと、造形テーブルを上下させるためのボルトですが、僕が見た限りのプリンターでは、下から寸切りボルトを支える状態のものが多かったのですが、クホリアは上からぶら下げる形になっています。

これで、本当に微妙なことですが、テーブルのブレを抑えているんですね。テーブルとヘッドノズルのわずかなブレを抑えることに成功しています。

高速でヘッドが動いても、ヘッドと造形テーブルのブレがかなり少ないので、造形物の積層への影響が少なく、積層ピッチが安定して、スムースな表面になるわけですね。

なんで今までこれ、なかったんだろ。

そして、エクストルーダーと呼ばれる素材を送る装置です。

初期のFDMでは、ヘッドノズルの部分にこのエクストルーダーが付いているものが多かったと思います。これでは、ヘッド部分が重くなり、慣性の法則により、「動き出す」「止まる」といった動作の際、微妙なズレが出ていました。

そこで、エクストルーダーがヘッドノズルとは別れて行き、そこからチューブ等を通ってヘッドに送られるような3Dプリンターが出て来ます。

これは、ヘッドをなるべく軽くすることで、ヘッドが高速に動いても、「動き出す」「止まる」といった動作の際のブレを抑えるようになっています。

この工夫により、格段に造形物はきれいになってきました。しかし、造形テーブルのサイズが大きくなるに従って、エクストルーダーからヘッドまでの距離がどんどん遠くなってしまいます。

チューブを通ることで、材料とチューブの擦れる距離が長くなり、大きな摩擦が起きます。その結果、エクストルーダーからの力が均一にヘッドに伝わらなくなります。

微妙な力加減が変わることになり、ヘッドから押し出される樹脂の量に、微妙な差が生じて来るんですね。

クホリアでは、当然ヘッドとエクストルーダーは別れて設置されています。しかし、できるだけヘッドとエクストルーダーの距離を長くしないような、工夫がされていました。

なんと、エクストルーダーが回転し、ヘッドの動きによって追従する仕組みになっています。

これまでのFDM機では、エクストルーダーが固定されており、どうしても素材を送るチューブが長くなっていましたが、このクホリアでは、この工夫によって最短の距離で造形ができる仕組みになっています。

摩擦を抑えることで、均一な力でヘッドから素材が絞り出される仕組みですね。

これは、目からウロコ。

他にも色々な工夫がこの3Dプリンターには施されています。

長くなっちゃうので、この先は年明けの掲載にしようかと思います。お楽しみに!!!

いやぁ、凄いプリンターが出て来たものです。

それでは、皆さん良いお年を!!!


【___FULL_DIMENSIONS_STUDIO_____ 織田隆治】
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